ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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房総ドイツ村

 きっかけとなったのは、房総ダンジョンをホームとする探索者グループによる、深夜の生配信中の出来事である。

 

 彼らは過去に、ドワーフによって危険なところを救われた経歴があり、房総ダンジョンの探索者のなかでも、強火のドワーフ信者として知られる者たちである。

 この日の夜も、彼らは既にかなり前から『ドワーフの祭壇』にハンバーグを献上する権利の予約をとっており、プロ料理人から教えを受けた手製の特製ハンバーグをドワーフへと捧げていた。

 

 それは深夜のことだった。

 

 房総ダンジョン第一層のキャンプファイアー周辺、いわゆる『キャンプ場』とも揶揄される区画にてテントを張った彼らは、他の探索者グループとも連携し、時間を決めて深夜のキャンプ場の警備配信を行っていた。

 房総ダンジョン第一層には、強い魔物というのはいない。ある程度経験ある探索者ならば容易く対処できる貧弱なゴブリンや、動きの遅い魔獣がちらほら出てくるだけである。

 実際、警備の探索者が何度か魔物を散らせば、その日は何事もなく終わるのが大半だ。

 なので、この日の夜の配信も、他グループの警備仲間をゲストに招き、大きなトラブルもない深夜の雑談配信で終わるところだったのだが――。

 

 

【草薙チャンネル コメント抜粋】

 

:なんでジャガイモ?

 

:どういうこと?

 

:俺がトイレ行ってる間になんでみんなでジャガイモの話してるの?

 

:ヤマトたちが回収した皿にじゃがいもが乗っかってた

 

:ハンバーグがジャガイモになって戻って来たのか

 

:??

 

:どゆこと??

 

:涙でてきた

 

:泣くところあった?

 

 

 その配信中の出来事が『房総ダンジョン』ドイツ料理ブームのきっかけになるとは、その時は誰も想像していないことであった。

 

 

 

 

 

 

 

「最初は、他の探索者によるいたずらだと思われていたようなんです」

 

 房総ダンジョンギルド、応接室。

 この部屋にも慣れてきた桃子と柚花の二人は、提供されたカフェオレをのみながら、ギルド職員の窓口杏の言葉に耳を傾けている。

 それは、件の『ドワーフの祭壇にジャガイモが残される事件』の、ギルド側が把握していることの顛末だった。

 

「それが連日のように続くうちに、どうやら悪戯ではなくて『ドワーフがお礼としてジャガイモをお皿に乗せているんじゃないか』という説が浮上してきました」

 

「ああ、ドワーフさん、毎回ジャガイモをお礼に乗せてたんですね」

 

「そうです。まあ、ドワーフについては私どもより、お二人のほうがよく知っているとは思いますけど」

 

「あはは……」

 

 杏が苦笑混じりに桃子をチラ見すると、桃子は乾いた笑いで視線を泳がせている。

 房総ダンジョンに住まうドワーフ。鎧に身を包み、長く立派な髭をもつその存在は、桃子が【創造】という力を制御出来ずにいつのまにか生み出していた、いわゆる桃子の子の一人である。

 更に言えば、ドワーフと一緒にいる小妖精のルゥもまた、桃子の影響を大きく受けて生まれた妖精である。

 

 ことの真相は、こうだ。

 

 ルゥはカレーのことばかり言っているので忘れがちだが、ドワーフと共にいる彼女も間違いなく「氷の花の妖精」であり、摩周ダンジョンを故郷とする妖精の一人なのだ。

 なので、件の『おうち』は、ルゥにとっても自分に与えられた根城のひとつという認識なのである。

 

 他の氷妖精たちが、入手したジャガイモを桃子の調理部屋へと運び出す中で、ルゥだけは一人、房総ダンジョンに住むドワーフのもとまでジャガイモを運んでいた。

 ここで次に困ったのはドワーフだ。生のジャガイモを一方的に渡されても、活用する手段がない。

 そこでドワーフは、毎日のハンバーグのお礼として探索者たちの皿にジャガイモを乗せて返すようになった。

 

 その結果、探索者達の中で『このジャガイモはどういう意図なんだ?』『ハンバーグと一緒にジャガイモ料理を望んでいるのでは?』という噂が広まり、最終的には『ドワーフはドイツ料理を所望している!』という斜め上の認識が生まれてしまったのである。

