ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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呪いのとけた夜

「やった……やったぜ! けも姫! たぬ子!」

 

 美食三銃士の一人、レンジはその光景を眺めていた。

 けものの姫が宙を駆け、巨大な異形の存在をその力で消滅させる、奇跡のような光景を。

 最後の戦いでは、遠くの巨人を攻撃する術を持たない彼は、けものの姫の勇姿を見ているだけしか出来なかった。ハクロウの洞窟にて、まるで兄妹のような時間を過ごしたけものの姫の勝利を祈るしか出来なかった。

 だからこそ、彼は妹分の勝利の瞬間を、この場の誰よりも喜んでいた。

 

「素晴らしい戦いでした。彼女はまさに、この地のオオカミ――いや、全てのビーストたちを統べる、プリンセス。そう、彼女こそがけものの姫なのですね」

 

「我ら美食三銃士、姫どのに一層の忠義を捧げねばならぬな……!」

 

「はぁ……はぁ……ヨシ!!」

 

 もちろん、けものの姫の勇姿を目撃していたのはレンジだけではない。

 ユキヒラ、ワンの美食三銃士の他メンバー。そして、救助隊としてやってきた12人の探索者たちという死力を尽くして戦った仲間たちもまた、けものの姫の勇姿を目撃していた。

 姫と異形の巨人の戦いに、戦いの末に訪れた奇跡のような光景に、皆が魂を震わせていた。

 そして、死力を尽くした人間たちが感動に打ち震えている姿を、上から満足げに見下ろしているのは、彼らに力を与えていた緑葉の妖精リフィだ。

 リフィは人間たちを見下ろしたまま、彼らに労いの声をかける。

 

「人間にしてはよくやったヨ、お前ら。あとでどうせ脳みそをスッキリさせて記憶を消すから、今はたっぷり喜んでおくといいヨ」

 

「え?!」

 

 人間たちの困惑の夜は、まだまだ続きそうである。

 

 

 

 

 

「やったねぇ、さすがは桃子さんだねぇ」

 

「なるほど。先程の巨人たちが、この地の濃厚な瘴気の根元だったのでは、ないかな?」

 

 妖精たちもまた、ポンコと桃子の勇姿を話の肴にして、楽しげに盛り上がっていた。

 もとからここに来ていたノンを除く彼女たちは、妖精女王ティタニアによってこの地に送られた救援である。

 というのも、美食三銃士によって封印の扉が開かれた段階で、女王ティタニアもまた、この第三層『ヒトザト』の存在を感じ取れるようになっていたのだ。

 そこにヘノやノンが訪れているタイミングで、魔物の異常発生が起きたのだ。それに気付き、慌てたのはティタニアである。

 ティタニアは、妖精の娘たちを救援として『ヒトザト』へと向かわせることにした。クルラを呼び出す際についでに桃の窪地に滞在している化け狸、クヌギも呼び出し、いまに至るというわけだ。

 

「ククク……さて、女王も心配していることだろう。私たちは、先に帰るとするかねぇ」

 

「なんだよ! もう帰っちゃうのか!? 祝勝会とかいうの、やらないのか!?」

 

「残念ながら、クルラが魔力切れで、すでにヘロヘロなのさぁ」

 

「うぅ……クルラ、頑張りましたからねぇ。早く帰って、桃の窪地でお酒を飲ませないと……」

 

「なるほど。クルラは村のお酒で動く神様という、わけだね?」

 

 巨大な白蛇となり、大量に発生していたニンゲンを浄化して回ったクルラは、やはり力を使い果たしていた様子で、未だにヘロヘロの状態で寝転がっていた。

 ある意味で、この戦いで一番大変な思いをしているのは人間でもオオカミでもなく、クルラだったのかもしれない。

 クルラはもう桃の木の妖精というより、実質的にお酒の神様の側面のほうが強いというのは、妖精たち全員の共通認識である。

 

「じゃあ、クルラを休ませてやらなきゃな! アタシたち、帰るぞっ!!」

 

「ククク……リドル。キミは、ノンについていてあげたまえ。私たちは、先に帰るからねぇ……」

 

「おや、ボクはここに残ったほうが良いのかな? 了解したのでは、ないかな?」

 

「ああ、リドル。キミは、ダンジョンの扉を司る、鍵の妖精だろう? 重要な仕事があるのさぁ……」

 

