ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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吉野ダンジョン救助隊

「隊長。第三層の入り口、障害物の撤去は完了いたしました」

 

「ヨシ! じゃあA班から下に降りて、ドローンカメラを飛ばすぞ。みんな、安全第一でいくぞ!」

 

 吉野ダンジョン第二層『サクラモリ』。

 この地ではいま、ギルドが募った人材による、12人ものメンバーからなる大規模な作戦が進行中だった。

 行方不明になったパーティ『美食三銃士』の捜索、および彼らの残した手がかりをもとにした第三層の探索である。

 

 ことは前日に遡る。美食三銃士のメンバーから、『サクラモリ』のとある地点を示す座標情報が発信されていたのだ。

 しかし、情報としてはそれだけ。緊急用の救助要請でもなければ、なにか続報があるわけでもない。ギルドからもメッセージを送信してみたものの、特に彼らからなにか連絡がくるわけでもない。

 美食三銃士は経験も豊富であり、ギルドからの信頼も厚いパーティだ。彼らがなんの意味もなく座標情報を送るわけがないと、ギルド側で万が一に備えて動きだしたのが、昨日の晩のこと。

 

 日が明けてもなお連絡がなく、ギルドはことを緊急要請案件と認定。昨日より連絡の行き渡っていた近隣のパーティが集まり、大規模な救助隊を編成し、綿密なミーティングを終え部隊が出発したのが昼前のことだ。

 たかが、12人。されど、12人。

 都心部のダンジョンならば登録探索者が桁違いに多く、救助隊も幅広い人材を集められるだろう。だが残念ながら、ここ吉野ダンジョンでは人材の選択肢は限られている。

 それでもなおこの難所『サクラモリ』奥地まで探索可能であり、更には万が一の状況に対応できる実力を持つ探索者が一晩で12人も揃ったのは、立派なことである。

 

「隊長。B班の斥候担当の旗立さんは、この救助探索が終わったら故郷で結婚するとのことですよ」

 

「なんだと? フラグみたいでなんだか嫌なんだが……でも幸せな話でヨシ! 旗立くんの幸せのためにも、ちゃんと無事に地上に戻らにゃならないな」

 

「隊長! C班ドローンカメラの準備できました!」

 

「ヨシ! 通路降りたらまずその場で待機、B班は撤退ルートの確保は忘れずに頼むよ!」

 

「はい!」

 

 この部隊の隊長を任されているのは、普段からこの吉野ダンジョンをホームとするパーティのリーダーだ。実力はそこそこだが、人当たりがよく責任感も強いため、今回の隊長として選任された。

 祖父がこの地の修験者であり、彼は幼い頃から『サクラモリ』について聞いている。第二層についてはもちろん、この『サクラモリ』の下には地獄が存在する、という第三層の言い伝えを聞かされて育ってきた。

 彼は決して、この吉野ダンジョンを侮らない。

 

「ヨシ、第三層は真っ暗なのを確認!」

 

「『ヨシ』じゃないですよ。カメラをセットしたところで、こう暗くては何も映りませんし、これだけ鬱蒼とした森ではドローンカメラも飛ばせません」

 

「ううむ……まずは明かりが必要だな! ヨシ、ランタンを灯そう! 魔法光も用意だ!」

 

 降りた先は、暗闇のような森だった。

 ここに到着した時点で既に時刻は遅く、第三層に闇の帳が落ちている可能性も、考慮はしていた。

 せめて第三層が日没と無縁な洞窟タイプか、あるいは鳥取の熱砂砂漠のように常に昼間というタイプの階層だったならば暗闇に足止めを食らうことは無かったのだが、残念ながらそう都合よくはいかなかった。

 

 降りた先は闇の森。ドローンを飛ばすどころか、自分達がまともに周囲を確認もできない。この状態で未知の階層を進んだとしても、二次被害の恐れがあるだろう。

 ランタンや魔法の灯りで強引に探索をすることも可能だが、それはあまりにもリスクが大きすぎる。隊長として、一度上層へ戻り朝まで『サクラモリ』での野営を提案しようとしたところで、メンバーの一人が森に何かを発見する。

