ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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めそめそシーワールド

「あ、あんなに強い力で殴りつけても……が、外傷はありませんねぇ……」

 

「……峰打ち。したから」

 

「ぱ、パンチに峰打ちなんてありませんし、な、中身は傷ついてますからねぇ?」

 

 人魚姫のパンチにより吹き飛ばされた青髪の人魚は、気を失って海の中を沈んで行くところだった。

 真っ先に彼女の元にたどり着いたニムが水流を操り彼女の身体を支えて、意識を失っているその身体の内部まで癒しの水の魔力を浸透させていく。

 すり傷や切り傷のような分かりやすい外傷と違い、どうやら骨や内臓器官へのダメージの方が大きいようだ。

 ニムは眼で視えない内臓を癒すのは、人体への知識不足もあり少々苦手なのだが、どうにか魔力を込めた体液を循環させることで致命的な機能不全だけは阻止することが出来た。

 

「……あれが。水の妖精の力か、凄いな」

 

「人魚姫。水中では。ニムのこと。怒らせないほうがいいぞ。破裂させられるぞ」

 

「……それは困る。この身体は、母様のものだから」

 

 人魚姫は、水属性の魔法生物だ。だからこそ、純粋な水の魔力を操るニムの手腕に見惚れてしまう。自分は水の中を自由に泳ぎ回り、水を味方にしているけれど、ニムのように水を手足のように操ることはできない。

 そして恐らくは、あれだけ自由に水を操れるならば、水生生物を内部から破裂させることも容易いだろうと分析する。

 人魚姫は、桃子の【創造】で誕生したときからヘノやニムについて既に知っていたのだけれど、己の中のニムの脅威度を数段階は上げることにした。

 

「べ、別に、魔物以外にそんなことしませんけどぉ……な、なんだか、怖いものを見る目で見られてる気がしますねぇ」

 

 

 

 ニムによる最低限の治療を終えると、気絶したままの青髪の人魚は、人魚姫が抱えて泳いでいくことになった。

 今目の前にいる人魚姫の身体は、母である桃子のものだ。当然ながらそのサイズは小柄であり、その腕で人魚一人を抱えるとなると、尾びれの尺もあってなかなか大変そうに見える。

 けれど、どうやら人魚姫も母親の桃子と同様に腕力に関してはそれなりに自信があるらしい。

 ぐいと、無造作に。青髪の人魚の腹部に手を回すように抱えて、後は力任せだ。強引に水を切って、そのまま海中を進んで行く。

 

「ところで。ニム。この人魚は。悪いやつじゃなかったのか? 連れて行って。どうするんだ」

 

「だ、だってぇ……な、なんだか、人魚姫さんを見て、喜んでたじゃないですかぁ。ほ、放っておくのも、悪いですよぉ」

 

「……そう言えば。何か、言ってた気がする」

 

「そうだったな。なんて言ってたか。もう。思い出せないけどな」

 

 どうやら、先ほどのこの青髪の人魚の言葉をきちんと聞いていたのは、ニムだけだったようだ。

 初めから殴る気満々だった人魚姫はもちろん、ヘノも二人の会話が噛みあっていないことまでは分かっていたものの、相手の言葉の意味するものまではあまり考えていなかった様子である。

 

「わ、私の聞き間違いじゃなければ……な、仲間って……あ、会いたかったって……い、言ってた気がしますねぇ」

 

「……わからない。別に、知り合いじゃない」

 

「同じ人魚だし。親戚か何かだと。思ったんじゃないか?」

 

 なにかと頭のなかがスッキリとしている武闘派な二人とは逆に、ニムは内気で、疑り深く、常日頃から世界を恐れているタイプの水の妖精である。

 しかしそれと同時に、誰かを傷つけることを嫌う「優しさ」を持つ妖精である。もちろんヘノとて優しさは持っているけれど、敵を前にした時にはやはりヘノのような武闘派タイプの妖精は、優しさよりも勇ましさが前面に出てきてしまうのだ。

 だからこそニムは。先ほど、同胞の姿を見て喜び、涙していたこの青髪の人魚に対して、どうしても「悪いやつ」とは思えなかった。

 

 そんなニムの気持ちを察してのものなのか、ヘノと人魚姫の二人も今はこの下手人を更にどうこうするつもりはなく、さして警戒もせずに水中を泳いでいく。

 

「と、とりあえず……柚花さんに事情を話して、こっちの気絶した人魚さんは……ど、どうにかしてもらいましょうかぁ」

 

「こんなの押し付けられても。後輩も。さすがに。困ると思うけどな」

 

「……後輩。私は、会った事ない」

 

