ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
カレーを食べませんか!
満面の笑みを浮かべる桃子の発言に、パーティの面々は言葉を失っていた。
それも仕方ないだろう。ここは死者の国の入り口たる青い花畑だ。いつ、残りの瘴気を纏った魔物が現れるかもわからない。
とてもではないが、みんなで仲良く野外炊飯という状況ではない。
「ええと。あのですね、桃ちゃん。確かにカレーは美味しいですけど、道具も材料もありませんし、落ち着いたらまた一緒に食べましょうねー」
『うん。そうだね、桃ちゃん。僕もカレーは食べたいな。でも、いつ敵が出るかもしれないこの危険な場所じゃ、落ち着いてカレーの準備も出来ないし、別なタイミングのほうがいいかな』
大人二人が、身をかがめて、桃子に視線を合わせて。まるでヘンテコなことを言いだした子供を正すかのように、息を合わせて優しく諭す。まるで子育て中の両親だ。
もしヒカリが死なずに今でも生きてさえいれば、和歌と二人で良き夫婦になったのだろうなと。桃子は寂しい確信を得る。
が、違うのだ。
桃子は自分の言葉が足りなかったことを自覚して、慌てて首を横に振り、もう一度、言い直す。やり直す。
「ごめんなさい、言葉足らずでした! えとですね、きっと私、カレー作れるんです。それで、私のカレーは、魔力が増えるんです!」
『ケラケラっ。モモちゃん、言葉を付け加えてもやっぱりわかんないよ! わかんないよ!』
「うーん、困ったな……いいや、直接見てください!」
残念。言葉を足したところで、三人には通じなかったようである。
だがしかし、桃子も遊びで言い出したわけではないのだ。カレーは食べたいし、お腹が空いているという理由ももちろんある。
けれど、桃子の目的は、狙いは。もっと別なところにある。
あまりよく分からないという顔で、ヒカリと和歌は顔を見合わせている。顔を見合わせるのまで阿吽の呼吸だ。
桃子は言葉で説明するのを諦めて、ここはもう、直接実演してみることにした。恐らく、その方が早いだろう。
桃子は腰を下ろしているヒカリに向き合うように座る。
まじまじと桃子の様子を覗き見るヒカリたちの視線を感じながら、その両手を目の前の地面に翳す。
そして、集中する。
桃子は先のバジリスクとの戦いでひとつ、学んだことがあるのだ。
それは、己の持つ【創造】という力の本質だ。それは、強い想いを糧に、様々なものを文字通り創造する力だ。
幸か不幸か肉体という楔から解き放たれている今の桃子は、その力の在り処をしっかりと感じ取れるのだ。
この力は、たとえそれが実在しない座敷童子であろうとも、ドワーフであろうとも。
多くの人々が持つ強い想いの力を、桃子が中心になり重ね合わせ、ひとつに束ねていくことで。そこに、魔法生物を産み出してしまえる程の奇跡の力だ。
あるいは、人々の想いの力などなくとも。
桃子だけでも、必要な想いの力を補えるのならば。巨大なモチャゴンであろうとも、氷で出来た鏡であろうとも、現実になかったものを具現化できてしまう奇跡の力だ。
もちろん。巨大なモチャゴンのように一度観たことがあるものや、氷の鏡のように元となる素材がその場にある場合に限る。さすがに、それ以上のことをしようとすると桃子の力でも遠く及ばないようだ。
そこで、逆に考えた。
それがもし、桃子にとって容易く想像できるものだったなら?
いま使うべき力は【創造】と【カレー製作】の二つ。
桃子は意識を集中し、それらを融合させる。そして、ソウゾウする。
何年も、何年も。幾度も。幾度も。己の一部とすら言える程に扱って、作って、そして食べて来た。その材料を。その全てを。
それを想像するのに、努力などいらない。すでにそれは桃子の血肉だ。仕事をしていても、目を瞑っても、魔物と戦っている最中でも、桃子はそれを容易く脳裏に浮かべられるのだ。味も、熱も、香りも、色も。
脳内でそれらを信じて、魔力を混ぜる。信じて、混ぜる。
「信じて混ぜる、信じて混ぜる……!」
桃子の手から、優しい魔力の光が溢れ出した。
そして、光が収まると。そこには、桃子がソウゾウした通りのものが、出現していた。
それは、そこに鎮座しているのは。
お皿に盛られた、湯気のたつカレーライスだった。
『何もない空間にカレーを生み出した……だと?!』
「も、桃ちゃんが、カレーを産んじゃったんですか?!」
容易く想像できるとはいえ、しかしゼロからの創造で消費する魔力はかなりのものだ。桃子はまるで学校のグラウンドを全力疾走してきたかのように汗をかき、へろへろの状態で息を切らせている。
だがそれでも、出現したカレーライスを、ヒカリに、和歌に、そしてエレクに差し出した。
それはたった今ゼロから産み出されたのが嘘のような、何の変哲もない、普通のカレーライスである。
