ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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十一章 けものの姫
えあろのうどん


「鋼の刃は俺の誇り。敵を斬り裂き、道を拓く剣。幾多の困難を越え、俺らの名を食の歴史に刻みこむ」

 

 剣を掲げた若い男性探索者は、その剣を高く掲げて宣誓する。

 その剣で、道を切り開き。幾多の困難を越えると。

 

「魔力の光は私の誓い。知恵の灯は道を照らす。私の魔法で未来を紡ぎ、勝利と実りの収穫をもたらしましょう」

 

 杖を掲げた真面目そうな男性探索者は、その杖を高く掲げて宣誓する。

 己の魔法と知恵で、未来へ続く道を照らすと。仲間に恵みをもたらすと。

 

「鋼鉄の盾こそ我が決意。悪しきものより盟友を守り、立ちはだかる岩山たらん。命果てるとも、食の喜びは決して折れぬ」

 

 盾を掲げた大柄な男性探索者は、その盾を高く掲げて宣誓する。

 その盾とともに、仲間を守る壁となり、岩となり。何があろうとも決して折れぬと。

 

 三人は、その剣を、杖を、盾を重ねて、言葉を続けていく。

 

「決して、人の道を踏み外さず――」

 

「決して、友の手を離さず――」

 

「決して、共に掲げた理想を忘れず――」

 

 

「我ら、美食の絆に導かれし美食三銃士、ここに契る! すべては美食へ続く道のために!」

 

 

 彼らのこの誓いが、この理想が。とある少女の救いとなることを。

 少女も。そして、彼ら自身も。

 今はまだ、気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香川ダンジョン。

 

 通称「うどんダンジョン」とも呼ばれるこのダンジョンを訪れた探索者たちが第一層『石造りの街』へと降りれば、そこには石造りの廃墟のような地形を活用し、さまざまな者たちが自らの店舗を構えて営業している姿を目にすることになる。

 雑貨などを扱う店もあるにはあるが、その大半はうどん店だ。自らの腕に自信を持つ探索者たち――いや、うどん職人たちが、訪れる人々に独自のうどんを日々振る舞っている。

 

 それこそが、人呼んで「うどんストリート」。

 そしてその活気あるストリートには四軒の、常に行列が絶えないうどん店が存在していた。

 

 そんな人気店の一つに、この日、珍しい客が訪れていた。

 

「今日は貸し切りであなたたちしかいないから、存分に食べてくれていいからね」

 

「うわーい、えあろさんのおうどん! 楽しみです」

 

 香川ダンジョンに君臨するうどん四天王の一人、風祭えあろ。

 彼女はつい先日に開催された6月のうどん大会フェス祭りにて、前回優勝者である炎城寺マグマの連覇をとうとう阻止し、今季の王者となった。

 もとから人気のあるうどん店だったのだが、今は優勝直後ということもあり、食事時などは連日長蛇の列ができている。

 

 しかし、そんなえあろの人気店は本日は休業。とある客を迎えるために、貸し切りとなっていた。

 入り口に「本日休業」の看板が立てられ、えあろのうどんを食べにきた探索者たちが残念そうな声をあげて去っていく。

 尤も、周囲には他の四天王をはじめとした素晴らしいうどんを提供する店がいくつも存在しているので、残念そうな声をあげていた客たちも満足いくうどんにありつけたのが救いだろう。

 

 

 そんな、普段なら行列が出来て満席となっている店内には、今は一人の少女だけが訪れていた。

 否、人間の少女は確かに一人だけであるが、しかしその周囲をよく見れば、この店を訪れたのが彼女――桃子だけでないことがわかる。

 

「桃子は。この前から。これをずっと食べたがってたからな」

 

 カウンター席で、念願のうどん店に来られたことでほくほく笑顔を浮かべる桃子の肩に座っているのは、風の妖精ヘノ。

 彼女は桃子の肩の上に乗ったまま、視線はカウンターの向こう側へと向けられていた。視線の先ではえあろの手によって、最初はただの白い粉だったものがどんどん麺へと変化していっている。

 

「う、うどん大会で、優勝したうどんですからねえ……」

 

「お酒も準備してくれるだなんて、わかってるわね♪」

 

