ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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へし折れたアレ

『もう、いきなり人魚がライブカメラに写ってるとかコメントで言われたときは、配信中なの忘れてホント慌てましたよ』

 

「うー、あの時は私も慌てたんだよ。まさかさ、ライブカメラが浮いてるだなんて思わないじゃない?」

 

『まあでも、シルエット程度で済んでよかったですね。腰のレインコートがドレスに見えた偶然もありますけど、胸パッドで底上げした立派なお胸を見たら先輩と同一人物と思う人はいませんよ』

 

「わ、忘れてっ! 記憶から消して! あれは違うの、あれは不幸な事故だからっ」

 

 

 

 

 琵琶湖ダンジョンから帰ってきたその日。

 

 逆立ちで肺の中の水を全部吐き出すというとんでもない目にあってから、這う這うの体で妖精の国へと戻り、そこで女王ティタニアと談笑。

 その後は調理部屋で簡単な貝のスープを作って皆に振る舞ってから、日が遅くなってきたあたりで地上へと帰ってきた。

 ヘノは貝のスープも気に入ったらしく、次こそは貝の入ったカレーを食べると息巻いていた。ひとまず妖精の湖で繁殖させないといけないわけだが、あの湖で生き物はどれほど繁殖するのだろうか。桃子にはわからない。

 

 そもそもあの湖の生き物は、食べ物とかどうするのだろう。

 嘘か真か、原生生物はダンジョン内に漂う魔力を食べて生きているという噂もある。だとすると、妖精の国のように魔力が豊富な場所ならば勝手にどんどん繁殖していくのかもしれない。

 ダンジョン生物の生態はまだまだ未知数である。そこはもっと頭のいい学者先生たちに任せるとしよう。

 

 それはともかく、地上に戻ってみてみればスマホに柚花からのメッセージが大量に届いており、そこで桃子は初めて自分の失態に気が付くこととなった。

 その夜、自宅に帰ってから柚花に電話をかけてみたところで、地上でなにが起きていたのかを教えてもらうことが出来た。やはり持つものは情報通の後輩である。

 

 

「でも、そうなんだ。琵琶湖ダンジョンて、元から人魚姫? の噂っていうのがあったんだねえ」

 

『はい。なので桃子先輩のカメラ映り込み事件も、その人魚姫と関連付けられていますね』

 

「なんだか、私ってそういうのばっかりじゃない?」

 

『あの、一応聞いておきたいんですけど。各地のダンジョンで目撃情報がある都市伝説の数々って、実はやっぱり桃子先輩だった、なんてことないですよね? キジムナーとか、ゆきんことか』

 

「ないない、さすがにないよ。私、別に歩く都市伝説とかじゃないからね」

 

 ただでさえドワーフだとか座敷童子だとかと噂されているのに、追加で人魚姫とか言われても困る。もちろん、キジムナーもゆきんこも無関係だ。

 というか、なんで人魚『姫』なのか。やはり、最後は泡になって消えてしまうのだろうか。

 そうだとしたら、切ない話である。

 

 さて、その後。柚花に色々と説明を受けたところ。現在の琵琶湖ダンジョン周りは以下のようになっている。

 

 曰く、琵琶湖ダンジョン第四層、深潭宮のライブカメラに、探索機器をまじまじと眺める『人魚姫』の影がうつり込んでいた。まあ、これは無論、桃子なのだが。

 曰く、琵琶湖ダンジョンには元から『人魚姫』なる目撃談があり、今回のトラブルもそれと同一視されている。

 曰く、深潭の主は巨大なクジラのような生物。常に魔物の群れを引き連れており、深潭宮へ挑む探索者たちの最大の敵。間もなく大規模な討伐計画が実行されるらしい。

 

 とのことだ。

 

 ライブカメラについては、魔石バッテリー技術の限界があるため、画質がそもそも最低限のものであったらしい。

なので、髪が長い女性ということまでは分かっても、顔まで判別つくようなものではないとのことだった。うっすら写り込んだ緑と蒼の光も、ダンジョン内の魔法光との区別もつかないようで助かった。

 

 三つ目の「大規模な討伐計画」自体は前々から存在していたようだが、どうやら遠野ダンジョンにて探索者たちを苦しめていた大妖怪、鵺の討伐成功のニュースが後押しとなり、琵琶湖ダンジョンギルドが重い腰を上げたのだそうだ。

 これに関しては桃子も無関係とは言えないため、なんだかちょっと、責任を感じなくもない。せめて討伐が成功するよう、応援だけはしておこうと思う。

 

 

 そんなわけで、琵琶湖ダンジョンに少しだけ詳しくなった桃子である。

 

