ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
『じゃがいもー!』
『ジャガイモ、ジャガイモっ』
『おいもーっ』
妖精たちの花畑では、二度目の焚火イベントが開催されていた。
前回は最終的に、残念ながらメインのジャガイモは焦げ付いたり生焼けだったりと、期待通りにはならなかった。
今回は心強い味方である桃子を引き連れての、ジャガイモリベンジだ。
前回のときは、火力の調整というものがよくわからず、とにかく強火にしていたフラムだけれど、今回はきちんと一定の温度を保つことに専念していた。
弱火でじっくり4、50分。火力をすぐに強くしてしまうフラムには、全く思いつかない発想だった。
「桃子! 丸焼きのジャガイモ! さすがにもう大丈夫なんじゃないかな!!」
「ん、ありがとうフラムちゃん。じゃあ早速焚き火から取り出して……あちちっ」
「桃子! まだ熱いし! 取り出すのはアタシに任せてよ!」
あちこちからかき集めた枯れ枝を山にして、火をかける。
焚火の中には、アルミホイルで包まれたジャガイモが大量に隠されている。氷妖精たちが摩周ダンジョンから持ち込んだジャガイモの残りのほとんどをここで焼きじゃがにしてしまおうという魂胆だ。
今回はジャガイモに専念するために、焼き魚や焼きフルーツは試していない。そちらのリベンジは、また次の機会だ。
「桃子。熱いのはフラムに任せて。桃子は。バターを持ってくるといいぞ。ジャガイモにつけるんだろ」
「ん、そうする。じゃあちょっと氷部屋に行ってこようかな」
本来ならば、ジャガイモを取り出して竹串か何かをさして火の通りを確認したいところだけれど、さすがにまだ焚火から熱のこもったアルミホイルを取り出すには熱すぎた。
餅は餅屋。うどんは香川。カレーは桃子。それらと同様に、火のことならば火の妖精のフラムに任せるのが一番だ。それはもはや自然の摂理である。
なので桃子はヘノの言う通り、一度焚火から離れて氷部屋へと行こうと思ったのだが――。
「先輩。バターならここにありますよ」
「バターだけじゃなくて……は、はちみつとか……こ、胡椒もありますよぉ……?」
「お、柚花にニムちゃん、お帰りー」
立ち上がった桃子に声をかけてきたのは、地上のスーパーの袋を手にもった柚花である。
その肩には水の妖精ニムが乗っかっており、自分の身体くらいはありそうな胡椒の小さな瓶を両手で抱えていた。
二人は、とある理由でいったん地上へと出ていたのだが、ちょうど今、妖精の国へと戻ってきたようだ。
「先輩。ギルドのついでに、スーパーで調味料とか追加で買っておきましたよ」
「うぅ……も、桃子さんが、カレー以外をこんなにたくさん作るなんて……め、珍しい光景ですねぇ……」
「んー、どうなんだろ。私はアドバイスはしてたけど、どちらかと言えばこれはフラムちゃんの料理になるんじゃないかな?」
「でも多分、フラムさんの料理って言うとそれはそれで違う気はするんですよね」
「それもそうだね。これって誰の料理なんだろうね」
桃子の横では、フラムが焚火から取り出した熱々のアルミホイルが並んでいる。ヘノがツヨマージで器用にアルミホイルを破っているが、そこからは見事にホクホクとなった焼きジャガイモ――つまりはベイクドポテトが顔を出している。
桃子はアルミホイルを巻くのを手伝ったし、フラムに弱火でじっくりについて教えはしたものの、いざ『料理をした』かどうかで言えば、何かしたつもりはない。
しかし、フラム自身も、恐らく自分が料理をしたという認識はないだろう。
料理を作った人は存在しないのに、出来上がった料理だけはそこに存在するのだ。ちょっとした哲学である。
そんな哲学的な話をしているうちに、ニムは柚花の肩から降りてヘノのもとに行ってしまった。
やはりニムとて、哲学の話よりもアルミホイルの中身が気になっていたらしい。
「それでですね、先輩。ギルドで、窓口さんを通じて問い合わせて貰ったんですけど、ビンゴですよビンゴ」
「うわあ、やっぱりかー」
「摩周ダンジョンでジャガイモですからね、問い合わせるまでもなく……って感じでしたけどね」
柚花は桃子の横に座って、先ほどギルドで聞いてきた情報を語り出す。
実を言うと、桃子と柚花は、このジャガイモ騒動の原因に心当たりがあったのだ。
時を遡ること、数か月前。
それは今年の年明けすぐ、桃子と柚花が北海道、摩周ダンジョンを訪れたときのことである。
――ええと、ここら辺ってジャガイモとかないですか?
