ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「もちろん手伝うぞ! アタシの火が必要だなんて、なんだか珍しいな!」
大量のジャガイモを妖精の国へと運び込んだ次の日。
太陽が昇った後、ヘノとニムはさっそくフラムを探し出し「焼きジャガイモを作るために手伝ってくれないか」と声を掛けてみたところ、フラムは二つ返事でOKであった。
フラムは火の妖精だ。いつも好き勝手に風を吹かせているヘノや、水を好き勝手にばら撒いたとしても地面が濡れるだけでも済むニムとは違い、フラムが好き勝手に火を発生させてしまうと大災害になってしまう。
なので、普段から己の力の使いどころの無さに苦い思いを抱えていたのだが、だからこそ。そんな自分の火の力が仲間に望まれているこの状況は、いつにもまして彼女を上機嫌にしてくれた。
「じゃあ。どれを丸焼きにすればいいんだ!」
「待て。待て。ここで火を出されても。困るぞ。調理部屋にジャガイモがあるから。一緒に行くぞ」
「ま、丸焼きにしたら、じゃ、ジャガイモ……美味しく、なりますかねぇ……?」
「そんなに心配しなくてもいいぞ! アタシ、丸焼きは得意なんだ! 任せろ!」
「さすが。火の妖精だけのことは。あるな」
「そうだぞ、火の妖精だからな! 燃やすぞーっ!」
やる気を出したフラムは、すでに身体から火花がバチバチとはじけ飛び、いまから燃やし尽くす気力満点、といった具合だ。
いや、よく見れば火花どころではない。フラムの後頭部でまとめられている短めのポニーテールは、比喩ではなく、実際にまるで蝋燭か松明のように燃えていた。やる気とともに炎の魔力が漏れ出していた。実に物騒である。
それを見たヘノは驚くでもなく、心強い味方を得たとでもいうように、満足げに頷いていた。
「うぅ……い、嫌な予感がしますねぇ」
一方、二人の会話を聞いていたニムはというと、いつも通りと言ってしまえばそれまでだが、実に不安げな表情である。
ぴょこんと上を向いた、燃え盛るフラムのちょこんとした毛先を眺めながら。
水の妖精ニムは、何とも言えない嫌な予感――彼女のパートナーである柚花ならば『フラグ』とでも呼ぶであろう、大失敗の予感――を、ひしひしと感じ取っているのだった。
そして、時間は過ぎ。
一言で説明するならば『案の定』と言うべき結果が待っていた。
「よしっ! やったぜ! アタシの炎で、ジャガイモは丸焼きにしてやったぞ!」
「うわ。なんだか。真っ黒になっちゃったな」
調理部屋を出てすぐの地面には、丸くて黒い何か――というより、炭の塊のようなものが転がっていた。無論、これはジャガイモの成れの果てだ。
ヘノに連れられここまでやってきたフラムは、溢れるやる気を全て、地面に並べられたジャガイモたちに全力で叩きつけたのだ。
いくら小さくかわいい妖精と言えど、フラムは炎を司る魔法生物だ。彼女が本気になれば、一瞬とは言わないけれど、ものの数十秒でジャガイモ程度は簡単に消し炭にできる。
そして、生まれたのがこの真っ黒い色をした球体だ。
「うぅ……こ、これはもう、食べられない気がしますねぇ……」
「しまった! もしかして、焼きすぎちゃったのか!」
料理と言うものは、何も強火で焼けばいい、というものではない。
しかし、地上の人間、少なくともある程度料理ができる人間ならば理解しているその常識も、この場の妖精たちには残念ながらまだまだ備わっていなかった。
なので、ジャガイモをとにかく高熱で焼き尽くしてしまった、というわけだ。
真っ黒に焦げた塊は、ところどころが熱によって白い灰へと変わりつつある。炎の魔力を消してもまだ内部に熱がこもっているらしく、ひび割れた隙間からは赤い光がちらついていた。
まさにそれは、炭だった。
ヘノがツヨマージでその表面をつつくと、白い灰へと変化した部分がボソリと崩れおちていく。残念ながら、これはもう食べるどころではない。
「なかなか難しいな。次は。焼かないように。できるか?」
「ええ?! 火で焼くのに、焼かないようにするのか?!」
課題は、火加減の調整だ。
ヘノも、フラムも。この炭と化したジャガイモの姿を前にして、火加減に失敗したことくらいは当然理解できている。
