ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
フラムのロマン
とある日、妖精の花畑での出来事。
この日の桃子は、この数ヵ月の間に空いた時間を活用してせっせと作りあげてきた『宝箱』の山を前に仁王立ちし、満足げに腕組みをしていた。やり切ったようなドヤ顔を見せており、まるで自信溢れるラーメン屋だ。
宝箱の脇には、多くの武器が並べられている。
この大量の武器は元々、武器大好き妖精である火の妖精フラムが、迷宮の至る場所から拾ってきた廃品の数々だ。それを、桃子がメンテナンスして再び利用できるようにしたものである。
これは、桃子のたてた壮大な計画の最終章であった。
フラムが拾い集めてきた廃棄武器の数々を桃子がしっかりと整備し直し、宝箱アイテムとして各地のダンジョンに隠してまわるという、長期的な計画だ。
武器は無駄にならず、宝箱を見つけた探索者たちもきっと嬉しい。仕掛け人の桃子は楽しい。
つまり、誰も不幸にならない、完璧なリサイクル計画だ。
桃子の横には、二人の妖精がふわふわと宙を飛びながら、その風景を眺めていた。
左手側では、桃子のパートナーである風の妖精ヘノが興味なさげな無表情でぼんやりと漂っている。
緑色の艶やかな髪を風に揺らし、ぼんやりと、なにも考えていないような顔をしながら、本当になにも考えずにその場に漂っている。
反対の右手側にいるのは、武器を拾ってきた張本人である火の妖精フラムだ。彼女はワクワクを隠しきれない満面の笑みを浮かべて、大量の武器を眺めていた。
ヘノよりも体躯の小さい彼女は、自我の育った妖精達のなかでは最年少だ。その影響なのか、フラムは言動や趣味にかなり子供っぽい部分がある。恰好良い武器に目がないという辺りは、いかにも子供っぽい。
しかし、いかに子供っぽい趣味だとしても、フラムの情熱は本物だ。ちょこんと結んだ真っ赤な髪の毛が蝋燭か松明のように空へ向かい、メラメラと、フラムの感情の高ぶりに合わせて小さな炎をあげている。
「いよいよだな桃子! アタシが集めた武器が、とうとう旅立つんだな!」
「そうだね。ちゃんとメンテナンスもしたから、また探索者のみんなの手に渡って、魔物たちと戦ってくれるはずだよ!」
フラムは武器が好きだ。
武器というものは単純に『格好良い』と思う。
重くて強い武器には純粋に心が熱く沸き立つし、軽くて素早い武器にはマニア心が刺激されて心が熱く沸き立つ。また、誰でも使えるようなオーソドックスな短剣ですら、その汎用性という唯一無二の有り様を考えると心が熱く沸き立ってくる。
つまり、武器を見ていると心が熱く沸き立つのだ。
しかし、武器の本懐というのはこうやって並べて観察されることではなく、ましてや畑に突き立てられることでもない。あくまで『魔物と戦うこと』こそがこれらの武器の真の目的である。
フラムが持ち帰ってきた彼らは、錆び、曲がり、刃が欠けて。既にその大半が魔物と戦うための力を失っていたが、それを桃子が出来うる限りの整備をしてくれた。再び、敵と戦える武器となった。
フラムは、自分が拾ってきた武器達が再び魔物と死闘を繰り広げ、その本懐を果たせる日が来るのだと思うだけで、既に心が熱く沸き立っていた。
一方、まったくの無関心と言っていい程に心が凪いでいたヘノが、ようやく意識を取り戻した。
「桃子。その武器。もう。ダンジョンに置いてくるのか?」
「うん、どうにか簡単な宝箱も作ったしね。ここに置きっぱなしだと、文字通りに宝の持ち腐れでしょ?」
「どこに置いてくるんだ? 房総ダンジョンの。キャンプ場にでも。隠してくるか?」
