ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 テルマエ・モモコ
天空温泉


「ふぅー……あ、そういえばさ。前から気になってたんだけど、りりたんに聞いてみてもいい?」

 

「はい? りりたんに答えられることならば、なんでもどうぞ」

 

 桃子は、今はクールダウンとして温泉の外の岩場に腰かけて、足だけを湯舟に入れているりりたんに聞いてみる。

 りりたんは手にはたこ焼きのパックを持ち、爪楊枝でぷすりと刺したたこ焼きを味わっているところだった。

 まさに、桃子が聞きたいのは、今りりたんが手に持っているそれに関わる話である。

 

「ツヨマージってあるじゃない? あれって、先代の女王様……つまりは、りりたんがティタニア様のために作ってあげたものなんだよね?」

 

「ええ、そうですよ? あれは……いつ頃だったでしょうか。随分と懐かしい話ですね」

 

「あれってさ。どうして爪楊枝そっくりに作ったの?」

 

 りりたんが手に持っているたこ焼きを――いや、そのたこ焼きに刺さっている爪楊枝を見て、桃子が問いかける。

 ヘノの武器、ツヨマージがどうして爪楊枝そっくりなのか。

 アイルランド、イギリス一帯のダンジョンを己の領土としていた妖精女王が、何をどうして爪楊枝を参考にした武器など製作したのか。

 

 この時の桃子もまさか、そのさりげない質問がきっかけで、あんなことになるとは思わなかったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 1日前。

 

 

 

 この日も桃子は妖精の国へと朝から遊びに来て、午前中は花畑に腰を下ろし、大量の木材を素材として宝箱の製作に励んでいた。

 

 火の妖精フラムが拾ってきた武器を桃子が整備しなおして、それを宝箱に仕込んでダンジョン中にばらまこう、という計画は順調に進行中だ。

 ただし、初めのうちは武器1つに宝箱1つを想定していたのだが、冷静に考えると武器の数が多すぎる。そもそも大型武器などは、そもそも箱に入るようなサイズではないのだ。

 とてもではないがそんな大量の特殊サイズ宝箱など作っていられないので、武器はサイズごとにまとめて箱に入れることにした。小さい箱には小さい武器がたくさん。大きな箱には大きな武器がたくさんだ。まさに、武器の福袋である。

 それでもなお、作るべき宝箱の数は多い。

 今となってはメインである武器の整備よりも、宝箱の製作のほうが遥かに時間をかけた作業になってしまった。これはこれでそれなりに楽しい作業なので、桃子はさほど気にしていないのだが。

 

 とはいえ、宝箱製作は午前中のみで、午後は宝箱はお休みだ。

 作業が一段落したところで、桃子は花畑に寝転がり、背を伸ばすように両手を頭上の方向へとぐいと引っ張り上げる。凝り固まった筋肉がほぐれて、気持ち良い。

 

 そんな桃子のもとへと、パートナーたる風の妖精のヘノがやってきた。ヘノは寝転がって伸びをする桃子の、胸のあたりに着地する。

 見た所、どうやらヘノはどこかのダンジョンで、珍しいものを見つけたのだろう。顔に「桃子と一緒に見に行きたい」と書いてある。

 

「あはっ、ヘノちゃんったら、どこかのダンジョンで面白いもの見つけたときの顔してるじゃん」

 

「よくわかったな。実は。空のダンジョンで。なんだか変な池を見つけたから。桃子と一緒に覗いてみたかったんだ」

 

「空のダンジョンって……上高地ダンジョンのこと? うん、いいね。私も宝箱作業で疲れちゃったから、上高地ダンジョンみたいな開放的な場所に行くのは嬉しいな」

 

「じゃあ。決まりだな」

 

 桃子とヘノはいつも、行先はその時のインスピレーションで決めることが多い。

 だいたいの場合はその日に食べたいカレーの具材で行先を変えたり、今回のようにヘノの思い付きで決めたり。稀に、桃子のお小遣い稼ぎとして鉱石や薬草類などの採取の仕事を請け負い、それにより行き先を選ぶこともあるが、なんにせよ、だいたいの場合はその日の気分次第だ。

