ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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狸の里とポンコのお願い

「いらっしゃいぽん」

 

「うわあ、かわいい子狸ちゃん! 吸っていい?」

 

「桃子は。子狸を見るたびに。ちょっとおかしくなるな」

 

 桃子たちは、第三層『妖狸の森』を一通り探索し終えると、ポンコに誘われてそのまま第三層に存在する入り口を抜け『化け狸の里』へと足を運んでいた。

 ここは、妖精たちでいう妖精の国と同様に、ダンジョンとはまた別な空間に存在する、化け狸たちが築いた異界の『里』だ。ここが、ポンコの生まれ育った世界である。

 名称としては『里』と気軽に呼ばれている土地だが、面積でいうならばかなり広い範囲の里山だ。

 開けた空があり、いくつかの小さな山が連なっている。所々に小屋などの人工的なものもあるけれど、基本的には彼ら化け狸は自然とともに暮らしている。

 桃子が訪れたことがあるのは、このうちのごく狭い範囲だけである。改めて周囲の景色を眺めてみるが、実際にどれくらいの広さがあり、どれだけの化け狸が住んでいるのかは桃子にもわからない。

 

 そんな里の中、開けた沼の前の土地では、妖精と化け狸たちが思い思いに寛いでいた。

 

 

 

 

 

「んふふ♪ これが化け狸の里のお酒なのね? 素敵だわ♪ ノンもそう思わない?」

 

「そうだねぇ。良い土地で作られたのがわかる、素敵な香りのお酒だねぇ」

 

「妖精どのの酒も、華やかな香りが気持ちよくさせてくれるたぬー」

 

「うまいのう、うまいのう。この木の実とも合うぽんのう」

 

 クルラは、何匹かの化け狸たちと意気投合し、沼の畔で酒を酌み交わしていた。クルラが引きずり込んだのか、大地の妖精ノンも酒盛りに巻き込まれている。

 魔力の光をまとった二人の小さな妖精と、巨大な二足歩行の狸たちが、木製の小さな器にそれぞれの酒を注ぎ合っている。まさに幻想的な光景だ。

 

「んふふ♪ どっちも美味しいわ♪」

 

「たぬたぬたぬー」

 

 どうやら化け狸の社会でもそれぞれに役割というものがあり、いまクルラと酒を酌み交わしている狸は、この里における酒造を担当している化け狸だそうだ。

 桃子と会うまでは料理のイロハも知らなかった幼いポンコとは違い、いまクルラの目の前にいる狸はしっかりと酒の味というものを理解した大人の狸のようだ。クルラの作り出した酒を口に含み、しんみりと味わっていた。

 傍から見れば、二足歩行の大きな狸が、目を細めてうっとりしている愛らしい姿に見える。化け狸は、おじさんになってもその姿には愛嬌がある。

 

「クルラも、狸さんたちも、こんな時間から飲み過ぎはだめだよぉ?」

 

 時刻にして、まだ夕方にもなっていない昼下がり。

 さっそく酒を交代で飲み始めた妖精と化け狸たちを前に、ひとり大地の妖精ノンだけが、もしものときの停止役として待機しているのだった。

 ノンも自由に過ごしてよいのだが、普段からリドルのストッパーとして過ごしている影響だろうか。どうやら彼女は自分から苦労する役どころを買って出てしまうタイプのようである。

 

 

 

 

 

「ここが。化け狸の里に隠されてる。沼だぞ」

 

「こ、ここにも、みたことない魚とかが……い、いるみたいですねぇ……」

 

 沼のほとりで酒盛りが繰り広げられている一方、沼の上を漂っている光は、風の妖精ヘノと水の妖精ニムの二人だ。

 ヘノの興味は化け狸ではなく、もっぱらこの沼の中にいる――かもしれない、新手の食材だ。

 事実、ポンコがカレーうどんに使っているナマズだかなんだかわからない魚は、この沼で捕らえられたもののはずである。

 

