ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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閑話/親愛なるあなたへ

「あの、失礼します。私、本日はこちらの工房の、職人の……」

 

「あらー、お待ちくださいねー? 親方さーん、お孫さんですかー? 可愛らしい女の子が来てますよー?」

 

「わ、わあ! 違います、違います。ええと、工房の職人見習いとして面接を予定しております、笹川と申します」

 

「あらー? ええと、つまり、お孫さんが面接のお手伝いをなさるんですかー?」

 

「いえ、違います、違いますっ」

 

 

 あの日が、私と和歌さんが初めて会った日です。

 和歌さんは覚えていますか? 私、面接直前に親方さんのお孫さんと勘違いされちゃって、面接では私も親方さんも、なんだか物凄くやり辛かったんですよ?

 

 あの時は私もまだ女子高生だったので、工房にも女性がいるんだなって思って、実は内心とても安心しました。

 それで気が緩んじゃったのか、次の日は学校の調理室でカレーを作り過ぎちゃって、運動部の子たちに振る舞いました。

 とても喜ばれたので、結果オーライで良かったです。

 

 

 

 

 

 

 

「これからよろしくお願いします。では……桃ちゃん、と呼んでも。構いませんかー?」

 

「桃ちゃん、ですか? ええと、はい。よく目上の親戚の方とかには、そう呼ばれてます」

 

「私は、柿沼和歌です。和歌とお呼びくださいねー、桃ちゃん」

 

「はい、和歌さん」

 

 

 きっと、あの時から。

 和歌さんは私のなかに、生まれることの無かったヒカリさんとの子供である「ももちゃん」が見えていたのかなって思います。

 私と和歌さんの絆を結んでくれたのが「ももちゃん」なら、私は感謝したいと思います。そして、ももちゃんの分まで、和歌さんの桃ちゃんを全うしようと思います。

 

 私は、和歌さんの大切な「桃ちゃん」になれましたか?

 桃ちゃんと呼ばれた記念として、この日は鶏もも肉の桃カレーを食べたんですよ。

 美味しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

「和歌さん、ここの近所で、何か美味しいカレー屋さんってありますか? 私、カレーが大好きなんです」

 

「あら、可愛らしい。なら、そうですねー。今日のお昼にでも一緒に駅前まで行ってみませんか?」

 

「はい、一緒にいきます」

 

「桃ちゃんと一緒にお食事に行くのは、私の夢の一つでしたのでー」

 

「ええ、いくらなんでも大袈裟すぎません?」

 

 

 和歌さんは、私のことを娘のように思ってくれました。これもきっと「ももちゃん」の作ってくれた絆ですね。

 私も、流石にお母さんとはいかなかったけれど、和歌さんのことは本当のお姉さんみたいに思って、色々と甘えちゃいましたね。

 工房には、親方さんというお爺ちゃんがいて、所長さんは親戚のおじさんみたいで、和歌さんはお姉さんで。

 この頃には、工房は私にとって第二の家族だったのかもしれません。

 

 駅前のカレー屋さん、特製のカレーももちろん美味しかったですけど、ナンがすごく良かったですね。

 頼んでもいないのに「オカワリダヨー」って、でっかいナンがもう一枚出て来たときには、正直驚きました。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでなんですけどー。桃ちゃん、昨日は岩手まで行ったりは……さすがに、してませんよねー?」

 

「岩手?」

 

「昨日も房総ダンジョンに行ってましたけど、岩手ってどこら辺でしたっけ? 東北ですよね?」

 

「桃ちゃん……地理のお勉強しましょうねー」

 

 

 今なら分かります。

 あの時、岩手の――遠野ダンジョンの話をするときに、和歌さんが一瞬だけ、暗くなっていた理由。

 きっと、昔のことを思い出して。私があの危険な、深淵渓谷へと足を運ぶんじゃないかって、心配してくれていたんですね。

 ヒカリさんが亡くなった場所。和歌さんが、何度も孤独に戦った場所。

 でも、ごめんなさい、深淵渓谷をすっ飛ばして、私は最初から妖精の国経由でマヨイガに入ってました。

 