 そして今日。ヘノが何か面白いものを発見したため、午後は上高地ダンジョンへと遊びに行くことが決定した。

 

 

 

「ブラジャーを。持っていかないとな」

 

「ブラジャーって言うとなんだか誤解がありそうだから、ヘノグライダーって呼ぼうね?」

 

「後輩はどうする? 一人くらいなら、桃子が抱えれば大丈夫だぞ」

 

「うーん、誘ったら喜んで来るとは思うけど、今は集中してるだろうからやめておこうかな」

 

 呑気に探索者生活を満喫しているように見える柚花だけれど、実は彼女は現在高校三年生。つまり、受験生である。高校卒業後は世界魔法協会のエージェントとしての身分が確定している柚花だけれど、それとは別に大学は大学で通うつもりなのだそうだ。

 となると、これから夏にかけては、大学受験の結果を左右する大切な時期となる。

 

 それなのに、どうして柚花はダンジョンへと遊びに来ているのかというと、そこには柚花特有のきちんとした理由がある。

 

「よくわからないけど。ジュケンセイって。大変なんだな」

 

「まあ、柚花はだいぶ効率よいというか、ちゃっかりしてるけど……」

 

 今までは何となく、互いのプライバシーもあるので柚花のスキルについて詳しく聞いたことは無かったのだが、今回、柚花の持つスキルのうち一つが判明した。

 その名も【高速思考】。名称からして、なんだか頭がよくなりそうなスキルだ。

 

 それは読んで字のごとく、ダンジョン内では思考速度が速くなるというスキルだった。瞬間的な判断力を必要とされる状況では非常に頼りになりそうなスキルだ。

 ただでさえ並列処理などを得意とする柚花がそのようなスキルを持っているのは、まさに鬼に金棒であろう。

 ダンジョン内でも視聴者と会話をしながら魔物と戦闘するという芸当も、それらの能力の合わせ技に違いない。

 

 そして今は、ティタニアの間に置かれている人間サイズの食卓を勉強机として、受験対策の勉強中だ。柚花の場合、ダンジョンに来るのを我慢して家で勉強するよりも、ダンジョン内でスキルをフルに発動させて勉強したほうが圧倒的に効率的なのである。

 またその間は、柚花の端末でティタニアはりりたんの配信アーカイブを眺めているらしい。実に有意義な時間の使い方だ。

 

 

 

「なんだ! 桃子! また空飛ぶのか! これ、寝室に置いておくぞ!」

 

 すれ違いざま、今日もまた探索者の落とした道具を拾ってきた火の妖精フラムが桃子へと声をかける。

 見たところ今回は武器ではなく、身体にロープを固定するハーネスと、それに繋がれたロープのようだ。いったいどういう状況でハーネスとロープを落としたのか気になるところだが、とりあえず今は小妖精たちの綱引きの道具として使用中だったので、また後日覚えていたら見ておくことにする。

 

 

 

「んふふ♪ おいしい食べ物があったら、一緒にお酒飲みましょ♪」

 

 ウワバミ様こと桃の木の妖精クルラは相変わらずの赤ら顔だ。

 どうやら、今から桃の窪地に遊びに行くらしく、手にはヘノが前に製作した乾燥イカを持っている。ヘノが手慰みに作った数々の乾物は、桃の窪地の住民たちに好評なようで、クルラがかなりの頻度で持ち出していた。

 きっとあれは、お酒のつまみになるのだろう。

 

 

 

「見たまえ、桃子くん。これは新たな謎では、ないかな?」

 

 鍵の妖精リドルが、地面に描かれた謎の紋様を眺めながら考えこんでいた。

 あれは、いつだったか桃子とヘノが木の棒を使い、地面に落書きをしたときのものだ。リドルが必死に解読しようとしているそれは、桃子が描いた国民的アニメのネコ型ロボットである。

