ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ゆかももトーク 柚花の話

 桃子が吉野ダンジョンにてわんこと出会ってから数日。とある平日の夜。

 

『せんぱーい、相手してください、甘えさせてください! もう大変なんですよ、話聞いてください!』

 

「ありゃりゃ、柚花ったらいきなり随分な甘えん坊じゃん」

 

 この夜。工房での仕事を終えた桃子は自宅にて、柚花からの通話に応対していた。何があったのやら、電話の向こう側にいる柚花は、一言目から桃子に甘える気満々の声である。

 一方、甘えられている側の桃子は、工房から帰ってきてから夕食とシャワーを済ませ、ちょうど部屋で一息ついているところだった。

 まだ湿り気の残る髪にタオルを巻いたまま、着衣は最低限、下着だけというズボラな状態で自室のベッドに寝転がり、柚花と通話を繋げていた。

 

 もう7月も気付けば下旬。外を歩けば夏休みが始まった子供たちとすれ違う季節である。

 テレビをつければ、天気予報士が熱中症対策を呼び掛けている。彼らの言葉通り、最近はただ外を歩くだけでも汗だくになってしまう暑さが続いているので、帰宅後の水浴びが気持ち良い。

 部屋のエアコンの風を受けながら、桃子はだらけきった姿勢のまま柚花と通話を繋いでいる。ビデオ通話ではないので、桃子がどれだけダラダラしていても柚花に伝わりはしないのだ。

 

「ところで、柚花って今週は旅行中なんじゃなかった? 今はカリンさんたちと一緒じゃないの?」

 

『ええ、まあカリンに騙されて長期旅行中ですけど、さすがにもう夜ですからね。ホテルの部屋は別々ですよ』

 

「そうなんだ、すごいねえ、旅行中はホテル暮らしなわけでしょ? なんかセレブだね」

 

『まあ私、こう言うのもなんですけど高校三年生にして滅茶苦茶稼いでますからね』

 

 この通話相手である柚花は、現在は友達――とは柚花はまだかたくなに認めていないのだが、カリンたちのグループとともに長期旅行中である。

 先日の上高地ダンジョンの事件以降、少しずつまた交流するようになったカリンに誘われ、夏休みのしょっぱなからいきなり長期旅行に出ているはずだ。

 

 ――いや、正しくは。

 

 ギルドを通じてダンジョン探索の同行依頼が出ていると聞いて現地に向かってみたら、まさかのカリンからのコラボ配信依頼だったらしい。同行依頼であることに間違いはないが、柚花にしてみれば騙し討ちのようなものだ。

 風の噂では、現地のギルドにて、カリンは関係者各位に囲まれてものすごくお説教をされて涙目だったらしい。

 

 とは言っても。

 結局、現地で改めて正式にそのコラボ依頼を受けたのは柚花の意思なので、柚花も案外嫌ではなかったんじゃないかと桃子は考えている。

 その答えを柚花が口にすることはないだろうけれど。

 

「カリンさんたちは、ギルドからの褒賞金とかが出てるんだっけ? 今回の旅行もギルド持ちなの?」

 

「そうですね、新しい階層を発見した快挙ですから、かなり懐は暖まったみたいですよ? それに、今回はギルドが旅行のスポンサーもしているようですし」

 

「へえー、そりゃすごい」

 

 隠された階層を見つけた報奨金と、ギルドのスポンサー料金。なるほどそれなら、一週間以上の長期旅行の資金も出ると言うものだ。

 ギルドの思惑は分からないものの、もしかしたらカリンは将来的に本当にギルド公式アイドルとして勧誘を受けるのかもしれない。広告塔になりたいわけではないが、ギルドのお金で遠征に行けるというのは正直ちょっと羨ましく思う。

 

 

 それはさておき、柚花たちの旅行だ。

 カリンと、その仲間のクルミとリンゴ。そしてそれに柚花を入れた四人で、全国数か所のダンジョンを巡って配信していくツアーとなっている。

 しかし、桃子の記憶では、そのメンバーは全員が受験生だったはずだ。夏休みにいきなりそんなことをしていて大丈夫なのかな? と、桃子は疑問に思わなくもなかったが、まあ大丈夫なのだろうとすぐに疑問を打ち消す。

