ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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弱い魔法オーディション

 ここ、女王の間ではいま、桃子がティタニアの横に並び。

 その眼前には、八人の選ばれし妖精たちが、緊張した面持ちで列を作っていた。

 それはまるで、面接を受けるような。試験に挑むような。曇りガラスで店内の様子が見えない、初めての飲食店に入るような。そのような、ピリリとした緊張感がその場に漂う。

 

 妖精たちの列の先頭に並んでいるのは、ニムである。

 ヘノの親友であり、柚花に加護を与えたパートナーでもある水の妖精ニム。

 蒼いミディアムヘアに、普段から自信なさげな表情を浮かべているニムだけれど、おどおどしたその外見とは裏腹に、実はやるときは意外と容赦のない性格をしている妖精なのだと、桃子は知っている。

 

 そんなニムが、列の先頭に位置している。

 これは単にこの場に到着した順だったのだが、ニムもまさか自分が先頭になるとは思わなかったのだろう。心配げに、しきりに周囲に視線が行き来している。しかし、今はニムを助けてくれる柚花はいないし、親友たるヘノも後ろのほうに並んでおり、助けはない。

 そして。

 ニムの緊張など知ったことかとばかりに、開始時間がやってくる。

 

「じゃあ、最初はニムちゃんだね。考えてきた魔法を、教えてくれるかな?」

 

 桃子が、まるで案内人のようにニムを女王ティタニアの前まで移動させる。

 ニムは、おずおずと女王と桃子の前まで出て、緊張気味な小さな声で、己の提案を口にする。

 

「じゃ、じゃあ……癒しの水がちょろちょろ出る武器、とかは……どうでしょうか?」

 

 桃子がティタニアを見ると、ティタニアは目を伏せ、小さく首を横に振る。

 

「うーん、癒しの水はちょっと、人が使うには凄すぎるかな。せめてもっと、普通の水程度じゃないと、難しいね」

 

「うぅ……じゃあ、普通の水が……ちょろちょろ……」

 

「うんうん、普通の水がちょろちょろ。どうですか? ティタニア様」

 

 と、いうように。

 ニムの提案した『癒しの水がちょろちょろ出る魔法』は、残念ながら効果が大きすぎたようで、面接官側から修正案を出されてしまう。

 そう、これはまさに面接だ。

 テーマは『自分で考えてきた、弱い魔法』である。妖精たちが各自で『武器に付与する弱い魔法』を提案し、それをティタニアと桃子に審査してもらうための列である。

 ニムの提案した『癒しちょろちょろ』はあっさりと却下されてしまったが、それに代わる代案『普通の水ちょろちょろ』は、ティタニアの反応をみる限り、さほど悪い判定ではなさそうだ。

 

「そうですね。あまり大量でなく、ほんの些細な湧き水程度でしたら構わないでしょう」

 

「確かに、飲料水がジャカジャカ出てきたら伝説のアイテムになっちゃうもんね。本当にちょろちょろと、少しだけってことで……うん、合格!」

 

 最後に付け加えられた条件『些細な湧き水程度のちょろちょろ』。それが具体的に一体どのくらいの量なのか、という疑問もあるけれど、それは魔石をはめ込んでから調整していけば良い。

 水の魔法は、条件付きの合格をもぎ取った。

 

 

 

 安心したようにニムが捌けると、続いては赤ら顔でほろ酔い状態の妖精だ。

 

「お酒が――」

 

「お酒はダメだよ、クルラちゃん」

 

「お酒はダメですよ、クルラ」

 

 ほろ酔いの妖精が何かを言う前に、面接官たる桃子とティタニアが、にこにこ笑顔で声を被せてくる。事前に打ち合わせでもしていたのかという程に、二人の息はピッタシだった。

 ほろ酔いの妖精――桃の木の妖精クルラは、息の合った二人に目を丸くして驚いてから、しかし楽しそうにクスクスと笑みを浮かべる。

 白に近い金色の、しかし光によってピンク色にも見える不思議な髪色をした桃の木の妖精。肩のあたりでくるりと内側に巻いた髪型は、どことなく彼女の持つ慈愛を感じさせ、優しい雰囲気を彼女に与えている。

 ただし、その優し気な顔立ちもお酒で赤ら顔になっているので、色々と台無しだが。

 

「んふふ♪ 二人とも、どうしてわたしが言おうとしていた言葉が分かったのかしら♪」

 

「そりゃあ、クルラちゃんだもん。言うことはまず、お酒に決まってるじゃん」

 

 さも当然のように桃子が断言する。内容だけ聞けばなかなか失礼な対応だが、妖精たちの母であるティタニアですら、そこにフォローの言葉はない。ただただ、困ったような苦笑を浮かべるだけである。

 そして実際に、桃子の言う通りクルラは「お酒が出てくる魔法」を考えていたので、文句の"も"の字もないのだった。

 

「残念だわ♪ なら……じゃあ、アルコールが吹き出る魔法、でどうかしら?」

 

「アルコール……? お酒と違うのですか?」

 

