ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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閑話/琵琶湖の姫

 私が生まれたのは、広い、広い水の中。

 この場所は『深潭宮』と呼ばれる場所らしい。気が付けば、私はこの水の中を、漂っていた。

 

 深潭宮には、ペルケトゥスという大きな友人がいる。

 ペルケトゥスは、鯨という生き物らしい。

 私のように喋ることは出来ないけど、手で触れあえば、考えていることが伝わる。彼は、とても大きくて優しい。

 

『……ペルケトゥス。今日も、魚人、多い』

 

 この階層には、魚人たちがたくさん現れる。

 奴らは人みたいな形をしてるけれど、人を見たら襲い掛かるし、私やペルケトゥスにも襲い掛かる。ただ暴れるだけの、会話も通じない魔物だ。

 ことあるごとにペルケトゥスを追いかけて、槍でちくちく突いてくる。

 ペルケトゥスは丈夫だけど、戦う力はない。だから、私が退治しないといけない。

 

『……ちょっと、退治、してくる』

 

 あいつらは弱いので、私が殴ったらみんな簡単に消えていく。

 消しても消しても数日後にはまた増えているので、厄介。

 ペルケトゥスは、私が守る。

 

 

 

 

 

『……上の階層。人間が、戦ってる』

 

 私は、人間みたいな足を生やすことが出来る。

 最初は慣れなかったけれど、これでたまに、上の階層を歩いたりもする。

 あと。人間の足を生やしているときの私の姿は、人間たちからは見えなくなっているらしい。不思議。

 

『……様子でも、見てこようかな』

 

 私は、人間たちは嫌いじゃない。

 変な道具を持ち込まれると、なんだか無性に壊したくなるけれど、それくらい。

 魔物と戦っている人間がいたら、出来るだけ、助けてあげることにしている。

 

 やり方は簡単。魔物に襲われている人がいたら、すぐそばで壁や岩を殴って破裂させればよい。

 そうすれば、それまで人を襲っていた魔物たちも驚いて隙を見せるので、襲われていた人間もその間に無事に逃げていく。

 あとは、魔物をぼこぼこにするだけ。簡単。

 

 

 

 

『……母様の、気配がする』

 

 私には、母様がいる。けれど、母様は陸上の生き物だから、深潭宮には潜ってくることはない。

 母様が、魔女様に力をもらって、私が生まれた。

 母様とも、魔女様とも、私は直接会話をしたことはないけれど。それは、不思議と知っている。

 

『……ペルケトゥス。ちょっと、見てくるね』

 

 ペルケトゥスに挨拶をしてから、母様の様子を見に行く。

 母様はいつも『ヘノ』と一緒にいる。

 ヘノは勘が鋭いので、いつも、離れた水の中から覗き見ることにしている。

 

 母様は、歌いながら、スライムをハンマーで砕いてた。

 どうやら、凍り付かせながら砕いているみたいだ。スライムが、キラキラの粒になって、とても綺麗だと思う。

 一通りハンマーでスライムを砕いたら、母様は満足げに立ち去っていく。

 

 その日の夕方。私も同じことにチャレンジしてみた。

 氷の魔法。殴るときに。凍らせるイメージ。

 

 できた。

 

 スライムが、透明のキラキラになる。

 けど、しっくりこない。やっぱり、普通にパンチするほうが。楽だなって、思う。

 

 

 

 

 

『……母様。また、危険な目に遭ってる』

 

 私は、生まれたときから、遠くにいる母様の気配も、感じることが出来る。

 きっと、やろうと思えば、母様の身体に私が入ることが出来る気がする。

 なんで、こんなことが出来るのかは、知らない。

 

 母様は、いろいろな所を冒険するのが、好きみたい。

 とても寒いところ、とても暑いところ、とても高いところ、とても暗いところ。

 気づけば、いろんな場所に行っては、危ない目に遭っている。私にはそれが、なんとなく分かる。

 

 私が母様の身体に入って、助けに行きたかったけど。

 どうやら、母様が水に入っているときじゃないと、私は母様のところにいけないらしい。

 

『……母様は。陸上の人だから、水にはなかなか、入らないね』

 

 ペルケトゥスが、慰めてくれた。

 

