ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ドワーフの噂

 房総ダンジョン第一層に設置されているという、ドワーフの祭壇。

 それ自体は、柚花が今から語ろうとする噂そのものというよりも、その前提となる情報だ。

 

 桃子がホームとする房総ダンジョン第一層『森林迷宮』の中央部。森を進んだ先に広がる開けた土地は、今やすっかり探索者たちのキャンプファイアー広場として親しまれていた。

 クリスマスや正月には有志によるイベントが開催されたりと、ダンジョンにしてはやや賑やかすぎる場所だ。

 多くの探索者が気軽に訪れるこの広場だけれど、しかしそこは決して無法地帯ではない。探索者たちによる自治が行き届き、そこでのルールもしっかりと周知されているのだそうだ。

 

 そんなキャンプファイアー広場では、少し前から、探索者たちが各々で持ち込んだ「ハンバーグ」を土地の守り神に捧げる奇妙な風習が生まれていた。

 土地の守り神とは、当然ドワーフのことである。ひょんなことから「ドワーフの好物はハンバーグ」という噂が広がり、どこをどうしてそうなったのか、房総ダンジョンを訪れた探索者たちの中で、キャンプファイアー前にハンバーグを供えるのが恒例行事となってしまったのだ。

 SNSで一度広まった情報が、ネット社会特有の軽いノリで現実にも広まってしまった形である。悪い言い方をすれば、考え無しの探索者たちによる悪ノリがきっかけとも言える。

 

「ハンバーグなら。ヘノも。食べたことあるぞ。なんか。美味しいけど。変な肉だったな」

 

「それは……う、羨ましいですねぇ……」

 

 悪ノリがきっかけとはいえ、基本的にはドワーフに対するお礼や善意、あるいは信仰心によるものなので、ギルドやダンジョンの治安を守る有志としても無下にはできなかった。

 しかし、生の食べ物をダンジョン内に放置する探索者が増えてしまえば、ゴミ処理や環境への影響は避けられない。

 

 そこで、房総ダンジョンの探索者たちは、自分たちで新たなルールを作り出した。それが「ハンバーグを供えるための祭壇」だ。

 あくまで探索者たちによる自主的なルールであり、ギルドによる強制力のようなものはない。しかし、彼らの話し合いの結果として「祭壇にハンバーグを供えるパーティは一晩につき1パーティまで」という予約制が定められたのだ。

 その新ルールは意外なほどあっさりと探索者たちに受け入れられた。その結果、第一層のキャンプファイアー広場には、もとの平和が戻ってきたのである。

 

 

「――というわけで、キャンプファイアー前に作られた祭壇には、その時々で権利を得たパーティがハンバーグを捧げるんだそうです」

 

「わ、私も柚花さんと一緒に見ましたけど……り、立派なテーブルに、ハンバーグが……お、おいてありましたねぇ。と、とても美味しそうでしたよぉ……?」

 

「なんだか。無性に。お腹が空いてくる話だな」

 

「ハンバーグは美味しそうなんだけど……なんか、怪しげな儀式みたいになってない? 大丈夫? 房総ダンジョンのドワーフ信仰、行き過ぎてない?」

 

 柚花がドワーフの祭壇について語っている間に、いつのまにやらパトロールを終えたヘノとニムも戻ってきて、途中からは一緒に柚花の話を聞いていた。

 ニムは既に柚花と共にその祭壇を覗き見たことがあるようで、そこに置かれていたハンバーグを思い出して夢見心地な顔つきになっている。よほど美味しそうなハンバーグだったのだろう。

 それを聞いていたヘノもまた、ニムの表情につられて、なんだかお腹が空いて来たらしい。そろそろ一度調理部屋に戻り、何かご飯を準備した方がいいかもしれない。

 

 だがしかし、祭壇とはまた大層な話だなあと桃子は思う。

 自分がきっかけである以上、無関係とも言い切れない立場の桃子だけれど。流石に、お供えやら祭壇やら、話が斜め上方向へと行き過ぎている気がしないでもない。

 良くも悪くも房総ダンジョンは緩い場所なので、そこを訪れる探索者たちの思考回路も緩くなってしまっているのだろうかと訝しむ。

 

「まあ、大袈裟に祭壇と言ってますけど、要はハンバーグ用の小さなテーブルですよ。実際に祭壇のハンバーグは人知れず消えてるんで、例のドワーフさんが食べてるんじゃないですかね」

 

「そっか。ドワーフさんが好物のハンバーグを食べられるなら、それはそれでいい……のかな?」

 

「でも、一応確認していいですか? 先輩が【隠遁】で見つからないのをいいことに、祭壇にあるハンバーグを食べちゃってるわけじゃないですよね?」

 

