ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
桃子がウワバミ様の奇跡を目にして、燃える巨岩が異形の巨人へと降り注ぐのを目撃している頃。
その反対側では、異形の巨人に立ち向かう別の援軍たちが、激しい戦いを繰り広げていた。
この戦場にも、先ほどまでは大量のニンゲンたちが群れをなし、援軍たちは苦戦を強いられていた。
しかし、暗闇を切り裂いて泳ぐ巨大な白蛇の光によってニンゲンの大半は消滅し、残ったのは暴れ狂う一体の巨人だけだ。
10メートルはありそうな巨人を、自分達が倒さなければいけない。この場にいる戦士たちの戦いは、これからが本番である。
「なるほど。呪いの影響さえなければ、意外とあのニンゲン――いや、ゾンビたちを相手にしても冷静に戦えるものですね。我ながら驚きです。だがしかし、こう暗いと我ら人間には不利と言うもの。光よ。我らの周囲をさらに明るく照らしなさい」
闇の帳の中、一人の男性が長々と分析するような独り言を呟き、そして最後に己の魔法杖を掲げて、光属性の魔法を発動させる。
すると、その周囲には闇夜を照らす光の玉がいくつか現れ、戦士たちを照らし出す。
「うむ、やはり灯りがあると助かるな」
「ガウッ!! ガアァワオォォン!」
「よぉし! オオカミもやる気だしてるみてぇだし、行くぞお前ぇら! けも姫様に、俺ら探索者の底力見せつけてやろうぜ!!」
魔法使いの周囲には、巨大な盾を持った大男が。剣を構えた若い男性が、灰色の毛皮をした多くのオオカミたちの姿がある。
そして、この場にいるのは彼らだけではない。
「ヨシ! A班は三銃士に続け! B班は引き続き撹乱しながら中距離を維持! C班は後方から援護!! オオカミたちも頼むぞ!!」
「はいっ!!」
「ガウッ!!」
号令とともに、11人の人間たちと、周囲のオオカミたちが気勢をあげる。
そう、ここにいるのは、総勢15人の探索者たちと、二十匹を超えるオオカミの群れである。
美食三銃士の3人と、彼らを救助する名目で第三層までやってきた救助隊の12人。そして、救助隊と一時は危うく戦闘状態になりかけていた若きオオカミの群れ。
人と獣の混成部隊が一丸となり、この異形の巨人を相手取っていた。
この場所は、第二層の階段から一番近い戦場だ。彼らはその足で、この異形巨人を倒すべく、駆け付けたのだ。
「変な形してるし気持ち悪ィけど、つまりは香川ダンジョンの巨大ゴーレムの亜種みてえなもんだ! まずは重点的に足狙いだ!」
「ヨシ! 遠隔部隊は膝狙いだ、とにかくあいつの脚を壊せ!」
「はい!!」
レンジが威勢よく探索者たちへと声をかけ、救助隊の隊長が適切に各班のメンバーへ指示を出していく。
頑強な盾兵であるワンが先頭で敵からの標的となり、その間に機動力のある前衛たちが巨人の脚を攻撃していく。
今なお散発的に現れるニンゲンたちは、オオカミたちの鋭い牙に食いつかれ、瞬く間に煤へと還っていく。
彼らはいま、一つになって戦っていた。
そして、ここにいるのは彼らだけではない。
もし桃子がこの光景を見ていれば、彼ら探索者たちの頭に一様にみな、緑色の葉が張り付けられていることに気づいただろう。
この緑葉こそが、この15人をニンゲンの呪いから保護している、いわばこの戦場の要である。
探索者とオオカミの群れの合間には、鮮やかな緑色の魔力光がひとつ、飛びまわっている。それこそが、この緑葉の魔力を司る妖精だ。
「ほら、頑張れヨ! 治療もしてやったし、呪いなんか全部葉っぱで防いであげてるんだからヨ!」
「ヨシ! なんか口が悪い妖精だけど、妖精の力があれば俺らは勝利あるのみだ! やるぞ!!」
「おう!!」
緑葉の妖精リフィの号令に従い、人間とオオカミの連合軍と、異形の巨人の戦いはいま、佳境を迎えている。
桃子たち、そして探索者たちが巨人と死闘を繰り広げている、その裏で。
人間も、魔物もいなくなった荒野には、このダンジョンの未来を担う、もう一つの重要な戦場があった。
「ククク……女王に言われて駆け付けてみれば、いきなりこのような戦場になっているとはねぇ……」
「そ、そうですねぇ……こ、怖い……めそめそ」
「まあ、それでも……私たちはどうにか間に合ったようだし、頑張るとするのさぁ……ククク」
「うぅ……み、みなさぁん……ぜ、絶対に、みんな、私たちが助けますからねぇ……!!」
桃子たちが戦う戦場から少し離れた荒れ地。ここには、多くのオオカミたちが血を流し、横たわっていた。