 あと、地理は苦手ですけど、岩手ってわんこそばが有名なんですよね。わんこカレーってどうでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

「多分、そんなに他人の秘密をばらすようなタイプではないと思いますよー?」

 

「そう、ですか? ちなみに、何でそう思ったのか聞いても……?」

 

「うーん、そうですねー」

 

「この子、視聴者さんのことすごく見てるじゃないですかー?」

 

 

 このとき、柚花のことを相談して、和歌さんのアドバイスに従ったことは、私の人生の転機の一つだったのかもしれません。

 柚花という、掛け替えのない、大切な後輩と出会うことが出来ました。それは、仲良くしてみたらどうかという和歌さんのアドバイスがあったからです。

 

 そういえば、和歌さんの配信者時代のお話は私もまだ詳しく聞いたことはありません。

 きっと、データを探せば和歌さんの配信データも見つけられるとは思うけど、勝手に見るのはなんだか和歌さんに申しわけないので、まだ私はそれを見たことはありません。

 今度、和歌さんから直接、思い出話を聞きたいです。

 

 そういえば、この頃に妖精の国に畑と湖が出来たんです。カレーの材料が色々増えていったのもこれからでした。

 カレーは色々な材料でアレンジが出来るので、とっても美味しいです。

 

 

 

 

 

 

 

「桃ちゃんは、真面目で責任感が強い探索者なんて選んじゃ駄目ですよー? そういう人たちは、勝手に、一人で遠くに行っちゃうんですからー」

 

「そういうものなんですかねえ……」 

 

「そうだ、桃ちゃん、親方さんの孫をやめて私の娘になりませんかー? 可愛がっちゃいますよー?」

 

「い、いや、遠慮しときます」

 

 

 和歌さんは、きっと。

 ずっと、ヒカリさんのことを思っていたんだなって、今なら思います。分かります。

 真面目で、責任感が強くて。それでも、優しくて、強くて。でも仲が良くなると、意外に口の悪いところのあるヒカリさん。

 生きていたなら、きっと優しいお父さんになって、つるぎくんとももちゃんを、育てていたのかなって。

 そんなことを想像して、悲しい気分になっちゃいました。

 

 哀しい気分のときは、贅沢に野菜とお肉ゴロゴロのシンプルな具沢山カレーです。お肉の塊は、心を癒してくれますからね。

 

 

 

 

 

 

「――あの、すみません先輩。これっていつまで続くんです?」

 

 ふわふわの、マシュマロとお餅と綿あめを足したようなベッドに寝転がって黙々と原稿を読んでいた柚花が、ふと顔をあげて聞いてきた。

 光の加減で柚花の瞳が綺麗な銀色に光る。このオッドアイにも見慣れたものだ。これってずっとこのままなのかな。

 

 それはともかく、いつまで続くんです? なんて聞かれても、そりゃ最後までだけど。

 もしかしたら柚花、どこまで読んだのか分からなくなっちゃったのかな?

 

「えーと、まだこれで半分くらいなんだけど。ここまで読んでみて、どうだった?」

 

「ごめんなさい、ちょっと確認させてください。これって、和歌さんと風間さんの結婚式で読むスピーチって言ってましたっけ? そもそもあの二人、そこまで進展してなくないです?」

 

「えへへ。気が早いのは分かってるけどね。時間の問題かなって思っちゃって、ついつい興が乗っちゃって」

 

 柚花に読んでもらっているのは、和歌さんと風間さんが結婚することになった場合に読む、私から和歌さんへと捧げるスピーチだ。

 とりあえず、原稿用紙に書き起こしてみたから、おかしいところがないかどうか、柚花にチェックして貰ってたところだ。

 