 桃子の左右を挟むようにカウンターでうどんを待ち構えているのは、ヘノの親友である水の妖精ニム。そして、お酒の妖精ならぬ桃の木の妖精クルラ。

 彼女たちは、以前再建されたペンション『パイカラ』を訪れた際に、えあろとも面識があるメンバーだ。

 クルラは既に、えあろに提供された梅酒を味わっている。

 

「はじめましてだねぇ。大地の妖精の、ノンだよぉ」

 

 そしてもう一人。ふんわりとした明るく茶色い髪に、ヘノやニムのようなスリムな妖精たちと比較すると豊かで女性的な体つきをした、間延びした口調で話す妖精。

 薄黄色の魔力を纏う彼女は、土と大地を司る妖精のノン。ヘノの仲間たちの中では、随一の常識的な思考回路を持っている妖精である。

 彼女は初対面となるえあろにきちんと挨拶を向け、挨拶をされたえあろもまた、慌ててぺこりと妖精へと名乗りと共に頭を下げる。

 幾人かの妖精と知り合うことで、妖精という存在の奔放さを理解していたえあろは、初対面できちんと挨拶をしてくる妖精に逆に面食らっている様子である。

 

 

 この四人の妖精たちは、本日、桃子がこのうどん店を訪れる際の【隠遁】対策だ。

 桃子の【隠遁】というスキルは、他者からの認識を阻害する能力だが、その力はオンオフが効かせられない。所持者である桃子にもまるで呪いのように牙をむく、厄介なスキルだ。

 そのスキルがある限り、ダンジョン内では桃子は他の多くの探索者とは会話すらままならない。うどん店に入ってうどんを注文するなど、以ての外だった。

 

 その対策が「多くの妖精を引き連れ【隠遁】の魔力を乱してもらうこと」であった。

 桃子は以前もこの手法で、ダンジョン内ペンションである『パイカラ』に、堂々と宿泊客として宿泊した実績もある。

 今回のヘノ、ニム、クルラ、ノン、の四人は、今回の桃子の頼みを聞きこの香川ダンジョンまで桃子にくっついて一緒に訪れたメンバーたちである。

 

 

 桃子と4人の妖精たちは、カウンターの向うで作られていくうどんの製作工程を、それぞれ好奇心も隠さずにジーッと見つめている。

 えあろのうどん調理は、非常に個性的だ。彼女は、製作した麺をその場で一度、魔法の力で乾燥させてしまうのである。

 それはおそらく、世の中を探しても彼女しか実践していない調理法だろう。

 

 魔法の力で乾燥させることができるとしても、その直後に茹でてしまうのだから乾麺にする意味がないようにも思えるが、ことダンジョンにおいては事情が違ってくる。

 風の魔法で食材を乾燥させる際に、えあろはその風の魔力をうどんの麺の内側まで浸透させているのだ。あたかも、地上から持ち込んだ食材がダンジョン食材の如く、魔力豊富な食材と化す。

 もとから魔力を含有するダンジョン食材ならば、その魔力は更に練り上げられ、食べたものの体内で魔力の循環を活性化させる。

 

 また、その際にはそれぞれの風味を魔力ごと封じることが出来るため、単純に味や風味の面でも大きく有利に働くのだ。

 生のままでは決して持たせられない繊細な風味と、練り込まれた魔力。それが、彼女のうどんの秘密だった。

 

「何度やっても、ヘノさんの前で風の魔法を使うのは緊張するわね……」

 

「気にするな。下手くそだったら。教えてやるからな」

 

 風の化身たるヘノが見つめる前で、風の魔力を操り麺や具材を乾燥させていく。まるで試験を受けているような状況に、えあろには少なからず緊張がみえていた。それでも、その手際はミスひとつなく、見事なものである。

 桃子の目にはよくわからないことだが、恐らくまさに現在進行形で、麺や具には風の魔力と、それを利用した様々な風味が練り込まれているに違いない。

 

 

 

 

「えあろ師匠、お湯は沸かしておいたっすよ!」

 

「ありがとう、ポンコちゃん。ごめんなさいね、今日は修行の予定でもないのに」

 

「構わないっすよ。ポンも、桃子師匠にえあろ師匠のうどんを食べさせてあげたかったっすから」

 