 

 

 

 

 この深潭宮には、たまに人間の探索者もやってくる。

 全身に、変な服を着て、背中に大きな変なものをつけて、だいたい変な恰好をしている。

 陸上の人間は、変な恰好をしないと水に潜れないみたいで、大変そうだ。

 

『……ペルケトゥス。あっちに、イリアがいる』

 

 水中だと、人間にも私の姿が見やすくなるらしい。

 よく、ペルケトゥスと泳いでいると、遠くから人間がずっとこっちを見ている。

 なかなか近づいてこないのは、なんでだろう。私の泳ぎが、速すぎるからかな。

 

 イリアは、ペルケトゥスを守ろうとしてくれた人間らしい。

 だから、私はイリアが来た時には近づいてみることにしている。

 魚人をパンチで撃退する姿は、私と同じ。うれしい。

 

 一度、イリアの近くまで行ったことがある。

 きっと、向こうからも、私の顔が見えたと思う。

 イリアは目を丸くして『ササカ――』という言葉を呟いて驚いていた気もするけれど、泡がごぼごぼ言っていて、わからなかった。

 あの変な恰好は、どう考えても不便そう。

 

 

 

 

 

『……母様が、泳いでる』

 

 この日。不思議と、胸騒ぎがした。

 ペルケトゥスと泳いでいたら、母様がどこか遠くで、水に潜っているのがわかった。

 ヘノと、ニム。会ったことはないけれど、二人の妖精の力があれば、母様は水の中に潜れる。

 今も、どこかで泳いでいるみたい。

 

 だけど。

 

『……ペルケトゥス。少し、出かける』

 

 母様が、危機に陥った。

 そこは、水の中だ。

 

『……母様を。助けに、いく』

 

 きっと、この時のために、私にはこの力が備わっているんだと思う。

 今なら意識すれば、遠くにいる母様のもとに飛んでいける気がする。

 ペルケトゥスは心配げに、どうするのかと聞いてくるけど。

 そんなのは、決まっている。

 

『……殴れば。だいたい、どうにかなる』

 

 

 

 

 

「おい。お前。人魚姫だな。桃子は。どうなってる」

 

「……母様は。寝てる」

 

「そうか」

 

 私は、母様の身体に入ることが出来た。

 目の前には、緑色の妖精と、蒼色の妖精がいる。

 直接会話するのは初めてだけど、これがヘノとニム。母様と仲良しの、妖精たち。

 母様がどうしているか聞かれたけれど、母様はこの身体の内側で、眠っているから、正直にそう答えた。

 

「……今も。寝てる」

 

「そうか」

 

 念のためもう一度見てみたけれど、やっぱり寝ていたので、正直にそう答えた。

 ヘノは、なんとなく、他人という気がしない。母様に加護を与えた妖精だからだろうか。

 ニムは、なんだか神経質で、大変そうだった。

 

 

 

 

 

「……お前。名前は、なんだ」

 

「ワカラナイ、ワタシ……ダレ……ワカラナイ……デモ、アナタ、ナカマ」

 

 母様を眠らせた犯人は、なんだか私と似た格好をしていた。

 けれど、母様を襲った犯人だ。何はともあれ、殴って、こらしめる必要がある。

 何か騒いでるけど、とりあえず、殴っておく。

 

「……まあいい。とりあえず、来い」

 

「ウレシイ! ウレシイ! ナカマ! ナカ――」

 

 ちょっと、力を入れすぎたかもしれない。

 犯人は、海の上を何度も跳ねるようにして、吹き飛んで行ってしまった。

 死んでなければ、まあいいか。

 

 

 

 

 

「……お前。悪いこと、しないか?」

 

「ワルイコト、シナイ! ワルイコト、シナイ!」

 

「……そうか。なら、許す」

 

 許した。

 

 なんだか、この犯人も、私と同じ人魚だったらしい。胸に変な石がついてて、なんとなくその石は嫌な感じがするけれど、よくわからない。

 青い髪の人魚は、母様よりも大きな人間の上半身をしているけれど、子供みたいに縋りついてくる。

 

「ニンギョヒメ! ヒメ! ダイスキ! ナンデモスル!」

 