しかし、失敗の原因を理解することと、次に成功するために調整することとは、また別な話なのだ。
少なくとも、『火で焼きながら、焼かないようにする』という半ば哲学的なリクエストは、フラムの理解を超えていた。
「……アタシ、そういう難しいこと言われると、わかんなくなっちゃう……」
「フ、フラムが、わかりやすく落ち込んじゃいましたねぇ……」
「なんか。すまない」
火で焼くけれど、焼いてはならない。
料理をよく知らない妖精たちにとっては、これはなかなかの難題である。
フラムはしょんぼりと項垂れて、ヘノは無言で球体の炭を突いて遊びはじめ、ニムがおろおろと涙を浮かべていたころ。
救いの存在が現れた。
「んふふ♪ そういうときは、アルミホイルに包んで焚火に入れるのよ♪」
桃の木の妖精クルラ。そして、桃の窪地の守り神であるウワバミ様。
彼女は、ティタニアの国の妖精の中では唯一、人間の生活を知っている。
村に新たな赤ん坊が生まれたときも、村の年寄りが天寿を全うしたときも、お婆ちゃんが窪地でこっそり焼き芋を焼いていたときも。彼女はずっと、あの村の住民たちに寄り添って生きてきたのだ。
焚火で芋をやくという手法も、当然のように把握している。
「焚火の火で、ホイルの中のお芋にじっくりと熱が通って、ほくほくになるって、お婆ちゃんが言ってたわ♪」
「知ってるぞ。アルミホイルって。銀色の紙だな。たまに。桃子が使ってるぞ」
「いいぞ! 焚火だったら! 枝を燃やすだけだし、アタシもわかるぞ!」
「お、落ち葉と、枝なら……だ、ダンジョン内なら、いくらでもありますよぉ……?」
「よし。じゃあ。ヘノはアルミホイルを探してくるぞ。次は。焚火だな」
クルラは普段はどうしようもない酔っ払いだけれど、彼女が人間の文化をよく知っていることを、ヘノたちは理解している。
なので、クルラが焚火とアルミホイルだと言うのならば、疑いもせずにそれを採用することにした。
幸運なことに、調理部屋には桃子が持ち込んだアルミホイルが残っているし、焚火に使える葉や枝ならばダンジョンでいくらでも入手できる。最悪、ある程度水気が残っている枝でも、ヘノが乾燥させてしまえば事足りる。
焼きじゃが作戦、その2『焚火でホイル焼き』の決行だ。
しかし、そこに更なる爆弾のようなアイデアが投下された。
それまた、人間の文化をよく知る酒の妖精、クルラの発言だ。
「そうだわ♪ せっかくだから、お魚も焼きましょ♪ お魚は、火で直接焼かずに、近くで炙るようにして焼くといいのよ♪」
「そ、そういえば……よく、マヨイガで桃子さんが……お魚、焼いてますねぇ……」
「魚なら。わかりやすいな。生きた魚は。面倒くさいから。氷部屋にある。凍った魚でも。焼いてみるか」
焼き魚。
ヘノとニムが思い出したのは、一般的な家庭のようにグリルを使用した焼き魚ではなく、遠野ダンジョン『マヨイガ』の一室、囲炉裏のある部屋で食事をとるときに桃子が作っていた焼き魚だ。
魚に串を刺して焼く料理で、いわゆる「炉端焼き」か、あるいはそのまま「串焼き」と呼ばれる食べ方である。
今までにも何度か、座敷童の萌々子も交えてあの焼き魚を食べたことがあるけれど、確かにあれはとても美味しいものだった。
さすがに、今から生きた魚を捕まえてくるのは大変だが、氷部屋には何尾かの魚が凍り付いていたはずなので、それを使えば問題ない。
「じゃあさ! じゃあさ! アタシ、果物とかも焼いてみたい!」
「んふふ♪ ものによっては、焼いたら甘さが増すものもあるかもしれないわね♪」
ジャガイモのアルミ包み焼きだけの予定だったが、いつの間にやら焼き魚や焼き果物が加わり、なんだか豪華な焚火になりつつある。
話を聞いていた周囲の小妖精たちも、魚や果物といった知っている食べ物の名前が聞こえてくると、ザワザワと浮足立っている。
これは、30分もすれば妖精中に噂が広まっていることだろう。
「なんだか。ジャガイモから。どんどん離れていってるな」
「うぅ……な、なんだか豪華になりそうですねぇ……」
「まあ。そうだな。せっかくだから。色々と焼いてみるか」
そうして、この日は妖精たちによる『焚火であれこれ焼いてみる』イベントが動きだすのだった。
ジャガイモをアルミホイルで巻いて。凍り付いた魚には強引に串を刺して。適当な果物も、ホイルで巻いて。