しっかりと4つの皿に分けられたそれにはジャガイモやニンジンらしきものも入っており、まさに、教科書に載りそうな。お手本のような、カレーライスである。
桃子の力をさほど理解していなかった和歌とヒカリは、その怪現象に言葉を失う。小学生くらいにしか見えない少女がカレーを産みだしてゼエハア言っているのだ。
ダンジョンのスキルには様々なものがあるのは知っているはずの両者にしても、カレーライスを産み出すスキルなど聞いたことがない。いきなり見せられたこの状況を理解しろという方が無理である。
なお。仮にこの場に桃子のことを理解している杏や柚花がいたとしても、この状況を見れば同じくドン引きしていたのは間違いない。
「はぁ……はぁ……ええと、ですね。私のスキルで作ったカレーって、食べた人の魔力を底上げする効果があるらしいんです。だからきっと、消耗しちゃってるヒカリさんたちを底上げというか、回復させる効果もあるんじゃないかなって」
「桃ちゃんが産んだご飯で、ヒカリが回復……?」
和歌が理解できずに目を白黒させているものの、桃子の目的はいま話した通り『魔力回復効果』である。
桃子が見る限り、ヒカリとエレクの消耗は激しい。その身体が、うっすらと透けて見えている程だ。そして見た目ではわからないが、和歌とてここまでに相当の魔力を消耗しているはずだ。
そこで桃子が考えたのは、カレーによる魔力回復である。
このカレーを【創造】で生み出すのに桃子が相当の力を使っている以上、ゼロから無尽蔵に魔力を回復出来るわけではない。全員の魔力の増減でいえば、食べて増加する魔力よりは桃子の消費分のほうが圧倒的に多い。
けれど、桃子には妖精たちも認める人並み外れた量の魔力がある。更には、ハンマーに装着した紅珠という外部魔力も使用可能なので、ヒカリたちと比べて使える魔力の桁が違うと言ってもいい存在だ。
だから今、ヒカリたちの回復が出来るならば。桃子の魔力など、出費としては安いものなのだ。
『ケラケラっ! まあ、いいじゃん! すっごく美味しそうだし、食べよっ! 食べよっ!』
「そ、そうね。私にはよくわからないけど……桃ちゃんから出てきたものなら、悪いものじゃないのよ。き、きっとヒカリにも効くんじゃないかしら?」
『和歌、あまりよく分かってないだろう? ……まあ、せっかくの腹ごなしだ。頂きます、桃子ちゃん』
三者三様の反応を見せつつも、それでも桃子のカレーを手に取り、食べてくれる。
その様子に満足しつつ、桃子はひとまず最低限の魔力と体力が回復するまでは、その場でへたり込むのだった。
「桃ちゃんは、いつもダンジョンでこういう風にカレーを作っているんですねー」
「え、いや、私もこんなカレーの造り方したの今日が初めてなんです。いつもはちゃんと、お鍋をピカーって光らせてカレーを作ってますからね?」
「うーん、聞く限りではお鍋の有無くらいしか違いがないように思えるんですけど、難解ですねー」
「他にも、おにぎりにカレー粉をかけたらピカーって光ってカレーおにぎりになったこともありますよ。マヨイガのお墓で眠ってるおにぎりもそれなんです」
「うーん、更に難解ですねー」
『君たち、お笑いコンビでもはじめたのかい?』
各々が武器を手放さず、周囲に警戒したままの食事ではあったけれど、結局は魔物が現れるようなこともなく食事を終えた。
はじめこそはヒカリも和歌も、実に怪訝そうな顔をしていたものだけれど。最終的にカレーライスは美味しく食べてもらえたし、魔力回復効果についてもきちんと目論見通り上手く行ったようだ。
完全とまでは言えないかもしれないが、カレーを完食したヒカリとエレクの身体の色が透き通らなくなっていた。和歌については見た目では何とも言えないが、普通にカレーを美味しそうに食べていたので悪いことは無いだろう。
『良かったね、ピカリ。人間の食事なんて、13年ぶりなんでしょ? 13年ぶりなんでしょ?』
『ああ。懐かしいな。生きてた頃は、仲間で当番制で食事を作ったりしていたっけ』
「みんなあの時の怪我で探索者を引退しちゃったから、私も懐かしいわ。ヒカリが当番の日は、カレーどころか食べ物を直火で焼いた手抜き料理ばっかりだったわよね」
『酷いな。バーベキューと言ってくれ。それに、何でも焼いてたわけじゃないぞ? 一応果物とかは焼かずに出したりしてたぞ』
気付けば、みんなでそんな軽口をたたき合い、それぞれに笑顔が浮かんでいた。カレーは、ギスギスしてしまった心を解きほぐしてくれる。
もちろん、いつ敵が来るのか分からない。油断して良いわけもない。
けれど。それでも。
勝っても負けても、このメンバーで食べるこれが、このパーティにとっての最後の晩餐だ。ヒカリとエレクには、還るべき時がやってくる。
なら、今くらい。少しくらい楽しい想い出が増えたとしても、良いではないかと思う。