 そもそも桃子自身が高校を出てからすぐ工房で働いているので、受験生に対して口出し出来る経歴でもないのだ。

 

「そういえばさ、ニムちゃんたちにも聞いたけど、砂丘ダンジョンのオアシスまで行ったんだって?」

 

『はい。あ、インディさんとジョーンズさんいるじゃないですか。あの人たち、カリンたちの回復祝いってことで所有してたカートを無償で貸してくれたんですよ』

 

「わ、すごいじゃん。あのカートって、私乗ったことないんだよね。今度乗ってみたいなあ」

 

『先輩ならこっそり後部座席に乗っちゃえばバレないんじゃないですかね』

 

「いいね、こんど試してみようかな」

 

 先日、桃子たちが『サクラモリ』を初めて訪れたその日。

 遠く鳥取では、フルーツ☆タルトの三人と柚花の混合パーティが、鳥取砂丘に口を開いている砂丘ダンジョンを訪れていた。

 桃子はその日はポンコと共に大変忙しい一日を過ごしていたのでその配信を見ている余裕はなかったのだが、ある程度の情報はニムとリフィからも聞いていた。

 彼女らの話によれば、砂漠のオアシスでの女子四人旅はなかなか盛り上がっていたそうだ。

 もっとも、ニムとリフィの話の半分くらいは熱砂砂漠への恨み言だったのだが、それはまた別な話として記憶の片隅に仕舞っておく。

 

 

 

 ところで。

 

 桃子には、柚花がカリンたちと旅行に出て、コラボ動画を撮影するうえで、どうしても心配なことがあった。

 

「でも、柚花。コラボのゲストとはいえ、パーティ行動だったんだよね? その……大丈夫だった?」

 

『大丈夫……ではないですね。正直しんどいし、やっぱり一人のほうがいいなって思います。この前なんか、こっそりニムさんが会いに来てくれてなかったら心が折れてましたよ』

 

「そっか……」

 

 桃子の心配事。

 それはもちろん、柚花の精神状態だ。

 

 柚花はそのスキル【看破】によって、ダンジョン内においては人には見えないものを見ることができる。

 それは、ダンジョン内に漂う魔力や瘴気の痕跡であったり、魔法生物たちの真の姿であったり、【隠遁】で隠れているはずの桃子であったり、あるいは他者の隠している感情であったり。

 そのすべてを見通すそのスキルは、多くの人々が喉から手が出るほどに欲しがる強力な能力だろう。

 

 だが、しかし。

 5年前。初めてダンジョンに入った頃の14歳の柚花にとって、それはまさに呪いのようなスキルだった。

 ふとした会話の中で、自分へと向けられる嫌悪、嫉妬、怒り、落胆、そして劣情。それぞれは、誰しもが持っている感情だ。

 そして、どれだけ表面上では誠実に装っても、どれだけ普段は親愛を持って接していたとしても。その胸の内に隠されているそのような負の感情を、柚花だけが認識してしまうのだ。

 14歳の柚花にとって、それは苦痛そのものだった。

 

 結果として、柚花は探索者としては誰ともパーティを組まないソロ探索者の道を選ぶことになる。

 誰にも認識されないが故にソロ探索者の道を選んだ桃子とはまるで逆の、対照的なエピソードだ。

 

 しかしいま、その柚花が。

 同世代の女子たちのパーティとのコラボに同意しているどころか、まさかの長期旅行である。

 桃子はその話を聞いたとき。最初は驚いて、次に喜んで、そして今は心配だった。柚花が、ちゃんと他の人間とパーティを組めるのかどうか。

 そして残念ながら、その心配事は杞憂では終わらず、現実となってしまったようである。

 

「カリンさんたちに、いじめられたとか……そういうことじゃない、よね?」

 

 カリンはもとより、クルミも、リンゴも、桃子からみたら皆が善良な少女たちに見えた。

 けれど、柚花の目からはどうしても、彼女たちが内に隠した負の感情まで見えてしまうのだ。それはきっと、つらいことだろう――と、思ったのだが。

 

『それが、聞いてくださいよ! 自分で言うのもなんですけど、美少女四人パーティなんで、下心満載の男性探索者とかがしょっちゅう声かけてくるんですよ! あーもう、思い出すだけでホントあの連中、最悪です!』

 

