ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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妖精の不思議な畑

 妖精の国に新しく作られた広大な畑。

 湖が調理部屋のすぐ裏手にあるのに対し、畑は調理部屋の横に作られていた。

 横と言っても、あくまで調理部屋の横の空間に白い光の膜を出したその向こう側、という意味であるが。

 

「わぁ、思ったより広いねえ」

 

 ニムを交えた情報交換では琵琶湖ダンジョンの謎が深まってしまったものの、何はともあれ第一層で採取してきた薬草などを植えてから考えよう、ということで、一行はその新しい畑を訪れていた。

 光の膜を通った先に現れたのは、体育館が2・3は入るほどの広さの畑だった。女王ティタニアが自ら耕したわけではないだろうが、素人目に見ても柔らかく解された土が広がっている。

 しかし、畑とは言ったものの、それは桃子が考えるような畑とは致命的に違った部分がある。

 

「ねえ、ヘノちゃん。畑になんだか、すでに色々生えてるんだけど……これは?」

 

 畑の各所に、なんだかすでに色々なものが乱雑に植えられていた。

 小さな花から、薬草のような見たことのない植物。そして、イチゴのような食べられそうな実がなっているもの。

 更にはそれだけでなく、畑の各所ではちょっとした若木が所々に育ち始めていた。

 

「他の連中が。勝手に。自分が食べたいものとか。持ってきて。植えてしまったんだ。たまに。変なのも混ざってるけど。気にするな」

 

「うぅ……あっという間に、色々増えてきました」

 

「そっかー、みんな色々育てたかったんだねえ」

 

 桃子は畑に踏み入って、不規則に植えられた植物たちを眺めていく。

 そこには房総ダンジョンで見かけるようなものもあれば、桃子が見たことのないものもある。なぜか剣が畑に刺さっているけれど、これはヘノの言う「変なもの」の一つだろう。

 どうやらこれらが、様々な妖精たちが他の色々なダンジョンで集めてきたものらしい。

 

「ヘノちゃん、この木も他の子たちが持ってきたものなの?」

 

 小さい植物はともかく、樹木はどうだろう。

 見たところ、ものによってはすでに桃子より大きく育っているものもあり、妖精が持ってくるにしては少々大きすぎる気がする。

 無論、頑張れば妖精でもサカモトの大剣を移動させることは出来るので、木を持ち込むことが出来ないわけでもないだろうが、それにしても少々無理がある。

 

「これは。畑が出来た直後に。木の実を植えたやつだと思うぞ。一週間で。ここまで育ったんだ」

 

「ええっ?! 植物ってそんなに早く育つの?!」

 

「こ、ここは、魔力豊富な土壌ですから……そ、育つのも早いんじゃないかと……」

 

「そ、そっかー」

 

 恐るべし、妖精の畑。

 

「湖の方も。貝とか。魚は。順調に増えてってると。思うぞ」

 

「ええ?! いや、生命ってそんなに簡単に増えちゃダメでしょ」

 

「そんなこと言われても。困るぞ」

 

 恐るべし、妖精の湖。

 

「ま、まあカレーの材料にするだけだもんね。外に持ち出したら、流通が崩壊しちゃいそうだけど。持ち出し厳禁を徹底しなきゃだね」

 

 そう納得することにする。

 

 そしてとりあえず気を取り直して。

 桃子も自分で採集してきた薬草や植物などを植えていくことにした。

 見た目や区画整理などは今更どうしようもないだろうから、もうそこら辺は気にしないでもいいだろう。端からスペースを埋めていくように植えていく。

 

「桃子。これが増えていけば。薬草を探さなくても。ここで獲り放題だぞ。畑を作った甲斐があったな」

 

「うぅ……ヘノは……前に、桃子さんが、怪我をしたことを、あれから、ずっと気にしてたんです……」

 

「ニム。口を閉じるんだ。そういうことは。言わなくていいんだ」

 

「ヘノちゃん……ぎゅっ」

 

「むぐぐ」

 

 普段から無表情で感情を見せないヘノだけれど、やはり桃子のことを心配してくれていたようだ。

 なんだか桃子は嬉しくなって、ヘノを胸元に抱き寄せた。

 ヘノもむぐむぐ言いながらも、桃子の腕の中で大人しくしていた。

 

 抱きしめた。

 

 抱きしめた。

 

 

 

「桃子。さすがに。長くて。苦しいぞ」

 

 しかし、ハグが長すぎて普通にクレームが来た。つらい。

 