だが、楽しい時間というものには、やはり終わりがやって来るものだ。
『ねえ、ピカリ。そろそろ瘴気が、集まりだしたみたいだよ。集まりだしたみたいだよ』
『そうみたいだね。本当は、もっと話したいことも、沢山あったはずなんだけど……』
エレクがツヨマージを現出させて。ふわりと高い位置に移動する。その視線は、遠く。花畑の一点を見つめていた。
続いて、ヒカリが剣を抜き。同じく青い花畑の奥に視線を向ける。
桃子もつられて先を見ると、そこには辺り一帯の闇が集まり、収束し。そして、一つの渦を形どっていた。
これは、先ほどバジリスクが顕現するときにも目撃した光景だ。
今、ここに。バジリスクに匹敵するほどの、強大な魔物が顕現しようとしている。
「桃ちゃん、ここまで来たら、帰れとは言いません。だから、絶対に何があっても、無事でいて下さいね」
「はい! 和歌さん、私は和歌さんと一緒に帰ります!」
和歌も、杖を構えて、魔力を集中させる。乱戦になる前に和歌の魔法でダメージを与えられれば、それは大きなアドバンテージとなる。
そして、桃子も。自分に出来ることは分からなくとも、いつでもハンマーを振れるように、赤い魔石に魔力を充填していく。
そのとき、ふと気が付く。
周囲の空が、闇に覆われている。どこまでも続いていた花畑が、暗い。
まるで、闇の霧が漂っているような光景だ。桃子はこの漂う闇を、見たことがある。
これは、そう。遠野ダンジョン第三層『深淵渓谷』を覆っていた闇だ。あの場所に、闇を纏う大妖怪が君臨していたときと同じ空気だ。
和歌が、空を覆う闇へと炎の弾を放つけれど、しかし炎は闇の中へ飲み込まれるように消えていく。
「あらー、私たちどうやら閉じ込められちゃったみたいですねー」
『ケラケラっ、それはそれで都合がいいんじゃないかな! アイツもここで決着をつけるつもりなら、逃げられる心配がないね! 心配がないね!』
『さあ、いよいよお出ましだね。僕の仇。そして、エレクの仇。アオやキィの仇』
周囲を闇の霧が覆い隠したこの空間で。黒い闇が渦となり集まり、一つの形を作っていく。そしてそこには、まるで象のように巨大な獣のシルエットが見えた。
このシルエットは、桃子にとっては大きな因縁を持つ相手である。
いや、桃子だけではない。ここにいる全員にとっても、決して浅からぬ因縁の魔物だった。
遠野の迷宮が、地上に口を開いた昔から。妖精の女王が日本という国に根付くよりも遥か前から。
その悍ましき狩猟者は、人知れず。闇に隠れて人間たちを狩ってきた。
その恐ろしき暗殺者は、幾人もの旅人を、幾人もの探索者を。誰にも気づかれないままに食らってきた。
十三年前。一人の英雄によりその存在が白日のもとに晒されるまで。どれだけの命を踏み台にしてきたかも判らぬ、憎むべき魔獣だ。
猿のような顔に、虎のような四肢。
狒々か獅子のような鬣は硬く、敵を寄せ付けない。うごめく蛇で構成された尾は、それ単体でも凶悪な大蛇のようだ。
それは、暗い霧を衣のようにまとい、時折その身からは抑えきれない電光が弾けている。
多くの人々を殺し。ヒカリを、エレクを、アオを、キィを食らい。
和歌に、長く孤独な戦いを強いて。
そして最後に、桃子によって討伐された大妖怪。
『今度こそ、地獄に送り返してやるさ。ねえ、鵺』
『グゥゥォォオオオオオオオ!!!』
遠野の地で、幾人もの命を食らい続けてきた大妖怪、鵺が。
生者と死者の境目たる青い花畑に、いま。姿を現した。
【ダンジョン情報総合スレ 雑談はほどほどに】
:尾道の三層で、最近なんだか新手の魔物か何かの目撃談があるな
:まさかあやかしが復活したわけじゃないだろうな
:討伐後10年以上復活してないんだからもう復活しないでしょ
:10年たったから復活するという可能性もあるが・・・
:詳細がない以上どうにもこうにも。
:吉野ダンジョンの大規模な変動はおさまったみたいです。
:第三層の入り口見つかっちゃうんじゃない?
:戦時中に封印されたんだっけ。
:あくまで都市伝説だけどね。危険すぎるから当時の政府が封印したっていわれてる。
:筑波ダンジョンのロリババアが可愛い
:それはスレ違いだゾ
:ついさっきなんだけど、長崎空港から沖縄方面に魔法協会のヘリが飛び立つのを見ました。何かあったのかな。
:沖縄ダンジョンで凄いスクロールでも見つかったのか?
:クリスティーナ会長いた?
:いなかったよ。なんか就活生みたいな女性職員が空港の人に物凄くペコペコしてた。
:魔法協会は就活生でもヘリで移動するのか。すげえな。
:鎌倉ダンジョンは魔物たちの様子を見る限り当分の間は合戦はなさそう
:来月は香川で6月のうどんフェス大祭が開催予定
:うどんフェス大祭じゃなくて、うどん大会フェス祭りな
:(何度聞いてもその名称はどうかと思う件)Oo。('ω')