ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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女王ジョーク

 第三層、滝の迷宮へと戻ってきた一行。

 色々ありはしたが、ボックス内には貝がたんまりと入っているし、なんだかんだで多少のトラブルはあったものの、特に怪我もなく、溺れることもなく戻ってくることが出来た。

 だがしかし、桃子はもしかしたら今、第四層の探索以上に過酷な状況にあると言えるかもしれない。

 

 

 

「桃子。逆立ちだ。頑張れ!」

 

「うぅ……桃子さん、めそめそ……」

 

「ふうぇええ………げふっげふっ!」

 

 肺の中の水を全て出し切らないといけないとヘノに言われて、桃子は第三層の岩壁に足をかけて、出来もしない逆立ちにチャレンジしていた。 

 ある程度の水さえ排出してしまえばヘノとニムの力で何とか出来るのだが、さすがに肺いっぱいに水が溜まっている状況ではどうにもならないのだそうだ。

 

「うええ……げふっ……もう、いいんじゃないかなあ」

 

 水と一緒に胃の内容物も吐き出してしまい、とてもではないが人に見せられる光景ではない。

 はっきり言って、とてもつらい。先ほどの深潭宮の恐怖も吹き飛んでしまった。

 そういえば、以前にも似たようなことがあった。河童に尻子玉を抜かれかけた恐怖を、高所の梁渡で吹き飛ばされた覚えがある。

 もしかして、これはヘノ流の元気の出させ方なのでは? と一瞬考えた桃子だが。

 

「もっとだ。もっとだ。桃子ならできるぞ。全て出し切るんだ」

 

 違う。これはいつぞやの一反木綿ハウスと同じノリだ。

 単にヘノは、スパルタな気質があるだけなんだなと、思い直した。

 

 なお、最後はいつの間に入り込んだのか桃子の肺から生きたままの小魚が出てきて、思わぬ収穫にヘノは大喜びだった。

 桃子は死んだ目をしていた。

 

 

 

 

 

 数刻後。

 

「まあ、深潭の主……ですか」

 

 ここは妖精の国の、女王の間。

 あのあと貝を沢山持ち帰ってきた桃子は、ひとりで女王ティタニアに挨拶に来ていた。

 ヘノには女王の間へと続く光の膜だけ開いてもらい、ヘノはそのまま湖で貝の放流、桃子は女王への挨拶、という分担だ。

 

「ヘノちゃんたちも、ものすごい魔力だって驚いてたんです。私には魔力は分からないんですけど、単純に大きさに驚いちゃって……」

 

「……」

 

 そこで桃子は、女王に本日あった出来事を話し聞かせていた。

 女王とて、ダンジョンのすべてを把握しているわけではないため、桃子の語るダンジョンの話は、今や女王の楽しみの一つとなっていた。

 しかし、琵琶湖第四層である深潭宮の話になると、桃子の声も聞こえていないかのように女王が何かを考え込んでしまう。

 

「あの、ティタニア様、どうかしましたか?」

 

「いえ。実は本日桃子さんが訪れた琵琶湖ダンジョンなのですが、私の力も及ばず、中が見通せない場所なのです」

 

「え、そうなんですか? てっきり、ダンジョンは全部把握してるものだとばかり……」

 

 桃子のイメージでは、ダンジョンは妖精の庭。

 そして妖精の女王ならば、ダンジョンのことを全て把握しているものだと思っていた。

 何となく妖精のことをあれこれ聞くのはタブーな気がしたので、桃子が直接それを聞いたことはなかったのだが、どうやら女王もそこまで万能な存在ではないようだ。

 

「ふふふ。桃子さんの考えていることは分かりますよ。私たち妖精はダンジョンを自由に行き来してはおりますが、実際にはそこまで自由なわけではないんですよね」

 

「え、私また顔に出てましたか?」

 

「妖精は勘が鋭いのですよ。……では、ヘノが迎えに来るまでの間、桃子さんに少しお話をしましょうか」

 

「は、はいっ。伺います」

 

 よくよく考えれば、桃子が一人でここに来るのは初めてのことだ。

 いつもはヘノと一緒に来ていたので、女王の前で漫才のようなやり取りをしてしまうことも少なくないのだが、今日は女王と一対一である。

 すでに何度も顔を合わせ、更には何度か一緒に食事をしてきた女王が相手なので、いつぞやのギルドの面接ほど緊張することはなかったが、それでも身が引き締まる。

 

「妖精が行き来できるのは、ダンジョンでも安全な場所のみ。瘴気が濃い場所に立ち入る子はおりませんし、ヘノのように戦う力がある子でも、そのような場所では力が及ばないでしょう」

