ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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本当の主

「ヘノちゃーん、こっちこっち」

 

 

 週末。いつものように窓口にギルドカードを見せて受付を済ませて、意気揚々とダンジョンへと入っていく。

 先日は柚花に子供服であると指摘されてしまったので、今日は大人っぽさを意識してショートパンツの下はハイソックスではなく黒のタイツである。

 残念なのは、これを見せる相手がファッションに関心のない妖精しかいないという所だろう。

 

「桃子。今日は。後輩は来ないのか?」

 

「うん、柚花は今日は友達とテスト勉強しなきゃならないんだってさ。本人はダンジョンに来たがってたけどね」

 

「テストっていうのは。聞いたことがあるな。何か。一人で魔物を倒したりとか。そういうものだろ」

 

「そういうテストもなくはないけど、学校のテストはちょっと違うなあ……」

 

 

 そのような取り止めのないやり取りをしながら、ダンジョンの第一層で薬草を採取している。

 ヘノ曰く、湖だけでなく畑の方にも何か植えておきたいらしいので、とりあえず薬草や果実のような栽培して困らないものをいくつか拾っていこうということになったのだ。植えなおす前提なので、根っこから確保する必要があるのがやや面倒ではあるが。

 房総ダンジョンの第一層は森林のダンジョンという特性上、薬草や果実、他にも食べられそうな植物というのはそれなりに採取できるので、すでに手持ちの籠にはなかなかの量の素材が溜まっていた。

 

「そういえば、房総ダンジョンは第一層が森だから薬草とかも探しやすいけど、他のダンジョンだとこういうのはどうなってるんだろ?」

 

「桃子は。他のダンジョンにはあまり行かないんだったか。他のところにも。薬草くらい。結構生えてるぞ」

 

 桃子は房総ダンジョンでよく見かけるタイプの薬草しか知らないのだが、どうやらヘノの話では各ダンジョンともに、薬草の類はそれなりに生えているらしい。

 全く同じものでなくとも、怪我を魔法的な力で回復させる、いわゆる治癒の効力を持つ草というのは多種あるようだった。

 

「それに。果物も色々あるみたいだな。遠野ダンジョンだと。タケノコとかいうものが。名産品の一つに。なっているらしいぞ」

 

「へぇー。タケノコは果物じゃないけど、そうなんだ」

 

 タケノコというのは、遠野ダンジョン第二層である大竹林で収穫できるものだろう。

 決して平地ではなく、鋪装されていない山道のような大竹林だが、竹素材、そしてタケノコに関してはいくらでも獲れることで有名だ。

 桃子がヘノに連れられて出る先は遠野第四層マヨイガだったり琵琶湖第三層滝の迷宮だったりと、どちらかというと自然の少ない場所が多かったのだが、それぞれのダンジョンの上層に行けばそれなりに自然は豊富なようだ。

 ヘノとともに下層から入っていって、上層に植物採集に行くのも楽しいのかもしれない。

 

「桃子。ある程度ここで食べ物を拾ったら。花畑に持っていこう。それから。また魚を捕りにいきたいぞ」

 

「あー、ヘノちゃん。魚なんだけどね。こないだの琵琶湖ダンジョンで、なんか大変なことがあったんだよ。だから行くにしても別なところにしよう?」

 

「なんだ。何かあったのか?」

 

「うん。実は――」

 

 

 道すがら、和歌から聞いた話をヘノにも概要だけ軽く伝えてみる。

 

 桃子たちが訪れたあと、探索者パーティがあの場所に訪れて、魔物たちに襲われてしまったこと。

 最終的に、その探索者のうち二人が、深潭の主に丸呑みされてしまったこと。

 近々、巨大な兵器を持ち出して、深潭の主の討伐計画が実施されるであろうこと。

 配信やら世論やらのヘノには無関係なことは端折ったが、おおむね一通り説明をしてみた。

 

 が。

 

 何やら、途中からヘノは何かを考え込んでしまった。

 兵器やら配信やら、ヘノと関連のなさそうな部分がわかりづらかったのかなとも思ったが、どうやらそうでも無いようだ。

 

