ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

335 / 624
妖狸の森のキノコ狩り

「本当は、ポンコちゃんには私たちのうどんだけで満足せずに、もっと色々な場所の、様々なうどんを味わって欲しいのよね」

 

 厨房の奥で鼻唄を歌いながら魚を炙っているポンコの後ろ姿を眺めながら、桃子の正面に立つえあろが小さく呟いた。

 桃子もうどんを食べ終えて、いまは冷たいお茶を飲んでいる。妖精たちもお腹を膨らせ、ニムとノンの二人は桃子のポケットのなかでおやすみ中だ。

 ヘノは桃子の肩の上で休憩中。クルラはお酒を味わいながら、ポンコが作っているおつまみの到着を待っている。

 

「お前らのうどん。十分おいしいんだから。満足くらい。するだろ」

 

「んふふ♪ 私たちも、満足してるわよ♪」

 

「妖精にもそう言ってもらえるのは感無量ね。……でも、違うのよ。ええと、なんて言えばいいかしら」

 

 ヘノたちが、最後に残った乾燥キノコの欠片を口に頬張りながら答えるが、えあろの伝えたいことはそういうことではないようだ。

 ダンジョンという閉ざされた世界で生まれ育った妖精たちとは違い、地上という広い世界を知っている桃子としては、えあろの言いたいことも理解出来る。だが、ここは黙ってえあろの続く言葉に耳を傾ける。

 

「うどん四天王なんて呼ばれてはいるけれど、純粋なうどんの技術や経験で言えば、私たちはまだまだ若輩なのよ。それこそ、世の中にはもっと途方もなく、様々なうどんがあるの」

 

 うどん、という料理の世界ひとつとっても、世の中は広い。

 香川ダンジョンの四天王と言われる彼らも、あくまでこのダンジョンにおいてはトップ層かもしれないが、地上のうどん職人としてみるならばえあろの言うとおりで、彼らはまだまだ若い。

 うどんの世界において、彼らより遥かに多くの経験と技術を持った職人は、いくらでも存在するのだ。

 

 そして、香川ダンジョンだけで網羅できる程に、うどんという料理の幅も狭くはない。

 うどんは決して、香川県だけのものではないのだ。全国には、まだまだ多種多様のうどんが存在しているのだから。

 

「だからポンコちゃんには、もっと広い世界をみて、知ってほしいのよね。立場上、それが難しいのもわかるけれど……」

 

「そうね♪ 私も、窪地のお婆ちゃんが作ってくれたうどんは大好きよ♪」

 

「そういうもんなのか。そんな話を聞くと。ヘノも。地上のうどんが。気になってくるな」

 

 香川ダンジョンに住まうポンコは、他の世界を知らない。

 無論、最近では妖精の国や桃の窪地の監視小屋もポンコの行動範囲のひとつではあるのだが、彼女の世界が人間よりも遥かに狭い範囲で完結していることには間違いない。

 えあろは、そこを心配しているのだろう。

 

 本当の意味で、うどんの世界を知るために。

 香川ダンジョンに籠らず、もっと様々なうどんを食べてほしい。様々な職人を知ってほしい。

 ポンコの師匠として、あるいは姉のような存在として、えあろがそう願ってしまうのは、仕方ないことなのかもしれない。

 

 だが、ポンコは魔法生物であり、化け狸だ。この香川ダンジョンに隠れ里があり、そしてその族長の孫娘でもあるのだ。ポンコが自由に広い世界を見て回れる立場ではないことくらい、えあろも理解している。

 だからこそ、歯がゆいのだ。

 

「たぬきが世の中を見てまわれないなら。お前たちが。世の中の色んなうどんを。作れるようになるしかないな」

 

「そうね♪ えあろが修行して最高の職人になれば、解決するわよ♪」

 

「二人とも、結構簡単に言うじゃん」

 

「ふふ、厳しいわね。まあでも、私が経験を積めばよいというのも真理よね」

 

 確かに、えあろが全国各地のうどんを再現できるようになれば、このダンジョンにいながら全国のうどんを知ることができる。逆転の発想だ。

 とはいえ、そんなことが簡単に出来るならば世の料理人たちも苦労しないのだ。

 妖精たちの言葉に、桃子は苦笑を浮かべるしかない。

 

