ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 ドワーフと妖精
武器と桃子と宝箱


 とある六月の昼下がり。

 

 妖精の国の畑を見下ろせる土手には大きくシートが敷かれており、そこには沢山の武器が並べられていた。

 剣。刀。槍。全ての武器が土に汚れ、ものによっては歪み、錆付き、とてもではないがこのまま武器として使用するのは難しそうなものばかりである。

 それらをこの場に並べたのは、その手にメンテナンス用の道具箱を持った桃子だ。桃子は並べられた武器の前にしゃがみ込み、一つずつ武器を手に取って、細部を点検していく。

 

 武器に歪みがあれば、この場にある工具類で可能な限りそれを補正し。

 接合部分の緩みなどがあれば、道具を使い、或いは道具ではどうにもならない場合は【加工】のスキルも駆使して、出来得る限り元の状態に近づける。

 金属が錆びていれば、持ち込んだ研磨剤やサンドペーパー、砥石などを使って丁寧に錆を落としていく。

 ものによっては、専門職向けの特殊なクリームなどを使用して、武器の状態を整えていく。

 

 その桃子の作業を間近でジッと見つめているのは相棒たる風の妖精ヘノと、もう一人。赤く燃えるような色のオーラを纏う火の妖精、フラムだ。

 武器が大好きなフラムに向けて、桃子は様々な武器についての解説を交えながら整備を進めていく。

 

「次は……お、鎌だね。これはねえ、武器じゃなくて、草を刈り取る道具なんだよ。こういう風に持って、スッと動かすと、草がまとめて刈り取れるの」

 

「うおおっ! なるほどなっ! これがあれば、畑の草が全部、刈り取れるな! 凄いやつだな! アタシもやりたい!」

 

「こら。駄目だぞ。お前がそんなもの持ったら。大切な植物まで。まとめて切っちゃうだろ」

 

 実はこれらの武器は全て、フラムがダンジョンで拾ってきて、妖精の畑に突き刺していたコレクションである。

 畑に刺さっている武器の数がかなり増えてきたこの頃。武器職人の見習いとして、その武器たちをずっと放置することに罪悪感を覚え始めてきた桃子が、今更ながらそれらの武器を全て引っこ抜き、まとめて手直しすることにしたのだ。

 数の多かった剣の類を終えて、今は何故だか武器に混じって畑に刺さっていた草刈り用の鎌を手入れしている所だ。

 形といい、状態といい、柚花が誕生日にフラムから貰っていたものと非常によく似ているが、きっと桃子の気のせいだろう。

 

「ねえフラムちゃん。他にもこれからはさ、修復できそうな武器があったら、畑じゃなくて私の所に持ってきてね?」

 

「わかった! 桃子は、まるで武器職人だな!」

 

「あはは、まるでっていうか、実際にそういうお仕事してるんだけどね」

 

 桃子は、整備した武器の数々を地面に敷いたシートの上に丁寧に並べながら、フラムの言葉に苦笑する。

 フラムは本当に知らないようだけれど、実を言うと桃子は、立場としては本物の武器職人の見習いだ。工房にて、伝説の職人とまで言われる親方の指導の下、弟子のような孫のような何かとして勉強している日々なのだ。

 師匠である親方の専門は主に金属加工である。なので、最新の科学技術や特殊素材については少々不得意な部分もあるけれど。それでも、ダンジョンで使う武具に関しては、そこらのサラリーマンより遥かに詳しいのである。

 

 そんな桃子だが。

 実は今まで、この妖精の国においては、椅子やテーブル、調理道具や氷部屋の制作などで力を使ったことはあるけれど、武器を取り扱っている姿を見せたことはなかったりする。なので、妖精たちが武器を触る桃子を珍しく思うのも仕方がない。

 桃子が実は武器職人の端くれだと言う事をちゃんと理解している妖精は、もしかしたらヘノくらいかもしれない。

 

「フラム。桃子はカレー以外にも。色々と作れるんだぞ。道具も。おにぎりも。作れるぞ」

 

 いや、ヘノもちゃんとは理解していないかもしれない。

 

「よし! そういうことなら、今からダンジョンに! 武器探しに行ってくる!」

 

「持ち主がいる武器は持ってきちゃ駄目だよー? 気を付けてねー?」

 

 桃子が整備した武器の数々に瞳をキラキラと輝かせるフラムは、まるでダンジョンに初めて入った新人探索者を彷彿とさせるものだった。

 思い起こせば、桃子も初めてダンジョンに入る前は、行き交う探索者たちの持つ武器を見ては瞳を輝かせていたかもしれない。

 初心忘るべからずとは言うものの、新人の頃のように、行き交う探索者を見て瞳をキラキラさせる程の初心はもう桃子には残ってはいない。そればかりは、仕方がない。

 

 メラメラと熱い心を燃やして何処かのダンジョンへと向かうフラムの背中を見送りながら、自分はもう経験を積んだ立派な探索者なのだなあ、と。

 19歳にしてひとり、ベテラン風を吹かせる桃子だった。

 