 フラムが大きな声で騒ぎながら、ヘロヘロのクルラを抱え込むように背負って宙に浮く。ニムも、心配げにクルラを覗き込みながら、フラムに続く。

 そして、ともに帰ろうとしていたリドルに向けて、ルイが言葉を残す。ノンと共に残れ、と。

 

 ルイは、この後に行われることを察していた。あるいは、事前に黒いドレスの魔女あたりから、その可能性を聞かされているのだろう。

 この後に残された、ノンとリドルの役目。

 

「ノン、頑張りたまえ。決して楽しくはない役目だけれど、大地を司るキミたちにしか出来ない仕事だからねぇ」

 

 しばし、真面目な顔のルイに見つめられたノンは、その意味を察すると、その視線を避けるように俯いて。寂し気に、視線を地面に向ける。

 

「……やっぱり、そうなるのかねぇ。私が、その役目を任されるのかどうかは、わからないけどねぇ」

 

「ククク……キミはいつも、貧乏くじを引くからねぇ」

 

「きっと……そういう性分なんだよぉ」

 

「どういうこと、なのかな?」

 

 妹に同情するように、ルイは苦笑気味にそう残し、そして他の仲間とともに妖精の国へと帰っていった。

 見送るノンも、半ば諦めたような苦笑を返す。

 ノンとともにいることにしたリドルは、相変わらずのマイペースだが、ノンにとってはいつも通りのリドルが心強く感じられる。

 

 そしてノンは、クルラを支えながら空を飛んでいく仲間の姿が見えなくなるまで見送ると。

 緊張した様子で、リドルをつれて。桃子のもとではなく、この地を守る守護者、ハクロウのもとへと向かうのだった。

 

 

 

 

「やったよヘノちゃん、明かりが増えたよ!」

 

「そうだな。真っ暗だったダンジョンが。少し。明るくなったぞ。これで桃子も。森を歩けるな」

 

 桃子たちの戦っていた平地は、巨人たちによって荒らされ、もはや広大な荒れ地となっている。

 けれど、そこには先ほどまでのような瘴気の闇はなく、随所に美しい魔法光が浮かび上がっている。

 空を見上げれば、輝く星々が地上を照らし、更には空の向こうには白く美しい月が浮かび上がっていた。

 

「綺麗な空っすね……」

 

 桃子の横で空を見上げるポンコは、魔力を一気に使った反動だろう。すでにけものの姫ではなく、いつものポンコの姿に戻っていた。衣装が変わっても、激しい戦いの名残である全身の汚れはそのままだ。

 空を見上げるポンコは、とても優しい表情だった。

 桃子は、ポンコのももポン姿も見慣れてしまったけれど、やはりこの狸の少女はこの姿が一番いいなと、その笑顔を見つめながら。

 ふいに、口から言葉が零れ落ちる。

 

「きっとさ。これが、本当のこの階層の――『ヒトザト』の姿なんだよ」

 

 きっと、この星空と月に照らされている姿が、本来のこの第三層なのだ。

 もし、この場で空を見上げて寝転んだならば、この第三層の真の美しさを堪能できるに違いない。周囲は荒れに荒れた泥だらけの地面なので、気軽に寝転んだりは出来ない状況なのが悔やまれる。

 それでも、この美しい星空を見上げるだけで、この階層が浄化されたのだと実感できた。

 

 

 

 

「お疲れさまです、桃子さん、それにポンコ。父として私は鼻が高いよ」

 

「ガウ! ガウ!」

 

 空を見上げる桃子たちの元に、聞き覚えのある男性の声が届く。

 それは、桃子にとっては懐かしく、そしてポンコにとっては慣れ親しんだ声だ。

 

「父ちゃん! わんこ! やったっす! やったっすよ!!」

 

「たぬき父。お前もきてたのか」

 

 その声は、ポンコの父親である、クヌギだ。

 彼はいつもの古めかしい、明治時代の書生のような人間姿ではなく、二足歩行の巨大な狸としての姿をとっていた。

 そしてその足元には、妖精の国に残してきていたはずのオオカミの子供、わんこの姿があった。

 恐らく、クヌギが妖精の国からここまでわんこを連れて来たのだろう。わんこは灰色の尻尾を振りながら、ポンコとクヌギの間をいったり来たりして、興奮気味にはしゃいでいる。