 初めて会ったのに。いきなりくっつかれても。困る。

 私は、ペルケトゥス以外と話したことなんて、ほとんどないから。

 どうすればいいのか、わからない。

 

 

 

 

 

 

「……母様。次から、水に潜るときは。私を、呼んでほしい」

 

「うん、そうするね。人魚姫さん……で、いいのかな?」

 

 この日、私は初めて母様とお話をした。

 とは言っても、母様の身体に入ってるから、母様の顔を見て話をしたわけじゃない。

 ただ、心の中で、母様がどんなふうに感じているのかは伝わってきた。

 

 母様は、私に会えたことを、喜んでくれていた。

 あと、私が色々と壊すことを、何故だか申し訳なさそうにしていた。

 壊すといっても、壁とか、岩とか、魔物とか、それくらいなんだけどな。

 

 それから、母様は沢山お話を聞かせてくれた。

 カレーライスのこととか、カレーうどんのこととか、カレーチャーハンのこととか。地上にある、いろんな食べ物のお話を聞かせてくれた。

 私は、いつもペルケトゥスと泳いでいるだけだから、母様が喜ぶ話はできそうにない。残念。

 

 

 

 

 

「……セイレーン。お前も、来い」

 

「ウン! オヨグ! ヒメ! ヒメ!」

 

 青い髪の人魚は、セイレーンという名前になった。

 私がセイレーンと呼んだら、ヒメ、と呼び返してくる。

 海の中では、一緒に泳ぐこともできた。同じようにご飯も食べた。

 なんだか、とても不思議な感じがした。

 

 セイレーン。

 セイレーン。

 この日だけで、初めて会ったやつの名前なのに、沢山呼んだ。

 なんだか、一緒にいると、今まで感じたことのない気持ちになった。なんて言えばいいのか分からないけど、心が温かくなって、それなのに、なんだか悲しい気持ちにもなった。

 わからない。全然、なんだかわからない。

 

 殴っても解決しない問題は、苦手。

 

 琵琶湖に帰ったら、胸になんだか、ぽっかりと穴が開いたみたいな気分になった。

 ペルケトゥスが寄り添ってくれたけど、私は、どうしたんだろう。

 

 

 

 

 

「ヒメ! ヒメ! アイタカッタワ!」

 

「……今日は。母様が、遊びに来ると。約束してたからな」

 

 次に会った日は、たくさんセイレーンと遊んだ。

 ペルケトゥスと一緒に泳ぐのは楽しいけど、それともまた違う、とてもうれしい気持ちになれた。

 もしかしたら、これが『好き』なのかもしれない。

 

 沢山遊んだ。

 沢山食べた。

 心配もした。

 そして、母様が、セイレーンも深潭宮に住めるようにしてくれると聞いたときは。

 

「イキタイ! ヒメトイッショ! スキ!」

 

 私も、セイレーンと一緒がいいなって、思った。

 これで、ずっと一緒にいられると、思ったら。とても、とても嬉しかった。

 

 

 

 

 

「起きてヒメちゃん!」

 

 母様のその声で、世界の全てが変わってしまった気がした。

 セイレーンは、人間に悪いことをしてしまった。だから、人間はセイレーンを殺しに来る。

 呪いっていうのはよくわからない。

 もしかして、セイレーンの胸にある、あの赤い珠から感じる嫌なものが、悪さをしているんじゃないか。

 

 けれど、考えている暇はなかった。

 人間の弓使いは強くて、母様にたくさん怪我をさせてしまった。

 そして。

 

「……セイレーン。お前、何してるんだ」

 

「――……ヒメ、ゴメンネ……」

 

 なんで、あやまるんだ。

 どうして、泣いてるんだ。

 そいつに、いじめられたのか。

 

 私は、あの禍々しい奴を、私は絶対に許さない。

 きちんと、殴って。反省させて。連れて帰る。

 

 

 

 

 

 沢山、戦って。

 沢山、戦って。

 沢山、戦って。

 

 母様に怪我をさせてまで、セイレーンを取り戻すために、沢山の魔物を倒したのに。

 

 

「ヒメ、ワタシ……シアワセヨ……」

 

「……セイレーン、ごめん、助け……られなかった……」

 