 最後の方だけ突飛が過ぎるように思えるけれど、それは誰かしら顔の広い人物が情報を誘導すれば、そのような認識を広めることくらいは可能である。

 

「そっかー、ルゥちゃん、ドワーフさんのところにジャガイモ持って行ってたんだね。気づかなかったよ」

 

「あの子、他の子達と違って個人行動多いですもんね。もう、かなり自我が育ってるんじゃないです?」

 

 桃子たちは、口を開けば「カレー!」しか言わなかった独自性の高すぎる氷妖精を思い出す。

 他の氷妖精たちと違い、彼女だけは自分の意思、カレーに対する思いが非常に強い。それだけ彼女が桃子の要素を多く受け継いでしまったということなのだろうが、ヘノたちのいう『強い自我』に目覚める日は、もうすぐかもしれないなと、桃子は考える。

 

「つまり、あれですよね。ハンバーグで地元が活性化したから『今度はドイツ料理もブームにして地元の看板にしちゃおう』的な考えで、探索者を扇動したわけですね?」

 

「あらいやだ、人聞きの悪いことをいわないでください。ギルドはあくまで、その時々の話題を盛り上げているだけですよ?」

 

「うわ、窓口さん、策士だ……」

 

 そう、今回の『ドイツ料理ブーム』のきっかけはドワーフであり、探索者の配信なのは間違いない。

 しかし、そこからギルドが関与することで、話は更に広がっていった。そう、その噂を意図的に広めていったのは何を隠そう房総ダンジョンギルドそのものだ。

 更にいうならば、主な実行犯は目の前の女性、窓口杏である。

 

 彼女は以前「ドワーフの好物はハンバーグである」という偽の情報を広め、それが【創造】にまで作用し事実にしてしまった実績がある。当時はあくまで、ドワーフを探す人間たちが桃子に目をつけないように、という理由あっての行動だったのだが、巡りめぐって今や『ハンバーグ』が房総ダンジョンの売りのひとつとなってしまったのだ。

 これに気をよくしたギルド広報部が、今回のドイツ料理ブームを窓口杏に託したとしても、なんら不思議はない。

 杏の秘められた才能なのか、房総ダンジョンに訪れる探索者たちのノリが軽すぎるのかはわからないが、今回もまんまと『ドイツ料理ブーム』を発生させることに成功したわけだ。

 

「というわけで、一応話のきっかけがきっかけですので、桃子さんと柚花さんにも伝えておかなければな、と」

 

 今回、杏が桃子たちを応接室へと呼んだのは、この話を伝えるためだった。

 地元の活性化を狙ってのこととはいえ、ドワーフの好みを勝手に解釈しアピールしているのだ。ドワーフ本人にコンタクトがとれない以上、その関係者である桃子に話を通しておくのが筋である。

 

「私たちは別にいいですけど。ドイツ料理っていったら、ジャガイモとハンバーグだけじゃなくて、ソーセージとかビールとかですよね?」

 

「ソーセージは好きそうなイメージあるけど、ビールかあ。ドワーフさんってビール飲むのかな。私の子なのに」

 

「桃子さんの子……」

 

 時おり出てくる言葉に、杏がなんともいえない表情を浮かべるが、桃子と柚花の愉快な会話は続く。

 

「そこはまあ、【創造】が受け取ったはずの、一般的なイメージがありますからね。ドワーフってだいたいお酒飲みじゃないです?」

 

「そっかー」

 

 桃子自身はお酒を飲まないし、年齢的にもまだ飲んではいけないのだが、飲酒に対する忌避感は特に持っていない。

 そもそも身近に常に酔っぱらっている神様妖精がいる段階で、アルコールに対する忌避感もなにもない。

 

「じゃあ今頃、ドワーフの祭壇に缶ビールが捧げられる日も近いね」

 

「そんなことになったら先輩、そのうちクルラさんが毎晩お酒を飲みに来ますよ」

 

「いえ、さすがにギルドとしては無闇なビールの持ち込みは規制させてもらいますよ。未成年もいますしね」

 

「でも窓口さん。そのうち宅配ピザみたいにビールも販売始まっちゃうんじゃないです? 宅配ビールとか」

 

「うん、ダンジョン内に宅配ピザが届く段階でかなりおかしいもんね」

 