 

「な、なあ、あれ! 何かいるぞ!」

 

 彼らの照らした灯りを反射するそれは、一対の光。

 野生の力強さと、獲物を狙う鋭さを内包する、オオカミの瞳が、森の中から彼らを見つめていた。

 しかもそれは、一匹ではない。気づけば周囲には、突然現れた異邦人たちを包囲するかのように。

 この森に潜むオオカミたちが、集まりつつあった。

 

「グルル……」

 

「オオカミ……? こいつら、魔物なのか?!」

 

「……ヨシ! 前衛は防御体制。カメラはそのままにして、C班から順次第二層へ後退! ゆっくりと、そのまま撤退!」

 

「で、でも、まだなんの調査もできてないですよ?! 美食三銃士の手がかりも……」

 

「馬鹿野郎! こんな暗い森で未知の獣タイプの魔物の相手なんてさせられるか! ヨシ、そのまま、そのまま撤退!」

 

 幸い、彼らはまだ第二層から降りてきたばかりだ。背後には第二層へと続く階段が口を開いている。

 魔物というのは、一般的に階層を跨いで追いかけてくることはないはずだ。ここで第二層まで撤退すれば、無駄な怪我人を出さなくて済む。

 

 数分後。撤退を指示した隊長がしんがりを勤め、オオカミたちとの睨み合いの末にどうにか全員が無事、第二層の『サクラモリ』へと退避できたのである。

 

 

 

 

「ヨシ、三層にオオカミの魔物がいるってわかっただけでも儲けものだと考えよう」

 

「それも、そうですね」

 

「これ以上無理をすれば二次被害につながってしまうからな。ヨシ、一先ず我々は野営の準備に取り掛かろう」

 

 隊長は、この険しい『サクラモリ』をここまで潜ってきた時点で既に体力的にかなり疲労困憊ではあったのだが、たった今の出来事で既に精神的にもクタクタだった。

 もちろん、美食三銃士のことは心配である。救助せねばという強い責任感もある。しかし、ここにいるメンバーの安全を軽視するわけにはいかないのだ。

 三銃士達には悪いが、隊長は人命に優先順位をつけるならば、今この場にいる11人を優先するつもりである。

 

 とにかく、野営は野営で手間がかかるものだ。まだ各々の体力があるうちにやってしまうに限る。

 早速、一度メンバーを集めて行動しようと、隊長が立ち上がったところで――。

 

「部隊長! オオカミです……! オオカミたちが、階層を繋ぐ通路を上ってきてます! 二層まで、上がってきます!!」

 

 第三層に設置したカメラの映像を確認していたメンバーの声が、辺りに響き渡る。

 この探索が終わったら故郷に戻って結婚をするという彼の衝撃的な報告が、その場の全員の耳をつく。

 

 12人の長い夜は、いま。

 始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、第三層『ヒトザト』山間部、ハクロウの洞窟では。

 

「でよぉ、その巨大な食虫植物を掘ってみたら、土の中からこーんなでっけぇ、巨大な里芋が出てきたわけよ。意味わかんなくね?」

 

「ほえー、里芋って、食虫植物だったんすねえ」

 

「チッゲェよ、普通はそんなわきゃないのよ。普通の里芋ちゃんは、こう……でっかい葉っぱがなる、平和な植物でな」

 

 上半身だけ身を起こしたレンジが、ポンコが扮する「けものの姫」に各地の食材についての話を聞かせていた。

 レンジは意識を取り戻したとはいえ、まだまだ身体は本調子ではなく、安静にしていないといけない状態だ。

 なのでポンコが横で世話をしていたのだが、話し相手としてレンジたちの冒険譚を聞いてみたところ、なんだか盛り上がってしまった。

 

 

 

 

「あのレンジさんっていう人も、元気になったみたいで良かったよぉ」

 

「あの男。ちょっとうるさいけど。食材の話をたくさん知ってて。いい奴かもしれないな」

 