「違うの♪ 桃子ならわかるかしら、スプレーを押すと、アルコールがぷしゅって出てくるアレよ♪」

 

「ぷしゅ? ……ああ、なるほど。つまりは除菌スプレーだね。うーん……悪くないかも!」

 

 クルラの代案は、アルコールのミストである。つまりは、地上で言う所の『除菌スプレー』だ。

 実際に、クルラのイメージにあったのは、守護する村の人々があちらこちらで利用していた、アルコールの除菌スプレーである。

 これは酒を司るウワバミ様としての権能の応用であり、桃の木とは一切関係のない内容だったが、桃子はもとより、ティタニアですらそこになんの疑問も感じていない様子だった。

 

 いずれにせよ、桃子の説明を聞いたティタニアが頷いてみせたので、アルコールの魔法は合格である。

 

 

 

 クルラが捌けたら、ずいと次に並んでいた妖精が一歩前に出て、クククと笑いながら口を開く。

 

「ククク、ど――」

 

「毒はダメだよ、ルイちゃん」

 

「毒はダメですよ、ルイ」

 

 まるで、先ほどの焼き直しのような光景だった。

 クククと笑う陰気な雰囲気の妖精が何かを言うのを遮るように、桃子とティタニアの息の合ったコンビプレイがさく裂。これには、毒の魔法を提案しようとしていた薬草の妖精ルイも、クククと笑うしかない。

 

 じっとりとした深い緑色の長い髪を垂らした、薬草の妖精ルイ。

 ヘノたちよりも大人っぽく見える整った顔立ちの妖精なのだが、艶のある長い前髪でその顔を半分隠しており、下からねめつけるような角度で視線を向けてくることが多いので、まるでホラー映画の幽霊を思わせる風貌となっている。

 もっとも、いくらホラー映画っぽかろうが、彼女が手のひらサイズの小さな女の子であることに変わりないので、どれだけ陰気な雰囲気をみせようとも、怖さよりも可愛らしさのほうが優っている。

 ちなみに、以前桃子がそういう話をしたら、しばらく顔をみせてくれなくなってしまった。

 

 そんなルイの提案は、案の定、毒の魔法。

 武器に付与する魔法なので、攻撃的な『毒』という要素は何もおかしくないといえる。ただ、倫理的な問題で、そして単に武器として有用すぎるという理由で、桃子もティタニアも毒の魔法に許可を出すつもりはない。

 

「やれやれ、厳しいねえ……」

 

「ルイ。あなたは一応は『薬草の妖精』なのですから、もう少し薬草っぽいことをしませんか?」

 

 ルイは、もともとは『薬草』という、どちらかと言えば特殊で、限定的なものを司る妖精である。

 なので、彼女が一番得意とする魔法は決して毒などではなく、人間をはじめとした生き物を治癒させる、回復系魔法なのだ。

 だがしかし、どこでどう育て方を間違えたのだろうか。

 毒と薬は紙一重とも言うけれど、彼女は毒の研究にどっぷりはまってしまい、今では仲間からも『毒の妖精』と認識されるようになってしまった。

 なお、ティタニアにとってはこれもまた悩みの種のひとつだったが、最近は半ば諦めている節がある。

 

「じゃあ、私が決めるね。ルイちゃんは薬草の力が使えるんでしょ? だから、いくら武器を振っても、手のひらを痛めにくい魔法を作ってもらおうかな。はい、手に優しい武器!」

 

「ふふふ。いいですね、採用ですよ」

 

「ククク……勝手に決められてしまったねぇ……」

 

 はたして、自分がここに並ぶ必要があったのかとルイは首を傾げているが、しかし拒否の言葉は出てこない。

 なんだかんだで、条件を指定され、それに合わせた薬草や魔法を作らねばならないというこの状況は、ルイの仄かな闘争心に火をつけた。

 恐らく、最低限の魔法付与で最大級の効果を発揮する『手に優しい魔法』が、近いうち彼女によって開発されることだろう。

 

 

 

 

 

「カリンが――」

 

「カリンちゃん専用武器とかそういうのは無しだよ、リフィちゃん」

 

「リフィ、あなたの気持ちはわかりますが、今は不特定な探索者が持つ武器の話ですから……」

 

 口を開いて早々、桃子とティタニアに妨害される妖精、三連続である。

 お次の妖精は、頭の上に新芽のような緑の髪がぴょこんと飛び出ているのが特徴的な緑葉の妖精、リフィ。

 リフィは他の妖精たちと比べても幼く見える顔立ちと裏腹に、一人行動が好きなタイプで、人間に対してはかなり毒気の強い言動をとる妖精だ。

 しかし、上高地ダンジョンでの事件以降、今やすっかりアイドル配信者であるカリンのサポーターになってしまったという一面もある。柚花曰く「かなりチョロい」妖精だ。

 

「まったく、残念だヨ」

 

 そんなわけで、カリン専用武器と言い出す前に否定されてしまったリフィだが、残念と言っている割に特に気にした様子もない。

 もしかしたら、本人も却下されることが分かった上で、とりあえずで言ってみただけなのかもしれない。それを裏付けるように、リフィはすぐに別案を口にする。

 