そして、枯れ葉や枯れ枝を集めて小さな山にしたら、フラムがそれに火をつける。
本来ならば、焚火の火力などそう自由に調節できるものではないのだが、こういう時は火を司る妖精がいると心強い。
桃の窪地で焼き芋経験のあるクルラのサポートのもと、ジャガイモや焼き魚にはじっくりと火が通っていく。
「なつかしいわ♪ お婆ちゃんがよく窪地で、焼き芋を焼いてたわね♪」
「なんだか。煙がすごいな。これ。大丈夫なのか」
「大丈夫だろ! 魚が焼ける匂いが、ものすごくおいしそうだな!」
「うぅ……か、火事には気を付けないと……こ、怖いですねぇ」
焚火はすすむ。
アルミホイルを巻いたジャガイモをはじめとした、試しに入れてある幾つかの果物類。
そして、やや強引ではあるが、串に真っすぐ刺さった姿で火にさらされる魚たち。
それらを炙りながら。枯れ枝や枯れ葉は、モクモク、モクモクと煙をあげていく。
そして、それだけ目立つ煙を上げていれば、それに気づいたものたちが集まってくるものだ。
「ククク……いったい何事なんだい?」
「お前ら。遠くからでも、モクモクしてて目立ってるヨ」
薬草の妖精ルイと緑葉の妖精リフィの二人は、妖精の畑の薬草区画からやってきた。
今日もまた、何かテーマを決めて薬草の調合遊びをしていたようだ。
「さては。助けを求める信号では、ないかな?」
「どうみても、焚火で魚を焼いてるところだねぇ」
そして、最後にやってきたのは鍵の妖精リドルと、大地の妖精ノン。
彼女たちは、連れ立ってどこかに遊びに行こうかとしていたところで、この煙に気づいてやってきた。
結局のところ、いつもの顔ぶれ――自我の育った八人の妖精たちが、全員この場にやってきた形になる。
「わかってはいたけど。結局。みんな。集まってくるんだな」
「た、楽しくて、嬉しいですねぇ……」
氷が溶けて水滴に濡れた魚を眺めていたヘノとニムが周囲を見渡せば、相変わらずのいつものメンバー。そしてこの花畑に住む大勢の小妖精たち。
さすがに女王ティタニアは女王の間から出てきたりはしていないけれど、相変わらずの、騒がしくて楽しい妖精の国の姿が、そこには広がっているのだった。
そんなことがあってから、数日。
「っていうことが。この前。あったんだぞ」
「へぇー、凄い凄い! 妖精の子たちだけで、料理をしてみたってことだよね!」
ヘノは、あの日の顛末を桃子に語って聞かせていた。
桃子だけでなく、その横では柚花もその話に興味深そうに耳を傾け、その柚花の肩にはニムがちょこんと座っている。
「それで、焼き魚……じゃなくて、肝心のジャガイモはどうなったんですか?」
「お、お魚は美味しく焼けたんですけどねぇ……」
「ジャガイモは。真っ黒だったり。全然やけてなかったり。まだまだだったな」
そう、結論から言えば、ジャガイモは今一つ成功とはいえないものだった。
串焼きという形で、見た目で焼き加減が確認できる魚のほうは、思いのほか上手に焼けたのだけれど、アルミホイルに包んでしまったジャガイモの焼き加減と言うのはなかなかに難しい。
ついでに言えば、果物のほうはアルミホイルの中で熱でぐずぐずになったり、真っ黒に焦げたりで、ジャガイモ以上に散々なことになっていた。
「うーん、火の通りが均一じゃなかったのかもね」
「やっぱり。下手に。焚火なんてするもんじゃないな。料理は。桃子に頼むに限るぞ」
話を聞き、失敗の原因はなんだろうかと桃子は考えてみる。
火の妖精フラムがついていたのならば、火加減の調整が難しかったなどと言うことはないだろう。
ならば、単純に知識と経験の不足だろうか。それならば、フラムが一度覚えてしまえば、以降はいくらでも作れるのではないか――と、桃子は考えているのだが、ヘノはもう妖精たちだけで焚火をやるつもりはなさそうだ。
「あはは、じゃあ頑張って、ヘノちゃんたちのために色んなカレー作るね!」
「そうだな。色んなカレーをつくるぞ」
「先輩がた、たまにはカレー以外も作ってみましょうね」
妖精たちの手料理には興味があるけれど、やはり自分が頼りにされているというのは嬉しいものだ。
桃子は、嬉しくて顔がだらしなく緩んでしまうのもそのままに、柚花から呆れ半分の突っ込みをいれられながらも、ヘノとカレーの約束をするのだった。