――えーと、コロポックルです。よろしくお願いします。ジャガイモを探していますけど、近くにありませんか?
――コロポックルです。ジャガイモって見てませんか?
あの日、コロポックルが、間違いなくジャガイモを探していたのだ。
いや、もっと正しく言うならば、ももポックル――つまりはコロポックル衣装に身を包んだ桃子が、手当たり次第に探索者を捕まえてジャガイモの在り処を探しまわっていたのだ。
桃子の【隠遁】の影響で、恐らくそのときの探索者たちの記憶の中には桃子の顔も声も存在していない。
けれど、『コロポックルがジャガイモを探していた』という、忘れようにも忘れられないような無駄に印象的な情報は、彼らの記憶に強く残っていたはずである。
それが、巡り巡ってこんな形で自分に舞いもどってきたわけだ。
「まあ、さすがに現地でもこのまま放置するわけにいかないので、摩周ダンジョンギルド側でも対処してくれてるみたいですよ」
「じゃあ、持ち込み禁止とかになるのかな? それとも、もしかして『おうち』が撤去されちゃうの?」
「いや、それが……うーん、説明するより端末で見たほうが早いですよ」
柚花が、説明に困ったように口ごもり、探索者用端末を開いてみせる。
氷妖精たちの『おうち』に、ジャガイモが次々と放り込まれていくという問題。
事実としては、ジャガイモを入れるための社に後から氷妖精たちが住み着いてしまったのだが、この際事実がどちらにあるかは問題ではないだろう。
そして、その顛末だが……。
【北海道ダンジョン用 雑談スレ(札幌/摩周)】
:うちの親父、コロポックルがじゃがいも食べてくれたって泣いちゃったよ。どうすんだ。
:俺んちのポテトも食べてほしい! 持ってっていいの? 社に入れときゃいいの?
:ギルドが一回で持っていくジャガイモの量は規制はじめたから、箱いっぱいとかは駄目だぞ
:今どうなってんの? じゃがの話? 何の話?
:説明。有志がカムイコハンにヤシロを建てて、そこにじゃがいも奉納 → 次の日には中身がからっぽ → 現在に至る
:ジャガイモ泥棒がいたのか
:いや、ペンション宿泊客が、社に魔法光が集まってるのを目撃したってよ
:魔法光が泥棒扱いで草w
:しかし相変わらずじゃがいもの話題だと一気に加速するな
「この通り、実際にはコロポックルではありませんけど、妖精の子たちがジャガイモを全部持って行ったもんだから、ジャガイモ農家の方々が喜んじゃったみたいですね」
「ありゃりゃ……そっかー、じゃあ、ギルドも規制はしづらいねえ」
ダンジョン内に生野菜を大量に持ち込んでお供えする行為は、ダンジョンの環境的にも望ましいとは言い難い。
房総ダンジョンの祭壇のように、有志が現地できちんと管理をしている場ならばまだしも、自然の中に食料を置いたまま放置して帰るというのはいただけない。
一般論としては、様々な影響を考え規制すべきものだ。
だが、その放置されたジャガイモを、あろうことか当のダンジョンの守護者である魔法生物側が全て受け取ってしまったことで、話がいよいよややこしくなってくる。
魔法生物が是としているものを、ギルドが否とはなかなか言えない。
もちろん、魔法生物があまりに不条理な行いをしている場合はギルドが反対意見を出すこともあるだろうが、今回はお供えのジャガイモを持って行っただけなので、そういうわけにもいかない。
ギルドとしては、いよいよ対応が難しくなってきてしまったのである。
「なので、ここの書き込み通り。ギルドも全面禁止っていうのは難しいんで、個数に規制をかけるってことになったみたいですよ」
「まあ、山のようなジャガイモを貢がれるわけじゃないのなら、別にいいのかなあ」
言ってしまえば、氷妖精たちの『おうち』に、定期的にジャガイモが放り込まれる、というだけだ。
寒さに強い野菜とはいえ、氷点下のダンジョンに無責任に食料品を放置する風習は如何なものかとも思うが、魔法生物がそれを持ち帰った事例を作ってしまった以上は『食べ物を無駄にするな』という理屈も通じない。
「いいんじゃないですかね。房総ダンジョンで言うところのドワーフの祭壇みたいなものですよ。ハンバーグならぬ、ジャガイモを贈呈してくれるシステムだと考えましょう」
「んー、まあそれもそっか。ハンバーグもジャガイモも、魔法生物が有難くいただく貢物って意味では一緒かな」