 が、個人的には、琵琶湖ダンジョンの人魚姫情報よりも、もっと楽に採集できるダンジョン野菜とか、ダンジョンエビ、ダンジョンイカの情報のほうが欲しかった。

 もともとはシーフードカレーを作るのが目的であって、別に琵琶湖ダンジョンの第四層踏破を考えているわけではないのだ。

 なんなら、もっと楽に魚介類が獲れるなら、琵琶湖ダンジョンには二度と行かなくてもいいとすら思っている。なんせ、最後に肺から水を絞り出す作業がとっても大変だから。

 

 そんなことを柚花に話してみたところ――

 

「でも桃子先輩、それっていわゆる『フラグ』じゃないですかね?」

 

 などと言われてしまった。

 

 

 ここはひとつ、柚花の勘が外れることを祈っておく桃子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 桃子の職場である、探索者アイテム工房。

 こじんまりとした建物で、そこで働いているのは代表の所長。設計士である和歌。そして実務担当の親方と、その下っ端の桃子の四人だけだ。

 とはいえ、作業が忙しくなる時期には親方の弟子筋のものたちが招集されるため、人数が多いときは非常に騒がしくなるのだが。

 

 そんな職場が、この日は少々空気がピリついていた。

 

「おはようございます、和歌さん。ええと……なんか向こうから凄い怒鳴り声が聞こえますけど、何かあったんですか?」

 

「おはようございます、桃ちゃん。それがですねー、ちょっと取引先の手違いとか、届いた武器の状態がひどすぎるとか、色々とありまして親方さんがご立腹なんですよー」

 

 やはり桃子同様、居心地を悪く感じているのだろう。ふわふわ系お姉さんである和歌も、今日はやや神妙な雰囲気で、桃子にそっと顔を近づけて小声で説明してくれる。

 確かに、奥から聞こえるのは親方の怒鳴り声だ。最初は工房の誰かに怒っているのかとも思ったが、どうやら電話口の業者に文句を言っているようだった。

 仕事上の桃子の上司にあたる親方は、年齢としてはすでに60を超えている。体格は男性としては小柄な方なのだが、職人気質・豪快ながら手先は器用・すごい筋肉、といった要素が凝縮されており、桃子は親方こそがドワーフなのではないかと内心疑っているほどだ。

 

 若いころ下町の工場で働いていた親方は、数十年前に日本でも各地でダンジョンが発見されるようになると、ダンジョン探索者として活動を始めた。

 そこで持ち前の技術に加え、【加工】などのクラフト系スキルに恵まれてからはダンジョン武具専用の技術者へと転身し、それからずっと第一線で働いているベテランである。

 今でも、ベテラン探索者から名指しで依頼が来たりするし、弟子入り希望者が年に何回かは戸を叩いてくるとかなんとか。

 そんな、凄い親方が、電話口に滅茶苦茶怒鳴っていた。

 

「というわけで、桃ちゃんにお仕事を与えますねー? 親方さんがお電話を終えたら、桃ちゃんがお茶でも入れてきてあげてくださいー」

 

「えっ、や、嫌ですよさすがにっ。親方、滅茶苦茶怒ってるじゃないですか。こんな怒ってるの初めて見ましたよ?」

 

 基本的に誰にでも人当たりの良い桃子とはいえ、電話の相手に怒り散らしていた親方に対して自分から関わっていきたくはない。

 せめて、時間がたって怒りがおさまってからにしたい。

 まあ、嫌だと言っても仕事で親方から指示を聞かなければいけない以上、時が過ぎるのを待つという選択肢はそもそも無いわけだが。

 

「あ、ほらー。親方さんお電話終わって一服してますよー? 可愛い孫の桃ちゃんなら大丈夫です、はいお茶をどうぞー」

 

「いや、孫じゃなくてただの新人社員ですけどぉ……パワハラだ、パワハラだぁ……うぅ、めそめそ」

 

 なんだかんだで押しに弱い桃子は、和歌からお茶の入った湯飲みを押し付けられて、恐る恐る親方の作業場へと足を運んでいく。

 和歌だけでなく、向こうの方からは所長が桃子に対してサムズアップを送っている。桃子はちょっとイラっとした。

 所長も根はいい人なのだが、こんど嫌がらせに激マズグミでも買ってきて所長に食べさせようと思う。

 

 

 

「し、失礼しまーす。あの、親方。お茶をお持ちしました……」

 

 扉をコンコンとノックしてから、親方の作業場へと踏み込み、恐る恐る親方の顔色を窺う。

 忌々しそうに電話を睨み、電子タバコから煙をふかしていた親方が、桃子の声に気付いて振り返った。

 桃子はてっきり「そこに置いとけぇ!」とか怒鳴られることを覚悟していたし、たまにやってくる弟子筋の者たちならば確実にそんな感じで怒鳴られていたことだろう。

 

