ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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カレーと妖精

 スキル【カレー製作】というものがある。

 

 その名称の通り、カレーを製作するスキルである。

 無論、スキルなどなくともカレーは作れるのだが、このスキルの場合は、作る工程も、出来上がるものも、とにかく特殊なのである。

 

「たまねぎ、じゃがいも、美味しいお肉ぅ~っと。よし、もう頃合いかな」

 

 今日は、崩落に巻き込まれピンチに陥っていた探索者たちを助けたりしていたのだが、あれから少ししてから無事にギルドが派遣した救助チームが到着。

 少年たちが無事に救助されるのを離れて見届けていたところ、思いのほか時間が経ってしまった。

 

 というわけで、今はやや遅めのランチタイムである。

 大きめの石を積み並べた自前のかまどに鍋をかけ、まずは持ち込んだカレーの材料を炒めるところから。ここまでは普通である。

 

「よし、あとはカレールーと水、それにダンジョンで採取した薬草と果物をポイ! そして混ぜる! 信じて混ぜる!!」

 

 火をかけた鍋に残りの材料を丸ごと放り込むと、ぐるぐると混ぜ始める。下ごしらえなどはないし、ただただ混ぜるだけだ。

 するとどうだろう、加熱されて湯気が出てくると同時に、鍋の中身が発光をはじめ――

 

 

「完成! 桃子特製カレー、薬草と謎の果物を添えて! わーぱちぱち」

 

 

 光が収まったそこにはスパイシーな香りを発する、熱々のカレーが出来ていた。

 これが桃子の持つスキル【カレー製作】である。

 

 桃子自身もよく仕組みはわかっていないのだが、とにかくこのスキルがあるとカレーが高速で完成する。

 更には、ダンジョン産の食材を放り込むと、カレーに様々な効果を与えることができる。

 

 例えば、薬草を加えたカレーならばそのまま薬草を食べる以上に回復効果が大きくなるし、体力や魔力、素早さなど、体感的にはいわゆるパラメータ補正などもついているようだ。

 他にも投入する食材次第で何かしらの効果はついているようなのだが、今のところそれを確認する手段がないので、機会があれば知ることもあるだろう。

 

 ちなみに、このスキルが発現するまでは桃子は普通にカレーを作っていた。好物だから。

 ダンジョンに入るたびにカレーを作っていた。それこそ、合計にすれば何十食作ったかわからない。

 

 そんなある日、カレーを作っていると唐突に鍋が光りだし、ギルドで確認したら【カレー製作】なる珍妙なスキルが増えていたのだ。

 なんでも、稀に特定の食べ物ばかり食べるソロ探索者がそのようなスキルを得ることがあるらしい。焼き肉製作。うどん製作。地域によっては探索者の殆どが同じ製作スキルを持っている地域もあるという噂だ。

 

 なお、カレーを作るときだけは桃子は妙にテンションが高い。これもカレーのなせる技だろうか。

 

「よっし、ご飯もきちんと炊けてるね。今日のカレーはどんなかな、さっきの果物がカレーに合う味だといいんだけど」

 

 

「甘口のカレーがいい。ハチミツを。追加してほしいぞ」

 

 

「そう? それじゃあカバンに入ってるハチミツを少し……って、えぇぇええ?! 誰?!」

 

 ご飯を盛りつけようというところで、どこからかかけられるリクエストの声。やや舌足らずな、小さい女の子の声。

 慌てて周囲を確認するも、女の子どころか、今はこの周囲には人はいない。

 

「ま、まさかお化け……」

 

「お化けじゃないぞ。下を見ろ。はやく。カレーにハチミツ」

 

「し、下?!」

 

 桃子が下に顔を向けると、ちょうど自分の座っていた岩の横に、うっすらと緑色の光を纏った、親指ほどのサイズの少女が立っていた。いや、浮いていた。

 親指ほどのサイズの少女が、お猪口のような小さいサイズの茶碗を手に、ジッと睨むような表情で桃子を見上げていた。

 

「甘口のカレー。はやく。はやく」

 

「よ、妖精?! え、本当にいたの? なんでカレー?!」

 

「驚いてないで。カレー。大至急」

 

