ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
『この青い花は、死者の国の入り口で咲く花なんだってさ。エレクちゃんも、あんまり知らないけどね! 知らないけどね!』
エレクに先導される形で、桃子は青い花畑を歩く。
夜の世界の風に乗って、ほのかに花の香りが漂ってくる。その香りもまた、桃子の記憶に残る香りと同様のものだった。
桃子の知るこの青い花畑は、りりたんの世界だった。
いやしかし。そこは順序が逆かと、桃子は考え直す。
りりたんの世界が、この生と死の境界である広大な青い花畑を切り取って造られたもの、ということなのだろう。
「……うん」
桃子は、急に入ってきた情報を、まだ頭で処理しきれてはいなかった。
りりたんは、生きている人間だ。焼肉も食べるし、カレーも食べる。パックの紅茶を飲む割に、タピオカミルクティーには文句を言う。
けれどそれと同時に、彼女は既に死んだ妖精の女王だ。亡くなったはずの女王の権能を行使し、絶大な魔力を持つ彼女は。紛れもなく、死者なのだ。
ここが、生と死の境界線だというのならば。りりたんのいる場所は、どちらなのだろうか。
そんなことを考えながら、ぼんやりした顔で歩いている桃子に、ビリリとしたエレクの叱咤が飛ぶ。
『モモちゃん! 何が気になるのかは知らないけど、前を見て! 前を見て!』
「あ、うん!」
そうだった。ここはニライカナイ第三層であり、魔物が発生する瘴気が渦巻いている環境なのだ。
今はこの地で、ヒカリたちと合流して魔物を倒し、瘴気を浄化する。そして、和歌とともに帰還する。それが桃子のやるべきことだった。
桃子は一度、自分の頬をパチンと叩いて気合を入れ直し、今は目の前のニライカナイのことを考えることにした。
『この階層は、瘴気が乱れてるからね。出てくる敵も、強くなってるよ! 強くなってるよ!』
「うん! 頑張る!」
道の先から現れる魔物たちは、確かに強かった。
ミイラの集団が襲ってきた時は、あなた達を焼き尽くしたのは自分ではなくフラムなのだと騒ぎながらハンマーを振り回したが、濃密な瘴気の影響なのか、なんだかやたらと元気で動きにキレのあるミイラだった。
いくら元気と言えど、もともとが動きの遅いミイラたちなので、機動力に難のある桃子でも倒し切ることができた。ただ、これがミイラでなければどうなっていたかは分からない。
エレクの言うように、魔物が強いことには間違いない。
成程、ここは一人で訪れるような場所ではないというエレクの言葉が理解できる。
そして、更に進むと現れたのは、黒い大量の魔物たち。
これは、香川ダンジョンに出没するクロムシと呼ばれる魔物たちだ。香川ダンジョンの下層に潜む牛鬼の配下にあたる魔物であり、対象の身体に入り込んで内部から蝕むという、厄介極まりない性質を持つ。
そして、単純に小さく、数が多い。
『ちょっとキリがないし、モモちゃん、ハンマーに雷の力を付与するよ! 付与するよ!』
風の妖精ヘノならば、つむじ風の魔法にて機動力を補ってくれる。
水の妖精ニムならば、薄い霧の膜をはり、怪我を治しつつ様々な攻撃から守る力を与えてくれる。
そして、雷の妖精エレクの与えてくれる力は――。
「すごい! これって、どう使うの? 敵を叩けばいいの?」
『それでもいいけど、ためしに地面に叩きつけてみて! 叩きつけてみて!』
「わかった! こんのおぉおお!!」
それは、超攻撃的な力だった。
雷の魔力を付与したことで、ビリビリとハンマーが紫電をまとっている。桃子はエレクに言われるままに、そのハンマーを地面に大きく叩きつけてみた。
すると、どうだろうか。鈍く大きな音とともに花畑が震え、ハンマーを叩きつけられた地面が爆発するように弾け飛ぶ。
その爆心地から丸い波紋が広がっていくように。紫色の電撃の嵐が、周囲を駆け抜けた。
電撃のハンマーは、素晴らしい威力だった。
エレクが一人で電撃の魔法を使うよりも、そして桃子が頑張ってハンマーを振り回すよりも、明らかに強力な代物となっている。