「それで、経験を積むにあたって、ヘノさんに風の魔力について聞きたいことが幾つかあるのだけれど……」

 

「仕方ないな。少しだけだぞ」

 

「なんの話しっすか? あ、クルラさん、おつまみできたっすよー」

 

「んふふ♪ 待ってたわ♪」

 

 その後しばらくの間。

 おつまみをつまみながらの、ヘノによる風の魔力運用講座が開催されるのだった。

 残念ながら、桃子にはちんぷんかんぷんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第三層まで。降りてきたことだし。さっそく。食べ物を探すか」

 

「さ、さっきのうどんみたいな……お、おいしいキノコが、欲しいですねぇ……」

 

「ここはポンの庭みたいな場所っすから、分からないことはなんでも聞いてほしいっすよ」

 

 桃子たちは今、香川ダンジョン第三層に存在する広大な森の中にいる。

 えあろのうどん店でお腹を膨らませた一行がポンコの誘いのままに訪れたのは、第三層『妖狸の森』だった。ここに来た目的はいつもと同じく、カレーの食材探しである。

 

 そこは、空すら見えないほどに鬱蒼とした森だ。

 上を見上げれば、ビルのように高く伸びた巨大な樹木が緑の分厚い天井を形作っており、所々に見える木漏れ日が見ようによってはプラネタリウムのような様相を醸し出している。

 ダンジョンの魔法光に照らされた足元は殆どが大量の木の根と、そして木の幹に広がるシダ植物や、ダンジョン特有のツタ植物が広がっていた。

 静かな森の中には、時折鳥の声が響く。ポンコによれば、鳥型の魔物も出現するらしいが、しかし甲高い声をあげているのは原生生物の鳥だそうだ。

 

 ノンやクルラといった、この森をはじめて訪れる妖精たちが感嘆の声をあげる。

 

「すごいねぇ。迫力ある森のダンジョンだねぇ。木も大きくて、先のほうが見通せないよぉ」

 

「んふふ♪ それなりに、強い魔物の気配も感じるから、桃子は気を付けましょうね♪」

 

「うん、ありがとう。気を付けて進むよ」

 

 ポンコと妖精たちに続いて、桃子が少し離れて後を追いかける。

 妖精たちが桃子から距離を置いているのは【隠遁】の効果を消さないためだ。妖精が桃子の周囲に集まってしまうと【隠遁】の効果が消失し、魔物たちからも見つかってしまい、逆に危険なのである。

 なので、えあろの店を訪れたときとは逆に、妖精たちは出来るだけ桃子のもとには集まらないように気をつけねばならない。実に、扱いづらいスキルだ。

 

 

 

 

 一行は、森の中の獣道をザクザクと進んでいく。

 

 香川ダンジョンの第一層は、うどんマーケット地帯を抜けると荒れ果てた荒野だけが広がっている。第二層は、闘技場と石壁迷宮のみで構成されている。そのどちらも、お世辞にもダンジョン食材を期待できるような環境ではない。

 そのため、このダンジョンで食材を採集しようとすれば、必然的に第三層のこの森へと降りてくる必要がある。

 

 とはいえ、ここは闘技場で第三層へと続く階段前を陣取る巨大ゴーレムを倒せるだけの実力者か、あるいは石壁迷宮内にある隠された階段の位置を知る、ごく限られた探索者しか降りられない階層だ。

 食材採集目的の探索者が気軽に訪れることは、あまりない。

 

 また、この森は『妖狸の森』という名称の指し示すように、古くから化け狸たちの住まう場所として認識されている。

 この階層には化け狸の里へ続く入り口が隠されており、そこを抜けた先が、化け狸たちの住まう巨大な隠れ里だ。

 とはいえ、化け狸が術を行使しないと入り口を開くことは出来ないため、ただの人間が里に入り込むことなどあり得ないと言っても良いだろう。

 

 

「ポンコちゃん、このキノコはどんなキノコ?」

 

「あ、それは毒キノコっすよ! 食べたら手足がしばらく痺れるっす。でも味は美味しいからおすすめっすよ」

 

「そっか、毒かー。あのね、毒があるものはおすすめしなくていいからね?」

 