「あ、ごめんね! じゃあお皿……お椀? お猪口? 借りるね」

 

 正直なところ、ダンジョンでも滅多に遭遇しないと言われている妖精が目の前に居て、それがお茶碗を準備してカレーを急かしてくるという謎の状況に、頭の中は混乱している。

 が、人の頭というのは不思議なもので、混乱中でも何かしらの指示を出されるとそれに従ってしまうものだ。

 桃子が訳が分からないまま、小さなお椀にご飯と、ハチミツ入りの甘口カレーを盛りつけるように。

 

 

 

「これ。これがとっても。食べたかったんだ。お前は。実に。カレー名人だな」

 

「ありがとう。あなた、すっごい食べるねえ。妖精ってみんなそんなに沢山食べるの?」

 

「あなた。じゃない。ヘノは。ヘノと言うぞ」

 

「わかった、じゃあヘノちゃんって呼んでいいかな。私は桃子っていうの」

 

 親指サイズの妖精に対して、お猪口サイズのお椀は非常に大きい。

 人間でいえば、少し小さなバスタブくらいの大きさだろう。腰を屈めれば、スポッと身体が中に入ってしまいそうだ。

 そんなサイズのお椀によそったカレーを、それは美味しそうにこれまた小さいスプーンで豪快に食べる。胃袋がどうなっているのかと思うが、何かしら魔法的なものなのだろう。

 食べきらないどころか、お代わりを3杯も平らげた。

 

「それで、ヘノちゃんは妖精……なの? 私のカレーを食べに来たの?」

 

 妖精がカレーを食べるなんていう話は初めて聞いたけれど。

 

 二人で一緒にカレーを食べ終えて、改めて妖精の少女――ヘノ、と向かい合う。

 中世ギリシアの石像のごとく、大きな薄布を纏っただけの佇まい。

 人とは違い髪の毛は鮮やかな緑色で、少し癖のある長い髪。

 羽などはなく、身体からうっすらと緑色の光? オーラ? を放っている。

 表情は硬い。というか、ほぼほぼ表情が変わらない。妖精というものはこういうものなのだろうか? 疑問に思うが、桃子には判断がつかない。

 

「ヘノは。妖精だぞ。風の魔力で出来ているんだ。お前のカレーには。以前から目をつけていたぞ」

 

「え、前からなの? でも私って【隠遁】ってスキルで人から見えてないんだけど……ああでも、妖精だと効果ない? のかな?」

 

「お前は。不思議な魔力で。身を包んでいるけれど。ヘノの目には。関係ないぞ」

 

「あ、そうなんだー。えへへ、うふふ」

 

「お前。気持ち悪い笑い方を。するんだな」

 

 ダンジョン内では誰にも相手をしてもらえないと思っていたので、急な出会いに気持ち悪い笑みをこぼしてしまった。

 

「ごめんごめん、ダンジョン内で人とこうやって話すのって初めてで、ちょっと情緒が……」

 

「ヘノは人じゃない。妖精だ。風の魔力で。出来ているし。カレーは。甘口がいいぞ」

 

「ああ、うん、そうだね。カレーはともかくとして」

 

「お前は。ヘノと話すのは。初めてだけど。ヘノは。実は。ずっとお前の様子を。見ていた。お前が。カレー名人なのも。お前が。ドワーフなのも。知っているぞ」

 

「え、そうなんだーって……え、いや、ドワーフってなに?」

 

「お前が。ドワーフなのも。知ってるぞ」

 

「待って待って! 私って人間じゃないの?! ドワーフなの?! なんで?!」

 

 妖精の少女ヘノに、真顔でドワーフ呼ばわりされてしまった。

 しかも、二回も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 

 こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!  

 お、お初の視聴者さん? そうでしょそうでしょ、美少女でしょ。

 目の腐った古株視聴者さんたちに爪の垢を煎じて分けておいてください。

 

 では、今日も前回と同じく、千葉の房総ダンジョンです!

 前回みてなかった人にもわかるように説明すると、最近この房総ダンジョンには、『ドワーフ』と呼ばれる存在の目撃談が増えてるので、今回も引き続き調査を続行します。

 は? どうせ空振りで終わる?

