ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ハクロウ様

「ヘノがいない間に。何があったんだ?」

 

「いやあ、なんだろうね。ももポンが大活躍っていうか、なんていうか」

 

「とりあえず、オオカミさんたちも、敵対はしてこないみたいだよぉ」

 

 上空からこの階層を偵察してきたヘノが桃子たちのもとへと戻ってくると、そこには意外な光景が広がっていた。

 桃子――いや、ももポンを囲むように、十匹ほどのオオカミがその場に集まっていたのである。オリジナルの桃子はオオカミたちには認識されていないようで、少し離れた位置からノンと共にオオカミたちの様子を眺めている。

 

「キューン……オオカミさんたち、くすぐったいっすよぉ」

 

 ヘノが定位置である桃子の肩に着地して、ももポンとオオカミたちの方へと顔を向けると、オオカミたちはももポンの大きな尻尾に鼻先を押し付け、尻尾の匂いをクンクンと嗅いでいるところだった。

 桃子の顔をしたももポンが、くすぐったそうに身をよじっている。

 

 自分と同じ姿のももポンが多数のオオカミに囲まれて、しきりに尻尾の匂いを嗅がれている状況を、桃子は実に複雑な心境で眺めている。が、状況としては悪くない。

 当初の目的通りオオカミの群れを発見し、彼らと好意的な関係を築けたのだ。あとは、ひとまず妖精の国へと戻り、わんこを連れて再びここを訪れればミッションコンプリートである。

 

「桃子の尻尾。オオカミに大人気だな」

 

「私の尻尾じゃなくてポンコちゃんの尻尾だけどね」

 

「ところでヘノ。上空からみて、この階層はどうだったのかねぇ? 調べてきたんだよねぇ?」

 

「そういえば。そうだったな。忘れてたぞ」

 

「あ、この階層の情報は私も聞きたいな。ここって結局、どんな場所だったの?」

 

 桃子の肩の居心地のよさに、ついつい上空からみてきた結果を報告するのを忘れていたヘノだけれど、ノンの言葉でそのことを思い出す。

 既に目的であるオオカミの群れには出会えたので、この階層について調べる必要はなくなっている。だが、この機会に得た情報を共有するのは悪いことではないだろう。

 桃子とノンに促されるままに、ヘノは上空からみたこの階層について、見たままに説明していく。

 

「この階層。ここら辺は山だけど。少し進んだら。開けた平らな土地になってたぞ」

 

「あ、そうなんだ。じゃあ、第二層よりは移動が楽なのかな? サクラモリは、山あり谷ありで開けた平地がほとんどなかったしね」

 

 ヘノは、手に持った爪楊枝――ならぬ、神槍ツヨマージで森の先の方を示し、説明を始める。

 この階層は、第二層のように全体的に険しい地形が広がっているというわけではなく、山を下れば平らな土地が広がっているらしい。

 

 ヘノの説明は続く。

 

 この階層の中央部分には山に挟まれる形で平らな土地が広がっており、今いる場所は階層の端に近い山の上とのことだった。

 つまりこの階層そのものは、いわゆる『盆地』にあたる地形なのだろうと、桃子は理解する。

 

「ただ。平らな土地には。変な泥沼が広がってたり。古そうな。建物が並んでたりして。ちょっと妙だったぞ。妙な気配も多かったしな」

 

「えー、妙な気配って、やっぱり魔物かなあ……」

 

「第三層だからねぇ。特殊な魔物がいても、おかしくないよぉ」

 

 山に挟まれた、広大な盆地が広がっている階層。

 

 土地の形状だけで言うならば、山あり谷ありの『サクラモリ』よりはよっぽど難易度が低そうな階層だけれど、しかし甘くみてはいけない。

 ここは第三層だ。普通に考えれば、第二層よりも瘴気が濃く、出没する魔物もまた手強いものとなっているはずなのだ。

 この階層ではヘノの感知もいまひとつ万全とはいかないようで、この階層に潜む脅威については、詳細がなにも解明されていない状態である。

 

 なにも、今からこの階層を探索するわけではないけれど。油断せず、気を引き締めないといけないな、と。

 オオカミに囲まれていたポンコが桃子たちに声をかけたのは、桃子がそう、気持ちを改めていたときだった。

 

 

 

 

「師匠、なんかオオカミさんたち、ポンたちをどこかに案内したがってるみたいっすよ?」

 