「あっ、そっちのストレスかー」

 

 まさかの、女性探索者パーティ特有のストレスだった。

 確かに、柚花たちのように若く可愛らしい探索者にとっては切っても切れない悩みだろう。

 

 パーティメンバーに近づく悪い虫、つまりは下心を持った男性探索者問題だ。彼らに対して柚花は滅茶苦茶に苛ついている。それはもう、キレている。

 てっきり女子同士のドロドロを想像していた桃子としては拍子抜けである。もちろん、決してドロドロを期待していたなどというわけでもないし、柚花にしてみれば男性から向けられる劣情は本当に苦痛なことなのだろうが。

 

 なお、桃子もまた、うら若き女性探索者ではあるのだけれど。

 ダンジョン内においては、桃子の場合はナンパどころか、そもそも存在を認識すらされないために、その類の悩み事とは全く縁がないのだった。

 

「ごめんごめん、てっきりさ、フルーツタルトの3人と合わなくてしんどいのかなって思っちゃった」

 

『あー、まあ……もちろんそっちのストレスもありますけどね。カリンは相変わらず単純な犬みたいに、すぐに怒ったりわがまま言ったり、少し褒められたら簡単に調子に乗っちゃったりで、ホント面倒くさいですよ。馬鹿なんですよ、あの子は』

 

「柚花って、リフィちゃんみたいなところあるよね」

 

『なに言ってるんですか先輩、私はあんなにちょろくないですよ』

 

「あー、うん」

 

 恐らく、緑葉の妖精に同じことを言えば「リフィはあんなにちょろくないヨ」とか言うのだろうなと。

 容易に想像がつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 通話の合間に、少しだけ席を離れて冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出す。

 

 冷たい麦茶で喉を潤し、乾いてきた髪をパタパタと手でほぐす。

 本来ならばドライヤーなどでブロウするべきなのだが、今は柚花とのおしゃべり中なので、ドライヤーは後回しだ。なので通話を続けながら、扇風機の風にあてて乾かすことにした。

 

 通話を繋いだまま、桃子はまだ下着姿で室内をうろついて、扇風機の前に陣取っている。とてもではないが、学園の後輩たちには見せられないズボラな姿だ。

 もっとも、妖精の国の寝室では寝起きのだらしない姿をこれでもかと言うほど見せているので、柚花もりりたんも桃子のズボラ姿程度で落胆するほど桃子に夢をみていないのだが、それはそれ、これはこれである。

 

 そうしている間に、話の内容はカリンではなく、他のメンバーの話題に移り変わっていた。

 

『リンゴさんは、コンプレックスでしょうね。お姉さんぶってますけど、内心のネガティブっぷりがなかなかすごいです』

 

「なるほどなあ。リンゴさん、生真面目なタイプっぽいもんねえ」

 

 カリンの仲間である、リンゴ。配信ではよくカリンを『お馬鹿』と叱りつけている。

 年齢的には他メンバーと同じ高校生であるリンゴだが、そのアンニュイな雰囲気と大人びた物言いから、大人の判断が出来るお姉さん的なポジションとして認知されている。

 本人は嬉しくないだろうが、煙草やお酒をたしなむ20代女性のような印象を受ける少女である。

 

 そんな彼女は、柚花に言わせれば悩みを内に隠してしまう、ネガティブな少女だった。

 

『で、クルミさんなんかはもっとわかりやすいですよ。仲良くしてくれてはいますけど、明確に、私に嫉妬を向けてますからね』

 

「嫉妬……かあ」

 

 もう一人の仲間である、クルミ。

 ボーイッシュで理知的、カリンに対してはドライで比較的辛辣な突っ込み役の少女だが、どうやら柚花に対しては嫉妬心を燃やしてしまっているようだ。

 しかし、それについては桃子も何となく、理解できる。

 

「柚花って才能が人並み以上だから、嫉妬されちゃうのは、しょうがないよねえ。柚花ったら、可愛いし、頭もいいし、スキルもすごいじゃん」

 

『やだなあ、先輩。そんな風に褒めたってなにもでませんよ? ……っていうかですね、そういう嫉妬も、もちろんなくはないんですけど』

 

「うん? あれ? 嫉妬って、そういうことじゃないの?」

 