 

「瘴気が濃い……っていうと、ダンジョンの下層のほうですよね。第五層とか、それより先とか、ですか?」

 

「それは……必ずしもそうとは言えないかもしれませんね、瘴気の濃さはダンジョンに依りますから。例えばヘノならば、桃子さんの住まいである房総ダンジョンの第四層……いや、第五層くらいまでは魔物との戦闘はあれどある程度は自由に活動できるでしょう。しかし、瘴気の濃い新宿のダンジョンでしたら、第二層や第三層でも、危険です」

 

「あの……あ、はい」

 

 女王はさらりと語っているが、別に桃子の住まいは房総ダンジョンではない。ダンジョンに住んでいたらそれこそドワーフかなにかだ。

 しかし、そんなツッコミを入れられるような空気でもなく、訂正するタイミングを逃してしまった。

 そんな桃子の葛藤をよそに、女王ティタニアは話を続けていく。

 

「そしてそのような場所は、私の力も及ばないのです。上層のことでしたら、時間をかければある程度の出来事は感じ取れるのですけれど、下層のことは私もさほど把握できていない、というのが現実です」

 

「じゃあ、琵琶湖の第四層も、ティタニア様が感じ取れないくらい瘴気が強いっていうことですかね?」

 

「それが、分からないのですよ。その主というものが関係しているのか、別な理由があるのかすら、判別つかないのです。お恥ずかしいことに」

 

「いえいえ、別にティタニア様が恥ずかしがることじゃないですよ。私が勝手に勘違いしていただけですからっ!」

 

 慌てて首を振り、自己を恥じるティタニアに、そんなことはないとフォローを入れる。

 桃子とて自分の一方的な勘違いで、女王に恥をかかせるつもりはなかった。

 

「ふふふ。桃子さんは、ヘノやニムの言う通り優しい方ですね。でも、私が未熟なのは事実なのですよ。私のお母様、先代女王は……そうですね、今の私が足元にも及ばないくらいに強く、万能だったのです。私は女王などと名乗っていますが、まだまだひよっこなのですよ」

 

「そ、そうなんですね……なんか、意外です」

 

「ふふふ。今はヘノがいないので、リラックスしているのですよ。ヘノたちの前では、どうしても見栄を張らねばなりませんからね」

 

「え、見栄はってたんですか?」

 

 女王の告白に、桃子は目を丸くする。

 そう言えば、さきほどから気になっていたのだ。なんだか今日の女王は、いつもよりも話しやすいというか……なんか、軽い気がする。

 椅子に座る居住まいは変わらないかもしれないが、口調の所々が妙にフランクな気がするのだ。

 

「今は、二人きりですからね。桃子さんたら、私が『桃子さんの住まいである房総ダンジョン』だなんて言っても、真面目に聞いているんですもの。そこはヘノを相手にするときのように、手厳しいツッコミを入れてくださるかとおもったのに……」

 

「ええっ?! じょ、女王ジョークだったんですか?! いや、さすがに私も女王様相手にツッコめませんよ、申し訳ないですけどっ」

 

「ふふふ……今のも冗談ですよ。桃子さんたら、かわいらしい」

 

「えぇ……」

 

 ノリが違いすぎてついていけない。

 どうやら、ヘノたちの前では意識的に見栄を張っているというのは、本当のことらしい。

 しかし、そこで桃子は思い当たる。

 この妖精の国には女王以外には女王の娘たちしかいないのではなかったか。だとしたら、見栄を張らないでいられる相手なんて、一体どこにいるのだろう。

 少なくとも「今の時代」には、桃子しかいないのではないか。

 

 そう、思った。

 

「ティタニア様。あの……私、ティタニア様の女王ジョークにツッコミを入れられる自信はないですけど、たまにはその……」

 

 今は二人しかいない。

 頭でわかっていても、つい周囲をキョロキョロと確認してしまうが、ヘノたちの姿はない。

 

「子供たち抜きで、女子会っていうか、なんていうか、えーと……とにかく、二人でお話しするの、いいと思いますっ」

 

「……では、一つわがままを言っていいですか?」

 

 桃子の言葉に、女王は少しだけ驚いて。でもすぐに、背中の羽を羽ばたかせて宙に浮き、桃子の前へと飛んできて。

 そのまま桃子の肩に着地した。

 

「いつも、ヘノが桃子さんの肩に乗っているではありませんか。それを見ていたら、私も桃子さんの肩の座り具合が、気になって気になって……」

 

「え、ええ? いや、いいですけど。私の肩って、多分そこの玉座ほど座り心地良くないと思いますけど……?」

 