桃子の魔力とエレクの魔力が混ざり合い、その相乗効果をもってして、一瞬にしてクロムシの群れともども、花畑が焼け野原と化してしまった。青い花には申し訳ないが、恨むならばクロムシを恨んでほしい。
『一掃、だね! だね!』
「すっごいね、これが雷のハンマーかあ」
『ケラケラっ。エレクちゃんとモモちゃんのコンビなら、敵はいないんじゃない? 強いね! 強いね!』
雷のハンマー。まるで、北欧の神が持つ伝説の武器のようだ。
未だにピリピリとした紫電を纏っている己のハンマーを眺めて、桃子はそのただならぬ威力に、ただただ、驚愕するのだった。
これならば、どんな魔物が出ても大丈夫なのではないか。そう考えてしまう。
しかし、それが甘い考えだったと思い知るのは、この後すぐのことである。
クロムシの集団を倒し、桃子たちは意気揚々と青い花畑を進んでいく。
どこに向かえば和歌たちがいるのかは分からないが、ところどころの地面に青い花が焼け焦げた跡が残っているため、和歌がこの場所を通ったことは明白だ。
『じゃあ、この調子でって、言いたいところだったけど……モモちゃん、それ、どうしたの? ちょっと、見せて? 見せて?』
「え? なんのこと……うわ、なにこれ?!」
エレクが指さすもの。
それは、桃子の首からかけられた、ヒカリに貰った牙のお守りだった。
それが、何故だかボロボロの石になり、今にも崩れようとしている。
『モモちゃん! 待って! なんで! これ……』
エレクは、慌ててそのお守りに近づいて、それに手を翳す。
すると、バチバチと、エレクの手が弾かれるように、桃子の胸元で火花を散らす。
『これ、モモちゃんの肩代わりで呪いを受けてる! 呪いを受けてる!』
「え、呪いって……」
しかし、桃子がエレクに質問を返す前に、周囲の空気が変わる。
辺りの空気が、じっとりと、重くなる。周囲一帯が薄暗くなり、黒い闇がゆっくりと渦を巻き始める。それは、明らかに異様な光景だった。
そして、周囲を覆っていた大量の瘴気が、その渦へと吸い寄せられて。ジワジワと、ジワジワと。黒い闇が一つの巨大な何かを形どる。
「なに……あれ。あの黒い霧みたいなのが、瘴気?」
この死者の国に現れる魔物たちは、この地に渦巻く瘴気が、桃子や和歌に恨みを持つ魔物の力と混ざり合い、受肉したものだ。
なので、桃子を標的として狙ってくる魔物というのは、桃子が倒した魔物が大半を占める、ということになる。
しかし、桃子が過去に倒した魔物。桃子に恨みを持つ魔物。それは、決してゴブリンや一反木綿だけではない。
いま、呪いは、果たされた。
パキリ、と。呪いから桃子を守る役目を終えた牙のお守りが、砕け散る。
呪いが霧散し、桃子がその呪縛から解放される。
「そ、そうだ……わ、私……あれのこと……どうして忘れてたの……」
『……モモちゃん、もうとっくに、変なのに呪われてたみたいだね。これは、危険かも。危険かも』
桃子は、思い出した。脳裏にかかっていたモヤが、ゆっくりと消えていく。
それは、巨大な蛇。
鳥取、砂丘ダンジョン第四層に巣くい、幾人もの探索者たちを物言わぬ石像にして苦しめ続けて来た、邪悪なる蛇だ。偽物の影を含めれば既に三度目の相対となる、二度と遭いたくなかった魔物だ。
そのバジリスクが、この青い花畑に出現しようとしていた。
これは、桃子本人も認識はしていないことだけれど。
桃子が地下遺跡でバジリスクを倒すその直前、桃子は確実に、僅かな前髪だけとは言え、呪いを受けていた。ヘノも桃子も気づかない、僅かな呪いだ。
けれど、その呪いの残滓は消えることなく、このニライカナイを進む桃子を蝕んでいた。
「あいつ、どうやったのか知らないけど、私の記憶に干渉してたんだ……!」
『卑怯なやつ! モモちゃんが、何も気づかないままここに来るように呪いで誘導してたんだ! 誘導してたんだ!』
「ど、どうしよう……隠れる場所もないのに……」
エレクが、その手に神槍ツヨマージを現出させる。あまり使いたくなかったというツヨマージだが、ここで力を出し渋ってどうにかなる相手ではないことくらい、エレクも承知していた。