 

 ずっと一緒にいるって、約束をしたのに。

 連れてかえると、決めたのに。

 私は、セイレーンの願いを、かなえられなかった。

 

 

「ダイスキヨ、ヒメ、ダイスキヨ……」

 

「……セイレーン。私も……大好き……大好き……だ……」

 

 

 もっと沢山、伝えればよかった。

 セイレーンは、沢山私に「スキ」を伝えてくれたのに。

 

 私は、全然、何も伝えていない。

 大好きだって、ずっと一緒にいようって、いきなり殴ってごめんって、伝えていない。

 

 

 消えてしまう。セイレーンが、私の友達が。

 

 

 

 

 母様、お願い。

 

 

 助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「ヒメ! ヒメ! コレガ、カレーナノ?」

 

「……これが。カレー、なのか?」

 

「出来映えが悪くて悪かったな。でもアタシの調理の腕はともかく、海軍カレーのレシピ真似てんだから味はいけてる筈だぞ」

 

 この日、私はセイレーンと共に、瀬戸幻海を泳いでいた。

 魔女様がセイレーンの心臓に魔法を組み込んで、セイレーンは自由に深潭宮と瀬戸幻海を行き来できるようになった。

 だから、気分によって、深潭宮で過ごしたり、瀬戸幻海で過ごしたりしている。

 

 そしてこの日は瀬戸幻海の砂浜で、人間がカレーを作っていた。

 

「っていうか、作っておいてなんだけど、アンタら人魚はカレーなんて食べて大丈夫なのか?」

 

「……多分。カレーなら、大丈夫」

 

「ヒメノ、カアサマ。カレーノ妖精ナノヨ!」

 

「さすがにそれは嘘っしょ」

 

 カレーを作っていたのは、前に戦った檸檬とかいう弓使い。

 どうやら、檸檬がカレーを作っているのは、横で紅茶を飲んでいる人物の入れ知恵らしい。

 

「れもたん、実はももたんがカレーの妖精というのはあながち嘘でもないのですよ」

 

「うっそでしょ……意味わかんないんだけど、どういう家系図よ」

 

「どうにも手の付けられない家系図になっておりますが、貴女もいつか本物のももたんに出会ったらわかりますよ」

 

 この人は、魔女様。

 魔女様が檸檬に「人魚たちと和解したいなら、カレーを作れば良い」と助言したらしい。

 

 魔女様は、人間の檸檬と仲良くなった。

 前は敵だったけれど、私も別に、檸檬に恨みはないし、戦いそのものは楽しかった。

 母様が危険な目に遭うのは困るけれど、たまには戦うのも面白いと思う。

 

 セイレーンは襲われた時のことをあまり覚えていないみたいで、普通にカレーを喜んで食べていた。

 

 でも、私は知っている。

 

 作ってくれた檸檬には悪いけれど、母様のカレーのほうが、何倍もおいしいはず。

 

 

 

「人魚姫。今は、幸せですか?」

 

「……魔女様。うん、私は、幸せ」

 

「それは、良かったです。私も、あなたの誕生には関わっておりますからね。安心しましたよ」

 

「……うん」

 

 セイレーンが、檸檬にスプーンの持ち方を教わっている間。魔女様が、私に話しかけてきた。

 

 魔女様は、何を考えているのかはわからないけれど。

 それでも、私とセイレーンが一緒にいるのを、とてもやさしい目でみつめてくる。あと、たまにペルケトゥスに会いに来ていることも知っている。

 魔女様は海の生き物が好きなのかもしれない。

 

「……でも。魔女様」

 

「はい、どうしました?」

 

「……母様が。すぐに、危険な場所に行くのが、心配」

 

「ふふふ。それはもう、運命ですからね。諦めて、応援してあげるといいですよ」

 

 

 どうやら、母様が変な所に行くのは、仕方のないことらしい。

 母様。

 また水の中で何かあったら、私に頼ってほしい。

 また温泉で転ばないように、気を付けてほしい。

 

 そして、また。

 海の中を一緒に泳いでくれたら、私は嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   十章 セイレーン 了













活動報告に十章あとがきを載せておりますので興味がありましたらそちらもどうぞです
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