ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ありがとうドワーフ

「親方のためにー、えーんやこーらさっ!」

 

 ドガッ

 

 

 房総ダンジョン第二層の坑道エリア。

 少し前に新しい発掘ポイントとして広まったそこには、少女の歌う即興ソングが流れていた。

 

「サカモトさんの剣にー、あーいむそーりーっ」

 

 バゴッ

 

 

 そして、歌のリズムに合わせてハンマーを振るい、岩盤を砕いているのは桃子である。

 いつぞや女王ティタニアに、鵺を倒して得た紅珠を使用すれば大岩をも崩せるハンマーにすることが出来ると言われたこともあったが、大岩は無理としても、ある程度の岩盤を崩すことくらいは桃子のハンマーでも可能だった。

 

「平日から、鉱石掘りだよー、ドカーン!」

 

 鉱石が埋まっていそうな岩盤を見つけたら、手当たり次第ハンマーをたたきつけ、崩れたところから鉱石を探していくのが桃子のスタイルだ。

 細かい部分は探索者用のピッケルを使うこともあるのだが、やはり最初はハンマーで豪快に岩を砕く方が圧倒的に早く、効率的である。

 おかげで周囲の岩場はボロボロになっているが、ダンジョン内の岩場ならば勝手にそのうち修復されることだろう。

 

 そして、桃子がどっかんどっかん岩を崩している少し離れた場所には、緑色に淡く光る、いつもの妖精が舞っている。

 

「桃子。このハンバーグという食べ物。なかなかうまいな。カレーに入れよう」

 

 頬にソースをつけたまま、レトルトパウチのハンバーグをもぐもぐと頬張っていた。

 

 

 

 

 なぜ桃子が平日から坑道洞窟で鉱石を掘っているのかというと、簡単に言えば親方のお使いだ。

 

 サカモトの大剣の修復依頼を受けた親方だったが、どうやら業者の都合だかなんだかで、それに使用する洞鋼――洞窟から採取できる鉱石を錬成した特殊な鋼――が不足しているとのことだった。

 しかも、その洞鋼の都合がしばらくつかないから、自前でどうにかしてくれ、ときた。

 そんな発注があるか、と親方が怒りを露わにしていたのが本日の話である。

 

 結局、無いものは仕方ないので、会社で一番下っ端、かつ房総ダンジョンで鉱石の発掘作業が行える探索者ということで、桃子にお鉢が回ってきたのだった。

 これから数日ほどは、鉱石をひたすら掘っては地上へ持って帰る生活となる。

 仕事とは、ある日突然に、過酷な肉体労働に化けることもあるのだ。

 

「そういうわけで、平日からダンジョンに鉱石を掘りに来たんだよ」

 

「じゃあ。今日は。一緒に魚を捕りに行ったりは。出来ないのか。残念だぞ」

 

 桃子がダンジョンに入ってしばらくすると、それに勘付いたヘノが飛んでくるのだが、ダンジョンに来た目的を説明したらがっかりしていた。一緒に遊べるのかと期待させてしまったようだ。

 しかし、それならば桃子が岩を掘る姿を一緒に眺めていると言い出して、ともに第二層の坑道まで足を運んだのだったが。

 ここで大きなハンマーを取り出して、ヘノと共に岩を掘り続けていると、必然的に再燃してしまうのはドワーフの目撃情報である。

 ヘノが共に居ることで【隠遁】の効果に揺らぎが生じ、そこに巨大ハンマーを振り回す子供のような存在というインパクトで、勘の鋭い探索者には認識されてしまうことがあるのだ。

 

 

 

『房総ダンジョン二層でドワーフが岩を砕いて回ってた』

 

 そして案の定、居合わせた探索者に勘付かれたのだろう。

 

 

 ドワーフの目撃情報――というには、はっきり目撃されているわけではないものの――はインターネットを通じて、その日のうちに広まった。

 噂を聞きつけた柚花からも『先輩、平日からドワーフしてるんですか?』とメッセージが入ってきた。別に桃子はドワーフをしているわけではないのだが。

 それでも【隠遁】が働いているので、あくまで「大きなハンマーを持った何かがそこにいた気がする」程度で済んでおり、直接的にコンタクトを取ってくる探索者はいない。

 しかし、直接的な被害がないとしても、周囲がざわついている状況は妙に居心地が悪い。

 

「桃子。さすがに。ヘノも。ドワーフ探しが増えても面倒くさいので。少し。離れて眺めておくことにするぞ」

 

「うーん、なんかごめんね。せっかく一緒に岩掘ってたのに」

 

「構わないぞ。ヘノは。離れて色々見てるのも。楽しいからな」

 

 そう言ってヘノが離れようとしたあたりで、桃子がいる坑道の発掘ポイントに、唐突に若い男性の声が響き渡る。

 

 