 

 

 そんな風に、ヘノを膝の上で休ませたまま、桃子が物思いに耽っていると。

 背後から、慣れ親しんだ声が掛けられた。

 

「せーんぱい。今日はなんだか、すごい数の武器を並べてるじゃないですか」

 

「な、なんだか、凄い武器の数ですねぇ……こ、殺す気満々なんですかぁ……」

 

「あ、柚花にニムちゃん、おかえりー。いや、畑に刺さってた武器を引っこ抜いて整備してたんだけどさ。そこの草刈り鎌って、柚花が誕生日に貰ったものと似てない?」

 

「さあ。なんのことだか」

 

 新たに妖精の畑へとやってきたのは、柚花。そして柚花の肩に乗っているのは、彼女の相棒である水の妖精ニム。

 彼女は午前中の間、ニムと共にどこか水の多いダンジョンを探索してきたようだ。彼女たちが遊びに行くのはニムのリクエストもあり、もっぱら水の多いジメジメしたダンジョンが主である。

 水属性のダンジョンはニムの力が万全に使える上に、柚花の得意とする雷属性の魔法を弱点とする魔物も多いので、二人との相性という意味でも万全なのだ。

 今日はそれなりに魔石などの収穫もあったようで、その腰元には、何やら収穫物で膨らんだ革袋がぶら下がっていた。

 

 その柚花だが、桃子の横へと腰を下ろして、物珍しそうにその武器の数々を眺めている。

 小ぶりな短剣に、オーソドックスな片手剣。両手で持つ大きなものもあるが、やはり探索者の落とす武器というのは剣の類が多い。それ以外は数こそ少ないけれど、斧や杖、そして草刈り鎌。様々な武器が二人の目の前に並んでいる。

 

「凄いですね、ちょっとした武器屋を開業出来ますよこれ。先輩の【創造】の力で、伝説の武器とかに変質させたりは出来ないんですか?」

 

「それがねえ、ニライカナイではうまく出来たんだけど、地上に戻ったらさっぱりできなくなっちゃった」

 

 ニライカナイの戦いでは、桃子は即興でヒカリの剣を【創造】で上書きし、風間の持つ武器のように瘴気を断つ光の剣へと進化させられたのだ。

 他にも、ゼロからカレーを作ったり、強化された自分の肉体を【創造】したりと色々無茶な使い方も出来たのだが、しかし地上に戻ってから同じようなことをしようと思っても、さっぱり出来なかった。

 もし、また同じ力を発揮したいのならば、ニライカナイのような特殊な場所で再び魂だけの存在になるしかないのかもしれない。もちろん、桃子もそこまではしたくない。

 

「それは残念。でも、じゃあ先輩。この武器ってどうするんですか? 売るんですか?」

 

「うーん、1つ2つならともかく、流石にこの量はなあ……」

 

 実のところ、この武器の用途は、特に考えてはいない。

 

 桃子も、とりあえずで武器の整備をこなしたはいいものの、これをどうするべきかというのは全く念頭に置いてはいなかった。

 柚花の言うように、中古武器の買い取り店に売り払えばいい収入になるかもしれないが、流石にこんな多量の中古武器を持ち込む探索者というのは怪しすぎるし、事情を聞かれてもフラムが拾った武器のことなど説明しようがない。桃子は頭を悩ませる。

 

「そうだ! いいこと思いついた!」

 

 しかし、そこで桃子は閃いた。

 売れないなら、探索者たちに無償で譲ってしまえばいいのだ。

 

「ねえ、ねえ! 自分でさ、宝箱でも作ってさ、ダンジョンの至る所に武器を隠しておくのってどうかな?」

 

 ダンジョンには、稀に宝箱というものが出現する。

 宝箱は主に、砂丘ダンジョンのピラミッドや上高地ダンジョンの岩盤迷路のような遺跡染みたダンジョンか、或いはマヨイガのような人工的な建築を思わせるダンジョンに出現することが多く、逆に、自然環境がメインのダンジョンではほぼ見ることの無い稀少なものだ。

 自然メインの房総ダンジョンをホームにする桃子は、残念ながら宝箱など見つけたことはない。房総ダンジョンでもごく稀に発見されることはあるらしいが、大体の場合、中身はありふれた薬草の類だそうだ。

 

 しかし、出現箇所はともかくとしても。何が入っているかわからない宝箱というのは探索者にとって一つのロマンであることは間違いない。

 もちろん、ミミックという罠の魔物である可能性も非常に高いのだが、ロマンには危険がつきものだ。

 

 桃子の提案というのは、その宝箱を自作してダンジョン中に設置してまわろう、というものだった。

 これらの持ち主不在の武器類を箱詰めし、各地のダンジョンに隠してまわる。そうすれば桃子たちは武器を無駄にせずに済むし、探索者たちは宝箱というロマンに出会えた上、中身はきちんと整備された実用可能な武具である。

 