「よし。ニム。すこし捕まえていくか。生け捕りにして。持って帰ろう」

 

「うぅ……は、破裂させるなら簡単ですけど……ちょ、ちょっと、生け捕りは難しいですよぉ……?」

 

「うーん。そうか。困ったな」

 

 ニムは水の妖精なので、魚を撃退することは容易い。だが、水を操れたとしても生き物を生け捕りに出来るかと言うと、決してそういうわけではない。

 例えるならば、風の妖精ヘノが空飛ぶ鳥たちを倒すことは容易くとも、倒さず生け捕り出来るかというと難しいのと同様だろう。ヘノとて、空中の敵を倒すのは好きだが、生け捕りというのは出来るかどうかわからない。

 

「まあ。とりあえず。沼の中も見てみるか。面白いのが。いるかもしれないしな」

 

「そ、そうですねぇ……」

 

 その後、ヘノとニムは試しに沼に潜ってみたり、沼の底の石を拾い集めてみたりと、初めて潜る沼を前にしてそれなりに満喫しているようである。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、それぞれに化け狸の里を満喫している妖精たちの姿を、桃子とポンコの二人は離れた木陰で眺めていた。

 

 ここ化け狸の里は、実に平和である。

 里から出れば魔物も現れるダンジョン内であり、未だ『牛鬼』という脅威が下層に潜んでいるのが嘘のように、のどかな里だった。

 魚が泳ぎ、鳥のさえずりが聞こえる。

 妖精の国でも、妖精に紛れて本物の蝶々が花の蜜を吸っていることがあるけれど、それと同様にこの化け狸の里には多くの原生生物が共存しているのかもしれない。

 ここがポンコにとっての、そして多くの化け狸にとっての、『唯一の世界』だ。

 

「今日は、色々と案内してくれてありがとうね、ポンコちゃん」

 

「ううん、いいんすよ。ポンね、師匠にも、森や里を案内したかったんすよ。だから今日は、とっても楽しかったっす」

 

「うん、とっても楽しかった。あ、でも、キノコとか収穫したものって私の袋に全部入れちゃってるけど、ポンコちゃんはいいの?」

 

「ポンはこの森の食べ物はいつでも拾えるっすからね。全部桃子師匠のカレーにしちゃって大丈夫っす」

 

「そっかー」

 

 えあろのうどんを食べたいと桃子が言い出したのがきっかけだけれど、この日は一日中ポンコの世話になってしまった。

 ポンコがえあろと桃子の間を仲介して、スケジュールを調整してくれて。うどんを食べたあとは第三層の案内もしてくれた。

 そして今は、化け狸の里まで連れてきてくれたのもポンコである。

 ポンコは自分がやりたかったから、とは言うものの、桃子としては何かお礼として返したい気持ちでいっぱいだ。

 

「でも、いい場所だね。食材も沢山あるし、自然も豊かだし」

 

「うーん、そう……なんすけどね」

 

「ん? ポンコちゃん?」

 

 この『化け狸の里』も『妖狸の森』も、どちらも良い場所だった。

 もちろん、森はあくまでダンジョン第三層なので、道の整備などはされておらず、魔物もそれなりに強いものが出没する。お世辞にも、安全な森とは言い難い。

 けれど、元から魔物の脅威とは縁の薄い桃子からすれば、ただただ自然豊かで美しい景色がそこにはあった。

 

 しかし、桃子の言葉とは裏腹に、ポンコの表情は曇っていた。

 むしろ、静かになって、俯いている。何か、考え込んでいる。

 桃子が心配げにポンコの横顔を覗き込んでいると、しかしポンコはすぐに顔をあげて、桃子に振り返る。

 

「桃子師匠! 実は師匠にお願いがあるんすけど、聞いてもらえないっすか?」

 

「ええと、私にお願い? うん、うん。もちろん聞くよ。なにかあったの? カレーのこと?」

 

「いえ、カレーのことではないっすけどね」

 