 まあ、柚花の言う通りで実際には和歌さんにはまだ結婚の予定はない。私が見た感じでは、いい雰囲気には見えるんだけどなあ。具体的な結婚とか、そういう所までは進んでないみたい。

 だから、決まってもいない結婚のスピーチなんて気が早すぎるって言われるのは予想してたけど、やっぱり柚花は呆れ顔だった。

 

「なるほど……ま、とりあえずこの原稿は没にしときましょうね」

 

「うわ、判断が早い?!」

 

 そして柚花は、容赦がなかった。

 原稿を破り捨てたりはされなかったけど、最後まで読み終える前に、既に没が決定してしまった。

 没かー。そうかー。私としては力作だったんだけどなあ。

 

「まず、風間さんとの結婚スピーチで元カレの話ばっかりしてどうするんですか。お祝いの席が地獄の空気になりますよ」

 

「んー、やっぱりヒカリさんの話題はNGだったかなあ」

 

 実は、自分でも薄々感じてはいた。ヒカリさんのことばっかりだなって。

 

 たださ、私が和歌さんのことを語ろうとするとさ、どうしてもそこにはヒカリさんの影がちらつくんだよね。

 私を通して「ももちゃん」を意識しちゃってるなー、とか。あの時の和歌さん、ヒカリさんのこと考えてたんだろうなー、とか。ヒカリさんのことが尾を引いてたんだなー、とか。

 ヒカリさんが最後に言ってたことだけど、和歌さんは本当に、ずーっと過去に捕らわれてたんだなって、今更ながらに思う。

 

 

「更に言うなら、そもそも守秘義務のシの字もないじゃないですかこれ。駄目ですよ、妖精の国のこととか書いちゃ。事情を知らない方も聞くかもしれないんですから」

 

「んー、言われてみればそれもそうだね、難しいなあ」

 

 和歌さんと風間さんの二人には、もうあれこれ話しちゃってもいいかなって思ったけど、そう言えばそうだよね。結婚式だと、それ以外の人たくさん来るものね。

 深援隊とは縁があるとは言っても、所属してる人たちの大半は知らない人だしね。唯一私が知ってるのはオウカさんとかサカモトさん。あとクヌギさんも深援隊カウントした方がいいのかな。

 

 地元の村の人だと……ああ、小梅ちゃんとお婆ちゃんは、どうしよう。流石に顔を合わせたら、私が派手なほうの雪ん子ゆきちゃんだってバレちゃうよね。

 ゆきんこ衣装で式に参加するのはどうかな。無理かな。無理だよね。私もおかしいって思うし。

 

 

「あと、これは一番気になった部分なんですけど。なんでこれ、いちいちカレーの話が挟まれてるんですか?」

 

「え、そこツッコむの?」

 

「どうしてツッコまれないと思いました?」

 

 そして最後の指摘。

 なるほど、柚花はそこが気になっちゃったのか。

 私としては、なかなかうまくカレーの話と繋げられたものだと思ってたんだけどな。駄目だったかー。

 次に書くときは、もっとさり気なくカレー話を仕込むことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで。

 

 私が勝手に考えてたスピーチ原稿はお蔵入りになっちゃいました。残念。

 でも、あの原稿は手紙にして、今度和歌さんに贈ることにしますね。

 

 和歌さんは、最近は以前よりも、なんだか砕けた口調で話してくれることが多くなりました。

 きっと、未来に目を向けてくれてるんだと思います。

 

 だから、ヒカリさん。和歌さんは、大丈夫です。

 ヒカリさんは心配せず、ゆっくりと休んでいてくださいね。

 和歌さんには私たちがちゃんと、ついてますからね。

 

 それでは、またいつか。

 

 

 

 あなたのパーティメンバー 桃子より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   九章 ニライカナイの精霊 了

















九章これにて完結です。
活動報告にあとがきを載せますので気が向いたらどうぞ。
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