 幸い、宝箱ならば材料の木材と多少の金属パーツさえあれば桃子でも制作が可能だ。

 木材なら房総ダンジョンでいくらでも手に入るので、材料に困ることもない。

 この思い付きは、存外悪くない話なのではなかろうか。

 

「宝箱か。面白いな。じゃあ。ヘノも。ドライデーツとかを入れておくか」

 

「じゃ、じゃあ……わ、私は、美味しいお水でも入れておきましょうかぁ……?」

 

「うん、私、なんだかワクワクしてきちゃった!」

 

「もう探索者どころか、思考回路がダンジョンの管理者側になっちゃってるじゃないですか。何者なんですか、先輩は」

 

 探索者というのは、ダンジョンを探索するものたちの名称だ。決して、探索する人間のためにダンジョンに宝箱を設置する側ではない筈だ。

 少なくとも。柚花の持つ常識の中では。ダンジョンに宝箱を設置して回ろうとする探索者などは、いない。

 

 そのように。

 常識をどこかに置き捨て、宝物作戦に乗り気になる桃子と妖精たちの姿を見ながら、柚花は今日もまた呆れたようなツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 そんな、本日は武器の整備場となっていた土手だが。

 そこから見下ろす妖精の畑は、畑とは名ばかりのほぼ果樹で構成された土地である。

 

 ダンジョンには果樹が妙に多く、それに反して野菜などの畑作物は非常に少ないのだ。

 人間社会の畑作物の大半は品種改良の賜物なので、ダンジョン内に見つからないのは仕方がないことかもしれない。けれど、せっかくの畑なのでいつかはダンジョン産の野菜を育てたいというのが桃子の目標の一つである。

 とりあえず、そんな多種多様な果樹の茂った畑を見下ろしながら。桃子と柚花は手分けをして、修理した武器の数々をまとめていた。大きさやカテゴリごとに分け、ロープで縛っていく。

 

 先ほどまで一緒にいたヘノとニムは畑と湖のパトロールに出ており、遥か先に見える薬草区画で緑と青の光がうろうろしているのが見える。

 そんな折。片手剣の束をまとめ終えた柚花が、地面に広げられたシートに腰を下ろして桃子に話を振る。

 

「ところで先輩、最近はドワーフ活動してます?」

 

「さらりと変なこと聞くじゃん。ドワーフ活動が何なのかをまず私は知らないんだけど」

 

「そりゃあ、ドワーフ活動って言えばあれですよ。房総ダンジョンで、人知れずそのハンマーで人々を助けてまわる活動です」

 

「ああ、それかあ」

 

 桃子も武器をまとめ終えて、シートの上、柚花の隣に腰を下ろす。

 少々疲れたので、柚花に肩を寄せて寄り掛かる。互いの呼吸音が近くなるが、柚花も桃子も気にしていない。

 

 話を聞けば、ドワーフ活動とは、桃子による人助け活動のことらしい。

 確かに、かつて魔物に囲まれていた探索者たちを救った一件が、ドワーフの噂を一気に広めるきっかけになったのは間違いない。桃子としては不本意な噂だったけれど、今となっては懐かしい想い出の一つだ。

 

「別に人助けをしないってわけじゃないんだけど、房総ダンジョンってそもそも元からピンチになる人が少ないから、人助けの機会そのものがないんだよね」

 

「まあ、それもそうですね。それに房総ダンジョンの場合は今や本物のドワーフが活動してるわけですし……」

 

 結局のところ、房総ダンジョンは難易度が低く安全性の高いダンジョンなので、そうそうピンチになる探索者などいないのだ。

 以前助けたパーティも、ピンチのきっかけはあくまで崩落事故である。決して、房総ダンジョンに出現する魔物に実力で劣っていたわけではなかったはずだ。

 それに、たった今柚花が語ったように。今の房総ダンジョンには、探索者たちを見守る『ドワーフ』が実際に誕生しているのだ。他でもない、桃子の【創造】によって。

 そういう意味でも、今となっては桃子の出る幕もないだろう。

 

「でも、なんで急にドワーフ活動の話?」

 

「んー、ちょっとした噂があるんですけど……その前に先輩、ドワーフの祭壇は知ってますか?」

 

「え、全然知らない。祭壇って、何の話?」

 

 柚花は、最近は頻度が低くなっているものの、以前は『都市伝説解明系配信者』として活動していたのだ。簡単に言えば、ダンジョンの不思議な噂を探る配信者である。

 残念ながらギルドと守秘義務契約を交わし、魔法協会からも配信内容に釘を刺されてしまった今となっては、柚花は不用意にダンジョン内の不思議な現象を広める配信が許されなくなってしまった。

 だがそれでも、ダンジョンの噂には未だにしっかりとアンテナを広げているようだ。

 

 その柚花が、新しく耳にした噂。

 それはどうやらドワーフに由来するものであるらしく。桃子も他人事ではないと、耳を傾ける。

 

「実はですね――」

 

 そこで柚花に聞かされた話は、桃子にとっては寝耳に水のような。

 不思議な話だった。

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