 そこで、桃子と二人きりになった折、ポンコが用件を口にする。

 実は、えあろのうどんを食べたいというのは桃子の用件だったのだが、その後に桃子たちを化け狸の里まで呼び出したのは、ポンコの用件のためでもあった。

 

 ポンコとしては妖精たちに聞かれて困る話でもないのだが、自然と桃子と二人きりになったので、この場でそれを切り出すことにした。

 なお、桃子はカレーの相談を期待していたようだが、ポンコの用件はカレーのことではない。

 

「じゃあ、なんだろう。聞かせてくれる? 私でよければ、力になるよ」

 

「はい、実は、長を……爺ちゃんを説得してほしいっす!」

 

「お爺ちゃん……狸の長を? 私が、説得するの? ええと……」

 

 ポンコの用件。

 それは、爺ちゃんこと、化け狸の長の説得だ。

 桃子も、師匠として、仲間として、ポンコが頼ってくるのならばその力にはなってあげるつもりではある。しかし、ただ『説得』と言われても、さすがに漠然としすぎていて、返答に困ってしまう。

 

「そっす! ええと、うーんと……えとね、とにかく一緒にきて欲しいっすよ!」

 

「わわっ、ちょっと待って待ってー」

 

 結局、桃子が詳細を聞く前に、ポンコはガバッと立ち上がると長の居場所まで駆け出してしまう。

 桃子も立ち上がり、沼の回りで戯れている妖精たちに一声かけてこの場を離れることを伝えてから、慌ててポンコのあとを追いかけ狸の長のいる東屋まで駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、桃子師匠をつれてきたっすよ、爺ちゃん」

 

「はぁ、はぁ、ポンコちゃん、走るの速いよぉ……あ、長もお久しぶりです。ええと、いつも柚花がご迷惑をお掛けしております」

 

「おう、カレーの嬢ちゃんか。まあ、そこに座んな。いやはや、柚花にはほとほと迷惑ばかりかけられておるからのう、きちんと躾を頼むぞ」

 

「あはは、わかりました」

 

 以前にも訪れたことのある東屋では、着流し姿の老人が独特の香りの煙を燻らせているところだった。

 桃子は老人に促されるままに、その向かいに敷かれた薄い座布団の上にお尻をのせる。

 

 老人が燻らしている煙は、薬草を煎じたような強い匂いを放っていた。その発生源は、乾燥させた薬草の束を筒状にして巻いたものだ。それを燃やすことで煙を吸う、いわゆる薬草煙草である。

 この煙草は薬草の妖精ルイが作り出したもので、その煙を吸うことで瘴気に侵された肺を癒す力を持つ「癒しの煙草」だ。

 

 もっとも、彼の肺に宿っていた瘴気は既に浄化が終わっているため、彼がこの煙草を吸い続ける必要はない。

 桃子の記憶では、この老人は「煙が臭い」だの「匂いがキツイ」だのと文句を述べていたはずである。

 それにも拘らず、未だにこの匂いのきつい薬草煙草を吸い続けているのを見ると、どうやらルイが作りだしたこの煙草には、文句を言いつつも吸い続けてしまうような不思議な常習性があるらしい。

 

「爺ちゃん、その煙草また吸ってるっすか? もう肺は治ったんじゃないんすか?」

 

「薬草を吸ってるだけだからいいんじゃよ。それよりポンコ、人前では爺ちゃんではなく長と呼べと言っているだろう」

 

「でもでも、爺ちゃん。桃子師匠はもう爺ちゃんがポンの爺ちゃんだって知ってるから、内緒にしても仕方ないっすよ?」

 

「やれやれ、そういうことじゃないんだがねえ」

 

 老人は、孫娘であるポンコに呆れたような嘆息を返して、口から薬草煙草をいったん離す。老人の脇に置かれた古めかしい灰皿に、煙草の先にしがみついていた灰が落とされる。

 そう、この老人こそがポンコの祖父であり、この化け狸の里の長である。

 いまは人間の老人のような姿をとっているが、その正体は巨大な二足歩行の狸であり、桃子など足元にも及ばない程の強大な力を持つ魔法生物だ。

 