 見れば、ももポン姿のポンコを囲っていたオオカミたちは既に移動を開始し、後ろをついてくるようにとしきりにポンコを振り向く素振りを見せているようだ。

 桃子がオオカミたちを見ると、確かに彼らはポンコがついていくのを待っている。どこかに案内しようという意図が、桃子にすら伝わってくる。

 

「でも、どこかに案内って……オオカミの巣穴、とか?」

 

「オオカミさんたちは、巣穴に住んでる動物なのかねぇ?」

 

「うーん、どうなんだろう。ヘノちゃんが話してた、平地にある建物が実はオオカミ小屋だった、とか?」

 

「でも。こいつらの行く先。平地とは逆方向だぞ」

 

 桃子は困惑が隠しきれないままに、ポンコの後ろをついていく。

 

 オオカミが友好的ならば、自分たちもそれについていくのはやぶさかではない。

 ただし、桃子の立場は複雑だ。オオカミが友好的な態度を見せているのは、客として認めているのは、ももポンなのだ。

 そもそも姿を認識されていないであろう桃子が招かれているわけもなく、そんな状態で勝手についていって、あとから余計な問題が起きやしないかと桃子は内心葛藤する。

 自分がついていくことでオオカミの心象を悪くしてしまうのは本意ではない。

 

 しかし、桃子がそんな葛藤を浮かべつつもポンコの横に並んだタイミングで、一匹のオオカミがなにかを咥え、ポンコのもとへとやって来る。

 

「グルル……ガウ」

 

「あれ? 師匠、このオオカミ、なにか咥えてるっすよ?」

 

「なんだこれ。布地だぞ。人間の。落とし物かなにかか?」

 

 ポンコがそれを受け取ると、それは何かしらの布地だ。

 土汚れが酷いが、ポンコが両手で広げて持ち上げてみると、それは探索者たちがよく愛用しているタイプの、背にかけるマントであることがわかる。

 そのマントは、土に汚れ、所々が破れ。そして、赤黒く染まった液体の跡が残っていた。

 

「あれぇ? まだ新しい感じの血がついてるよぉ?」

 

「もしかして、怪我人がいるんじゃないっすか?! 助けてほしくて、案内してるんすよ!」

 

「なんだか。このダンジョンは。血をながしてるやつが多いな」

 

 ヘノの呟きに、桃子はつい先日の出来事を想起する。

 あのときは、桃子たちは間に合わなかった。桃子たちが見つけたのは、血を流す母オオカミの亡骸のみであった。

 あの状況では間に合ったとしても、助けることはできなかったかもしれない。

 けれど、もし間に合っていれば、どうにかなったかもしれないのもまた、事実なのである。

 

 未だに桃子の脳裏に焼き付いているその苦い記憶は、今このとき、足を踏み出す原動力となる。

 招かれざる客だろうが、認識されていなかろうが、今は動くべきだと。桃子の心のうちにあった葛藤は、空の彼方へと吹き飛んだ。カレーの国へと吹き飛んだ。

 

「わからないけど、ついていこう! オオカミでも、人間でも、誰かが血を流しているなら、次こそ助けに行こう!」

 

「桃子がそう言うなら。ヘノも当然。ついていくぞ」

 

「じゃ、じゃあ、私もついていくよぉ」

 

 桃子が決めたならば、ヘノは当然それについていく。ノンもまた、乗りかかった船の精神で自分もついていくことに決めたようだ。

 

「わ、わかったっす! えと、オオカミさんたち、案内お願いっす!」

 

 

 

 

 

 

 

 その洞穴の奥の間に鎮座していたのは、身の丈5メートルはあろうかという、巨大なオオカミだった。

 白銀に輝く毛皮が魔法光を反射し、幻想的な光を放っている。

 そして、金色に輝くその瞳は。【隠遁】で認識できなくなっているはずの桃子を、しっかりと捉えている。

 

 この巨大なオオカミこそが、わんこたち――この地に住まうオオカミたちに加護を与えている、オオカミの守護者なのだろう。

 桃子は、その巨大なオオカミを前にして、つい足がすくんでしまう。

 

『まさか、マレビトたちの次は、他所の洞から狸のあやかしが訪れるとは。それに加え、風と土の精を連れた人間の娘ですか……』

 