「まさか、いくら房総ダンジョンが特殊でも、そんなことにはならないとは……思いますけどね」

 

 遠い目をしながら語る杏だが、残念ながらその望みは叶わないことは、この時はまだ誰も知らない。

 しばらく先、ダンジョン前の飲食店が主体となり、房総ダンジョン内には『ビールの売り子』が出没するようになるのだが、それはまた別な話である。

 

 

 

 

 

 

 そして、そのようなやり取りからしばらくしたある日のこと。

 房総ダンジョンギルドのすぐ目の前には『ドイツ料理専門店』が新規オープンしているのだった。

 

「柚花、本当にドイツ料理店ができてる……! いくらなんでも、フットワーク軽すぎない?!」

 

「それがですね。もともとはこのお店、ハンバーグ専門店としてオープン予定だったらしいんですよ」

 

「ああ、ひげのお爺さんがハンバーグ食べてる看板だもんね」

 

 桃子が店の外装を確認すると、ドイツ料理全般を売りにしているものの、看板には髭のおじさんがハンバーグを食べているコミカルなイラストが描かれている。

 恐らくこれは、ハンバーグを食べるドワーフを意識してのイラストだろう。

 

「それで出店準備をしていたところ、最近いきなりドイツ料理ブームじゃないですか?」

 

「うん、まあブームというか、話題ではあるけど」

 

「それで、直前でお店の方向性を軌道修正して、ドイツ料理の専門店としてオープンすることにしたらしいですよ。実はもともと、ドイツ料理を得意としてるオーナーだったとかで」

 

「へぇー、無茶なことするね。個人店だからって、いきなりそんな路線変更なんて、色々と大変そうだけど――」

 

 桃子には経営がわからぬ。桃子は、一介の探索者である。米を炊き、ヘノと遊んで暮して来た。けれどもカレーに対しては、人一倍に敏感であった。

 

「あ!! 柚花みてみて! この『カリーヴルスト』って、カレー味だってさ!」

 

「先輩、それまでの会話を全部投げ捨ててカレーに走るのはやめてくださいよ」

 

「まあまあ、みてみて、これ。カレー味のソーセージだって」

 

「あ、カレーはカレーでもあくまでソーセージ料理なんですね。さすがはドイツ料理って感じじゃないですか」

 

 店の外に立てられていた、簡素なメニュー表。

 そこにはいくつかのメニューが紹介されていた。ハンバーグメニューが大半で、ソーセージメニューがあとから手書きで加えられているのは、恐らく急な路線変更のために発注が間に合わなかったのだろう。

 その手書きで追記されているメニューのなかに、確かに『カリーヴルスト』なる料理が書き込まれている。

 

「ねえ、せっかくだから入って食べてみない? 私、ドイツのカレー料理って興味あるな」

 

「構いませんよ。じゃあ私は普通にこっちのハンバーグにしますね。やっぱり房総ダンジョンって言えばハンバーグですからね」

 

「ハンバーグも、半年であっという間に定着しちゃったねえ」

 

「ほんと、ギルドの広報戦略も馬鹿にできませんね」

 

 最初は、桃子を周囲の目から庇うためのちょっとしたカバーストーリーだったのかもしれない。

 当時の桃子のハンマーには【拡縮】などというとんでもない魔法はかけられていなかったので、ハンマーをもつ子供の姿はギルド入り口では何度か目撃されていたのだ。

 今でこそ完全に桃子とドワーフは別人となっているが、当時はハンマー少女とドワーフの噂と紐付ける者もいたかもしれない。

 

 だが、そのカバーストーリーひとつでこの地域の食文化が変わってしまうとは、いったいどのような情報の流布を施したのか。柚花はその噂の発信源に対し、ちょっとした怖さすら感じる。

 窓口杏、恐ろしい女である。

 

「あ、柚花、窓際の席が空いてるよ。あそこの席行こうよ」

 

「はいはい、先輩、落ち着いてください。もう小学校も卒業してるんですから」

 

「卒業かあ。来年には七守小学校の卒業式に顔でもだしてみようかなあ」

 

「二度目の卒業する気ですか?」

 

 そんな、中身の全くない話を楽しみながら。

 少女たちは、房総ダンジョンの新たな名物であるドイツ料理に、心を躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   幕間 房総ドイツ村 了

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