「……桃子。ちょっとヘノには。よく分からないところが。あるから。あとでニムにも。その話出来るか?」

 

「え、まあいいけど」

 

 人間の事情に興味も持たれずにすぐに話が終わってしまうかとも考えていたのだが、桃子の想像は逆の意味で裏切られる。

 桃子の話を聞いたうえで、ヘノはしきりに首を傾げているのだ。

 

「ヘノちゃん、何か気になるところとかあった?」

 

「気になるというか。桃子の言っていることが。よくわからないところが。あったんだが。ニムにも聞いてみたいんだ」

 

「ニムちゃん? まあ、水の妖精だから何か知ってるのかな?」

 

 なんだか曖昧な返答が返ってくるだけなので、珍しく考え込んでいるヘノと共にダンジョンを進んでいくのだった。

 

 

 

 

 そして妖精の国にて。

 

「ニムを連れてきたぞ。桃子。さっきの話を。もう一度聞かせてくれ」

 

「うぅ……なんだかいきなり連れてこられましたぁ……めそめそ」

 

 花畑に入ったとたん、桃子にそこで待つように伝えたヘノがどこかへと飛んでいってしまい、しばらくしたら蒼色の光を放つ水の妖精、ニムを強引に引っ張って戻ってきた。

 ニムは説明もなしに強引に連れてこられたのか、最初から涙目である。

 

「ご、ごめんねニムちゃん。ええと、実はこの前の琵琶湖ダンジョンの話なんだけど――」

 

 そして、花畑に腰を下ろし。三人で輪になるような配置で並んでから、ヘノにした説明と同様のことをニムにも1から説明してみる。

 

 探索者パーティが魔物の群れと遭遇したこと。怪我をした二名が主に飲み込まれたこと。その後、討伐計画が進んでいること。

 しかし、ニムもやはりヘノと同じく、途中から不思議そうな表情を見せた。

 

「な。桃子が。何だか変なことを。言っているだろ?」

 

「え?! 私、何か変なこと言ってたの? ……って言っても、私も人から聞いた話ではあるけど、調べてみたら全部実際にあったことみたいだよ?」

 

 いきなりの変なこと呼ばわりに面食らうものの、桃子とて現代っ子である。和歌から聞いた話をとりあえずスマホで検索してみたところ、確かその事件はニュースサイトにも記事になっており、SNSを覗いてみれば議論で熱くなっているアカウントも幾つかすぐに見つかった。

 なので、あくまで自分が語っているのは事実である、とは思っているのだが。

 しかし妖精二人は不思議そうだ。

 

「うぅ……桃子さん。あ、あのダンジョンの主は……そもそも、そんなに大きくないのでは?」

 

「ニムも。変に思ったか。よかった。ヘノの気のせいじゃ。なかったんだな。人間の丸呑みは。無理な気がするぞ」

 

「うん? どういうこと?」

 

 深潭の主の大きさ。

 

 どうやらそこに、桃子と妖精たちとの解釈の違いがあるようである。

 とはいえ、あの巨大な魚影だ。あれが大きくないということはないだろう。

 と、思っていたのだが。

 

「桃子さんは、もしかして……あの、隣にいた、く、クジラのことを言っているのでは……?」

 

「なんだ。そうなのか? てっきりあの。魔力が凄い。ダンジョンのボスみたいなやつのことを。言っているのかと。思ったぞ」

 

「え? え? まって、どういうこと?」

 

 

 

「桃子。多分。お前が主だと思ってるのは。ダンジョンの主が連れているだけの。ただの。クジラだぞ」

 

「ええと、あのでっかいの、あれってクジラでいいんだね。そのことだと思う。けど、ヘノちゃんたちが言ってた『ものすごいやつ』っていうのは違うの?」

 

「うぅ……あのクジラは、ただの動物で……ま、魔力もないし、怖くはなかったです」

 

「そうなの?」

 