いつも笑顔を浮かべるエレクだが、今は明らかに口元が引きつっている。さすがに、このような鵺にも並ぶ強大な魔物が出てくるなど、エレクすら想定していないことだったようだ。
そしてその隣でハンマーを構える桃子の顔からもまた、血の気が引いていく。
これは、単にトラウマによるものだけではない。桃子はいま、冷静に考えて。冷静に考えた上で、致命的なほどに決め手に欠けていることを理解してしまっているのだ。
嵌められた。
狡猾な蛇に、陥れられた。
バジリスクがいることを予測さえ出来ていれば、鏡を準備する余裕はあったはずなのだ。夢に持ち込むでもいいし、直接ニライカナイに運び込むでもいい。地上には親方がいるのだから、協力を要請すれば急遽鏡の盾を製作するくらい、出来たはずなのだ。
対策は、出来た筈なのだ。
それなのに。それなのに。
桃子の胸には、悔しさが込み上げてくる。まんまと記憶に蓋をされ、違和感に気づきもしなかった自分に対する怒りすら込み上げてくる。
桃子は、あの呪いの瞳で視られてしまえば、それでお仕舞いなのだ。
だというのに、この場所は広い花畑で、隠れる場所もない。当然、あの邪眼を封じる鏡すらない。
どうすれば、どうすれば。すでに悔しさと怒りでぐちゃぐちゃになった桃子の脳裏には、その言葉が何度も浮かんでは消えていく。手立てがない。手立てが思いつかない。
『前をみて! 大丈夫だよ! モモちゃんは、今まで頑張ってきたからね! 頑張って来たからね!』
「エレクちゃん……?」
しかし、それでもエレクは前向きだった。
桃子の肩に一度だけぴょこんと着地して、桃子の耳たぶを軽く引っ張る。これは、桃子に甘えるときにヘノがよくやっている仕草だ。
――大丈夫だ。桃子。
いつかのヘノの姿が頭を過る。いつかのヘノの声が脳裏に響く。その記憶の数々が、ぐちゃぐちゃになっていた桃子の心を落ちつかせる。
「……うん、ここまで来たら、やるっきゃない……! とにかく移動して、邪眼だけは避けよう、あいつの目は相手を石化させるの!」
『ケラケラっ! モモちゃんはとにかく動いてね! エレクちゃんは呪いなんかより速いから、あの目を引き付けるねっ! 引き付けるねっ!』
巨大な蛇の肉体が完全にこの花畑に顕現すると、その双眸は獲物である桃子の方向へと向けられる。
しかし、そこに眩い電気のスパークが走り、バジリスクはその光の元を探してしまう。しかし、その場所には既に何もなく、更に不意打ちのように視界の外からバジリスクの身に電流が叩き込まれる。
そして獲物を探すバジリスクをおちょくるように、再びスパークが別な場所に走り、電流。そしてまた別な場所でスパーク。その繰り返しで、エレクはバジリスクが桃子に注視しないよう、とにかく挑発し続ける。
エレクの速度は、雷の速度だ。流石のバジリスクも、その速度を双眸で追い切ることは不可能である。
視界で桃子を捉えたとしても、桃子もまた常に足を使い、動きまわる邪眼の焦点に入らないよう逃れ続けている。とにかく、逃げながら戦い続けるしかない。
「エレクちゃん、頑張って! このおっ!」
エレクが前方で瞬間移動を駆使してバジリスクの視線を妨害する間に、桃子はハンマーをひたすらバジリスクの胴体に叩きつけていた。
エレクの電撃の魔法もまだ解かれておらず、【氷結】の付与も込められているハンマーだ。叩くたびに蛇の身体には電流が走り、冷気が鱗を凍らせる。
だが、それだけだ。
残念ながら、今の桃子にはしっかりと立ち止まり、ハンマーに力を込めている余裕がない。バジリスクの鱗を凍り付かせることは出来ても、邪眼から逃げ惑いながらでは以前のように肉を抉るような強力な一撃は望めない。
本来ならば桃子のハンマーはじっくりと力を込めてからの一撃が持ち味なのだが、今この場においては立ち止まるわけにはいかないのだ。
そしてエレクもまた、隙を見てはバジリスクに放電を放つけれど、しかしその巨大な蛇の身体には電撃が効きづらく、稲妻の大半が表皮を滑り大地へと抜けていく。相性は最悪だ。
それでも、エレクと桃子は戦い続ける。
けれど、現実は残酷だ。