この場所は、オオカミの群れとニンゲンの集団が最初に衝突した場所だ。桃子たちが訪れる前に、ここでオオカミとニンゲンとの最初の大きな戦いが勃発したのである。
オオカミたちは、仲間を護るため、仲間の仇を打つためと、みな勇敢に戦ったのだ。
だが、いかにオオカミが強くとも、彼らが勇敢であろうとも。際限なく湧き出るニンゲンたちと、それらの武器に付着した毒という脅威は、戦うオオカミたちを衰弱させていく。
そしてついには、オオカミたちは毒と出血により力尽き、ニンゲンたちの突破を許すことになる。
彼らの戦いは、決して無駄な戦いではなかった。
彼らの戦いがなければ、桃子の崖崩しは間に合わず、ニンゲンたちが第二層へとなだれ込んでいたことは間違いないのだ。
だがしかし、オオカミたちの払った犠牲は、多大なるものだった。
「い、いきますよぉ……! ルイ、合わせてくださいねぇ……!!」
「ククク……私のほうが年上なのだが、ニムも成長したものだねぇ……」
そんな力尽きた英雄たちの周囲に、妖精の魔力を帯びた白い霧が、静かに、全てを覆い隠すかのように広がっていく。
無論、それはただの霧ではない。この白く広がっていく霧は、癒しの力を持つニムとルイ、二人の妖精の魔力を込めた、奇跡の霧だ。この霧の中にはいま、むせるほどの不思議な薬効の香りが充満している。
霧の本体は、水の妖精ニムの作り出した癒しの水を霧化させた、治癒の効果を持つ霧だ。そこに更に、薬草の妖精ルイが抽出した解毒効果や薬草による回復効果を練り込んだものである。
ニンゲンという魔物が、毒と刃に頼る非力な魔物だったことが幸いした。
オオカミたちは毒により既に虫の息ではあったけれど、しかしあれだけ大量の魔物に襲われたにしては、外傷そのものは浅いのだ。
つまり、毒さえ解毒してしまえば、彼らが息をしている今ならばまだ、その命を救うことは可能なのだ。
「うぅ……ううぅぁあっ……!」
「クク……っ!」
ニムとルイの二人の癒しの妖精たちが、白い霧に全力の魔力を注ぎ込み、広げていく。その霧は、既に300メートル範囲を覆い尽くす、巨大な癒しの空間となる。
傷つき、今なお苦しむ英雄たちの。オオカミたちの。
全ての毒を癒すために。全ての傷を塞ぐために。
そして、そこにもう一人の妖精がフラフラと舞い降りてきた。
「んふふ……もう、魔力が足りないわ……お酒、お酒を飲みたいわ……♪」
「……ククク……クルラ。一休みしたら、君も医療チーム入りだからねぇ? この魔法は、二人ではなかなか大変なのさぁ……!」
「さ、三人で、頑張りましょうねぇ……!!」
舞い降りてきたのは、クルラである。
ウワバミ様というもう一つの名を持つクルラは、神獣となりこの地に増殖しているニンゲンたちの大半を浄化することに成功した。
けれど、そのような荒業は、当然ながら一人の妖精でしかないクルラにとって非常に負担が大きかった。
今でも、神獣としての姿を維持するのは、長くて数分がいいところである。やりすぎると、クルラの魔力が底をついてしまいかねない。
現に、既にクルラは魔力の大半を消費しており、フラフラである。
「うぅ……そ、それにしても、第二層への階段は、大丈夫でしょうかぁ……?」
「ククク……大丈夫だろうさ。むしろ、現状のこのダンジョンで一番強固な砦こそが……あの階段だろうねぇ」
妖精たちは、ニンゲン戦における最終防衛ラインとなる、荒れた森の中の戦場のことを案じつつも、己の魔力を振り絞っていく。
彼女たちの『治癒』という戦いは、まだ始まったばかりである。
第三層の入り口。そして、第二層へと続く階段。
この現象がスタンピードだとしたならば、ニンゲンたちは皆、最終的にこの階段を目指して進撃してくることになる。
もし、上層までニンゲンが現れてしまったならば、人間たちの受ける被害は致命的なものになるだろう。
この階段は、だからこそ死守しなければいけない、重要なポイントだ。
盆地での戦いの難を逃れ、足場の悪い森を抜けてきたニンゲンたちは、迷いなく第二層へ続く階段を目指し侵攻してくる。
だが、その階段の目の前に。
一人の――いや、一匹の獣が、ニンゲンたちを迎えるように立ちふさがっていた。
「どうやら、ポンコや探索者たちは無事に戦場へと到着したようだね」
「ギャウ! ギャン」
「ほら、わんこ。きみはもう少し、下がっていたほうがいいですよ」
「ギャン! ギャン!」