 そして、ポンコたちから少し離れた場所でレンジの話に聞き耳を立てているのは、ヘノとノン、妖精たちである。

 ノンの言うように、レンジはだいぶ元気を取り戻していた。ニンゲンによる呪いや毒の影響が大きく、先ほどまでは心身ともに随分と消耗していたレンジだけれど、カレーに入っていたハクロウダケが精神的な癒しの効果を持つというのは本当だったようで、カレー粥を食べてからの彼は元の調子を取り戻している。

 元が軽薄なキャラクターだったレンジだが、年下のポンコに様々な冒険譚を話して聞かせる姿はまるで、年の離れた妹をかわいがる兄のようだった。

 

 

 そして、ハクロウダケの癒し効果の恩恵を受けているのはレンジだけではない。

 

「うわ、ハクロウ様! これ本当に貰ってもいいんですか?!」

 

『ええ。霊獣の牙です。私から見れば大した価値もありませんが、人である桃子さんにとっては、これが持つ力が役にたつことでしょう』

 

「はい! あの、私……前に、これと同じ牙のお守りに、守ってもらったことがあるんです」

 

 桃子は、巨大なオオカミの守護獣たるハクロウと、随分と打ち解けていた。

 きっかけは、もちろんカレーだ。

 桃子の製作したカレー粥に興味を示したハクロウに対して、桃子がカレーの権化の如く話し始め、気づけば互いに雑談に興じる程度にはなっていた。カレーは種族の垣根を越えるのだ。

 そして今は友好の証として、魔力を帯びたオオカミの牙を貰っていたところだ。

 

 桃子にとって、この霊獣の牙というものは、思い出深いものである。

 沖縄での事件のときのことだ。

 桃子は、ニライカナイという生死の狭間の世界にて、そこで仲間となったパーティのリーダーにこれと同じものを『お守り』としてプレゼントされたのだ。

 その牙のお守りは、その生死の狭間の世界を進んで行く中で、桃子をとある呪いから守る形で崩れて消えてしまった。

 そしていまハクロウから受け取った牙は、まさにそれと同じものである。

 

『もしかしたら、過去の修験者がお守りとして所有していた牙が、巡り巡って桃子さんに渡ったものなのかもしれませんね』

 

「そっか……よかった、また、あのお守りつけられるんだ……」

 

 大切なパーティだったけれど、彼らは既に故人だったのだ。だから、形見の品なども、桃子の手には残りはしなかった。

 だからこそ、こういう形で同様の品が手に渡るというのは、実に感慨深いものがある。

 

 

 

 そのように、今この時ばかりは。それぞれが、穏やかな時間を過ごしていた。

 しかし、その平和なひと時は、存外早く終わってしまう。

 

 

 小さな、アラーム音のようなものが洞窟内に響いた。

 それは先ほど、ニンゲンたちから取り返した美食三銃士の荷物から聞こえたものだ。

 ポンコとの話を中断し、慌ててその荷物を漁り、音の発信源である端末を確認したレンジの顔色が変わるのは、すぐだった。

 

「やべえ! ギルドが……調査隊を派遣してやがる……!」

 

 レンジがそう告げると、桃子やハクロウもレンジのほうを振り返る。ポンコはレンジの横から、きょとんとした顔でその端末の画面を見つめている。

 

「調査隊っすか?!」

 

「ああ、これだ、わかるか? ポン……じゃなくて、けも姫」

 

「キューン……文字はあんまり読めないっす……」

 

「あー……」

 

 けものの姫、略して「けも姫」ことポンコが横からその端末画面をのぞき込むが、残念ながらギルドからの連絡メッセージはポンコの知識では読みとれなかったようだ。

 ポンコもひらがなやカタカナ、そしてうどんに関わる簡単な漢字くらいは読めるようになったのだが、残念ながらギルドが送信したであろう文面はポンコには難しすぎた。

 

 レンジは、無造作に自分の頭をガシガシと書いてから、ポンコにもわかりやすいように言葉を選んで説明をはじめる。

 