 ポンコの案内のままに森を進んでいくと、さすがに深い森だけあって、いくつかのキノコを見つけることができた。

 が、残念ながらキノコというものには毒性を持つ品種も多く、そう都合よく食用に向いたキノコばかりが見つけられるわけではない。

 恐らく、ポンコの案内が無ければ、今ごろ桃子の持っている袋の中は、きっと毒キノコだらけになっていただろう。

 桃子は人間なので、なんだかんだでタフな魔法生物たちと違い、内臓は繊細なのだ。

 

「痺れるくらいなら。桃子なら大丈夫だろ。せっかくだし。持って帰ろう」

 

「んふふ♪ さすが桃子ね、お腹も丈夫だわ♪」

 

「も、桃子さんが食べる分にはいいですけど……ゆ、柚花さんのごはんには入れないでくださいねぇ……?」

 

「待って待って、みんなの中で私ってどういう扱いなの?」

 

 しかし、ポンコの説明で毒キノコと分かったうえで、キノコを引っこ抜いては桃子の持つ採集用の袋に詰め込んでいく風の妖精が、そこにいた。

 というか、ヘノだけではない。

 ポンコが毒キノコだと説明したキノコも「桃子なら大丈夫」という謎の共通認識とともに、妖精たちは容赦なくぽんぽんと袋に放り込んでいく。

 おかげで、ポンコの案内があるにもかかわらず、桃子の持っている袋の中は、毒キノコだらけになっているかもしれない。

 ニムに至っては「桃子が食べる分にはいい」などと口走っていた気がする。桃子は自分の耳を疑った。

 

 気付けば、前にこの場所を訪れたときに見つけた、ベニテングダケを更に邪悪にしたような毒キノコまでもが当然のように袋に入っていた。

 素人目にもこれはヤバイでしょと想像できる見た目なために、とても判別が分かりやすくて助かる。

 ポンコの話によればこれは、味はおいしいけれど確実にお腹が痛くなるという毒キノコだったはずだ。いくら美味しくとも、毒と分かっているものをさすがに食べたくはない。

 

 とりあえず、この袋の中身は一度薬草の妖精ルイに見せて、毒キノコを一通り除外してもらわねば危なくて食べられないなと、桃子は結論付けた。

 ヘノたちの容赦のなさを見る限り、下手をしたら袋の中の大半が毒キノコかもしれないのだ。食えたものではない。

 

 なお、桃子が毒を食べても大丈夫かどうか、という件について。

 

 ダンジョン内に限って言えば、実際に桃子は魔力とスキルのごり押しにより多少の毒なら食べても平気な身体になっているので、結論からいえばヘノの「桃子なら大丈夫だろ」は正解である。

 そういう意味では現状、正しい認識を持っているのは妖精たちだったのだが、桃子がそれに気づくことはないだろう。悲しいすれ違い物語だ。

 

「相変わらず、桃子師匠たちは面白いっすね」

 

「え、今の会話に面白い要素ってあったかな……?」

 

 桃子は首を傾げながら、そして妖精と狸は何も気にせずに森の中を探索している。

 唯一、まともな感性を持つ大地の妖精ノンだけが、苦笑を浮かべてやり取りを聞いていた。

 

 

 

 

 

「そこの土の中にも、キノコが埋まってるみたいだねぇ」

 

「ノンさん、すごいっすね! これはポンも気づかなかったっすよ!」

 

 妖狸の森でのキノコ狩りを続けていくと、意外なところで才能を発揮して見せたのは大地の妖精ノンである。

 ほかのメンバーが目視でキノコを探し回るなか、彼女は土の中の魔力を感じ取り、土中で育つタイプのキノコを的確に見つけ出していた。

 

「魔力の豊富なキノコだとねぇ、土の中から、微弱な魔力が感じ取れるんだよぉ」

 

「すごいじゃん、ノンちゃん。豚みたい! トリュフを探す豚!」

 

「ノン。お前。豚だったのか」

 

「えぇ? 私は豚じゃないよぉ? どういうことだよぉ?」

 

 高級食材として知られるトリュフは土の中で育つため、豚の嗅覚を使って土中から探し出す手法が有名だ。探索の情報源が匂いか魔力かの違いこそあれ、ノンによるキノコ探索はまさにそれに似たようなものだろう。