「ふふふ。意外と悪くないですよ? でも、そろそろヘノが来ますから、怒られてしまいますね」

 

 桃子の肩の座り心地を確認しながら笑っていたティタニアだが、また再びふわりと羽を広げて飛び上がり、いつもの花びらの玉座へと着地した。

 それと同時に、通路が白く光りだす。これは妖精の誰かがこの部屋へ続く光の膜を開いたということだ。

 そしてやはり、入ってきたのは薄緑の光を放つ、緑髪の小さな妖精。桃子の相棒の少女。

 

「桃子。貝を逃がしてきたぞ。毒とかは。ヘノには分からないから。わかるやつに。任せてきたぞ」

 

「ヘノ、お疲れさまでした。本日はヘノも、桃子さんと共に頑張ったと聞いています。よく頑張りましたね」

 

「女王。ヘノは頑張ったから。もっと褒めていいぞ」

 

 女王の間へやってきたヘノと、いつもの女王としての顔を見せるティタニア。

 ティタニアの先ほどまでとの変わり様に言葉を失う桃子だったが、すぐにヘノに急かされて我に返る。

 そういえば、貝をいくつか使って、調理部屋でスープか何か作ろうという約束をしていたのだ。

 

「じゃあヘノちゃん、今日はカレールーがないからカレーは無理だけど、貝のスープ作ろうね」

 

「スープ。楽しみだぞ。では女王。あとでまたスープを持ってくるからな」

 

「ヘノちゃん、敬語使おう敬語。ではティタニアさま、また後でスープが出来たらこちらに伺いますね」

 

「ええ、楽しみにしておりますね。ではまた後で」

 

 普段通り、物静かに語る女王ティタニア。

 しかし気のせいか、いつもよりも悪戯っぽい笑みをしているように、桃子には思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 

 はぁー、ふぅー、はい、落ち着きました。

 あのですね、私がドワーフとか座敷童子を追いかけるの諦めてダンジョンで蟹を獲ってる間に、今度は琵琶湖で人魚姫ですか?

 どうかと思うんですよね!

 

 あ、ごめんなさい。

 ついなんていうか、この間の悪さというか、理不尽さに色々と漏れ出ちゃいましたね。

 

 え、琵琶湖の話?

 うーん、確かにあんまり有名な噂じゃないかもしれないですね。

 じゃあ簡単に、知らないっていう方に説明しますね。

 

 琵琶湖のダンジョンの第四層って、深潭宮って呼ばれてるんですけど、全部水なんですよ。

 ええと、いわばそうですね、深海なんです。第四層全体が海の底、みたいな感じですかね。

 で、それでもスキューバダイビングみたいな感じで潜っているチャレンジャーな探索者さんたちはいらっしゃるんですけど、その方たちが何人か目撃してるんですよ。

 広大な深潭宮の中で、魚たちに混ざって自由に泳ぐ女性の姿を。それが長い髪の女性なので、あくまで通称として「人魚姫」って一部の探索者たちから呼ばれているんです。ただの人魚じゃなくて、人魚姫、ってあたりがちょっと洒落てますね。

 まあ、下半身が魚なのかどうかは情報が曖昧でよく分からないですけども。

 あくまで説としては、河童みたいな人型の魔物なんじゃないかとかいう説が濃厚ではあるんですけどね。

 ただ、人を襲ってきたことはないので、妖精とかと同じく、魔物とは違う未知の存在なんじゃないかって言われていました。

 

 深潭宮はそもそも探索が難しいので、未解明なことが多いんですよね。

 深潭の主とかヤバいのもいますし……っと、話が逸れました。

 

 それでもって、その人魚姫がどうやら琵琶湖第四層のライブカメラに写り込んだっていうコメントが先ほどの方ですね。

 私もまだその映像を見てはいないので、何とも言えませんけど。

 

 ドレス姿っていうのはまあ、ともかくとして。おっぱいが大きい……っていうのが、うーん。

 

 え? おっぱいに反応しすぎ?

 

 いいじゃないですか、おっぱい小さくても素敵な人はいるんですから!

 そもそも現役JKの私から言わせれば、おっぱいっていうのは……おっと、ダメダメ、この話題続けてるとセクシャルすぎるってことでアカウント止められちゃいますね。

 

 ええと、まあいいや。とにかくカニを食べたいので、いったんここまでですよ。

 帰り道? ダメに決まってるじゃないですか、ここ秘密の場所なんですから。ルートがバレちゃうでしょうが!

 

 はいっ、ではいったん切りまーす。またねー♪

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