ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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不穏なニュース

 三日間、ひたすら第二層で岩を砕いた。

 

 岩を砕いて、地上に運び。

 更に岩を砕いて、地上に運び。

 ハンバーグとカレーと、ついでにお菓子の詰め合わせを食べて、また岩を砕く。

 

 さすがに初日のようにドワーフへの貢物を持ってくる探索者はいなかったものの、気分は本当にドワーフだった。

 

 

 

「よくやった桃の字、ダンジョンは怖くなかったか? 悪ィな、大変な作業を任せちまってよォ」

 

「桃ちゃんがいない工房、寂しかったですよー。よしよし、頭撫でてあげますからねー」

 

「あわわわわ」

 

 数日ぶりに工房に戻ると、なんだか親方と和歌が妙に優しい。

 二人とも、桃子が元からソロ探索者で、坑道で鉱石を発掘してはお小遣い稼ぎをしていたことも知っているはずなのだが、どうにもそこら辺は忘れられているようだ。

 とりあえず、和歌は桃子の頭をもみくちゃにするほど撫でるのは程々にしてほしい。

 あと向こうで親指を立ててサムズアップをしている所長。さすがにそれだけじゃ伝わらないので、何か言ってほしかった。

 

「えーと、それで、洞鋼のほうは大丈夫そうなんですか?」

 

 自分の座席に座り、ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手で直しながら、横に座る和歌に尋ねてみる。

 親方は桃子に一言かけると、なんだか機嫌よさそうに奥の方の作業場へと戻っていってしまった。数日前と比べてだいぶ機嫌がよくなったようで何よりだ。

 

「あー、そうですねー。まあ……とりあえず例の大きく折れた剣のほうは、修復のめどは立ったようですねー」

 

「ん? 何かあったんですか? あの剣、やっぱり何か問題が?」

 

 どうにも、洞鋼の話題を振ったとたん、和歌の歯切れが悪くなった。

 もともとサカモトの剣を直すための素材集めだったので、桃子としては贖罪の気持ちも込めて頑張っていたのだが、何かしら別な問題でもあったのだろうか。

 

「ああ、いえ。剣ではなくて洞鋼ですねー。前に、別なもののために洞鋼を大量消費しているっていう話、桃ちゃんはどこまで聞いてましたかー?」

 

「んーと……すみません、聞いた気もするけどあんまり覚えてないです」

 

 以前、確か親方が愚痴交じりに何か言っていた気もするが、その時はサカモトの剣をへし折ったことへの懺悔で頭がいっぱいで、それ以外の事情は聞こえていなかった。

 確か、何か他の武器を作るのに洞鋼を使っているのだったか、なんだか。

 

「そうですねー。あ、桃ちゃん、これ見てくださいこれ」

 

「なんですかこれ。何か武器の仕様書とかそういうのですよね? ちょっとよく分からないですけど……」

 

 少し考えた和歌は、マウスを操作して自分のデスク上のモニタに一枚の仕様書を表示する。

 和歌はアイテムや武具のデザインを設計もしているが、仕事柄か各企業や工房が発表する最新の技術情報の収集にも余念がない。いま表示されているものも、何かしらの最新技術なのだろう。もしかしたら和歌が直接関わっているのかもしれない。

 しかし、そこまで予想はついたとしても、桃子としてはそれを見せられても何が何だかよくわからない。

 

「ああ、ええと……こっちのほうがいいですね。3Dイメージ画像もあるんですよー?」

 

 そして和歌が表示させたのは、普段探索者たちが使っているような武具ではない。大きな長い筒状の部位が特徴的な、どちらかというと鉄砲か大砲か、それに類するものだ。

 そういえば、最近は魔石技術が発展していき、ダンジョン内の魔物にも通用する銃火器が研究されているというが、その類だろうか。

 

「これはですねー、いわゆるバリスタとか、そういう類の兵器ですねー」

 

「バリスタ……って、ええと、ずっと昔の攻城兵器ですよね。大きな弓というか、弩というか」

 

「さすが、自前で投石器を作っちゃうだけのことはありますねー。まあつまり、バリスタ的な、巨大な槍を射出する対魔物兵器なのですよー」

 