 そして、麺を製作するえあろの向こう側、調理スペースのかまどで湯を沸かしていたのは化け狸の少女、ポンコである。

 ポンコには、5人の師匠がいる。

 一人目は、カレーうどんの師匠こと、桃子。料理のことをなにも知らなかったポンコに手を差し伸べ、カレーうどんというものを伝えたのがこの桃子だった。

 二人目は、香川ダンジョンうどん四天王の一人、田中二郎。彼は堅実で地道なうどんが売りで、特別秀でた特徴こそないものの、まず基礎から学ぶべきポンコの師匠としては適任だった。

 三人目以降が、うどん四天王の残りの三人だ。マグマ、氷河、えあろはそれぞれのやり方で、ポンコに様々なうどんの制作について叩き込んでいるのであった。

 

「それにしても、ポンコちゃんから聞いたときはびっくりしちゃったわ。薄々勘づいてはいたけど、やっぱり桃子さんがももポンちゃんのオリジナルだったのね」

 

「あ、そういえばももポンについては、えあろさんには話してませんでしたね」

 

 この日の桃子の来訪予定をえあろに伝えたのはポンコである。

 風祭えあろは、桃子のことを知る数少ない探索者だ。単にタイミングがなかったのでポンコとの関係性についてはきちんと話したことがなかったのだが、この機会にポンコとの関係性も説明することにした。

 桃子はポンコのカレーの師匠であり、昨年のうどん大会に姿をみせた、ももポンという少女のオリジナルだ。

 

「ポン、人間に化けられるようにはなったのに、未だに桃子師匠に化けようとすると半獣姿になっちゃうんすよね」

 

 ももポンとは、ポンコが桃子に変化した姿である。

 桃子の情報を隠す【隠遁】と、桃子の姿を再現する化け狸の変化の力。その二つの力が拮抗することで誕生してしまったのが、桃子の身体に狸のケモノパーツが生えているという、桃子でもない、狸でもない、ケモ耳少女「ももポン」だ。

 昨年末。まだ人間姿にうまく化けられなかったポンコは、ももポンのたぬ耳とたぬ尻尾を外套で隠した状態で、うどん大会フェス祭りに参加していたのだ。

 尤も、人間の少女姿に変化できるようになった今となっては、ももポン姿に変化することももうないのだろうなと、桃子は懐かしむ。

 ももポンとは、桃子にとっては、過ぎ去った懐かしい思い出だ。

 

 なお。桃子が寝ている間にももポンに変化したポンコが、柚花に頼まれるままに様々なコスプレ衣装を着用していることを、桃子はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 カウンターには一人前のうどんと、小さな器の妖精用のうどんが4つ、並べられていた。

 

「さすが。キノコ乾燥女だな。この。乾燥させたキノコが。特にいい香りがするな」

 

「よ、妖精も食べやすい、細めのうどんで、嬉しいですねぇ」

 

「んふふ♪ 梅酒に合わせてうどんを提供するなんて、とても素敵ね♪」

 

「ほら、クルラはもう少し遠慮しないと駄目だよぉ。うどんが主役だからねぇ?」

 

 妖精たちは、食べやすい細めの麺で作られたうどんを楽しげに啜っている。

 彼女たちにとってうどんと言えば「カレーうどん」のことだったのだが、今回のえあろのうどんはカレーうどんではなく、魚介ベースの透き通ったスープのうどんだ。奇しくも、桃子には馴染み深いものとなった瀬戸幻海の食材がメインなのだそうだ。

 普段は食べることのない未知の料理に、妖精たちは舌鼓を打っている。

 

 もちろん、舌鼓を打っているのは妖精だけではない。桃子も、人間用の器に盛られたうどんを、ずるずる、ずるずると味わっている。

 それは、とても美味しいうどんだった。

 桃子の味覚とボキャブラリーでは、練り込まれた魔力について詳しく語ることはできない。一般的な味覚と違い、魔力について語るのは難しいのだ。

 ただ、それでも。なんだか非常に美味しく、ひと口ごとに身体がどんどん満たされていくことはわかる。

 ヘノの風の魔力に包まれたときの感覚にも似た、言葉にならない不思議な充実感がある。これがまさに、練り込まれた風の魔力の効果なのかもしれない。

 