 よし、いま書き込んだやつ覚えとけよ。あとで真相解明したときにお前は全裸で土下座させっからな。

 

 

 

 相変わらず房総ダンジョンの第一層は居心地が最高ですよねー。

 景色も綺麗だし、ちょっと森とか獣道は多いけど、開けた場所だとキャンプ場として最高じゃないですか?

 都会と違って、空気も無茶苦茶綺麗ですからね。すぅー、はぁー。

 ほれ、視聴者さんも心の肺で綺麗な空気を堪能してみ、最高っしょ。

 

 あー、うん。

 視聴者さんの疑問はわかります。ダンジョンなのに屋外ってどういうこと? ってのは誰もが思う疑問ですよね。

 現状、ダンジョンに関わることって殆ど何も解明できてないんです。

 長年研究者の人とかが調べてるみたいだけど、いわゆる異世界? と繋がってるんだろうっていうことしか分かってないんですよね、ダンジョン。

 

 それこそあの有名パーティの、妖精の花園事件とかも、結局謎のまま。

 今回のドワーフもそうだけど、ダンジョンはわからないことだらけですからね。

 しかしそこで私が立ち上がった! 私の固有スキル【看破】なら、ほかの人が見つけられないものを見つけられるはずなんですよ!

 だから、ダンジョンの真相とまでは言わないけど、ちょっとした不思議な噂くらいは、みんなと一緒に解明していきたいなーって、このチャンネルで配信してるんですよね。

 

 なに? いきなり真面目になるなって?

 はぁ~? 私はいつも真面目だろーが。ちょっといま書き込んだやつ、表に……

 

 あ、待って、マジで真面目に。

 ギルドからの緊急救命依頼が来てます。移動するからカメラ揺れるね。

 

 

 視聴者さんは知らないかもしれないけど、私たち探索者って、ギルドから個人用の端末を渡されてるんですよ。

 んで、ダンジョン内に居るとたまにそれに緊急救命依頼ってのが来ます。

 

 該当区域の近くにいる高レベル探索者全員に送ってる、例えるならそうですね、地域の防災メールみたいなやつです。

 来たことない? そりゃ視聴者さんのレベルが低いからでしょう。私、一応かーなーり強いんで。

 

 んで、第二層の坑道区域で配信者3人が危機的状態ってことです。視聴者からの通報だから位置情報は無し。マジかー!

 

 とりあえず第二層でしらみつぶしで探すか!

 

 え? そりゃキツイけどさすがに人の命かかってるんだからしょうがないじゃん。

 他にも近場の探索者たちだって向かってると思うけど、こういう場合は人海戦術ですからね。

 今回は茶化すのは禁止です。

 

 

 

 お、位置情報が来た。

 なんか先に別な救助が到着したみたいですね。

 いや、ちょっと、ほっとした。

 

 一応向かうけど、3分休ませて……水、飲みたい。

 

 

 

 

 はぁぁああ!?

 

 ドワーフが助けてくれたって、どういうこと?

 ここに居たの? ドワーフが?!

 おっと、ごめんごめん。怪我人を揺すっちゃ駄目ですよね。

 

 ああもう、今すぐ探しに出たいけど、さすがに怪我人放ってはいけないし……うぐぐ。

 とりあえず最低限の応急処置はしてあげたから、命に別状はないでしょう。

 ギルドの人たちがきたらこの3人を引き渡して、私もドワーフ探しにいかないと!

 

 

 

 

 というわけでお待たせしました、怪我人を引き渡して探索再開ですよ。

 って言っても、もうかなり時間が経っちゃいましたけど、果たしてどこを探せばいいのやら。

 わー、あっちですっごい可愛い女の子がカレー作ってるし……いいにおい、私も今日は走り回っておなかが空いてきました。

 

 え、可愛い女の子を見せろ?

 ダメでーす、女の子のプライベートを勝手に配信はしませーん。皆は反対側の風景見ててくださーい。

 いやー、でもちまこくて本当に可愛いですよ、誘拐しちゃおうかな。

 

 え? 犯罪予告?

 いや、冗談、冗談だから通報は待って!

 

 切り抜き? 駄目に決まってるじゃん、私が捕まったらお前ら恨むからな!

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