ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ヒトザト事変

 第三層『ヒトザト』に、異変が起きていた。

 

 今、ヒトザトの中心では、大量の魔物――ニンゲンが発生している。

 魔物であるニンゲンの主な標的は、人間だ。

 実際ならば、傷を負い衰弱している美食三銃士こそが真っ先に狙われる対象であっただろうが、ハクロウの洞にいる限りは、彼らの存在はハクロウの結界で保護されている。

 ならば、次に標的になるのは、第二層に訪れていた多くの探索者たちだ。第二層から吹き込む人間の気配を感じとり、魔物の群れは、進軍を始めていた。

 

 ニンゲンの群れが、多くの探索者が居るはずの第二層へと向かい、歩みを進めている。

 この封印されていた『ヒトザト』に充満していた濃厚な瘴気が、清浄な第二層へと噴き出すがごとく。魔物の群れ、瘴気の存在が上層を目指している。

 

 一方、自分もオオカミと共に戦うことを選んだ桃子はというと――。

 

 

 

 

「ありがとうね、ギンロウさん」

 

「ガウ」

 

 オオカミの背にしがみついて森を抜け、景色が開けた崖のふちに降り立つ。

 夜目が利かず、暗い森の中で活動できない桃子をここまで運んでくれているのは、ニンゲンと戦った際に案内役として同行してくれていた体格の大きなオオカミのギンロウだ。

 桃子の姿を認識できる彼は、今回は桃子の移動のための足となり同行してくれている。

 

 桃子が降り立ったここは、ニンゲンたちの進路を遮断するのに適したポイントのひとつである。

 森から出て、景色は開けている。だがしかしそれでも、この第三層『ヒトザト』の闇は濃く、桃子にはその広がる景色のほとんどが見通せない。

 わかるのは、この階層の至るところで、オオカミたちの遠吠えが鳴り響いているということだけである。

 

「桃子。ハンマーの魔力は。ばっちりか?」

 

「うん、もちろん。いまなら琵琶湖ダンジョンのひとつや二つ、簡単に崩せるよ」

 

 桃子がハクロウから授けられた戦略。

 それは、桃子の持つハンマーの破壊の力を利用し、ニンゲンたちの進路そのものを破壊してほしい、というものであった。

 いま桃子が降り立ったそこは、第二層へ続く階段にほど近い山中のポイントだ。そこには崖があり、盆地から進軍してくるニンゲンの群れはその崖の下を通ることになる。

 

「この下を。ニンゲンの群れが通りがかるときが。崖を崩す。チャンスだぞ」

 

「本当はノンちゃんのほうが、こういった作戦は適任なんだろうけどね」

 

「あいつら。どこまで。上っていっちゃったんだろうな」

 

 崖の下には、人間――いや、ニンゲンの足で歩けそうな平坦な道が続いているはずだ。

 ヘノが空を舞い、広々とした崖の下を覗き込んで様子をうかがう。崖の下を吹き抜ける風が、ヘノにあたり一帯の情報を教えてくれる。

 桃子も恐る恐るがけ下を覗き見てみるが、この階層には魔法光が少なく、闇が覆っている。崖の下を覗いたところで桃子の視界ではほとんど何も見えないも同然だったが、そこはヘノやオオカミたちの感覚を信じるしかない。

 

「ここの崖を崩すのはわかったけど、大丈夫かな。余波で第二層の入り口のほうまで崩れたりしない?」

 

「さすがに。大丈夫だろ。じゃあ桃子。そろそろだ」

 

「ん、わかった。とにかく、力一杯地面を崩せばいいんだよね」

 

「多分。それでいいと思うぞ」

 

 風に運ばれ、ニンゲンたちの怨嗟の呻き声が微かに聞こえてくる。しかし、どうやら距離が開きすぎているからか、その言葉までが桃子の耳に届くことはない。

 桃子がニンゲンと戦いづらく感じる理由の一つである「人間そっくりの姿」も、不幸中の幸いと言うべきか、暗すぎてそもそも視認できないだろう。

 ならば、今は何も考えずにこの崖を崩すだけだ。ただ、ヘノを信じて。

 

 崖の上で、地面をハンマーで叩く。崖が崩れる。自分は崖もろとも落ちてしまう前に、頑張って陸地へと飛び退く。作戦はシンプルで、簡潔だ。

 

「よし。近づいてきたぞ。ぎんろう。合図だ。他のオオカミが巻き込まれないように。きちんと伝えるんだぞ」

 

「ウォォオオオオオ――……ン」

 