 ある程度髪が乾いたので、桃子は再び麦茶で喉を潤す。

 いくらカレーの権化たる桃子でも、こう暑い日が続くとカレーよりも冷えた麦茶のほうがありがたく感じることもある。

 電波の先で音だけ聞いている柚花にも、桃子の喉がこくこくと鳴らす麦茶の音が聞こえているだろうか。

 

 そして、話題はクルミの嫉妬の話だ。

 嫉妬心。それは大体の場合、自分より秀でている相手、自分が持たないものを持っている相手に向ける感情だ。

 才能にも恵まれ、なんなら現状は魔法協会の仕事をこなしているお蔭で金銭的にも恵まれているであろう柚花なので、柚花には悪いけれど他者から嫉妬される理由は数えきれないほどにある。

 

 が、どうやらこれについては、桃子の想像は外れていたようだ。

 

『ほら、私ってカリンに滅茶苦茶に好かれてるじゃないですか?』

 

「へ? ああ、うん。まあ、カリンさんて柚花のこと大好きっぽいよね」

 

『カリンが私に甘えるたびに、クルミさんの中のもやもやした感情がですね。私に向けられるわけですよ』

 

「うわー、そっちかあ」

 

 カリンと仲が良い柚花への嫉妬。

 カリンに甘えられている柚花への嫉妬。

 どうやら、嫉妬の中心となるのはカリンという仲間の取り合いだったようだ。

 

「友達を盗られると思っちゃったのかねえ」

 

『まあ、そうですね。友愛かそれ以上の感情かはともかく、いい迷惑ですよ、もう。私はカリンじゃなくて、先輩といちゃいちゃしたいんです!』

 

「あはは、ありがと。そう言ってくれて嬉しいよ、私も」

 

『そんなわけですから! まだしばらく旅行は続くんですけど、私がそっちに帰ったら甘やかしてくださいね』

 

「うん、うん。帰ってきたら、沢山甘やかしてあげるからね。私とニムちゃんでちやほやしてあげるよ」

 

『約束ですよ、約束!』

 

 これが友愛か、それ以上の感情か。そんな余計なことは、これっぽっちも考えない。

 柚花が甘えてくるなら、愛をこめて甘やかしてあげるのだ。それがシンプルな答えである。

 

 シャワーあがりの下着姿のまま、扇風機の前で麦茶を飲みつつ。

 だらしない姿でくつろぎながら、のほほんと。

 桃子は脳内で、旅行を終えた柚花を、滅茶苦茶に撫でまわす算段を立てているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【美食三銃士の美食チャンネル アーカイブコメント抜粋】

 

:我ら、美食の絆に導かれし美食三銃士、ここに契る!

 

:すべては美食へ続く道のために!

 

:※恒例の挨拶です

 

:最初は笑っちゃったこの挨拶も、今だと普通にこいつら恰好いいなって思っちゃう

 

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:映像がどっち向いても桜の木ばっかりで動画見てても方向感覚が混乱してくるな

 

:山あり谷あり桜あり 風情あるじゃねえか

 

:編集で時間が飛んでも風景が一緒だからあまり気づかない件

 

:このチャンネル初めてなんだけど、ここってアーカイブしか残さないの?

 

:ようこそ美食の世界へ。昔は生配信してたんだけど、それで食材の場所が知れ渡っちゃって、後から乱獲しようとする馬鹿が現れたんだよ。

 

:だから今は食材の場所が分からないように移動時は編集でぶった切ってる。

 

:なるほどね

 

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:オーパーツのかまど!!

 

:ダンジョンってたまにこういうわけ分からないものあってワクワクしますね。

 

:大地を司る妖精が作ったかまど。なんかヨーロッパとかにそういう逸話ありそうだな。

 

:てか、ユキヒラとワンさん、いつまでオーパーツ談義してんのw

 

:レンジひとりで魚取りにいっちゃったぞ

 

:普通に真面目な兄ちゃんなのに、なんでレンジはあんなに態度が軽いんだろうなあ

 

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:結局新たな美食は見つからなかったのか?

 

:キノコと魚の雑炊も十分うまそうだったんだがなあ

 

:次回のアップロードは二日後予定か。よくこの山あり谷あり魔物ありの難所をこれだけ順調に探索できるよな。

 

:美食三銃士は意外としっかりした探索パーティだからな

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