「ドワーフさん!」

 

 

 桃子のみならず、ここから近い範囲に居た他の探索者たちもその手を止めた。

 見ると、少し離れた場所で、若い探索者の少年が息を切らし、坑道の開けた発掘ポイントに向けて声をあげていた。

 

 

「俺、前にあなたに危ないところを救われました! 本当にありがとうございました! これ、お礼です、よければ食べてください!」

 

 

 どうやら桃子に話しかけていたわけではなく、ただ大きい声で、どこかに居るであろうドワーフに話しかけていただけのようだ。

 少年はそれだけ大声で言うと、そこにあった岩の上に白いビニール袋を置いて、そのまま駆け出していってしまった。

 周囲にいた探索者たちも、呆気にとられて少年の後姿を眺めている。

 

 

 

 実のところ、危ないところを救われたと言われても、いまひとつ記憶にない。

 というより、心あたりはいくつかあるものの、顔を覚えていないというべきか。

 今までもモンスターに勘付かれないのをいいことに、何か困っている人を見かけたらこっそり手助けをしたり、誰かが襲われているのを助けたり、あるいは新人探索者をただただ影から見守っていたりとしたことは幾度かはあるので、恐らくはそのうちの誰かだったのだろう。

 房総ダンジョンという場所は難易度が低い分、右も左も知らない新人探索者が多い。なので、大なり小なりそういう人助けの機会が少なくないのである。

 

「桃子。今のやつ。知り合いか? なんか。袋を置いていったぞ」

 

「うーん、知り合いってわけじゃないんだけど、どうしよっか。なんか放置するのも悪いよね。見てみる?」

 

 

 念のため、目立つ巨大なハンマーを縮小させてから、こっそりと先ほどの少年が置いていった袋まで寄っていき、中身を確認してみる。

 原理はわからないが、桃子が袋を手にしたとたんに他の探索者たちは潮が引くように袋の存在を忘却していき、自分の作業へと戻っていく。ヘノや柚花に聞けば【隠遁】の魔力がどういう原理で動いているのかを説明してもらえるのかもしれないが、それは今度の機会でいいだろう。

 

 少年が置いていったものは地上で買ってきた市販品らしく、袋もダンジョン入り口近くのスーパーの袋だった。

 もしかしたら、ドワーフの噂を聞きつけて、急遽その場で買ってきたのだろうか。

 

「ええと、中身は……うわっ、ハンバーグ関係が揃ってる」

 

 袋を手にとって、発掘ポイントへと戻ってから中身を確認する。

 中から出てきた品々のラインナップは、ひき肉と混ぜるだけでハンバーグの種が作れるという『ハンバーグのもと』が数箱。真空パックで常温保存可能な『レトルトハンバーグ』が数袋。そしてなんとなく高級そうな『赤ワイン』が一本。

 まさに、ハンバーグを作るときに使ってください、と言わんばかりの品々だ。

 

「さっきのやつ。食べてくれと言っていたな。その中に。食べられるものは。あるのか?」

 

 知らない人に貰ったものは食べてはいけません。

 日本人だったらば子供のころから何度も言われる言葉だろうけれど、この場合はどうなんだろう。

 これがダンジョン外でいきなり渡されたのなら怖くて遠慮したいところだが、ダンジョン内だと探索者は助け合い。ヘノの様子を見る限り、先ほどの少年が悪意を持っていたということもないのだろう。

 

「うーん、まあ市販品だし、木の枝をカレーに入れて食べるよりは胃腸にも優しそうだしね。レトルトのハンバーグがあるけど、いま食べてみる?」

 

「これが。最近よく聞くようになった。ハンバーグか。食べてみたいぞ」

 

「本当は温めたほうが美味しいんだけどね」

 

 リュックから使い捨ての紙皿を一枚取り出して、そこにレトルトパウチのハンバーグの中身を出す。

 デミグラスソースとともに丸く焼かれたハンバーグが溢れ出てきて、まだソースをかけている途中だというのにヘノがツヨマージで器用にハンバーグを切り分け始めた。

 桃子はデミグラスソースでツヨマージが汚れてしまうのではないかと心配したが、見ているとどうやらツヨマージはソースがついたにも関わらずきれいな状態を保っていた。さすが、神槍ツヨマージ。デミグラスソースでも汚れない。

 

「じゃあ、私も半分貰うね。これ食べたら、また鉱石発掘作業に戻るよ」

 

「わかった。ヘノは。上のほうで。離れて眺めていることにするぞ」

 

 元からさほど大きいハンバーグでもなかったので、桃子も自分の分は数口で食べてしまった。

 食べて驚き。最近のレトルト食品はレベルが高い。常温のままでもちゃんと美味しかった。温めればもっと美味しいのだと思うと、期待大だ。

 