 ギンロウの遠吠えが響き、盆地の向かいの山との間に木霊する。

 あたりの森から、ギンロウへ反応を返す狼たちの声も聞こえてくる。桃子にはわからないが、恐らくこれでオオカミたちは意思疎通をしているはずだ。

 そして、その長い遠吠えを終えたところで。作戦決行だ。

 

 桃子は、ハンマーに魔力を注ぐ。

 すると、紅珠がまるで脈打つように淡い光を放ち、強大な破壊の魔力がハンマーを包み込む。空気を震わせるような圧が、そこから発せられていく。

 これを、崖の上から地面に叩き込めばいい。そうすれば、ダンジョンの地形をも崩壊させる、巨大な魔力爆発が起きる筈だ。

 ヘノは高々と空へと舞い上がり、ギンロウは巻き込まれないよう後方の森の中へ待避している。

 

「よし。行くぞ。桃子。崖崩しだ」

 

「うん! いっけぇえ!! 崩れちゃえぇぇっ!!」

 

 桃子がハンマーを地面にたたきつけた瞬間――。

 

 ハンマーを包み込んでいた魔力が光の爆発となって地面を貫き、桃子の視界を白く染めた。

 直後。雷鳴のような衝撃音が爆発的に轟き、それと同時に大地が裂けるほどの衝撃波が荒れ狂う暴風となって桃子を襲う。

 

「うわああああぁぁっ!!」

 

 瞬時に視界も聴覚も奪われ、桃子は自分の状況が何も分からなくなり、ただただ激しい暴風に身を任せて、吹き飛ばされていった。

 

 

 ――結果。

 

 

 当初の作戦では「落ちる前に頑張って飛び退く」という工程を組み込んでいたが、結論から言ってしまうと、それ以前の問題であった。

 桃子は衝撃によって、飛び退くまでもなく空高く吹き飛ばされてしまったのだ。例の如く、悲鳴と共にその小さな身体が大きな弧を描いて飛んでいく。

 

 ヘノが暴風で桃子を背後の森林へと吹き飛ばしてくれたため、ニンゲンの蠢く崖下へ桃子が落ちてしまうという最悪の事態は免れた。

 ただ、吹き飛ばされた桃子は、衝撃で幾つかの木々の枝をバキバキとへし折り、枝の弾性で幾度も弾かれながら木々の間を落ちていく。

 まるでパチンコ玉のように弾かれ続けた末、最後は桜の幹にベチっと衝突して「ぐぇ」という声とともに地面へ転がり落ちた。

 お世辞にも、うら若き少女が体験する着地方法ではない。ダンジョン内の桃子が人並み外れて頑丈な体質になっていなければ、これだけで骨の数本は軽く折れていただろう。

 

 今までもダンジョンを破壊するたびにこの魔力の大爆発で吹き飛ばされているので、今回こそは踏ん張ろうと思っていたのだが、残念ながら琵琶湖、尾道ときて三連敗を喫した。

 そもそも、ハンマーを振り下ろした直後の無防備な体勢での爆発では、踏ん張ることなど叶わないと、桃子は学習した。

 

「うぐぅ……いたたたた……もう少しでニライカナイに呼ばれちゃうかと思ったよ……」

 

 つい先ほど、ハクロウからもらったオオカミの牙は、さっそく【加工】でネックレスに改造し、首からかけている。

 過去に死者の国ニライカナイにて仲間からもらったお守り同様、このお守りが今回も桃子を助けてくれたのかもしれない。

 全身をあちこち打ち付けて、枝と葉っぱでもみくちゃになっていたパチンコ玉こと桃子がむくりと起き上がると、体中が痛いものの、どうやら怪我もなく着地出来たようである。

 

「桃子。大丈夫か」

 

「はぁ……はぁ……いや、大丈夫というか、大丈夫ではないというか……まあ、大きな怪我はしてない、かな。きっと全身擦り傷だらけだけど」

 

「桃子。今回も。すごく飛んだな」

 

「ヘノちゃんは今回、ちゃっかり離れて避けてたじゃん。なんかずるくない?」

 

 頑丈さゆえか、それとも運がよかったのか、体中の至る所をハチャメチャに打ち付けて痛かったものの、幸いにも大きな怪我はなさそうだ。これもきちんと日常的にカレーを食べていたからこそだろう。

 木々をへし折り、最終的に樹木にぶつかり落下するという散々な状態なので、大丈夫だった、とは言い難いけれど、身体的には大丈夫である。

 

「まあ。桃子がこれくらいで。怪我なんてするわけないしな。信じてたぞ」

 

「その謎の信頼感はなんなの……?」

 