「おい。でかい犬。お前。言葉が喋れるなら説明しろ。どういうことだ」

 

「う、うわあ! ヘノちゃん、敬語、敬語を意識しよう!? 最初は挨拶、ね!」

 

 

 

 

 オオカミの群れに連れられてやってきたのは、ヘノの言う平たい土地とは真逆で、山を更に奥へと入った位置に存在する巨大な洞穴だった。

 すわ、更なる下層へと続く洞穴かと桃子は一瞬たじろぐが、どうやらそういうわけではなく、この階層のオオカミたちが根城として使用している洞穴のようである。

 洞穴の中には所々に魔法光が点在しており、闇で迷うようなことはなさそうだ。もしかしたら、先ほど歩いた闇夜の森よりこの洞穴内のほうが、魔法光のお陰で明るいかもしれない。

 

 そして、桃子たちがオオカミに連れられてその洞を進んだ先で待ち構えていたのが、その巨大な白いオオカミである。

 

「あ、あの、ポンはポンコっす。香川ダンジョンの化け狸で、こっちは人間の桃子師匠と、妖精のヘノさん、ノンさんっす!」

 

「は、はじめまして。桃子です、よろしくお願いします」

 

「私は大地の妖精のノンだよぉ。よろしくお願いするよぉ」

 

「ヘノだぞ。戦うのと。甘いものと。桃子のカレーが好物だぞ」

 

 まず、先頭に位置していたポンコが頭を下げて挨拶をする。ポンコは現在ももポン姿なので、桃子が頭をさげている姿である。

 それに続いて、同じ顔をした人間の少女である桃子が頭をさげ、続いてノン、ヘノがそれぞれの名を名乗っていく。

 

『そこまで畏まらなくて構いません。顔をあげなさい』

 

 四人に向けて、白いオオカミが口をひらく。

 そしてそれぞれを見てから、最後にもう一度桃子へと視線が向く。巨大なオオカミに見られていることに感づいた桃子の背に、一筋の冷たい汗が流れる。

 

『此度は我が眷属たちがご迷惑をおかけしましたね。私が全盛期ならば、自ら出向くこともできたのですが』

 

「ノン。こいつ。外に。出れないみたいだな」

 

「そうだねぇ。あんまりこの洞窟からは動けないみたいだねぇ」

 

『私の名はハクロウ。この地のオオカミたちを守護する霊獣とでもお考え下さい。妖精の御二方に、狸の妖。そして、修験者の少女よ』

 

「おい。はくろう。しゅげんじゃってなんだ。桃子はたんさくしゃ。だぞ」

 

『おや、そうなのですか。随分と珍妙な服装だと思いましたが、修験者以外の者たちが降りてきているのですか。時間の流れというものですね』

 

 桃子は相変わらずのヘノの無遠慮さにハラハラしてしまうのだが、どうやら過去に出会った力もつ魔法生物たちと同様、このハクロウもまた、礼儀というものにはこだわらない、おおらかな心の持ち主のようである。

 もっとも、ダンジョン内ではまともな会話が成り立つ相手の方が、そもそも少ないのだ。そんな中では、礼儀など気にするだけ無駄、ということかもしれないが。

 

 なんにせよ、分かったこととして。

 

 このハクロウは、この階層が封じられるより以前の吉野ダンジョンを知っている。ここが、修験者の聖地だった頃を知っている。

 修験者がこの地を訪れていたのがいつ頃なのか桃子は詳しく知らないものの、目の前のこの存在は、それだけの長い間、この地を守ってきた守護者ということだろう。

 

 必ずしも、長く生きていれば偉い、というわけではないけれど。それでも、目の前の巨大なオオカミの貫禄に、桃子は背筋がピンと伸びるような緊張感を味わっていた。

 

 

 

 

 そして、実はもうひとつ。

 桃子たちが気になって仕方がないことがある。

 

「あの、ハクロウ様。ポンたちはオオカミさんたちに会いに来た……んすけど……」

 

「その、そちらの……」

 

「はくろう。そこの人間たち。死んでるのか? 殺しちゃったか?」

 

 ポンコと桃子が、オオカミの守護獣たるハクロウとの距離感を測りかねているなかで、やはりヘノは無敵だった。怖いものなしともいう。

 実は桃子たちが先ほどからどうしても気になっていたもの。

 それは、三人の横たわった人間たちの姿。

 