「んで、ポンコ。カレーの嬢ちゃんを連れてきて、どうするんじゃ?」

 

「爺ちゃん、今日こそは爺ちゃんを説得して、頷いてもらうっすよ! 師匠もほら、頑固者の爺ちゃんに何か言ってやってほしいっす!」

 

「ああ、あの話かい……」

 

 それまで祖父と孫の微笑ましい会話を眺めていたカレーの嬢ちゃんこと桃子だが、どうやら話がようやく本題に入ったらしい。

 ポンコのお願い。それは「爺ちゃんを説得してほしい」というものだった。

 

「師匠、ガツンとお願いするっす!」

 

「どれ。カレーの嬢ちゃんの意見とやらを、聞かせてもらおうじゃないか」

 

 ポンコと、そして狸の長の視線が桃子へと集中する。桃子の発言を待っている。

 

 しかし――。

 

「あの、ポンコちゃん? 確かに力になるとは言ったけど、説得の内容を私も聞いてないんだけど……」

 

「うわっ、それを説明するのを忘れてたっす!」

 

「やれやれじゃ……」

 

 あわあわと慌てるポンコと、苦笑いを浮かべるしかない桃子。

 そんな若い師弟を眺めながら、長は呆れたように呟いて、灰皿に置いた薬草煙草を手に取って。

 再び、キツイ匂いの煙を燻らせ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ダンジョン情報総合スレ 雑談はほどほどに】

 

:カリフォルニアで、ショウグンキャッスルに君臨していた魔王ノブナガが倒されたってニュースになってるね。

 

:尾張国民はみんな複雑だわ。知らん外国人に討伐される信長とか。

 

:まあ、あくまでそういう名称の特殊個体がいたってだけで、織田信長本人なわけじゃないし・・・

 

:日本のダンジョンにもピラミッドがあるし、メジェド様もいるからな

 

:エジプトの友達はそれ聞いて大笑いしてたけどな

 

:尾道ダンジョンのスタンピードは、結局何が起きてたのかわからないまま、その日のうちに治まったために情報が少ないですね

 

:皆無というか、瀬戸幻海へ続く階段が崩れちゃってて調べようが無かったらしいな

 

:結果だけ言うと、セイレーンの特殊個体認定は解除。復活したあやかしを討伐した、人の味方だったと発表されている。

 

:噂では琵琶湖の人魚姫と尾道のセイレーンが協力してあやかしを倒したなんて言われてるね

 

:瀬戸幻海への階段は自然に復旧されたらしいけど、セイレーンの歌声が聞こえたり、クジラが泳いでるのが目撃されたり、嘘か本当かわからない情報が飛び交ってるね

 

:クジラはさすがに嘘だろ

 

:別ダンジョンの報告。吉野ダンジョンの中規模なダンジョン変動は終了した模様。サクラモリは4割がた地形が変わったので探索者は注意されたし。

 

:第三層への入り口を探すツアーも開催中らしいですね。

 

:摩周ダンジョンの湖の周囲のフキが、人間大に成長したらしいよ

 

:コロポックル目当ての探索者も多いけど、なぜだかフキのなかに入るといつのまにかフキのそとに出てるらしい。ちょっとよくわからないけど。

 

:無断で入るなってことだよな

 

:長崎ダンジョンの英霊流しは来月です。

 

:今年は何隻の英霊船が出るんだろうね

 

:素人質問で恐縮ですが、英霊流しってなんですか?

 

:その年に亡くなった一定以上の実力を持った探索者(引退後の病死や老衰など含む)が、長崎ダンジョンの英霊として送り出される儀式。具体的には長崎ダンジョンスレで聞いてくれ

 

:あそこは過去の英霊たちが守ってるダンジョンだからね

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