 内容はさておき、信頼してくれるというのは嬉しいことではあるのだが。桃子としては、もう少し優しさが欲しいところである。

 

「ガウ……グルルル……」

 

 今は、桃子のことをあまり知らないギンロウだけが、心配げに桃子に寄り添ってくれていた。

 オオカミのやさしさが身に染みる。

 

 桃子がギンロウに支えられている一方で、ヘノは先程の爆発が起きた地点へと戻り、崖から下を覗き込んでいる。

 

「大成功だ。これでニンゲンたちが通る。道がなくなったな」

 

「ダンジョンだからいいけどさ、地上でこんな環境破壊行為をしてたら、すぐに逮捕されちゃうよ。ちょっとした一人環境テロリストだよ」

 

「そうか。さすが桃子だな。環境破壊の天才だな」

 

「えへへ、全く嬉しくないや」

 

 全身に引っかかった桜の枝を落としてどうにか立ち上がると、先ほど立っていた崖のあたりの地面が、広範囲にまるっと消滅しているのが見て取れた。少なくとも、体育館一つ分ほどの地面が消えている。

 どうやら、ハンマーの破壊の衝撃は大きく、桃子の想像以上に地面が崩れ去っていたようで、なかなかに壮絶な威力である。

 巻き込まれた木々には申し訳ないことをしたとも思うが、こればかりは必要な犠牲なのだ。さようなら、桜の木。

 

 しかし、呑気に驚いている暇は残念ながら、桃子には与えられなかったようだ。

 

 

 

『タスケテ……アァ……タスケテェ』

 

『オカアサン……オカアサン……』

 

 

 

「い……今の、ニンゲン?!」

 

 桃子が振り返る。闇に覆われた森の奥から、聞き間違えようのない「助けを求める声」が聞こえる。

 ビクリと反射的に身構えてしまう桃子だけれど、先程食べたカレー粥に使われていた『ハクロウダケ』の効能なのか、今回は桃子の心を蝕むほどの恐怖は感じない。

 桃子が自分の呪いへの耐性に驚いているうちに、森の中を歩いてきたニンゲンたちは、桃子に近づく間もなくヘノの突風で吹き飛ばされ、その衝撃で煤へと還っていく。

 だがしかし、森の中から聞こえる呻き声はまだまだ無くならない。

 ひとつやふたつでは済まない、数多の呻き声が、あちらこちらから近づいてくるのがわかる。

 

「まいったな。きりがないぞ。別な箇所も、崖を崩したほうがよさそうだな」

 

「ガウ! グアウ!」

 

 どうやら、今のニンゲンは、桃子が崖を崩したポイントとはまた別なルートから上ってきていた相手だったようだ

 一か所崖を崩しただけでは、やはり魔物たちの侵攻ルートを全て潰すとまではいかなかった。

 

「桃子。もう一回。崖を崩しておこう。他にもまだ。別な道があるんだ。ニンゲンたちが。そこから上ってきてるみたいだ」

 

「でも、どうしよう、私たちがここを離れたら、それこそ上の階層にニンゲンが昇っていっちゃうよ」

 

「まいったな。たぬきたち。一体どこまで。行っちゃったんだ」

 

 いま、桃子たちがいるポイントは、第二層へと続く階段のある洞窟からほど近い場所だ。

 あの階段を通り、上層へニンゲンが上っていくことだけは、何があっても阻止しなければいけない。

 あの魔物は、ニンゲンは。恐らくたった数匹が第二層へと昇ってしまうだけで、人間たちの被害は甚大なものとなる。

 ニンゲンたちがこの場所を目指して侵攻してきている以上、この周辺が最終防衛ラインだ。この場所は、守り通さねばならない。

 

 しかし、だからこそ難しい局面といえる。

 崖を崩さねば、大量のニンゲンが押し寄せてくる。しかし、ここを離れれば防衛ラインが無人になってしまう。

 

 せめてポンコやノンがこの場にいればまだ戦い方は選べただろうが、彼女たちはどこまで昇って行ってしまったのかもわからない。

 さすがに第一層までとはいかないだろうが、救助隊と接触するためにかなり遠くまで移動している可能性もあるのだ。

 

 ――もっとも、実を言えば第二層に上ってすぐの探索者キャンプで今は落ち着いているため、いま急いで階段を上がれば合流できたのだが、桃子たちには残念ながらそこまでは読み取れない。運命のすれ違いである。

 

「私が一人で崖を壊してくるから、ヘノちゃんはここで守るっていうのは……無理かな」

 