 巨大な槍を射出する。

 つまりはただのそこらで襲ってくる魔物ではなく、巨大な、特別な魔物を倒すことを前提に作られた兵器、ということなのだろう。

 遠野ダンジョンで多数の被害を出した巨獣のような。琵琶湖ダンジョンに住まう、超巨大な主のような。

 

「で、少し前からその開発が進められているわけですが、今週ちょっと、それが更に現実的なことになりましてー」

 

「現実的、ですか……?」

 

「あまり気持ちのいい話じゃないですので、簡単に。琵琶湖ダンジョンの、深潭の主と呼ばれる巨大魚がおりますよねー?」

 

「は、はい」

 

 知っている。まさについ先日、その巨大な姿に足がすくんで動けなくなったのだ。

 

「それの被害者が、また出てしまったのですよー。しかも、ライブカメラで全国に配信されてしまう形で、探索者の方が犠牲になってしまいましてー」

 

「え」

 

 

 和歌の話によれば。

 

 琵琶湖ダンジョンギルドには、協力関係にある大規模なーパーティが存在し、ダンジョンの探索やパトロールも彼らが行っていた。

 第四層、深潭宮を漂う探索用水中カメラもまた彼らがメンテナンスを担当しており、先日も魔石交換のために現地まで回収に出たのだという。件の水中カメラなのだが、魔石技術の限界で、カメラ機能のために自己遊泳機能や遠隔操作機能は最低限となっており、人の手で回収する必要があったのだ。

 

 その作業自体がもともと危険を伴うものなので、10名ほどの人数で現地へと向かっていた。ダンジョンに安全などというものはないものの、それでも通常ならば手練れが10名いれば問題ない筈であった。

 しかし不運なことに、ライブカメラを回収して帰る最中に魔物の群れと遭遇してしまう。普段ならば魔物の群れが巡回するルートではなかったはずなのだが、その日は違っていた。

 魔物の群れと交戦するが、基本的に深潭宮は人間にとって不利な環境であり、結論から言えばうち二名が犠牲になった。

 

 そして、破れたスイムスーツから流れる血の匂いに呼び寄せられたかのように姿を現す巨大な影。

 魔物たちすらその影の前には散り散りになって逃げていき、ライブカメラには、はっきりと、巨影に丸呑みされる二人の探索者がうつされていたという。

 

「丸呑み……ですか」

 

「ダンジョン配信の問題点。あれをどこか遠い世界の娯楽と思っている視聴者さんたちには、刺激が強すぎたようですねー」

 

 ダンジョン配信はその性質上、その配信者の不幸な運命をも世界に配信してしまうことがある。

 今回のものは配信者によるものではなくギルド主体の映像であったため、ギルド側の判断で映像は直後に遮断された。しかし、奇しくも先日の人魚姫騒動で琵琶湖ライブカメラの視聴者が増えていたこともあり、目撃者は多数。

 娯楽気分で見ていた視聴者の精神的なショックも大きく、またギルドの対応やライブカメラの制度など、多方面で絶賛炎上中とのことだ。

 

「冷たいことをいうようですが、探索者が犠牲になることは珍しいことではありません。皆さん、念書を書いてダンジョンに入っているわけですしねー」

 

 和歌の言うことは正しい。

 

 かくいう桃子すら、14歳で探索者見習いとして初めてダンジョンに入る際に。そして既定の見習い期間が過ぎてから、改めて正式な念書に記名をし、それと引き換えに手に入れたのが己の身分を示す探索者カードである。

 房総ダンジョンという簡易な場所をホームにしている桃子ですらそうなのだから、より難易度の高い場所にいる探索者たちは、それだけの覚悟は決まっていた筈だ。

 

「まあ、桃ちゃんみたいな子供までが念書を書いてダンジョンに入り浸るというのは、それはそれで嫌な話だなあとは思うのですがー」

 

「いや、私これでも成人してますからね? 和歌さん、脱線、脱線してますよ」

 

「では話を戻して、先ほどの兵器。『特殊個体討伐事案用巨大魔槍射出砲』……まあ、捻りもなにもなく通称『バリスタ』なのですがー。これの完成の、強い後押しになってしまったわけですよー」

 