「そうだぞ。そう言えば。お前のことも。説明しないといけないな」

 

「うぅ……な、なんだか、説明しないといけないことだらけで、大変ですねぇ……めそめそ」

 

 ニムは、どんよりした気持ちで、ため息をつく。

 桃子のこと、人魚姫のこと、この捕まえた人魚のこと。ニム本人ですら状況が混乱しすぎていてよくわかっていないのに、これを柚花にもきちんと説明しないといけないと思うと、今から泣きたい気持ちになってくる。

 もちろん、自分ではなくヘノや人魚姫に説明を頼むという選択肢もあるにはある。が、絶対にろくなことにならないので、ニムは最初からその選択肢は除外しているのだった。

 

 

 

 海中をゆっくりと泳ぐ。

 

 本気を出せばもっと高速で泳げるだろうけれど、人魚姫は片腕に気絶した人魚を抱えている。

 彼女への配慮なのか、ただ単に泳ぎにくいだけかは分からないが、人魚姫は妖精を引き連れて、海底をのんびりと泳ぎ進んで行った。

 

「ウ……ウウ……」

 

 ちょうど、ヘノやニムも見覚えのある地形にきた。真下にはウミウシが、そして少し先にはサザエの群生地があったはずだ。

 そこに差し当たった辺りで、人魚姫が抱えていた青髪の人魚の意識が戻って来たようで、小さく、まだ苦し気なうめき声をあげる。

 

「この人魚。眼を覚ましたみたいだぞ。どうする?」

 

「……おい。起きたか」

 

「だ、大丈夫ですかぁ……?」

 

「……ウ……カラダジュウ、イタイノ」

 

「む、無理しないほうがいいですよぉ? す、凄い、ダメージが、ありますからねぇ」

 

 どうやら、意識を取り戻したと言っても、身体のダメージが抜けたわけではないらしい。

 人魚姫に無造作に抱えられたまま、身じろぎもせずに、苦し気な声をあげている。

 体中が痛いのは人魚姫に殴り飛ばされたからか、それとも今の雑に抱えられた体勢に無理があるのかは分からないが、なんにしてもあまり元気はなさそうだ。

 

「まだ。一人で泳ぐのは。難しそうだな」

 

「ナカマ? ヨウセイ? ワタシ、ドウシテ……ウ……」

 

「うぅ、なんだか本人も、良く分かってないようですねぇ……」

 

「人魚。お前は。桃子に酷いことしたから。お仕置きされたんだ」

 

「エ? エ?」

 

 状況が飲み込めていない人魚と目を合わせるかのように、ヘノが彼女の顔の前に出てきて、説明にもなっていない説明をする。

 彼女にしてみれば「桃子」が誰かもわからないため、お仕置きと言われても困惑するばかりである。

 そして、更にその困惑する人魚に向けて。桃子の身体に憑依している人魚姫が、言葉を続ける。

 

「……お前。母様を危険な目に遭わせたから、げんこつしたぞ」

 

「エ? エ?」

 

「ヘノも、人魚姫さんも、もう少しちゃんと説明しましょうよぉ……うぅ……めそめそ」

 

 彼女にしてみれば「母様」が誰かも分からない。げんこつされたことはもしかしたら覚えているかもしれないが、しかし今の説明だけで状況を察しろというのが無理であろう。

 説明を受けて、より困惑する人魚に同情し、そして結局自分が1から説明しなくてはいけないという状況を悲観し、ニムは泣きたくなった。というか、もうめそめそしていた。

 

 

 

 結局、ゆっくりと泳ぎながら、ニムがそれまでの経緯をある程度、嚙み砕きながら、噛みまくりながら、人魚へと説明していくのだった。

 

 

 

 自分の歌が、ヘノと人魚姫の大切な人を呪ってしまったことを聞かされた人魚は、がっくしと項垂れていた。

 と言っても、元から腹部を強引に抱えられていて、全身でうなだれているような姿勢だが。

 

「ソンナ……ワタシ、シラナクテ……」

 

「まあ。知らなかったんじゃ。仕方ないな」

 

 ヘノは、自分のパートナーである桃子を呪われた立場なので、しばらくの内はこの人魚についても半信半疑だったのだけれど、どうやらいまの所はこの人魚に対して何かをしようという気はないようだ。

 仮に人魚姫が現れず、桃子がもっとひどい目に遭っていたのならばヘノが報復などに出ていたかもしれないが、事実として今、桃子は無事である。ならば、人魚姫のヤバいパンチで十分にお仕置きにはなった、というのがヘノの判断だ。

 ニムは、こういう時のヘノのさっぱりと根に持たない性格が大好きだった。

 