「じゃあ、葉っぱが育ちやすくなる斧を作るヨ」

 

「斧?」

 

「そうだヨ。人間は斧があったら木を切るのヨ。でも、斧で葉っぱを切ろうとしたら、すぐに植物が生えてくるようにするヨ」

 

 リフィが、身振り手振りで斧を振りかぶり木を切るようなジェスチャーを見せる。

 ここで彼女が言う『斧』とは、魔物と戦うための戦斧というよりは、木を切るための道具としての斧のことだ。

 武器の話をしているのに――とツッコミが浮かんでこないこともないが、実はリフィの言うこともあながち間違いではない。

 

 日本のダンジョンでも、戦うための武器として斧を持ち込む人間というのは、あまりいない。

 ハンマーを愛用している桃子が言えたことではないけれど、斧などという取り回しの不便な武器を使うくらいならば、ダンジョンに限っては剣を持ったほうが遥かに多様な状況に対応できるのだ。

 もちろん、斧で戦い続ける探索者がいないとも限らないが、それでも一般的な斧の主な使用目的は、ダンジョン内の樹木を伐採するための道具である。

 

「まあ、どうしても森とかだと、伐採しないと人間が通る道が作れないからなあ。ごめんね、リフィちゃん」

 

「まあ、謝るなら許さなくもないヨ」

 

 斧でこそないが、桃子も過去に房総ダンジョンでひとり黙々と投石器を作っていた時期には、カバンの中に鉈とノコギリを常備していたの思い出す。

 ダンジョンの樹木というのは魔力を含んでいるために、意外と使い勝手が良いのだ。

 

 しかし、ダンジョンの木についての話はさておき。

 リフィの提案は『伐採しようとしたらすぐに植物が育つ斧』である。

 この思わず考え込んでしまう哲学的な提案には、女王ティタニアも困惑顔だ。

 

「まあ……問題はない……ですかね。桃子さん、どう思われますか?」

 

「うーん、役にたつのかたたないのか微妙だけど……なんだか面白いね。じゃあ、採用!」

 

 こうして変な斧は、面白さ枠で採用となった。

 

 

 

 

 

 妖精たちの魔法オーディションは続く。

 続いての妖精は、ぴょこんと天をむいた、ろうそくの火みたいな小さなポニーテールがチャームポイントの、いつも元気な火の妖精、フラムだ。

 さすがにフラムは今回の話の言い出しっぺだけあり、既にしっかりと案を考えてきているようだ。

 

「アタシ、色々考えたんだけどな! 火が出るのは強すぎるみたいだから、温かくなる武器はどうだ!」

 

「温かく……? うん、まあ……強すぎるっていうことはないかな」

 

 てっきり、小さな火を出す魔法でも付与するのかな? と考えていた桃子は、フラムの提案に面食らう。

 火の魔法は確かに強く、今回の趣旨にはそぐわない。

 とは言っても、魔物への攻撃に使えない程度の小さな火くらいならば問題なかったのだ。人間だって、マッチやライターで火をつけるのだから、そのくらいの魔法はどうということはない。

 けれど、どうやらフラムはそうは考えず、全く別な魔法を考えてきたようだ。

 

 温かくなる武器。

 言葉通りに捉えるならば、ある程度の熱を持つ武器ということだろう。

 桃子の知る限りだと、香川ダンジョンのうどん職人である炎城寺マグマの炎の装飾を施された武器などは、大きな魔石に炎の魔法を付与しており、雪原の中では氷を溶かしながら戦っていた。

 それのマイルド版といったところだろうか、と、桃子は考える。

 

 一応は意見を伺おうと桃子がちらりとティタニアに視線を向けるが、ティタニアは判定を下すわけでもなく、ただニコニコしているだけである。

 ティタニアは、とにかく高温の炎を放つだけだったフラムが、自分で考え、別なやり方を提案してくれたことが嬉しくてたまらないのだ。

 

「フラムちゃん、温かくなるっていうのは、ええと……そうだな、手を入れても大丈夫なお湯くらい?」

 

「そうだぞ! 火傷したら困るからな! でも、できるだけ! 大きい武器で頼むぞ!」

 

「なるほどなるほど。それなら強すぎることもないし、大丈夫そうだね」

 

 桃子が念のために具体的に確認してみるが、やはり言葉通りの『温かくなる武器』以上でも以下でもない、そのまんまだった。

 炎城寺マグマの武器のように敵を焼き切る威力は求められないだろうが、今回の趣旨としてはその程度の不思議な効果がある武器という塩梅でいいのかもしれない。

 想像してみると、温かい武器だなんて今までにない面白さがある。

 

「ええと……じゃあ、わかった! フラムちゃんは大剣だね! ぬくぬく大剣、採用!」

 

 温かい、ぬくぬく大剣。

 これがどのような使い方をされるかは分からないが、寒いダンジョンなどではもしかしたら有り難いかもしれないなと呑気に思いながら、桃子は合格を言い渡すのだった。

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