「んー、せっかくだから、簡単には見つけられないような奥の方に隠しておきたいなって。房総ダンジョンだけじゃなくて、色んなダンジョンでさ」
ヘノは、武器そのものには大した興味は持っていない。
どちらかというと、桃子が組み立てた大量の宝箱にこそ「箱に入って遊んだら楽しそうだな」などと興味を持っているくらいである。
しかし、ヘノがそれ以上に興味があるのは「桃子がこれをどこに隠しにいくのか」ということだった。
ヘノは桃子のパートナーだ。
なので、桃子がダンジョンのどこかへこの箱を運び出す際には、ヘノも一緒にそれを手伝うのだ。それが今のヘノの楽しみであり、これはヘノの中では決定事項だ。
「この箱を。あちこちのダンジョンに。持っていくわけだな。これは。大忙しだぞ」
「一緒に行ってくれる? ヘノちゃん」
「もちろんだぞ。ヘノは。桃子とずっと一緒だからな」
ヘノが桃子の肩の特等席に着地し、桃子の耳たぶを優しく引っ張る。
桃子はくすぐったそうにキャッキャと笑っている。これが、いつもの桃子とヘノのコミュニケーションだ。
そして、桃子はひとしきりヘノと耳たぶくすぐりごっこを堪能してから、ふと、気づく。
武器を見つめていたフラムが、妙に静かなのだ。
よくよく見れば、まるでマッドな科学者が雷に撃たれてなにか新しいことを閃いたときのように、小さくワナワナと震えている。
「……ん? フラムちゃん、どうしたの? なにかあったの?」
「なあ! 桃子! 今アタシ、思い付いたんだけどさ!」
「う、うん?」
フラムは、ガバッと桃子を振り返り。
花畑中に響き渡るのではないかというほどの大きな声で、その『思い付き』を叫び、伝える。
「この武器に! 色んな魔法を! 付与しないか!」
フラムの思い付き。
その後、フラムを一度落ち着かせてから、改めて話を聞いてみた桃子は、自分でも所々で考え込みながらも、うんうんと頷いてみせる。
「なるほどねえ、確かに、宝箱の中から魔法の武器を拾うっていうのは、ロマンだもんね。わかる、私もロマンを感じるもん」
フラムの提案には、桃子も強く共感を見せた。
宝箱から入手した武器に、強い魔法が付与されている展開。ゲームや漫画ならば、王道の展開だろう。
現実のダンジョンではそう簡単には魔法のアイテムなど見つけられないけれど、桃子とて探索者の端くれだ。宝箱に夢見る気持ちは失っていない。
ただ、その一方で、桃子は武器を製作する工房で働いており、ダンジョン武具の現実を知っている。
「知ってるぞ! 魔石をくっつければ、色んな魔法の武器になるんだろ! アタシ、炎の武器を作りたい!」
「それなら。ヘノも。風で。ものすごい真空が出る斧とか。作ってみるか」
「いいな! じゃあ、アタシは炎で敵を焼き付くす鎌だ!」
「嵐を呼ぶ。弓矢もいいな」
「いやいや二人とも、なんでもかんでも魔法を付与できるわけじゃないんだよ。それに、武器と魔法の相性を考えないと、宝の持ち腐れになっちゃうからね?」
魔法の付与、と一言で言うけれど、それをいざ実行しようとすると様々な問題があるのだ。
そもそも、地上で製作した武器に魔法を付与するには、それ相応の魔石が必要なのである。
例外的に、ダンジョン産の武器。それこそ桃子のハンマーは、ティタニアによる【拡縮】という物凄いレア魔法が付与されているけれど、それはこのハンマー自体がダンジョン産の魔物武器だから出来たこと――らしい。実は桃子もよく知らない。
桃子のハンマーはさておき、フラムの語るロマンは理解できる。
が、現実に横たわる問題をロマンでクリアできるわけではない。
これまでの様々な冒険のなかで、桃子は大量の魔石のストックを得てはいる。手直ししてきた武器の数々に、それらの魔石を提供するのは吝かではない。