 なお、柚花に言わせれば「わかるわけがない」という代物だったが、リドルは果たして真実にたどり着けるだろうか。

 

 そんな、いつもと変わらぬ妖精の花畑を抜けて、桃子とヘノは上高地ダンジョンへと繋がる光の膜を潜り抜ける。

 

 

 

 

「わあ、やっぱりこのダンジョンはすごいねえ。落っこちちゃいそう」

 

「アイドルは。実際に落っこちたけどな」

 

 上高地ダンジョン第二層。

 ここは全方位、上を見ても下を見ても、遥か先まで蒼く広い空が続く、果てなき空のダンジョンだ。

 光の膜が出現するのは、その中間ほどに存在する小さなひとつの浮島だった。およそグラウンド一つ分の広さの、芝の緑だけが広がっている島だ。

 以前ここを訪れたときは、幾つかの浮島のうち一番上にある島を目指した桃子たちだが、本日はその時に訪れなかった別な浮島が目的地である。

 

 桃子は、スフィンクスのブラジャー改め、ヘノが操るパラグライダー、略してヘノグライダーのつながったリュックサックを身体に固定する。

 以前はこの状態で空を飛んだが、こういう時こそ、先ほどフラムが拾ってきたようなハーネスが必要なのかもしれない。

 

「ええと、これでいいよね。なんだか、久しぶりだと緊張しちゃうなあ」

 

「まあ。桃子なら。落ちても。尻もちで済むだろ」

 

「さすがにこの高さじゃ尻もちどころじゃないと思うけどなあ」

 

 沖縄のダンジョンで、一反木綿に攫われ、高所から落ちて尻もちをついた話をヘノに聞かせた影響だろうか。ヘノは、桃子は高いところから落ちても尻もちで済むのだと誤解しているようだ。

 しかし、まさにこのダンジョンのように地面の見えない雲の上から落ちたとしたら、いかに頑丈な桃子と言えども尻もちどころでは済まないだろう。

 ヘノの誤解はそのうちしっかりと解いておかねばなるまい。

 

 

 うっかり落下しないように。尻もちをつかないように。

 念入りに確認したら、いよいよ出発だ。

 

 ヘノがツヨマージを指揮棒のように振るい風を吹かせると、足元から突き上げるような上昇気流が発生して、一気にヘノグライダーが空へと舞い上がる。

 

「うわ、久しぶりだと怖い! 怖い! ゆっくり、ヘノちゃんゆっくり……!」

 

「桃子。大丈夫だ。そんなにスピード出てないぞ」

 

「ヘノちゃんは、スピード狂なところがあるからなあ……」

 

 そんなやり取りを繰り広げながらも、桃子は恐る恐る目を開ける。

 前にヘノグライダーで空を飛んだときは、怖がっていられるような状況ではなかったので感覚がマヒしていたけれど。改めて、眼下に果てしない空が広がっている空間を飛翔するのは、やはり怖い。

 桃子は出来るだけ、下を見ないことにした。

 

「桃子。実はな。前に立ち寄らなかった。下のほうの島に。変なのがあったんだ」

 

「変なのって……なあに?」

 

「なんだか。お湯が沸いてるんだ。新しい食べ物があるかもしれないな」

 

「お湯が沸いてるの?」

 

 ヘノグライダーは、ヘノの起こした風に乗ってゆっくりと旋回するように下降していく。

 前に訪れたときは上へ上へと目指す旅だったので、下方向の島に降りるのは桃子も初めてだ。下方向にもいくつかの島が浮いており、岩肌の島に、緑の茂った島、まるで砂漠のような島もあり、こうしてみるとこの階層はバリエーションが豊かだなと桃子は感心する。

 ヘノが向かっているのは、そのうち緑の茂った島のようだ。

 

「桃子。見えるか。こっちに浮いてる島に。池があるんだけど。それがお湯なんだ。ここからでも。湯気が見えるだろ」

 