「桃子。後輩。つまりは。どういうことなんだ? ジャガイモは。また食べられるのか?」
「そうですね。良かったですねヘノ先輩、ジャガイモはまた食べられますよ」
「うん、そうそう。これからも、氷妖精さんたちの『おうち』にジャガイモが放り込まれていくはずだよ」
結論としては、そういうことになる。
桃子の知らないところで起きていたジャガイモ騒動だけれど、摩周ダンジョンギルドが適切に動いてくれたことで、捧げられるジャガイモは適度な分量に収まることだろう。
桃子は週末にしか訪れないので、週末のカレーの材料が増えただけだと考えれば、全く問題はなさそうだ。
「うぅ……よ、良かったですねぇ。これで……も、桃子さんも、ジャガイモ不足で泣かなくて済みますねぇ……」
「そうですね。良かったですねニムさん、桃子先輩は泣かなくて済みますよ」
「うん、そうそう。まあ私、じゃがいも不足で泣いたことないけどね」
結果だけ言えば、二度目の焚火イベントは成功だったと言えるだろう。
さすがは火の妖精フラムだ。桃子が火加減について少し教えただけで、弱火でじっくりをマスターしてくれた。フラムが臨機応変に火力を調整できる分だけ、下手したら地上の台所でグリルを使用して焼くよりも美味しく焼けるようになったかもしれない。
今回はジャガイモだが、今のフラムならばステーキの焼き加減はレアからウェルダンまで自由自在に焼き分けられることだろう。そのような機会が訪れることがあるかどうかは、別として。
大量にあったジャガイモの山は、今回の焚火で9割がた消費できたので、今は予備のじゃがいもがいくつか調理部屋に残っているだけである。
残りのジャガイモだけなら、今夜にでもカレーの材料として使用すればすぐに無くなってしまうだろう。
『ジャガイモー』
『また、とってくるね!』
『おうちにあるからね!』
『ジャ、ガイモー♪』
焚火で焼いたベイクドポテトを食べ終えた小妖精たちは、実にご機嫌である。
それぞれがどうやらジャガイモの魅力を覚えたようで、皆でジャガイモの歌を歌っている。即興の歌のようで、歌詞もメロディも滅茶苦茶だが、実に楽し気である。
「それにしても、ジャガイモかあ。カレーに入れる以外にも、そのまま焼いたり、茹でたりしても美味しいけど、うーん……」
「どうした。桃子。何か考え事か? 悩み事なら。ヘノが聞いてやるぞ」
「あ、うん、実はね。ジャガイモが余ってるんだったら、ポンコちゃんとかクヌギさんに、日ごろのお礼ってことで差し入れしてもいいかなって考えてたんだよね」
「そうか。ところで桃子。今日のカレーは何カレーなんだ?」
「ヘノちゃん、話の興味失うの早すぎない……?」
人に食べ物を分け与える話になった途端、びっくりするくらいあっさりと興味を失う風の妖精が、そこにいた。
しかし、ヘノの反応はさておき、桃子はジャガイモの用途について考える。
ジャガイモというのは、シンプルな素材ながら、その用途は想像以上に多岐にわたる、ちょっとした万能食材の一つなのだから。
そして、そんな風に今後のジャガイモの用途について考えている桃子たちだけれど、実は桃子たちは、ひとつだけ忘れていることがあった。
摩周ダンジョンの湖畔に建てられた『おうち』。
それを己の宿として考えているのは、何もここにいる氷妖精たちだけではないのだ。
たった一人だけ、他の子たちとは別行動をとっている、氷の花の妖精の異端児と呼ぶべき存在がいるのだ。
桃子たちは、彼女のことをすっかりと忘れていた。
『ドワーフ! ドワーフ! これ、今日も持ってきた!』
『ルゥ、いないと思ったら……おぬし、またジャガイモを拾ってきたのか』
『あのね、ぽていとう』
『よく喋るようになってきたのう。探索者の言葉を真似るのはよいが、意味はわかっておるのか?』
『みつけたの! ルゥの、生まれた場所で、見つけたの! 拾ってきちゃった!』
『わかったわかった。それは何度も聞いておるから、せめて儂と会話をせぬか。それに、そう頻繁にジャガイモを渡されてもな……いや、待てよ』
『ドワーフ、どした?』
『どうせなら、この地の探索者たちに日ごろの礼として差し出すのも悪くはないかもしれん、と思ってな』
『ふーん。今日のハンバーグ、カレーかなっ』
『おぬし、話の興味を失うのが早すぎるぞ……』