 つまり、桃子と妖精たちの間で会話が噛み合っていなかったのは、『深潭宮の主』が誰か。その認識がそもそも違っていたということのようである。

 人間には魔力が視れない。だから、一番大きくて強そうなクジラを、『主』だと考えたのだ。

 そして魔力で判断していたヘノたちは、クジラではなく、それとは別な存在を『主』だと思っていた。

 

「あのとき。もの凄い魔力を持っていたのは。あのクジラの横にいた。人間の女みたいな奴だぞ」

 

「うぅ……思い出すだけで、こ、怖いです。女王様よりも、すごい魔力でした……」

 

「え、それって……」

 

 人間の女みたいな奴。

 深潭宮で目撃されている、人魚姫と呼ばれる存在。

 

――深潭の主の横に、女の子いなかった?

――主の横、ですか? そこまでは、ちょっと……

――他に人間は。いなかったんじゃないか?

 

「うわあー、『主の横』なんて言ったから話が通じなかったんだ! ただの紛らわしいコントじゃん! 人魚姫が主なんじゃん!」

 

「どうした桃子。正気にもどれ」

 

「うぅ……桃子さんが……どうかしてしまいました……めそめそ」

 

 答えがわかってしまえば、実にくだらないレベルの勘違いだった。

 謎の脱力感とともに、花畑にがっくりと膝をついて倒れ込み……そうになるが、すくっと上半身を起こす。

 

「じゃあ、ちょっと待って。大きなクジラが探索者を丸呑みしたっていうのは、人魚姫の指示だったのかな?」

 

 人魚姫は人間を襲ったことはないという噂だから、てっきり人間の味方のような存在を想像していた。

 それこそ、他ダンジョンで噂になっている存在であるドワーフや座敷童子のように。

 

「うぅ……に、人魚姫はさすがにわかりませんが。そもそも、あのクジラは……人を、襲ったりしないと、思いますけど……」

 

「クジラも。主も。瘴気はなかったし。わざわざ。人間なんて。食べないだろ」

 

「えぇ?」

 

 

 桃子は困惑する。

 

 真の主は、人魚姫だった。

 主だと思っていた巨影は、危険性のないクジラだった。

 あのクジラは、人間なんて食べない。

 

 ならば、あの探索者たちが飲み込まれたのは、一体どういうことか?

 

 

 

 何か、重大な見落としをしているような気がした。

 

 真実を視る目を自分が持っていないことが、今はとてももどかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野ダンジョン専用 場末の雑談スレ】

 

 

:遠野ダンジョンのタケノコで青椒肉絲作ってみたよー

 

:前にここのタケノコのこと聞いてた人か?

 

:本格中華じゃん。

 

:なんか遠野ダンジョンギルドで、変なチラシ配ってたぞ(画像)

 

:『萌々子ちゃんを守る会』

 

:えぇ……

 

 

『萌々子ちゃんを守る会』

 

・マヨイガを活動拠点とするメンバーを募集します

・下層探索の拠点となり得る炊事場へのルートを常に確保することが第一目的です

・萌々子ちゃんのお墓を守るのが第二目的です

・他パーティとの掛け持ちOK

・女性探索者も募集していますが、マヨイガでの泊まり込みもあるため要相談

・烏天狗を倒せる遠隔射撃職優遇

・第三層までを突破できるレベルの探索者に限定します

・……

・…

 

 

:なんか色々細かくて草

 

:でも実際、ダンジョンの第四層で水と食料が確保できるポイントってのは、どうにかして確保すべきだ

 

:でも迷宮って定期的に形が変わるから二度はたどり着けないんじゃないの?

 

:いや。今回は座標がわかってる。どれだけマヨイガのルートが滅茶苦茶だったとしても、座標さえ分かっていれば探しようはある。

 

:変動しても、そのタイミングで誰かが常駐していれば、座標情報も更新されるわけか

 

:そもそも変動と言っても、数か月ごとに何割かのルートが変わる程度です

 

:なるほど

 

:拠点確保が出来れば五層到達も夢じゃないやんけ

 

:問題は名称だけだな

 

:下層の拠点確保は重要な問題なのに、なんでそんな名前にしちゃったの

 

:琵琶湖と違ってこっちは平常運転だな

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