 その後、ドワーフ宛のハンバーグセットをリュックに仕舞って鉱石の発掘作業を再開して。

 オリジナルの坑道ソングを歌いながらひたすらハンマーで岩をぼこぼこにする作業に戻るのだった。

 余談だがこの日、一部の探索者の中で、ダンジョン内で謎の歌声のようなものが響いていたという噂が生まれたようだが、それは別な話である。坑道は音が響くのだ。

 

 

「ふう、結構たまったし、一旦上に持っていった方がいいかなあ」

 

 作業を再開してから15分ほど。先ほどまでの分もあり、それなりに鉱石がたまっていた。

 

「桃子。戻るのか?」

 

「ううん、一旦これを地上のギルドに預けて、私はまたここに戻ってきてひたすら発掘作業だよ」

 

 今回は仕事として来ているので、いつものリュックではなく背負うタイプの籠を持ってきていた。その籠の8割ほどまで鉱石が集まったところで、桃子は発掘作業をひとまず終わりにした。

 籠と言っても物理的に小柄な桃子が背負える籠の量など大したものにはならないため、これから数日かけてひたすら地上と発掘ポイントを往復することになる。

 これだけ手間をかけても、最終的に錬成される洞鋼は大した量にはならないというのだから、実に大変な作業だ。

 

「なら。あとで。例の池のカニのために。適当な岩を。持っていきたいんだ。頼めるか?」

 

「あ、そうだね、カニさんも隠れる場所があった方がいいもんね。じゃああとで、ついでにお昼ご飯も調理部屋で食べちゃおうかな」

 

「桃子。それなら。カレーに。ハンバーグをいれよう。さっきのハンバーグ。カレーに合いそうだ」

 

 そんな風に、ヘノとカレーの話をしながら第一層へと上がり、森を抜け。

 ヘノと一度別れてから、ダンジョン入り口にて鉱石を台車に積み込む。ダンジョンの外に出ると【怪力】の効力が消えてしまうので、鉱石を背負ったままでは桃子が潰れてしまうのだ。

 ギルドには工房から話がついているため、あとは台車に積んだ鉱石をギルド職員に丸投げして、桃子はもう一度ダンジョンへと逆戻りだ。

 

「っと、その前にスーパーでひき肉とカレーの材料も買っていこうっと」

 

 スーパーで牛豚の合いびき肉、甘口のカレールー。それに今日はナスやニンジンを購入してから、ダンジョンへと戻っていく。

 中で待っていたヘノと合流し、ひき肉に興味を持ったヘノに、ハンバーグがどういう食べものなのかを説明しながら第二層へとたどり着く。

 そして、先ほどの発掘ポイントへと戻ってきた桃子たちだったが。

 

 

「桃子。なんか。さっきより。沢山あるぞ?」

 

「え、なにこれ……なんか怖っ」

 

 先ほどの青年がスーパーの袋を置いていった岩に、また何かが増えていた。

 レトルトのハンバーグがいくつか。高級ブランドのものと思われる上質なアウトドアナイフ。それになぜか、スーパーで売っているであろうお菓子の巨大な詰め合わせ袋まで。

 

「桃子。これも。ドワーフ宛の。品物なんじゃないか?」

 

「ええ、貰っても困るんだけど……」

 

 自分のいない間にいったい何があったのか?

 桃子は、身に覚えのない貢物の品々を前に、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【草薙チャンネル コメント抜粋】

 

 

:平日の昼間から不良学生どもめ。

 

:休みらしいからね

 

:昼間からコメントしてる俺らも随分だぞw

 

:今日は鍾乳洞で狩りか。

 

:いい素材ほしいよね

 

 

:おや? 探索者たちの様子が?

 

:何かあったのか?

 

:房総ダンジョンスレで、ドワーフが発掘してるって書き込みがあがってるぞ

 

:マジですか

 

:命の恩人じゃん おい3人とも、コメント見てくれ

 

:ドワーフか。真偽は不明だが。

 

 

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 ・

 

 

:ヤマトお疲れさま

 

:ダッシュで地上のスーパーでハンバーグ買ってくる競争 ヤマトの勝利

 

:ミコトとタケルはまだか。

 

:あっちのカメラに切り替えたら森でバテてるw

 

:しばらく療養してたから体力的ブランクがあるのかもな。

 

 

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 ・

 

 

:ミコト、タケルおつかれw

 

:あれ? ヤマトが先に置いてった袋は?

 

:なくなってるな。

 

:誰か持ってったの? 本当にドワーフ?

 

:他の探索者が持ってったんじゃないの?

 

:でも、ガチでドワーフが受け取ってくれたんならうれしいなw

 

:涙出てきそう

 

:しかし、命の恩人にお返しがお菓子の詰め合わせはどうなんだタケルよ。

 

:座敷童子ならともかくドワーフにお菓子ってw

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