「ソレデモ、ゴメンナサイ……」

 

「……お前。悪いこと、しないか?」

 

「ワルイコト、シナイ! ワルイコト、シナイ!」

 

「……そうか。なら、許す」

 

 そして、やはりヘノと似たような気性を持つ人魚姫もまた、先ほどの峰打ちパンチ一発で矛を収めたようである。

 そもそも桃子の身体が無傷なことは、その身体を動かしている人魚姫が一番分かっているし、桃子の精神がぐっすりと眠っていることも知っている。

 ならば、少なくとも桃子が何も言っていない現時点で、人魚姫がこれ以上深く責め立てることはない。

 

「ニンギョヒメ! ヒメ! ダイスキ! ナンデモスル!」

 

「うぅ……なんだか、友情ですねぇ」

 

「これって。友情か?」

 

 人魚姫に抱えられたまま、恍惚の表情ですり寄っている青髪人魚を見て。

 ヘノは、なんだか腑に落ちない様子で、水中を進みながらも首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 そうして、四人であれこれ話しているうちにも、柚花の待つ陸地が近くなってくる。

 先ほどは話が逸れてしまったものの、まずは柚花への説明だ。

 桃子の安全第一を約束したにも拘らず、桃子は危険な目に遭っており、それどころか人間の姿ではなくなっている。揚げ句、その原因となった犯人も一緒にいるのだ。

 柚花が桃子をどれだけ大切にしているかを、ニムは理解している。だからこそ、桃子の状況を知ったら柚花が冷静でいられるとは思えない。

 

「うぅ……も、桃子さんを危険な目に遭わせちゃって、ゆ、柚花さん、怒りますよねぇ……? めそめそ」

 

「ワタシ、アヤマル!」

 

「やめたほうがいいぞ。後輩は。桃子のことになると。本気で怒るから。謝る間もなく。電撃で。消し炭にされるかもしれないぞ」

 

「ゾー……」

 

 ヘノもまた、柚花が桃子に執着していることを知っている。

 実際にはそこまで取り付く島もなく消し炭にするほど柚花は荒くれではないのだが、しかしかといって、いきなり桃子を呪った下手人が目の前に現れて無事でいられる保証もない。

 ニムは、自分のパートナーである柚花の深い部分、じっとりとした重たい深層心理まで理解しているからこそ、ヘノの言葉を否定もできない。

 

「ま、まずは、ど、どうにかして柚花さんを説得しないとですねぇ……」

 

「後輩も。桃子の言う事なら。簡単に。聞いてくれるんだけどな」

 

「……困ったな。母様、寝てるぞ」

 

 やはりここは、柚花が桃子の次に心を開いているニムが頑張って説得して、柚花の理解を得てから、人魚姫と青髪の人魚の二人が姿を見せる、というのが一番だろう。

 ヘノの言葉ももちろん聞く耳は持ってくれるだろうが、そもそもヘノの説明力に期待できないので、選択肢としてカウントされていなかったし、ヘノも最初からニムに任せるつもりである。

 

「うぅ……な、なんだか今日は、私の、厄日なんでしょうかねぇ……」

 

 砂浜が近くなり、海の深度がどんどん浅くなってくる。

 恐らく、柚花の側からもニムたちの魔力を感知出来ているのだろう。柚花が波打ち際でこちらに視線を向けているのを感じる。気のせいか、既に怒りの気配を感じる。

 

「まあ。当たって砕けろって言うだろ。後輩が怒ったら。皆で砕けるしか。ないだろ」

 

「ワタシ、クダケル!」

 

 この人魚は、どうやら随分と素直な性格のようだ。

 

「く、砕けちゃ駄目ですよぉ……」

 

「ジャア、クダケナイ!」

 

 この人魚は、どうやら随分と素直な思考回路のようだ。

 

「砕けるか砕けないかは。当たってみないと。分からないだろ」

 

「……さっきは。殴っても、砕けなかったから。多分大丈夫、砕けない」

 

「あ、あのですねぇ。べ、別に人魚さんが砕けるか砕けないかっていう……た、耐久力のお話じゃ、ありませんからねぇ……?」

 

 そうこう話しているうちに、海底は徐々に浅くなっていき。

 そして、すぐ目の前には、柚花の待つ小さな砂浜が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか水の中で、随分もめてるヨ。呼んで来てあげてもいいのヨ?」

 

「いや、怖がってるニムさんも可愛いんで、もう少しだけここで怒ってるフリを続けますよ」

 

「やっぱり人間っていうのは、性格が悪いヨ。もっと馬鹿な方がいいのヨ」

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