「ええっ?! もちろん、私じゃないよ?」

 

 桃子はまだ、房総ダンジョンにいるというドワーフに直接出会ったことは無い。

 前にオウカに聞いた話では、風間やサカモト、オウカは以前そのドワーフの姿を見たことがあるという。桃子としても、なんとなく。漠然と、房総ダンジョンに自分の生み出したドワーフがいるのだという感覚はあるので、きっとドワーフはどこかに居るのだろう。

 恐らくは、日々、新人をはじめとした探索者たちを見守り、ほどほどに助けつつ。毎晩、ハンバーグを人知れず食べているに違いない。

 

「じゃあ、やっぱりハンバーグをこっそり食べてるのはドワーフなんですかね。そういう所は、やっぱり先輩に似てますよね。先輩が生み出した存在って感じがします」

 

「えー。私ってそんな、ハンバーグをこっそり食べたりしそうかなあ」

 

「桃子は。松茸は勝手に。食べたりするけど。ハンバーグはまだ。横取りしたことないな」

 

「そ、そういえば……も、桃子さん……もじゃもじゃさんの焼き豆を、か、勝手に食べてたんですよねぇ……?」

 

「何ですかそれ。先輩、そんなことしてたんですか」

 

「あうあう」

 

 妖精たちの指摘により、桃子の過去の悪行が柚花にバレてしまった。

 松茸はもとから柚花も知っていたエピソードだろうが、焼き豆については内緒にしていたので、今初めてバレてしまった形になる。

 桃子はつまみ食いがバレた子供のように――というか、実際につまみ食いがバレた大人なのだが、身を縮めて、甘んじて柚花のジト目を受け入れるのだった。

 

 

 

 

「うぅ……と、ところで……ゆ、柚花さん……例の噂のお話から、は、話が逸れてますよぉ……?」

 

「おっと、そうでした。まあ先輩のつまみ食い癖はさておいて、最近また目撃談が増えてるんですよ」

 

 話は変わる。

 そもそも、先ほどまで話していたドワーフの祭壇は、あくまで柚花が新しく聞いた噂の前提となる知識だったはずだ。

 自分のつまみ食いについての話が流れてほっとした桃子は、さっそく柚花の語る新しい噂話に耳を傾ける。

 

「目撃談って、その、房総ダンジョンに住んでいるドワーフさんについての目撃談……っていうことで、いいんだよね? 私じゃなくて」

 

「だとは、思います。ただ、噂だけですと今一つ要領を得ないところがあるんですよね。それがつまり、本題なんですけど」

 

「要領を得ない?」

 

 この房総ダンジョンで、ドワーフと呼ばれる存在は二人いる。

 一人目が、オリジナルたる桃子だ。桃子としては少々不本意な話ではあるが、ハンマーを使って人助けをしたり、鉱石をぼこぼこに砕いたりという幾つかの行為が、ドワーフによるものとして噂になってしまったのだ。

 この地の探索者たちからは【隠遁】によって桃子本人の姿を認識出来ない分、余計に想像力が掻き立てられてしまった、ということなのだろう。

 

 そして二人目が、噂の中心たる桃子の【創造】により産み出されてしまった、本物のドワーフだ。

 桃子の活動がきっかけで広まってしまったドワーフへの噂を、想いを。桃子の内なるスキル【創造】が重ね、束ねていき、一つの大きな想いの力としてまとめ上げて。そして実際に、この房総ダンジョンにドワーフを生み出すに至ったのだ。

 そのドワーフも座敷童子の萌々子同様に、普段は人の眼には映らないという特性を持っている。なので、桃子は未だにこの地のドワーフを直接見たことはない

 

 しかし、あくまでドワーフについてはここまで。

 柚花の語る噂話は、これからが本番のようだ。

 

「先輩、覚えてます? 最初の噂にあった、つまりは先輩が目撃された頃のドワーフは、『妖精を連れているドワーフ』っていう噂だったんですよ」

 

「ああ、ヘノちゃんのことだよね。ヘノちゃんが人知れず私にくっついて回ってたから、人目にもつくし、私の【隠遁】も弱まっちゃってて目撃談が発生してたんだっけ」

 

 最初に桃子が目撃されたとき。それは、ヘノが桃子に近づきすぎたために【隠遁】の効果が薄れたタイミングである。

 薄れたとは言っても、あくまでヘノひとり分。桃子がよほど目立つ行動を取ったりしない限りは、はっきりと目視されるようなことはなかった筈である。

 

「ええ、まあそれはその通り、先輩と一緒に目撃されていたのはヘノ先輩だったんですけどね。ただ、それとは別に……最近のドワーフも、妖精を連れているらしいんですよ」

 