所詮、この状況はバジリスクにとっては戯れのようなものだった。
エレクと桃子だけでは、力が及ばない。
バジリスクは、倒せない。
バジリスクは、人の設定した基準においては「特殊個体」と呼ばれる、いわゆる格の高い特別な魔物だ。ゴブリンや河童の如き愚鈍な魔物ではない。
いくら眼前で眩く光る妖精が挑発して来ようと、これが自分にとって脅威ではないと判断する知能がある。所詮はただの撹乱だと、無視するだけの知恵がある。
バジリスクが、エレクの相手に飽きた。それだけで、桃子の運命が決まる。
『モモちゃん――!!』
「あ……」
やられた。
桃子は、己へと向けられた赤く光る邪眼と目が合ってしまう。
やはり、障害物もなく、鏡もない状態で桃子がこの邪悪なる蛇と戦うのは、無理があったのだろう。
和歌ならば、遠距離から爆撃兵器のような威力の魔法を打ち込むことで、難なく倒せたのかもしれない。
ヒカリならば、エレクが囮を務めていた短い時間でも、的確にバジリスクの弱点を見抜いて切り刻むことが出来たのかもしれない。
それに比べて、自分は弱かった。
自分の力不足が、悔しい。やる気だけでは覆せない、現実的な力の差が、ただただ、悔しい。和歌と帰ると誓ったのに、絶対に死なないと啖呵を切ったというのに。こうも簡単に、蛇の罠に嵌められている。
桃子が悔やみながら、邪眼に晒され、敗北を認めかけたところで。
桃子が髪の先から、ピキピキと石に変わり始めたところで。
風もなく、大量の青い花びらが舞い上がり。その一瞬だけ、桃子と邪眼の間に影が出来る。いくつもの花びらが、桃子の代わりに石となる。
そして。彼らは来た。
『こっちだクソヘビ!』
知らない誰かが、反対方向からバジリスクに斬りかかり、その邪眼が桃子から逸れる。
『安心して。今度は、アタシらも一緒に戦うからね』
知らない誰かが、桃子の前でマントを広げ、桃子の小さな体躯を蛇の視線から逃してくれる。
『俺らは右目、お前らは左目を頼む!』
『どうやら幽霊は石化できないみたいだなあ!』
『石化さえなけりゃ、ただのでかいサンドワームだ! どうってことはない!』
『援護射撃します!』
見知らぬ探索者たちが、連携してバジリスクと戦っている。
桃子は、唖然として。目の前にたつ見知らぬ誰かを見上げた。桃子の前でマントを広げていたのは、精悍な顔つきの女性探索者だ。
探索者というよりも探検家のような服装で、右手にはシミターと呼ばれる曲刀を構えている。
この服装は知っている。インディやジョーンズ、教授たち。砂丘ダンジョンの下層『地下遺跡』を目指す探索者たちが、伝統的に好んで使用している服装であり、武器である。
「あ……あの、皆さんはいったい……?」
『ケラケラっ! すごいよっ、すごいことだよっ、モモちゃん! そうだよ! 死者の国にいるのは、誰だと思う? 誰だと思う?』
「え? 死者の、国にいるのは……」
死者の国にいるのは、誰か。それは言うまでもなく『死者たち』だ。ならば。彼らは――。
桃子は思い出す。
あの日、桃子がバジリスクを討伐したことで、冷たい石の身体から解放され、空へと昇っていった、数多の魂たちを。
あの第四層で勇敢にバジリスクと戦い、そして力尽きた、過去の探索者たちを。
『アンタが、アタシたちを救ってくれたんだ。だから、今日はアタシたちが助ける番さ』
『ケラケラっ! そうだよね! モモちゃんは、色んな魂を救ってきたんだよ。みんな、味方だよ! 味方だよ!』
ここには、味方がいた。
決して、桃子は孤独な戦いを強いられてはいなかった。
ならば、まだだ。諦めている場合ではない。自分もまだまだ戦えるはずだ。
桃子の心に、再び、熱い炎が灯っていく。
探索者たちの奮闘に、心の熱が湧き上がる。
桃子の心は、未だ、折れない。
「すごい……! 皆さん、連携がすごいです!」
バジリスクの邪眼の標的にならぬよう、マントで隠されている桃子だけれど、しかしマントの端からある程度の戦いを覗き見ることくらいは出来る。
砂丘ダンジョンの遺跡を探索する探索者たちは、戦いが特別に強いというわけではない。むしろ、あのピラミッドは罠の数々と戦うダンジョンであり、純粋な魔物との戦闘というものはあまりなかったはずだ。