 

「あの、ありがとうございます。一緒に戦ってくれた……んですよね」

 

「ええ。娘が頑張っているのだから、父としては駆けつけるのは当然ですし、礼を言われるようなことではありませんよ」

 

 二足歩行の自分より大きな狸に、桃子はぺこりと頭を下げる。

 過去にも、この姿のクヌギと会ったことはあるし、なんなら彼を抱き上げて妖精の国まで運んだこともあるのだが、改めて面と向かい会話をすると、なんだか変な感じである。ポンコの父親だというのに、可愛らしくてたまらない。

 狸の長に抱きつく柚花の気持ちを、桃子はいま魂で理解した。

 

 桃子のそんな複雑なもふもふ愛の感情はさておき、周囲では二匹のオオカミたちがコミュニケーションをとり始めていた。桃子たちと戦っていたギンロウと、たった今、クヌギと共にやって来たわんこの二匹である。

 

「ギャン! ギャンっ!」

 

「グルルルル……」

 

 わんこがギンロウに鼻を押し付けてその匂いを確認している。一方のギンロウは、優しげな瞳でしきりに鼻を鳴らすわんこを見守っている。

 そしてわんこは、ギンロウの匂いを嗅ぐだけ嗅いだら満足したのか、彼のお腹の下に収まろうと頑張っている。

 その姿はまるで、「じゃれついている」というよりも、「安心できる相手に甘えている」ように見えた。

 まさに今目の前。父であるクヌギに抱き着いて甘えている、ポンコと全く同じに見えた。

 

「……あれ? もしかしてギンロウさんとわんこちゃんって、親子だったりするのかな?」

 

「え、そうだったんすか? 言われてみれば、似てるっすね」

 

「オオカミなんて。どいつも同じ顔だろ」

 

 ギンロウとわんこが似ているのかどうか。

 オオカミたちとまだ付き合いの浅い桃子では、外見だけでオオカミの個体差を把握することは難しく、個別の特徴がわからない。ヘノにいたっては初めからオオカミは全部同じ顔だと思っており、懐疑的である。

 だが、そこにそれを肯定する、オオカミたちの守護者の声がかかる。

 

『お察しのとおり、そのふたり――あなたたちの言うギンロウとわんこは、父娘関係ですよ』

 

「よかったねぇ、お父さんが見つかったねぇ」

 

「さては、オオカミの家族なのでは、ないかな?」

 

「ハクロウさま! それにノンちゃんにリドルちゃん?! 二人ともハクロウさまと一緒にいたの?」

 

「なんで。リドルが。いるんだ」

 

 桃子が振り返ると、そこには見上げるほどの巨大なオオカミの姿。ハクロウが洞窟を離れ、麓へと降りてきていた。

 そしてその鼻先には、見慣れた黄色い魔力の光を放つ二人組。大地の妖精ノンと、鍵の妖精リドルがふわふわと浮いている。

 

『第三層の瘴気が払われましたから、私も負担が軽くなったのですよ。階層内を出歩く程度ならば、問題ありません』

 

 桃子にはオオカミの表情というのはわからない。犬は尻尾に感情が出るというが、ハクロウともなると子犬のように感情豊かに尻尾を動かすこともない。

 だけれど、いまのハクロウはとても穏やかに思えた。

 

『これで、この地のオオカミたちも、瘴気に苦しむことなく、より過ごしやすくなるでしょう』

 

「そっすよ! いまなら皆で第二層まで遊びにいって、日向ぼっこだってできるっすからね!」

 

『……そのことなのですが、お伝えしなければいけないことがあるのです。聞いてくれますね?』

 

 数十年もの長い間閉ざされた結果、この階層に堆積していた瘴気。それはこの夜、ようやく浄化された。

 魔物であるニンゲンがいなくなる訳ではないけれど、少なくとも瘴気が一掃されたことで、オオカミたちはこれまでよりも安全な環境で過ごせるようになるのだろう。

 そして、第二層への門も開かれているのだから、オオカミも自由に『サクラモリ』へと上がることが出来るのだ。

 だから、ポンコは。

 オオカミにとって幸せなこの状況の到来を、心より喜んで、笑顔を浮かべていた。

 

 しかし、ハクロウの声は固い。

 そして、その横を舞うノンは俯き、暗い表情を浮かべているのだった。

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