ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
桃子たちが工房や学園に通っている平日のこと。
妖精の花畑では、今日も妖精たちが好き好きに過ごしていた。多くの小妖精たちが無邪気に花々の中を飛び回り、色とりどりの花の蜜を味わい、そして仲間と遊びまわる。そこにはいつもの光景が広がっている。
そんな中、ヘノやニムといった成長した妖精たちもまた、各自で自由に過ごしていた。
「ヘ、ヘノ……もしかして、空のダンジョンに行ってきたんですかぁ? お、お帰りなさぁい……」
「ただいまだぞ。みろ。今日は。乾いて固くなった。豆が。あったんだ。軽くなってて。面白いぞ」
水の妖精であるニムが湖のほとりでしっとりしながら寛いでいると、そこに巨大な豆の鞘をつかんでバランス悪そうにふらふら飛んできたのは風の妖精ヘノである。
ヘノが持っている巨大な豆の鞘は、上高地ダンジョンの第二層で採取出来る、通称「でか豆」のものだ。
サイズにして1メートル近くはありそうな豆の鞘のなかには、鞘に比例するように巨大な豆がつまっている。
地上の豆とは比べ物にならないほどの巨大なサイズ感を持つ豆であり、桃子が言うには味や食感などは地上の「えだ豆」に近いらしい。
そしてこの日の鞘は、いつもの緑色の豆の鞘と違い、茶色く乾き、からからに干からびていた。
いつもならば食材は調理部屋か、その隣の氷部屋に持ち込まれるのだけれど、今日はこの干からびていて面白い豆を、わざわざニムに見せるためにここまで運んできたようだ。
「ほ、本当だ、面白いですねぇ。な、中身はみてみたんですかぁ?」
「中も。色が茶色っぽくなってて。カラカラに乾いてたんだ」
ヘノがニムに茶色く乾いた枝豆の鞘を手渡す。ニムはさほど力の強くない妖精だが、乾燥した豆の鞘は思いの外軽く、ニムでも軽々と持つことが出来る。
どうやら、鞘の中には同じように茶色く乾いた豆があるらしい。その面白さに、基本無表情なヘノもどことなく楽しげで、ニムもつられて笑顔を浮かべる。
ヘノとニムが、それぞれ鞘の両端を掴み。息を合わせてカラカラに乾いた鞘を揺らすと、中につまった乾いた豆が鈍い音をたてる。
まるで楽器のようで、しばらくの間、二人はひたすらに鞘を揺らして過ごす。
「あ、でも……面白いですけど、そ、それって食べられるんですかねぇ……」
「言われてみれば。そうだな。面白いけど。食べられなきゃ。意味ないな。あとで。皆にも見せびらかしたら。捨てるか」
「柚花さんたちに、変なものを……た、食べさせるわけには、いきませんからねぇ……」
憐れ、成熟しすぎて乾燥しているでか豆は、早々と廃棄処分の宣告を受けてしまった。
桃子と柚花に、枯れて干からびた妙なものなど食べさせるわけにはいかないのだ。妖精たちは、今日も人間想いである。
「ククク……気付けならば、もっと刺激があったほうが良いのではないかねぇ……」
「あんまり刺激が強いと、反射的に吐き出しちゃうヨ」
「やれやれ、キミも随分と人間に甘くなってしまったじゃあないか、リフィ」
「違うヨ。葉っぱを無駄にしたくないだけだヨ」
ヘノとニムが乾いた豆を見せびらかすために妖精の国をうろついていると、妖精の畑の薬草区画で何やら話し込んでいる二人組を見つけた。
片や、暗い緑色の髪を垂らし、顔の半分が隠れているじっとりとした薬草の妖精ルイ。
片や、若葉のような緑色の頭上に飛び出た髪の毛が特徴的な、緑葉の妖精リフィ。
植物の妖精二人が揃って、いくつかの薬草の葉を並べて侃々諤々と話し合っていた。
「ニム。あいつら。何を話し合ってるんだ?」
「あ、あれはですねぇ。セ、セイレーンさんの呪いで眠らされてしまった人を……お、起こす薬、という名目で……遊んでいるみたいですよぉ?」
「なんだ。遊んでたのか」
これは、ルイとリフィによる高度な遊びだった。何かしらの症状を設定して、それに対して効果のある薬を作りだすという、彼女たち限定のごっこ遊びだ。
しかし、遊びとは言え、彼女たちはだからこそ手を抜かない。本気でそれに効果のある薬を作り出す過程こそが、一番楽しい所なのだ。
今回のテーマは、セイレーンの呪い。
どれだけ離れていても、その歌声を直接耳にすると、人間の精神を強制的に眠りの世界に引きずり込むという強力な能力である。
桃子も水中から顔を出した途端、あっという間に眠らされ、人魚姫の助力がなければあのまま海の底を眠ったまま漂っていたことだろう。