 が。

 

「おっ、おおうっ……桃の字か。あー、すまねえな。なんか恥ずかしいところ見せちまったなァ」

 

 怒るどころか、慌てて電子タバコを口から離して、親方の方から謝ってきた。

 なんで?! と頭の横にハテナが浮かぶ桃子であるが、とりあえず湯飲みのお茶を差し出す。

 

「おう、頂くぜ。電話越しに熱くなりすぎて喉が渇いちまったところだ、あんがとよォ」

 

 そして、まだ熱いと思うのだがお茶をグビっと飲み込んだ。凄い。

 しかし親方、桃子に対してはさっきの怒鳴っていたのが嘘のように態度が違う。怒りがどこかへ消えてしまったようだ。

 まるでそれは、そう。仕事で怒り散らしているところを溺愛する孫に見られてモゴモゴする、実は優しいお爺ちゃんのような姿であった。

 無論、桃子は孫ではなくただの新入社員なのだが。

 

「あ、あの……親方。お電話、何かあったんですか?」

 

「あー、そうだな。見てくれよ、あれ。俺に名指しで修理依頼が来たんだがよォ、酷ェもんだろう?」

 

 親方が指をさした作業台には、一つの大剣が置かれていた。

 

 探索者目線から見てもなかなか見ることのない大剣で、まるでファンタジーゲームに出てくるような装飾の中心には、桃子が見たことがないような……否、一度しか見たことがないような大きな魔石がはめ込まれている。

 よほど固いものに強引に突き刺したのだろう、剣先が欠けてしまっており、表面も傷だらけなのが遠目にもわかるほどだった。

 

「え……親方、こ、この剣は……」

 

 しかし、剣先の欠けなど可愛いものだと、一目見ればわかる。

 親方も大きくため息をつくわけだ。なんせ、刀身の根元から無残に折れてしまっているのだ。

 まるで、この剣を杭か何かにしてハンマーで叩きこんだのじゃないか、という折れ方である。

 

「どういう使い方をしたのか分からんが、握りも何かの衝撃で曲がってやがるしよォ。どんな鬼畜野郎の仕業か知らんが、こんな扱いをされたんじゃ、剣が泣いてるぜェ」

 

「わ……わァ……」

 

 剣が泣いている。そして桃子も泣きそうだ。

 

「さすがの俺もこれを直すのは骨が折れるってもんだがよォ。組合の野郎、発注するだけしておいて、洞鋼が準備出来ねェときやがる。なんだかデケェ魔物を討伐するための、なんとかっていう兵器のためにありったけかき集めてるってェ話だぜ」

 

 親方は話を続けているが、桃子の耳には入ってきていなかった。

 目の前の無残な剣。親方の言うところの酷い扱いで泣いている剣には、見覚えしかなかった。

 落とし物として半年以上持ち主の手には帰れず、カレーの材料にされかけ、最終的には杭としてハンマーで魔物へ叩きこまれた、実に不幸な大剣だ。

 

 

 親方、ごめんなさい。

 剣を泣かせた鬼畜野郎は、目の前の私です。

 

 

 桃子は心の中で必死に親方に土下座して謝った。あと、サカモトにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【りりたんの朗読チャンネル】

 

 

 あら、途中からの視聴者さんが何人かいるようですね。

 

 ふふふ。おはようございます、こんばんは、りりたんです。

 今日も静かなダンジョン内で、朗読をしています。

 モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。

 

 

 実は今まで、『ダンジョン武器の歴史』という本を朗読していました。

 面白いですね。

 今から80年ほど前のイギリスのダンジョン全盛時代は、今ほど技術が発達していなかったのに、武器自体は剣や弓など、現代とさほど変わっていなかったんですよ。

 火器を持ち込む探索者さんも多くいましたが、何故だか矢や投石と比べても、弾丸はさほどの効果を発揮しなかったんですよ。

 後の研究によれば、魔力をもった人間が直接魔力を込めたものかどうかの差、が重要なポイントなのだそうですよ。

 

 でも、最近は技術が発達して、魔物に効果を見込める遠隔武器なども開発中なんですよ。

 怖いですね、そのうち探索者たちが火器を持ち込む日が来るのかもしれませんね。

 

 ふふふ。りりたんは火器は使いませんよ。りりたん、どちらかというと魔法タイプなのです。

 

 得意な魔法ですか?

 

 ふふふ。本に関する魔法ですよ。具体的には、秘密ですよ。

 

 もっと知りたいですか?

 

 じゃあ、りりたんの居る所までこられた人には、ご褒美におしえてあげちゃいますよ。

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