それは、二足歩行の巨大な狸。香川ダンジョンに棲む魔法生物、化け狸である。
全身を毛皮で覆い、その手には緑色の木の葉を数枚ほど握りしめている。四肢の先端にあたる毛皮は所々黒ずんでおり、彼が一度、瘴気に侵され、飲み込まれかけたことを暗に現していた。
彼の周囲の地面にも、鮮やかな緑色の葉が数枚ほど、まるで地面に張り付けるように一定の距離をおいて並べられている。
そして彼は、仁王立ちになり迫りくるニンゲンたちを一瞥すると。短く一言、魔力を込めた言霊を唱えた。
「いでよ、ゴーレムたち」
その言葉とともに、周囲の地面に設置されていた緑の葉が光を放つ。ゴゴゴ、と、大地が小さく揺れる。
そして、地面が膨れ上がるように、地面から湧き出るように。
土と岩で構成された、巨大な造魔。力強いゴーレムの一団が、姿を現した。
現れたゴーレムたちは、各々が自由意思で動いているかのように、森からやってくるニンゲンたちに襲い掛かり、その豪腕で次々とニンゲンたちを煤へと還していく。
幸か不幸か、この周辺の桜の木々は全てなぎ倒されており、ゴーレムの障害になり得る樹木はほとんど消えている。
この場はいま、暴れまわるゴーレムの独壇場だった。
「……まさか、牛鬼に操られていたときに学んだ技術が、このような場所で役に立つとは、思いもしませんでしたよ」
ゴーレムに魔力を送りながら、小さく呟く化け狸。
彼の名は、クヌギ。過去に香川ダンジョンに潜む特殊個体『牛鬼』に精神を操られている間、人間たちを亡き者にするために習得した技術がこの、ゴーレムの使役である。
巡り巡って、憎むべき特殊個体の影響で他所のダンジョンを護る結果に繋がっていることに、クヌギは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。
「ガウ!」
「ああ、すみませんね、わんこ。もう少しだけそちらで、そこのお嬢様がたと一緒に待っていてもらえませんか?」
「ギャン!! ギャン!!」
「ふふふ。初対面だというのに、クヌギさんは随分とその子に懐かれているのですね」
「きっと私の毛皮は、娘と同じ匂いがするのでしょうね」
クヌギは、背後の階段に向かって話しかける。
階段の中には、どこから持ち寄ったのか木の椅子を置き、黒いドレスの少女が腰かけていた。
戦いのさなかだというのに、彼女は椅子に腰かけてゆっくりと手にした本に視線を向けていたが、クヌギに声をかけられようやく顔を上げる。パタン、と本を閉じると、その本は空気中に溶けるようにどこかへと消えていく。
それはもちろん、りりたんだ。
「私と比べて、貴女はなかなか懐いてもらえないのですね、魔女どの」
「ええ、残念です。毛皮を堪能させていただきたかったのですけれどね。私は、死の匂いが強すぎるのでしょうか。ふふふ」
ゴーレムを操りつつも、本人は雑談に興じるクヌギ。
戦いなど視界に入っていないかのように優雅に過ごしている少女、りりたん。
二人の強者には、余裕があった。
まるで、この戦いの勝敗など、見るまでもなくわかっている、とでも言うように。
そしてこの場にはもう一人。
「おーい、魔女さまに狸のおっさん。人にひたすら矢を射らせておいて、なに呑気に雑談に興じてっかな」
「ふふふ。れもたんも、魔力の矢はほどほどで良いですよ? あなたの援護がなくとも、彼らは皆、強いのですからね」
「馬鹿言うな、強かろうが弱かろうが、あんな化け物と戦ってる人たちがいるのに、優雅に休んでられるかっての!」
洞窟のすぐ横の大岩の上を陣取り、ひたすらに魔力の矢を打ち込む少女の姿があった。
彼女の名は檸檬、才能あふれる探索者の少女だが、今はりりたんの私兵としてこの場に呼び出されている。
どれだけ離れていても標的の姿を捉える【鷹の眼】は、暗闇の中のニンゲンをも見逃さない。
彼女はその瞳を使い、探索者たちが見逃しているであろう集団から逸れたニンゲンを、人知れず消し続けていた。
「私の出番は、今ではありませんからね。この場はクヌギさんだけで事足りますし、いま読んでいる本が面白いところなんですよ」
「あー、分かってたけど、本当にマイペース魔女だな、アンタって」
檸檬は雇い主へのクレームを続けつつも、【鷹の眼】で戦場を見通す。
奮闘するオオカミを、奮闘する探索者たちを援護するように、ニンゲンや巨大な異形に適時魔法の矢を射出していく。
そしてやはり、心の中で応援をするのだ。
たった今、最大の異形との戦いを始めた、心優しい少女の勝利を願って。