 ハクロウの巨体の脇には藁の束が申し訳程度に敷かれており、そこには三人の探索者が寝かされていた。

 桃子たちは、その姿をみたときに目を見開いて驚いたものだ。なんとハクロウの横に寝かされているのは、桃子たちもよく知っている、美食三銃士の面々だったのだ。

 何故ここにいるのかはわからないけれど、血色の悪い顔に苦悶の表情を浮かべた美食三銃士が、衣装を赤黒い血で汚した姿で、ハクロウの横に無造作に寝かされているのである。

 

『彼らは、この階層に潜む敵に襲われたようです。眷属たちが運んできたのですが、毒の症状が出ているようで、扱いに困っていたところです』

 

 そしてハクロウは、桃子とポンコを順に見て、言葉を続ける。

 

『もし、あなた達が彼らをどうにかできるというのであれば――』

 

「治療します! 応急処置セットはあります!」

 

「そうっす! 解毒薬も分けてもらってるっす!」

 

 ハクロウの言葉に被さるような勢いで、桃子とポンコが立ち上がり、怪我人たちのもとへと駆け寄った。

 そして、当然のようにヘノとノンもそれに続く。彼女たちもまた、桃子がどう動くかなど、聞くまでもなく予想していた。

 

『……ふむ、それは僥倖。ならば、私はここで、あなた方を見定めてみるとしましょうか』

 

 オオカミの守護者ハクロウが見つめる前で。

 

 桃子とポンコによる、救助活動が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【フルーツ☆タルト所属 カリンの配信チャンネル】

 

『ビリっ』

 

 ぎゃーっ!

 

 ちょっとタチバナ、今またカリンに電撃うたなかった?! カリンのこと殺そうとしてる?!

 

『なんで私がカリンを殺さないといけないんですか。ゴーストがいたんです』

 

 えー、またゴースト? なんでカリンにばっかりそんなに寄ってくるの?

 もしかして、カリンって霊媒体質っていうやつ?

 

『実際、カリンさんにだけさっきからゴーストが付きまとってるんですよね。カリンさん、聖水貰わなかったんですか?』

 

『カリンあなた、もしかしてギルド受付で出してもらった聖水、無くしたりしてないでしょうね?』

 

 えー、クルミちゃんとリンゴちゃんまでそんなこと言うの?

 ほら、聖水はちゃんと持ってるよ? 瓶が小さくてかわいいから、きちんとポケットに入れといたからね!

 

『カリンさん、それ入り口で身体に振りかけなきゃ意味ないですよ』

 

『お馬鹿、あなた説明をちゃんと聞いてなかったのね……』

 

 がーん、そうだったの?

 そっかあ、長崎ダンジョンギルドで配ってる聖水って身体に振りかけるものだったんだね。勉強になるよ。

 パティシエさんたちも、ダンジョンに入るときは聖水をふりかけるんだよー?

 

『カリンさん、とりあえずジッとしててください。振りかけますから』

 

 ありがと、クルミちゃん。

 これで私もゴーストバスターだね!!

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 ほえー、なんかすごい……歴史を感じる教会だねえ。

 でも、てっきりもっと豪華な教会を想像してたけど、なんかこぢんまりしてるんだねえ。

 お、さっそく有識者のパティシエさんが教えてくれてるじゃん。

 

 なるほどなるほど。

 隠れキリシタンの人たちの手作りの教会だから、そんな大きなものは作れなかったんだね。

 

『カリンさん、せっかくですし……というのも変ですけど、私たちもマリア様にお祈りしていきましょうか』

 

 そうだね、そうしよっか。

 

 でも、キリスト教のお祈りってどうやるんだろ。

 神社みたいな感じでいいと思う?

 

『タチバナさんの見よう見まねでいいと思うわよ。タチバナさんはほら、ミッション系の学校だから、お祈り姿がさまになってるわね』

 

 すごい、本物のロザリオじゃん!

 じゃあ、私もタチバナを真似て、お祈りをしていこうかと思います。ロザリオはないけどね。

 ちゃんとパティシエさんたちも、画面の前で手を合わせて? ここはマリア様の前なんだからね。

 

 マリア様、マリア様、カリンたちが魔物に襲われませんように。

 みんなが安全にダンジョンを探索出来ますように。

 世界中の人たちを、どうか見守っていてください。

 南無南無。

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