「そういえば。桃子はリフィが起こしたけど。他の人間は。眠ったままなのか」
「に、人間にも、の、呪いを解ける人はいますけど……か、数が少ないですからねぇ」
「放っておけば。起きたり。しないのか」
「ど、どうなんでしょうねぇ……」
呪いといっても様々で、少しの刺激や時間経過で解けるようなか弱い魔物による呪いもあれば、バジリスクによる石化の呪いのように十年以上の時をおいても解けはしない呪いもあることは知っている。中には、時間経過で症状が強まるタチの悪い呪いもあると言う。
セイレーンの呪いはその効果範囲が非常に広い反面、リフィによる簡単な精神治療の魔法で桃子は眠りから覚めたので、治すのは比較的簡単なのかもしれない。が、実際のところはヘノたちにはわからない。
恐らく直接呪いを解いたリフィならわかるのだろうが、いまはルイとの話し合いで多忙なようである。
ヘノたちが眺めていると、リフィは妙にこんもりとした葉っぱの束を抱えていた。
ルイとリフィが選び出した薬草類を、ひとまとめにしたもののようであるが、なかなかのボリューム感だ。
「なんだかでっかくなっちゃったヨ。寝てる人間は、こんな葉っぱの束をモグモグ噛めないヨ」
「薬草の組み合わせは完璧なのだけれどねぇ。呪いを打ち消す効果を保ちつつ……寝ている人間が摂取出来る形状となると……」
「んふふ♪ お酒に成分を抽出して、たくさん飲ませたらどうかしら♪」
ヘノとニムは、乾いた鞘を地面に置き、ベンチ代わりにして薬草妖精たちのやり取りを眺めていたのだが、気づけばその椅子には他の妖精たちも着座していた。
ヘノが横をみると、ちゃっかりお酒の妖精――ではなく、桃の木の妖精であるクルラが豆鞘ベンチに腰を下ろし、ルイたちに声を投げ掛けている。
「寝てる口から酒なんか注いだら、寝たまま溺れるヨ」
「何もお酒である必要はないねぇ……」
突然横から投げ掛けられた声にも、ルイとリフィは律儀に返答する。なるほど確かに、眠っている人間の口から大量の酒を注ぐのは危険だし、酒である必要もなさそうだ。
それをみて、いつのまにか豆鞘ベンチに座っていた他の妖精たちも、口々に意見を投げ掛けていく。
「なんだ! 面白そうな話だな! 葉っぱを燃やせばいいのか!」
「燃やすなら枯れ葉だけにしてヨ」
「ククク……」
「いっそ。カレー粉をいれたらどうだ。美味しそうな匂いになるぞ」
「うーん、カレー粉がいまこの場にないから保留だヨ」
「ククク……」
「もしや。ボクも手伝えるのでは、ないかな?」
「リドルに手伝えることはないのヨ」
「ククク……」
「んふふ♪ 思い付いちゃった♪ みんな集まったから、お酒飲みましょ♪」
「なんかもう薬草関係なくなっちゃってるのヨ」
「ククク……」
口々に思い付きを投げ掛ける妖精たちと、律儀に答えていくリフィと、クククと笑い続けるルイ。
比較的常識的な思考ができる水の妖精ニムと大地の妖精ノンの二人は、豆鞘ベンチに座ってただただ苦笑を浮かべている。
話はそのうち、薬草に関係ない意見を皆で口々に投げ掛ける訳のわからない大喜利のようになってしまったのだが、その影で。
薬草の妖精ルイが、クククと笑みをこぼしていた。
「ククク……ここは相変わらずだけれど、思わぬところにアイデアは転がっているものだねぇ……」
「ポン?! なんすかこれ! なんすかこれ! なんか、目がギンギンに冴えるっすよ!?」
「どうやら、化け狸にも効果があったようだねぇ……ククク」
妖精たちの大喜利大会を終えた次の日。
ルイとリフィによる、セイレーンの呪いに対処するための薬草が完成し、その実験台として選ばれたのは化け狸の少女であるポンコだった。
魔法生物とはいえ、人間に変身したポンコはその身体の作りも人間に近いものとなっている。セイレーンの呪いにこそかかっていないが、一度ポンコに花畑で熟睡してもらい、それをきっちり目覚めさせられれば、試作品としては成功という判断だ。
「なるほどな。燃やした煙に。効果をのせる。わけか」
「直接食べるよりは効果は低いけど、これなら寝てる人間でも問題なく吸えるヨ」
そして、実験は大成功だった。
ぐーすかぴーと、気持ち良さそうに眠っているポンコの横で、ルイとリフィが調合した草を合成し、圧縮して作った棒に火をつけ、そこから発生する煙を吸わせたのだ。
化け狸の長は肺を癒すために薬草タバコを吸っているが、煙を吸わせて癒すという意味ではそれと似たようなものである。