「どれどれ……うわ、本当だ! え、でも自然の中に……お湯? もしかしてだけど、温泉?」

 

「オンセンが何なのか。知らないけど。とりあえず。近くに降りてみるぞ」

 

「わ、思ったより大きい温泉だね」

 

 

 

 

 

 それは、小さな林に囲まれた、学校のプールほどある池――ならぬ、温泉だった。

 空に囲まれた小さな浮島である以上、火山帯ということはさすがにあり得ない。ならばどのような熱源により湯が出ているのかと疑問は尽きないが、原理はさておき実際に温泉が湧いているのは事実である。

 

「温泉っていうのは、これみたいに自然に湧き出てるお湯のことなんだよ。日本だと、それを浴場にして楽しむ風習があるの。まあ、つまりはお風呂だね」

 

「お風呂か。それならわかるぞ。じゃあさっそく。お風呂に入ってみるか」

 

「待って待って。お湯が湧き出てたとしても、例えば人が入れないような高温だったり、あまり人の身体に優しくない水質だったりすることもあるから、まずは安全を確認しないと駄目なんだよ」

 

「そうなのか。ここのお湯は。安全なのか?」

 

 温泉とは、日本人的な感覚では『自然界に湧いているお風呂』というイメージが強いけれど、実際には人が入れないような温泉も多い。

 中には、その一帯から発生しているガスを吸うだけで命に関わるような温泉も多いために、温泉だからと言っていきなり入浴するのは危険だと、桃子は雑誌で見たことがあった。

 なので、さっそくお湯に飛び込もうとするヘノを手で制して、桃子は恐る恐る目の前にある温泉を覗き込んでみる。

 

「うーん、さすがにきちんと調べないとわからないけど。でも見たところ、変なガスとかも出てないみたいだし、油膜も変な沈殿物もないね」

 

「そうだな。空気も。綺麗だと思うぞ」

 

「温度もちょうど良さげじゃん。試しに十円玉でも沈めて、ちょっと簡単にだけど水質検査してみよっか。これの色が変な風に変わると、場合によっては人には悪影響があるんだよ」

 

「十円玉か。水質検査って。お金がかかるんだな」

 

 近づいても、温泉にありがちな硫黄の香りなどもない。空気に変な成分が含まれていたならば、それこそ桃子ではなく風の妖精たるヘノが気づくだろうが、少なくともガスなどの危険性はなさそうだ。

 お湯は透き通っており、無色透明だ。温泉は温泉でも、別段ミネラルもなにも溶け込んでいない単純泉というものなのかもしれない。

 

 桃子はポーチから比較的綺麗な十円玉を取り出して温泉の中に沈めてみる。日本の十円玉は銅で作られているので、水質によってはこの銅に変化が現れるのだ。

 あとは、リュックからお湯を入れられる容器を取り出して、温泉の湯を掬い取っておく。

 ヘノはまじまじと、桃子の行う素人レベルの水質検査を後ろから興味深げに眺めている。

 

「妖精の国に戻ったら、容器に入れたこのお湯をルイちゃんやニムちゃんにも見てもらおうか。あの二人だったら安全な水かどうかわかるだろうし、それで安全だったら、明日もう一度ここに入浴しに来ようね!」

 

「そうだな。桃子が入っても。安全なお風呂だったら。明日。もう一度入りに来るぞ。ヘノも入るぞ」

 

「えへへ、露天風呂なんて、入らないわけにはいかないよね。柚花も呼んじゃおうね」

 

「なんだか。わからないけど。明日が楽しみだな」

 

 柚花にも声をかけよう。そして、温泉気分を楽しむためのおつまみも用意しておこう。何がいいだろうか。カレーだろうか。

 まだ、検査の結果すら出ていないけれど、すでに脳内ではそんなことを考えながら。

 

 大空に囲まれた浮島の秘湯に、さっそく心をときめかせている桃子なのであった。

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