「え? あのドワーフさんが? って、そもそも見たことはないんだけど。でも、妖精かあ……」

 

「ええ、妖精です」

 

 柚花と桃子。二人は考え込みながら、ちらりとヘノを見る。

 別に、ヘノを何かしら疑っているわけではない。わけではないのだが、やはりドワーフたる桃子についていた妖精といえば、ヘノなのだ。

 ヘノはドワーフ自体には興味がないのか、桃子たちの足もとに転がっている武器の数々をいじって遊んでいたのだが、ふと人間二人の視線に気づき、桃子たちを見上げる。

 

「なんだ。ヘノじゃないぞ。妖精違いだろ」

 

「まあ、そうだよねえ。ヘノちゃん、ドワーフさんに興味全くなさそうだしね……」

 

 桃子は呟きながら、おもむろに。

 片手剣の刃の部分をいじっていたヘノを片手でむんずと掴み、自分の膝の上へと移動させる。

 ヘノがそんなへまをするとは思わないけれど、それでも。刃物で遊ぶのは、危険な行為なのだ。

 

「色々聞いてみたところ、どうやら夜中に祭壇に現れるらしいんですよ。相変わらずドワーフは姿を見せてはくれないんですけど、時おり妖精が祭壇のハンバーグを食べてるらしいんです」

 

「ええ? 妖精がつまみぐいしてるの?」

 

「な、なんだか……食い意地の張った妖精が、いるんですねぇ……」

 

 妖精がつまみ食い。食い意地のはった妖精。それらの言葉を聞き、桃子はまたもやちらりとヘノを見る。

 ヘノを疑っているわけではない。しかし残念ながら、つまみ食いをする程に食べ物に関心の強い妖精というのは、そうは居ないのだ。

 そもそも、妖精というのは本来は人間の食事など食べなくても生きていけるはずなのだ。少量の果実や花の蜜と、あとダンジョンの清涼な魔力があれば問題ないはずなのだ。

 それに比べて、ヘノの食へのこだわりは、異端と呼ぶしかないレベルであった。

 

「なんだ。ヘノじゃないぞ。妖精違いだろ」

 

「ん、ごめんごめん。ヘノちゃんを疑ってるわけじゃないよ。ただ、ヘノちゃんぽい妖精が他にもいるのかなーって、思っちゃっただけで」

 

 桃子は謝りながら、ヘノの頭を指先で優しく撫でる。

 ヘノは疑われたことには不満げにしながらも、桃子に撫でてもらえて嫌な気はしないのか、もっと撫でろとでもいう様に、自分の方から桃子の指先に身体を擦り付けてくる。桃子はそのヘノのアピールに従い、指先でヘノを転がす勢いで撫でまくった。

 

「というわけで、先輩。ちょっと調べてみませんか? 新たな噂、『妖精を連れたドワーフ』の怪について!」

 

 柚花が、目を爛爛と輝かせて提案をしてくる。

 ギルドや魔法協会にも釘を刺されており、最近は『都市伝説解明』からは離れつつある柚花だけれど、しかし不思議な出来事に対する好奇心が失われたわけではないのだ。

 

 夜の祭壇で目撃されると言う、妖精。

 

 桃子もまた、ドワーフ本人には会って話をしてみたい気持ちもあるし、謎のつまみ食い妖精について興味もある。

 奇しくもこの日は土曜日。明日も工房は休みなので、桃子は妖精の国の寝室で宿泊するつもりだ。夜に頑張って起きれば、第一層のドワーフの祭壇を偵察しに行くことだって可能なはずだ。

 

「じゃあ、さっそく今日の夜にでも、行ってみようか! 謎の妖精の探索に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その日の夜】

 

 

「せんぱーい? せんぱーい? 祭壇、見に行きませんかー?」

 

「むにゃ……ごめんね、柚花……ここ……なっつかれー……全部たべちゃ……」

 

「あちゃー、私に返答しながらカレーの夢みてますね、完全に寝てるじゃないですか」

 

「後輩。桃子はこうなったら。もう。朝まで起きないと思うし。なんだったら。朝になっても起きないと思うぞ」

 

「うぅ……も、桃子さんて……夜は、一度寝たら、ご、強情ですし……今夜は、む、無理かもしれませんねえ」

 

「うーん……仕方ないですね。先輩はここで寝かせて、私たちだけで行ってみます? ヘノ先輩はどうします?」

 

「ヘノは。ここで桃子と一緒にいるぞ。ハンバーグのお土産。待ってるぞ」

 

「いや、私たち別にハンバーグを奪いに行くわけじゃないですからね?」

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