 これは別に、ノンが他の妖精と比べて豊満な体つきであることは全く関係なく、あくまで彼女のキノコの探し方がそれっぽいというだけである。桃子に他意はない。

 ノンが指し示したポイントからヘノとニムが真っ先にキノコをザクっと掘り当てて、見つけ次第片っ端から桃子の持つ収集用の袋へと投入していく。

 

「で、でもこれ……な、なんだか……変な形ですけど、こ、これって本当にキノコなんですかぁ……?」

 

「あ、このキノコっすか! これ、この階層でもなかなか見つからない珍しいキノコなんすけど、正直言って変な匂いするんすよね。それに、味がほとんどしなくて、どう使えばいいのかサッパリわかんないっす」

 

「臭くて。味がないんじゃ。ハズレだな。あんまり。いいキノコじゃないな」

 

「魔力は豊富みたいなんだけど、残念だねぇ」

 

 土に埋もれていたキノコは、ゴツゴツとしたポップコーンのような形状だった。他のキノコで例えるならば、まるでトリュフである。

 またポンコによればほとんど味がなく、独特の香りを持つらしい。桃子も手に取って嗅いで見たところ、確かに癖の強い香りが自己を主張しており、見た目だけでなくその性質もトリュフみたいなキノコである。

 

「ふーん、見た目がトリュフで、味とか香りもトリュフで、ついでにノンちゃんが豚みたいにして見つけるキノコかあ」

 

「桃子♪ みんなもう先に行っちゃったわよ♪」

 

「え?! わわ、みんな待って待ってーっ」

 

 桃子の脳内では、このキノコについての情報が組み合わさり、一つの意外なる答えが導き出されようとしていた。しかし、その間にも狸と妖精の少女たちがどんどん先に進んでしまったので、推理は時間切れだ。

 手に持っていた、ゴツゴツした名もなきハズレのキノコを無造作に袋に放り込むと、桃子も慌てて獣道をかき分けて妖精たちの後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 その後も桃子たちは、ポンコの案内のままに『妖狸の森』の探索を続けていった。

 キノコや木の実を採取して、甘い香りのする花の蜜を皆で吸い、魔物と戦う探索者たちを見つけてはこっそり援護をして。

 あるいは、原生動物を近くから眺めて過ごしたり、鳥型の魔物にヘノが勝負を挑んでエアチェイスの末いくつかの魔石を持って戻ってきたりとしていたのだが、気づけば桃子の持つ採集用の袋はいっぱいになっていた。

 

「わー、気づけばなんだかんだで沢山収穫しちゃったね。なんだか分からない種とか、魔石とか、食べ物じゃないのも沢山入ってるけど」

 

「それ、毒キノコもたくさん入ってるよぉ? 食べていいものになると、少ないかもしれないねぇ」

 

 木漏れ日の降り注ぐ岩にこしかけて、桃子は袋の中身を覗き込む。

 そこには、種や魔石、なんだか面白い形の木の枝など、妖精たちが雑多にあれこれと放り込んでいる。

 その中でも食べ物に限って言えば、おいしそうなキノコから毒キノコまで、多くのキノコが雑多に放り込まれていた。先ほどのトリュフっぽいキノコもどこかに混ざっているのだろうが、ここから探すのはなかなか大変そうだ。

 

「ゆ、柚花さんには、安全なカレーを食べてほしいですから……ど、毒キノコは後で除けないとですねぇ…」

 

「んふふ♪ 帰ったらルイに見せて、毒のあるものだけ除外してもらいましょ♪」

 

「こういうとき、毒の妖精さんがいると便利っすねー」

 

 こういう時に頼りになるのは、毒の妖精――ではなく、薬草の妖精ルイの存在だ。

 何がどうしてそんな風に育ってしまったのかは桃子には分からないことだが、彼女は毒が大好きな毒のエキスパートである。普段から「ククク」と笑いながら毒物を収集するのが趣味なのだ。

 

「あいつ。薬草の妖精なんて言ってるけど。多分。毒の薬草の妖精だからな」

 

「あはは……」

 

 毒は薬にもなる。そして、薬は毒にもなる。

 それを体現したような妖精の姿を思い浮かべながら、桃子はヘノの言葉にただただ苦笑を浮かべるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。