しかし、ストックした魔石のなかに、そこまで大きい魔石が沢山あるかというと、残念ながらそんなことはないのだ。
桃子は落ち着いて、妖精達にその現実的な問題を丁寧に説明していく。
「そうか。確かに。かなり大きな魔石じゃないと。強い魔法なんて。付与できないな」
「よし! こういうときは! 女王様に相談してみよう!」
「わ、フラムちゃん? フラムちゃーん?」
困ったら、母親である女王に相談する。
これは、ティタニアの娘たちにとっては当然のことである。フラムもまた、女王ならどうにかしてくれると考え、ティタニアに頼ることにしたらしい。
「フラムちゃんも、結構せっかちな所があるよね。さすがヘノちゃんの妹じゃん」
「そうか?」
善は急げとばかりに、女王の間へと飛んでいってしまったフラムの背中を追い。
姉妹で似ていると言われて、まんざらでもなさそうなヘノとともに、女王の間へと小走りにかけていくのだった。
「なるほど、妖精たちの力を込めた武器を……」
そして、桃子たちが女王の間に到着したときには、既に先に到着していたフラムが女王であるティタニアに要望を伝えていた。
「そうなんだ! アタシ、魔法の武器を自分で作りたい!」
「ヘノも。どうせやるんだったら。徹底的に。やるぞ」
「まあまあ、二人とも落ち着こうね。ティタニア様が困っちゃうでしょ」
あとから追い付いた桃子も妖精たちの横にならんで、熱くなりすぎているフラムと、戦闘モードに火がついてしまったヘノを宥める。
フラムはまだしも、ヘノまでやる気を出してしまったのは桃子も想定外だ。
桃子はティタニアの前へと出て、先ほどの顛末――フラムの拾ってきた武器を、桃子が各地のダンジョンにばらまく計画と、それに付随する魔法付与の提案――を、ティタニアへと改めて説明する。
「そう……ですね。フラムやヘノ程の力があれば、かなりの強さの武具を作ることはできるでしょうが、あまり推奨はできません」
「ええー!? なんで! 魔石も拾ってくるぞ!」
「そうだぞ。魔石なんて。適当に魔物を倒せば。いくらでも拾ってこれるだろ」
「まあまあ、フラムちゃんもヘノちゃんも、落ち着いて。たぶん、魔石の問題じゃないんだよ」
桃子も薄々予感はしていた。
魔石があれば、強力な武器を作ることができる。そして、妖精達が力を合わせて魔物を狩るようになれば、大きな魔石を集めることも容易いだろう。
だが、問題はそこではないのである。妖精たちが、力を使うことそのものが問題なのだ。
「ええ。桃子さんならば分かってくださると思いますが、妖精の力は強大です。それを武器とはいえ、不特定多数の人間に与えるわけには、いきません」
そうなのだ。
ティタニアは、桃子の武器には魔法を付与してくれたし、柚花には電撃属性を強化する魔石をプレゼントしてくれたこともある。
けれど、それはあくまで、桃子と柚花が『妖精の加護』を持つ、認められた存在だから。ティタニアたちの、身内だからだ。
決して宝箱という形で、どこの誰とも知らぬ相手の手に渡して良い力ではない。
「うーん、残念だけどさ、フラムちゃん、ヘノちゃん。人間には、妖精の魔法は強すぎるんだよ」
「そうか。まあ。そうだな」
ヘノは意外にもすんなりと引き下がってくれた。
そもそもヘノは、武器そのものに興味があったわけではない。単純に『どうせやるんだったら徹底的にやる』と考えていただけだ。
それが中止と言われたなら、さっさと忘れるドライな判断ができる。
しかし、そこで食い下がったのがフラムだった。
「じゃあ! じゃあ!『全然強くない魔法』の武器なら! いいかな!」
「全然強くない魔法の武器……?」
フラムの言葉に、桃子はきょとんとした顔で。
同じく、目を丸くしているティタニアと目を合わせて、首を傾げるのだった。