もしここに桃子か柚花がいたならば、その用途と見た目から「薬草のお香」と称したことだろう。
「も、もしかして……これを分けて貰って、尾道ダンジョンの探索者に、渡せば、いいんですかねぇ……?」
「まあ。尾道ダンジョンの探索者に。知り合いなんて。いないんだけどな」
「ど、どうしましょうねぇ……」
「機会があったらで。いいんじゃないか」
あくまで、このお香はルイたちの遊びの産物だが、しかしヘノたちが頼めば気兼ねなく譲ってくれるだろう。もしかしたら、尾道ダンジョンの人間たちの助けになるかもしれない。
目の前では、つい先程まで熟睡していたポンコが、ぱっちりと目覚めている。むしろ、眠る前よりも元気になっており、テンションも高い。
実際にセイレーンの呪いから目覚めるかどうかは試してみないことにはわからないものの、リフィたちが大丈夫というのならば、きっと大丈夫なのだろう。期待は持てる。
「どうだい、ポンコくん。妙な副作用だとかは、無さそうかねぇ……?」
「んーと、んーと。大丈夫っす! 今なら、ポンはなんでも出来そうな気がするっす! 目の前に、至高のうどんの姿が見えるっす! あ、美味しそうっす!」
「なんだか。たぬきの様子がおかしくないか」
「ククク……気分が高揚する効果が想定よりも強過ぎるようだねぇ……」
「うーん、ちょっと葉っぱが多すぎたかもしれないのヨ」
ポンコは、なんだか元気である。
元気すぎて、どうやら目の前にありもしないうどんの幻覚が見えているらしい。
なんとなく、気のせいか。目の焦点も合っていないようにも見える。
「これ、父ちゃんたちにも紹介してきていいっすか? 目が覚めて、なんでも出来そうな気分になる煙っす! すごいっす!」
「そうだねぇ。あくまで試作品ではあるけれど、第三者の意見も伺いたいねぇ……ククク」
「うわあい! 早速、みんなに煙を吸わせてくるっすよー!」
ポンコは大はしゃぎで、未だ煙を発生している薬草を圧縮した棒をひっ掴むと、桃の窪地へと通じる光の膜目指して駆けて行く。
「あいつ。昼間なのに。桃の窪地に行っちゃったぞ。大丈夫か?」
「ククク……判断力の低下、と。実験に、失敗は付き物だねぇ……」
「うぅ……し、失敗って言っちゃってるじゃないですかぁ……めそめそ」
ポンコが駆けていった姿をみて、ニムは嫌な予感ですでに泣きはじめ。
ヘノも、なんだか危険そうな気がしてきたので、花畑にまだ残っていた薬草のお香の煙を、風を吹かせて高い空へと散らしていくのだった。
なお、その後。
「……いやはや、参ったよ。残念ながら、もう少し効果は加減したほうが良さそうだねぇ」
「それがいいヨ。お説教はこりごりなのヨ。今回は遊び過ぎたヨ……」
「うぐぐ。なんで。ヘノたちまで。怒られたんだ? やったの。そこの二人だぞ」
「うぅ……ひどい巻き添えですよぉ……めそめそ、めそめそ」
妖精の国の片隅で。
笑顔で静かに怒る化け狸の父に、正座で長々と説教された妖精たちの姿があったという。
【尾道ダンジョン専用 雑談スレ】
:久々にダンジョン来たら、第三層まで進入禁止を言い渡されたんだが、何があったんだ?
:お通夜会場へようこそ
:縁起でもないこと言うな。マジレスすると、未知の魔物が出て、被害者が多数。
:場を和まそうと思いましたすまん
:あやかし?
:土日のうちに第一島で魔物に襲われた計10人が、原因不明でいまも眠り続けてる。島の裏手の岬で釣りをしてた探索者だけは無事だったけれど、魔物の目撃情報はなし。
:尾道ギルドの治癒スキルもちが出向いてたけど、どうやら毒とかではないから、魔法や呪いによるものが濃厚。
:あやかしとは違うみたいだな
:原因不明なままの被害者が多すぎて、ギルドが緊急事態てことで三層を閉鎖。今は魔石バッテリーのドローンカメラ飛ばして調査中。
:説明サンクス
:三層で俺が出会った青髪の全裸美女はどうなったんだw
:まだ寝てなかったのか。青髪とかアニメの見過ぎだろ。なんで全裸なんだよ。
:いいじゃん、スレの雰囲気悪いしちょっと気分転換に青髪美少女の話しようぜ!
:青髪ってなんかじめっとしててメンタル病んでそう
:青髪って負けヒロインの色じゃないの?
:あ? 夜道に気をつけろよお前ら
:いきなり戦争開始してて笑う
:え待って。その青髪って、新種の魔物なんじゃ……?
:あ
:幻覚じゃなかったのか?
:幻覚じゃなくてガチだって最初から言ってるのにw お前らw