しかし、それでも。
バジリスクと戦う者たちは、互いに死角を補い。声を掛け合い。阿吽の呼吸でバジリスクの不意を突き。
最低限の合図のみで互いの意図を把握し、個ではなく、群で動くことを理解していた。
そして、それをうまくサポートしているのは雷の妖精、エレクだ。
バジリスク相手に雷自体はあまり大したダメージを与えられないようだが、彼女が発する眩い雷光は、バジリスクの視野を妨害することに成功している。
エレクは確実に、視力に頼った戦い方をするバジリスクの足を引っ張ることに成功している。
青い花を散らしながら、妖精と探索者たちは連携を取り、バジリスクと戦い続けている。
『こいつら全員が知り合いってわけじゃあないけどね。皆、スフィンクスに認められた探索者だよ。これくらいは出来なきゃ恥ずかしいってもんさ』
桃子をマントで守る女性探索者も、あの冷たい地下遺跡で石となり、人としての終わりを迎えてしまった一人なのだろう。
あっさりと笑って言ってのけるが、彼女らの迎えた過酷な最期は、こんな風に笑えるほど軽いものではなかったはずだ。
桃子は、彼女たちの強さを前にして、つい自分が情けなくなってくる。
「私、バジリスクに簡単に嵌められて、今もバジリスク相手に、何も出来なくて……」
『アンタの役目は、今じゃないだけさ。実際にアタシたちだけじゃ、あの蛇は倒せない』
事実、彼女たちの持つ武器のメインはシミター。片手用の曲刀だ。
様々な敵と戦える反面、バジリスクのように固く巨大な蛇相手には、この剣で致命傷を与えるのは難しいだろう。
あれを倒すためには、鱗ごと切り裂き肉を断つ、大斧や大剣。硬い鱗を貫通できる、槍。或いは、ただただ強大なパワーで鱗ごとバジリスクを破壊できる、魔力を纏うハンマー。そのような武器が必要となる。
『絶対に、隙を作るから。アンタはここに隠れて、力を溜めておいてくれよ? モモコちゃん』
女性は、マントで桃子を隠したまま、桃子の手を引き移動する。そこには丁度、桃子が隠れられる程度の大きさの、大きな丸い岩があった。足元には根っこのような太い突起物が延びている、奇妙な形の岩だ。
先ほどは気づかなかったが、戦っている最中にバジリスクが地面でも掘り起こしたのかもしれない。
「……はい! お願いします、皆さんを信じます!」
桃子は、饅頭のように丸い不思議な岩の裏に隠れ、その女性探索者に声援を送る。何故だか、不思議と安心できる岩だ。
桃子をここまで守ってくれていた女性探索者は、軽く桃子の髪を撫でることで桃子の声に応え。そして、己もシミターを構えて戦いの陣に参戦していった。
【とある魔法生物たちの会話】
「スフィンクス、そろそろ新たな試練を示して欲しいのでは、ないかな? ボクの叡智を、示すためにね!」
『やれやれ。ならば、我が貴様に新たな試練を与えよう。覚悟は良いか?』
「来い、スフィンクス。ボクは、負けない」
『ピザ、と10回言うてみよ』
「それくらい容易いのでは、ないかな? ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザと言えばスフィンクス、知っているかい?」
『試練の途中で別な話をするでない』
「まあ、待ちたまえ。ピザと言えばだね。琵琶湖の底には、斜めに崩れかけたピザ屋さんが沈んでいるらしいのさ。これはまさに謎そのものでは、ないかな?」
『ふむ。それが事実ならば、一考の余地はあるやもしれんが』
「ところで、試練はどうしたのだい? 試練をうけた記憶がないのでは、ないかな?」
『貴様。自分で話題を――』
「ふむ?」
「急に黙って天井を見上げて、どうしたのかな? スフィンクス」
『――あの者たち、そうか、そうか……なあ、リドルよ』
「なんだね?」
『我らの選んだ勇気ある者たちは。死して尚、勇気を忘れておらぬようだよ』
「よくわからないが、それは……光栄なのでは、ないかな」
『ああ。そうだの』
「ところで、ピザを食べる話の続きを聞きたいのでは、ないかな?」
『そんな話はしておらん』