 つまりは、先日の鵺の討伐成功の勢いに押され、更には今回の事件の世論に押され、琵琶湖に生息する特殊個体――深潭の主の討伐計画が、いよいよ秒読みになった、ということである。

 

「親方さんなどは、気持ち的にはそのような巨大兵器の製作というのは抵抗があるようですが、犠牲者が出てしまうのであれば仕方ないですからねー」

 

 親方は、今日は奥でサカモトの剣の修理に取り掛かっている。

 同じ特殊個体と言っても、鵺ならばあのサカモトの剣でもとどめを刺せたが、あの巨大なクジラのような魔物が相手ではサカモトの剣がいくつあっても足りないだろう。

 

 

「それにしても、深潭宮で死者二人かぁ……」

 

 つい先日、ヘノやニムと訪れた場所で。自分が呑気に貝を取っていた場所で。

 見知らぬ探索者が犠牲になったという突然のニュースに、桃子の心にはぽっかりと冷たい穴が開いたような気がした。

 

 

 

 

 その夜。

 

「あのね、柚花。配信のときは、本当に、絶対に周囲に気を付けてね? いざとなったら、視聴者さんよりも自分の身の安全を優先するんだよ?」

 

『わ、わかりましたけど先輩。私としては、桃子先輩が一人で鵺やら深潭の主やらと遭遇しまくっている状況のほうがどうかと思うんですよね』

 

 帰宅後、何となく心配になって柚花に電話をした。昼に和歌と話した内容が、ずっと気になっていたのだ。

 ダンジョン配信は決して遠い世界の娯楽ではない。

 配信者の不幸な運命を世界に配信してしまうこともある。

 それを、いま一番身近な配信者である柚花で想像してしまうと、いてもたってもいられなくなってきた。

 

「それに、柚花はソロ探索者でしょ? 一人だとさ、色々あぶないじゃない」

 

『いや、心配してくれるのは普通に嬉しいんですけど。先輩のほうが、なんか一人であっちこっち危険な場所に行っちゃってる感じがして、私も心配なんですよ』

 

「ま、まあ……私にはヘノちゃんがついてるし……その、ほら……」

 

 とは言え、そのヘノに連れられていった場所で今回犠牲者が出てしまっているのだが。さすがの桃子も返す言葉もなく、語尾が小さくなってもごもご言ってしまう。

 なんにしても、柚花には危険なことはしないでほしいなと、純粋に思った。

 

『……大丈夫ですよ、私も危険なことはしませんから。先輩こそ、今度は一人で深潭の主討伐に行くとか、そんな無茶しないでくださいよ?』

 

「し、しないよ、もちろん。ヘノちゃんも、さすがにそんな無茶しないと思うし……多分」

 

『その、多分、が心配なんですけどぉ』

 

 やっぱり、ぐぅの音も出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【りりたんの朗読チャンネル】

 

 

 元ヤクザ幹部が語る、身体の洗い方。

 

 その4、手の洗い方。

 手は、いくら洗ってもその汚れは落ちません。

 一度汚れたその手は、一生そのままです。諦めましょう。

 

 その5、足の洗い方。

 洗えません。

 

 その6、資金の洗い方。

 これには知識が必要ですが、しっかり洗いましょう。

 ひとりでもできないことはありませんが、協力者が必要です。

 まず必要になるのが、口座です。

 

 

 ……なんでしょうか、この本。なんか、ちょっとりりたんにはわかりませんね。

 

 あら、視聴者さんが何人か増えておりますね。

 

 ふふふ。おはようございます、こんばんは、りりたんです。

 今日も静かなダンジョン内で、朗読をしています。

 モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。

 

 

 今日はこちらの、『元ヤクザ幹部が語る、身体の洗い方』なる本を朗読したのですが、なんでしょうね、これ。

 ちょっとよく分かりませんでした。

 

 え? ジョーク? そうなんですか?

 りりたん、ジョークとかそういうのには疎いのですよね。でも、そうだったんですね。

 今度、りりたんもジョークを学んでみようかと思いますよ。

 もしかしたら、誰かがこの秘密の場所までやってくるかもしれませんから。ジョークでお迎えしますよ。

 

 ふふふ。どのようなジョークを考えているのかは、それはまだ、秘密です。

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