 

 

 それはさておき。

 

 第一層で採取してきた植物を畑に一通り植えて、畑を眺められる位置に腰を下ろして休憩していると、やはり三人の話題は先ほどのものになる。

 琵琶湖ダンジョンの主が何者なのか。そして、探索者を襲った理由。

 

 桃子としては、人魚姫が人間を襲ったとは考えたくはない。ヘノたちとしては、そもそもその正体が気になるようだ。

 とはいえ、気になるからといって、そうほいほい深潭宮まで調べに行こうというわけにもいかない。

 

「ヘノちゃん。犠牲になった探索者さんたちには申し訳ないけど、やっぱり危険だし、あまり関わらないほうがいいんじゃないかな……」

 

 犠牲になった探索者には申し訳ないとは思うけれど、ここは好奇心で危険な虎の尾を踏みに行くべきではない。

 もちろん、まだ自分にも何か出来ることもあるかもしれない。

 とはいえ、好奇心のためにダンジョンの主に近づくというのは、やりすぎだ。危機感がないと揶揄される桃子でも、それくらいは理解できる。

 

「違うぞ。桃子。あの主も。物凄い魔力ではあるが。危険な存在じゃないぞ。もちろんあのでかいのもな」

 

「そ、そうです……わ、私たち、魔力を視れば、相手が敵意を持っているかどうかとか……わ、わかるんです」

 

「え、と。つまり?」

 

 そういえば確かに、柚花も言っていた。魔力を視れば、相手の感情なども伝わってくると。つまり、ヘノたちの目には、人魚姫もクジラも、危険な生物とは映らなかったということだ。

 しかしだからと言って、人間に敵対しないとも限らない。そもそもあの場には人間が居なかったのだから、敵意もなにもないのだ。

 

「まあ。あくまで。予想だけどな。探索者たちは。食われたわけでは。ないと思うぞ」

 

「わ、私も……ヘノと、同意見ですぅ」

 

「ええ、ええ……?」

 

 魔力を視ることのできない桃子には、ヘノたちの判断基準は理解できないものだった。

 こんなとき、【看破】を持つ後輩があのとき一緒にいたならばとも思うが、さすがにありもしない可能性を考えても仕方がない。

 

 もう一度考える。

 危険には近づきたいわけではない。しかし、もしヘノたちの言う通り、探索者たちが食べられたわけではないというのなら、彼らは今も無事である可能性があるのだ。

 桃子は、うーん、と少しの間考えてから、結論を出す。

 

 畑を望む花畑で、すくっと立ち上がり、大きく声を上げた。

 

「ティタニアさまに、相談してみよう!」

 

 

 

 

 そして、判断を女王に委ねようという丸投げ作戦にて訪れたのは、女王ティタニアの間。

 花びらの玉座にはいつものように、妖精たちの女王ティタニアが座している。

 

 そしてその正面には、揃って頭を下げる人間と二人の妖精たち。

 

 

「女王。知恵を貸してほしい。深潭の主が。何なのか。確認したい」

 

「わ、私からも……クジラが人を襲ったとは、思えなくて……うぅ……お、お願いしますぅ」

 

「ティタニア様、私からもお願いします。どうにか、力をお貸しください」

 

「三人とも。顔を上げてください。事情は分かりました」

 

 

 ヘノたちと桃子の持っている深潭宮の情報を交換したところ、人間側の大きな勘違いが露わになった。

 とはいえ本来ならば、人間がどのような勘違いをしていたとしても、それは妖精には無関係なことであろう。

 

 だが、ヘノとニムが出した結論は「直接行って、一度確認しよう」というものであった。

 人間である桃子が深潭宮へと行きたいというのならばわかる。何しろ人間が犠牲になっているのだから。

 しかし、妖精である二人がそれを言い出すのは、女王ティタニアにとっても予想外のことである。

 

「女王。桃子なら相手に気付かれないし。深潭の主は。瘴気は纏っていないから。襲われたりは。しないと思うぞ」

 

「うぅ……こ、怖いですけど、頑張ります」

 

「私としては、あなたたちが危険な場所に足を運ぶことは好ましく思っておりませんよ。全く、誰に似たのだか……」

 

 いくら妖精の女王を名乗っていても、ティタニアは妖精たちを縛ることはできない。風の向くままに、水の流れるままに、自由な妖精たちは己の道を行く。

 もっと己に力があればもっとやりようがあるのだろうが、力のない女王はそれを見守るしかできない。ふがいない己に対し小さくため息がこぼれる。

 