「つまりだな。俺ら――美食三銃士からの連絡がないから、俺らがダンジョンで大変な目に遭ってるに違いないって判断されたんだ」

 

「なるほど。実際に酷い目にあってたっすからね」

 

「まあな。で、そこは間違いじゃねえんだが……問題は、俺らを助け出すための探索者の一団がもう、ここ第三層まで来てるってことだ」

 

 レンジの眠っている間に、どうやら彼らは『救助対象』として認定され、彼らを救い出すための調査隊が結成されていたのだが、その調査隊がまさに今、この第三層へと向かっているらしい。

 レンジがここまでそれに気づかなかったのは、不運としか言いようがない。レンジとて、己の端末が手元に戻ってきた段階で、端末のチェックはしているのだ。

 だが、ギルドが連絡をいれていたのはレンジの端末ではなく、彼らの代表としてやり取りをしていたユキヒラの端末だった。緊急時にメンバー全員に連絡を入れるように登録をしていなかったレンジたちの手落ちでもある。

 レンジは、荷物が手元に戻ってきてからも、ユキヒラの端末を勝手に触るようなことはしなかった。

 彼の倫理観が、皮肉にも今回の気づきを遅らせてしまった。

 

「なるほどっす! ……って、そうなると、つまり……?」

 

『新たに降りてくる探索者の一団が、ニンゲンに襲われるか……あるいは、オオカミたちと接触し、そこで争いが起きる可能性があります』

 

「ハクロウ様? え、争い……っすか?!」

 

 ここにきて、静かにそこに佇んでいただけの巨大な白銀のオオカミ、ハクロウが言葉を挟む。

 人間とニンゲン。あるいは、人間とオオカミ。

 この第三層には二つの勢力が存在するけれど、現状ではどちらも人間の探索者たちの味方とは言い難い。

 

 ニンゲンたちに出会えば、恐らくは美食三銃士の二の舞だ。

 救助隊に参加するような善良なる人間ほど、あのニンゲンの呪いの影響を大きく受けてしまうだろう。

 

 そして、オオカミたちと接触してしまった場合は――。

 オオカミたちは、魔物と探索者の区別はつかない。最悪の場合、その両者による、それぞれの命を守るための殲滅戦が始まるだろう。

 

「……ポンが、助けに行くっす! ニンゲンに襲われてたら助けるし、オオカミのみんなと出会ってたら、喧嘩にならないように仲裁するっす!」

 

「お、おい……けも姫」

 

「あ、レンジさんは動いたらダメっすよ。大丈夫、ポンは大丈夫っす!」

 

 ポンコは、すっくと立ち上がると、心配するレンジの視線を振り向きもせずにすたすたと洞窟の入口へと歩いていく。

 その後ろ姿には迷いはない。まるで、これが最初から自分に与えられた役目なのだとでも言うような、強い意志すら感じられた。

 

『……ポンコさん、お気をつけて。わが子たちを、よろしくお願いします』

 

「もちろんっす!!」

 

 すでに、ハクロウは全盛期の力を持たず、この洞窟内で眷属の繁栄を見守ることしかできない。

 そんな守護獣の祈りを背中で受け取り、ポンコ――けものの姫は、洞穴の外へと、足を踏み出した。

 

 

 

 洞窟の外にはすでに。ポンコの仲間たちが。

 桃子、ヘノ、ノンの三人が、ポンコの訪れを待っていた。

 

「よし、行こうか、ポンコちゃん」

 

「はい、師匠! 人間とオオカミが争ってたら『やめてもらう』っすよね!」

 

「ニンゲンと争ってたら、私たちがまた退治しちゃえばいいからねぇ」

 

「じゃあ。急ぐぞ。つむじ風の魔法で。一足飛びだぞ」

 

 人間とオオカミが争っていたら、やめてもらう。

 その簡単で、単純な師匠の教えを守るために。

 

 ポンコは真っすぐに、夜の森へと飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

「うわあ、ポンコちゃん待ってー!!」

 

「しまった。桃子は。夜の森。よく見えないんだったな」

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