「そんな危険なこと。ダメだぞ。桃子は暗いところで動けないし。崖から落ちたらどうするんだ」

 

 桃子とヘノの別行動。それが出来れば、ことはすんなりと解決できるかもしれない。

 しかし、桃子では崖下の様子も確認できないし、爆発時に風を起こして吹き飛ぶ方角を調整もできない。そもそも崖の場所がわからないのだから、ヘノが言うまでもなくこの提案は却下だろう。

 しかし、こんな話をしている間にも、森の中には何匹ものニンゲンが現れては、ヘノが暴風で吹き飛ばし煤へと還す、というやりとりを繰り返している。

 すでに、消耗戦は始まっていた。

 

「ガルルル……!」

 

「こ、このお!」

 

 既に、ヘノだけでは追い付かず、桃子やギンロウも現れるニンゲンの撃退に参加している。ニンゲンを撃退し、再び奥から現れたニンゲンを撃退し、を繰り返している。

 いったいどこからこれだけのニンゲンがわき出ているのかというほどに、ニンゲンはいくらでも湧き出てくるようだ。

 

 大量発生を妨害するためにもう一つの崖を崩さないといけないが、この場所を留守にもできない。

 桃子はそんなジレンマに頭を悩ませながら、とにかくハンマーを振り回して、周囲の木々ごとニンゲンを叩いて回る。

 

 桃子の周囲では桜の木々が無惨にもへし折れていくが、申し訳なく思いつつも、もはやそれを気にしてはいられない。

 とにかく、ニンゲンが来ないようにハンマーで木々を倒す。

 それだけでも、視界の悪さからくる暗さは軽減され、足場を悪くすることでニンゲンの移動速度にも影響を与えられる。根本的な解決ではないものの、足止めとしては悪くない。

 だが、周囲の木々を全て破壊してしまえば、あとは桃子自身が戦いづらい足場が残るだけだ。このままじゃいけないと桃子は焦り出した。

 

 そんな折。

 

 

「グルルル……ガウ!!」

 

 すぐ近くから、オオカミの声が聞こえる。桃子とずっと共にいてくれたギンロウの声ではない、別な個体の声である。

 そして、それに続いて。ポ、と。真っ暗だったその森の中に、真っ白い光の玉が現れる。あたかも、LED電球の如き、白く眩い光である。

 

 それは、光の魔法だった。

 その光の中に、桃子は見る。オオカミに連れられてこの場所までやってきたのは、先ほどまで寝ていたはずの、三人の美食家たちの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【りりたんの朗読チャンネル】

 

 ――というわけで、あわれ狸は泥船と共に沈んでしまい、兎の復讐は成し遂げられたのでした。

 

 ちゃんちゃん。

 

 

 ……あ、今からの方はおはようございます、こんばんは、りりたんです。

 今日も静かなダンジョン内で、朗読をしています。

 モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。

 

 というか、たった今まで朗読をしていたのですよ。

 短いお話でしたが、昔話の『カチカチ山』という物語です。簡単に説明すると、人間に捕らえられた狸が、人間を化かして殺して逃げたのち、人間の味方である兎に復讐されてしまうという、ドロドロの復讐物語ですよ。

 ふふふ。時代が違いますから一概には言えませんが、全体的にどうしようもないお話でしたね。

 

 ところで、昔話では、狸というのは人を化かす生き物として扱われることが多いですね。

 実際に香川ダンジョンに住まう化け狸たちも、その名の通り様々なものに化けると言われていますよね。もしかしたら、しれっとうどん店を出している化け狸もいるかもしれませんよ。ふふふ。

 

 でも、香川ダンジョンの化け狸はさておき。

 

 人間にとって狸と言うのは、どのような相手なのでしょうね。

 共存できる存在でしょうか? それとも、すぐに人を化かして共存には向かない存在でしょうか?

 

 たとえばりりたんがこれから、狸と交渉をする機会があったとしたら、何を気を付けたらよいのでしょうかね。

 

 狐だったらお揚げを持っていくところですけれど、狸が好きな食べ物とは一体何があるでしょうね。

 ふふふ。

 案外、人間のファッション雑誌とかが喜ばれるのかもしれませんね。

 

 

 ところで、話は変わりますが、皆さんは夏休みは満喫していますか?

 りりたんは今から、少し前に新しくできたお友達を伴い、動物がたくさんいる場所に出掛ける予定があるのですよ。にんげんも沢山いますけどね。

 はい、今からです。ナイトサファリ……? まあ、似たようなものですかね。

 いっぱい、もふもふを堪能してきますね。ふふふ。

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