 目を瞑ったまましばし沈黙していたが、ゆっくり目を開いて。

 

「ヘノ。あなたは子供たちの中でも、ひときわ問題児でしたね。危険だと言っても、好奇心を優先してしまうし。神槍に選ばれたからと言って、すぐに魔物相手に好き勝手に暴れまわって、私の頭を悩ませる困った子」

 

「む。むぐ」

 

「ニム。あなたが以前人間に捕まったときは。私がどれだけ心配したか、わかりますか? あなたは特に怖がりな子ですから、本当に私は心配したのですよ?」

 

「う、うぅ……」

 

「そんなあなた達が、大切な友人を得て、その人のことを思ってくれていること。しっかり自分の判断で、勇気を持って誰かを助けたいと願うこと。それは『成長』と言うのでしょうね。私は、とてもうれしく思っています」

 

 女王が、空中に手を翳す。

 

 すると、女王の前に赤い光が湧いたかと思うと、そこに一つの珠が現れた。

 これは桃子にも見覚えがある。鵺から出てきた魔力の塊、紅い珠。

 それが、スッと桃子の目前へと空を滑るように移動する。

 

「いま、この珠に残った残りの魔力を変換して、1度だけ自由に転移扉を開けるようにしておきました。これを、桃子さんに」

 

「え、あ、はい」

 

 桃子はその紅珠を受け取り、ひとまず自分のポケットにしまい込んだ。

 魔力などはよく分からないが、これがあれば、いつものダンジョン内を転移する膜を作り出せるということだろう。

 つまり、危険があればこれを使用して逃げるように、ということだ。

 

「ヘノ。ニム。あなた方ならば、その鯨。深潭の主。あるいは巻き込まれた探索者。そのいずれかを探知することは可能でしょう。ただし、危険だと思ったら引き返してください。これは私からのお願いですよ」

 

「わかったぞ。気を付けるぞ」

 

「うぅ……は、はい……」

 

 続けて女王は、桃子に向き直る。

 

「この国は私の力で維持しています。ですから、私はここを離れるわけにはいきません。桃子さん、ヘノとニムをよろしくお願いします」

 

「……はい。わかりました」

 

「女王。土産話を。楽しみにしておくといいぞ」

 

「ええ……楽しみにしておりますね」

 

 

 

 そして、三人が立ち去った女王の間で、ティタニアは独り呟く。

 

「それにしても、私よりも魔力のある『人魚姫』……ですか。まさか、まさかですよね」

 

 

 しかし、その呟きには、誰も答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

 

「この畑にね、葡萄の種を植えるのよ♪」

 

「こら。桃子の畑に。変なものを植えてないだろうな」

 

「大丈夫♪ 葡萄はね、お酒になるの♪ んふふ♪」

 

「お前。すでに酔っぱらってるな。桃子はお酒は飲まないぞ。お前が飲みたいだけだろ」

 

「そんなこと言わないで♪ 葡萄はそのまま食べても甘いのよ♪ んふふ♪ んふふっ♪」

 

「甘いならいいか」

 

 

 

「ククク……この畑に。とっておきのものを植えてしまおうねえ」

 

「こら。お前。どうせ毒草だろう。桃子がお腹壊したらどうするんだ」

 

「ヘノ。人間には、こういう言葉があるんだよ。毒を食らわば皿まで」

 

「そうか」

 

「ククク……毒を食べるときは、皿も食べるということだねぇ」

 

「何言ってるんだお前。大丈夫か」

 

 

 

「美味しい葉っぱ。ここら辺に植えちゃうヨ」

 

「そこ。桃子の畑に。変なものを。植えてないか?」

 

「この葉っぱね。スーッとして。とってもいい香りがするヨ。スーッとするのヨ」

 

「なるほど。スーッとするのか」

 

「探索者が。食べ物に入れてるのも。見たことあるんだヨ」

 

「それなら。畑に植えても大丈夫そうだな」

 

 

 

「ヘノ! これ! 植えていいか! ダンジョンで拾ったんだ!」

 

「こら。これは。探索者の落とした。武器だろ。勝手に拾ってくるな」

 

「落とし物だし! いいかなと思って!」

 

「良くないだろ。落ちてた場所に。戻してこい。どこにあった」

 

「わすれた!」

 

「それじゃあ仕方ないな。でも。畑に植えちゃ。駄目だぞ」

 

「わかった! 植えずに刺しておく!」

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