 ついついおかわりをしてしまい、2杯目のうどんを半分ほど食べたところで、ようやく桃子は口を開く。

 その箸では、付け合わせとして入っている乾燥キノコをつまんでいる。

 

「そういえば、この乾燥キノコって、前の大会のときには入れてなかったんですよね?」

 

 乾燥キノコが、パリッとしても美味しいし、つゆに浸して柔らかくして食べても美味しいのだ。

 そして、肝となっているのがそのキノコの風味である。このキノコの香りと味わいが、全ての具材をうまく包み込み、繋げているのだ。

 全体の味としては魚介メインのうどんだというのに、最後はこのキノコによってこのうどんは完成している。

 

「ええ。前から、ヘノさんは私のことを『キノコ乾燥女』って呼ぶじゃない?」

 

「な、なんか、うちのヘノちゃんが失礼な呼び名をつけてしまってすみません」

 

「いえ、違うのよ。それでインスピレーションが湧いたのよ。あれから色々と情報を集めて、とある筋に依頼してこのうどんに合うキノコを探し出して貰ったの」

 

「師匠、師匠! そのキノコ、香川ダンジョンじゃ採れない稀少なキノコなんすよ! すごい良い香りで、えあろ師匠のうどんにマッチしてて、ポンも大好きになっちゃったっす!」

 

 ポンコの言うとおりで、このキノコはえあろのうどんに組み合わせることで最高の品となる。恐らく、ポンコのカレーうどんやマグマの激辛うどんに合わせてもこうはなるまい。

 

「そっかー、えあろさんのうどんのためのキノコ、かあ……」

 

 ダンジョン食材を得る方法と言うのは、大きく三通りある。

 

 ひとつ、ダンジョン素材を扱っている専門店で購入すること。

 魔物素材や薬草類はもとより、日持ちするタイプのダンジョン食材ならば専門店で取り扱っていることも多い。

 ただし、そういうものは既に魔力が抜けてしまっている場合が多く、高品質を望むのは難しい。

 

 ふたつ、自ら収穫しに行くこと。

 これは、文字通り誰かに頼ることなく自分の手で素材を収集してまわることだ。

 労力も危険度も桁違いだが、他者を間に挟まない分だけ、新鮮で採れたての、望み通りのものが入手できるのは間違いない。

 

 みっつ、素材採取の仕事を受け付けている探索者に依頼を出すこと。日持ちしないダンジョン素材の場合は、これが一番多いパターンではないだろうか。

 桃子もたまにギルドで鉱石や薬草など、ダンジョン素材収集の依頼を受けてお小遣いの足しにしていることがあるが、それの食材版である。

 ギルドに仲介を頼み、掲示板のような形で依頼を貼り出すことも出来るし、個人的に信頼できる探索者がいるのならば、直接依頼することもあるだろう。

 世の中には、食材専門の探索者グループも存在し、各地で活躍しているのだそうだ。

 

 桃子とヘノが行く先々で行っているカレー材料集めは、二つ目の「自ら収穫」に該当する。

 一方えあろの場合は、香川ダンジョンでうどん店を開きながら各地のダンジョンにキノコを探しにいくのは現実的ではないので、必然的に三つ目の「探索者に依頼」のパターンとなるのだろう。

 

 依頼を出したえあろの判断がよかったのか、このキノコを見つけだした探索者がすごいのか。

 なんにせよ、桃子が箸でつまんでいるこのキノコは。このうどんにこれ以上のものはないと言い切れる程に、最高の相性のキノコだった。

 

「キノコひとつでここまでうどんの完成度を引き上げることが出来るなんて、すごいなあ」

 

 もし、自分が。

 ダンジョンのキノコを主役としたキノコカレーを作るならば。キノコの風味をもっと主軸にしたカレーを作るならば。

 いったいどのようなカレーを作るだろうか。どのようなキノコが良いのだろうか。カレーというのは香辛料の風味が強いため、キノコの風味をどう活かすかが重要となってくる。

 

 桃子は脳内でカレーを試作し始める。

 えあろのうどんを味わいながらも、桃子の脳内では着々と、まだ見ぬレシピたちが作り出されていくのだった。

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