ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
妖精たちの考える、弱い魔法オーディションはまだまだ続く。
フラムはすんなりと魔法が決まって楽だったが、次の妖精はフラム以上に楽に対応できそうな相手だった。
ふわりと柔らかそうな明るい茶色の髪を揺らし、他の妖精たちよりふくよかなスタイルの妖精が、桃子たちの前へ出てくる。
見るからに穏和そうな雰囲気を纏うその妖精は、大地の妖精ノンである。
彼女はその外見同様に、その言動をはじめとした性格もふんわりとしていて、非常に穏やかな妖精だ。
個性豊かで、なにかと我の強い妖精たちの中で、彼女は唯一と言っていいほどまともな思考回路をしているので、桃子としても非常に安心できる存在だ。
そんな常識的妖精であるノンに対し、まずはティタニアがゆっくりと問いかける。
「では、うかがいます。ノン、あなたはどのような魔法を考えたのですか?」
「うん、女王様。大地の力で出来ることを考えてみたんだけどねぇ、私の魔法で、武器をとっても硬くて壊れないものにしようと思うよぉ」
「わ、シンプルだけどいいアイデアじゃん! なんか、見た目的な派手さはないけど、ノンちゃんらしい優しい感じがする」
武器の硬度そのものに変化を及ぼす魔法。
大地の力、ひいては鉱石や鋼の性質に介入できる彼女だからこそ、可能な芸当だろう。
他の妖精たちと比べると地味で、見た目の変化もない。下手をすれば、所有者がその恩恵に気づくことすらないかもしれない。
けれど、親方の元で日々さまざまな武器を見てきた桃子は、知っている。
硬いものは、衝撃を受け流せないぶんだけ、脆いのだ。しかしそこに、妖精の魔法によって『硬い上に壊れない』という性質の武器が生まれたとしたら、それはとても面白いことになる。
恐らく、武器の使い方も大きく変わってくるだろう。使い手の技量次第では、ものすごい有用な武器になるかもしれない。想像するだけで、色々と興味が広がってくる。
しかし、感心する桃子とは逆に、ノンの表情は浮かないものだった。
「褒めてくれるのは嬉しいんだけどねぇ。単に、他に思いつかなかっただけなんだよぉ。私の魔法は、あんまり見栄えがしないからねぇ」
「えっ、なんかごめん、気にしてたんだね……」
ノンの言葉に、桃子は『派手さはない』などと口走ってしまったことを、反省する。
どうやら、見栄え的に華やかさが劣っているというのは、ノン自身も感じていることだったらしい。
しかし、と桃子は思う。
大地属性は、地味。これはノンには非常に申し訳ないけれど、一般的な認識と言っても差し支えないレベルの共通見解だろう。
例えば、炎や雷という属性は非常に派手であり、それだけで様々な光が発生するために、見栄えも非常に良い。次に、風や水も眩い光こそ発さないものの、速く強い風属性、優しく様々な応用の利く水属性というイメージは強い。
一方、大地属性はなにかとゴツゴツした物理的な能力のイメージが強い。派手に光ったり、魔法的な効果を伴って様々な効果を発揮したりというイメージがあまりない。
地母神といった温厚な母性のイメージもあるにはあるが、そこに"見映えの良さ"があるかというと、それも微妙だ。
そういえば、と思い出す。
香川ダンジョンうどん四天王の地味な男性も『地道だから地属性』などと言う理由で、地属性に認定されていた。
やはり、地属性は見た目的には地味なのだ。間違いない。
しかし、桃子は頭に浮かんだそれらの考えを、即座に振り払う。
ノンが地味なことを気にしているならば、自分はそれに同意するのではなく、もっとノンが前向きになれるような様々な案を出してあげるべきなのだ。
「ノンちゃんの魔法だって、色々出来ると思うよ? 例えば、土のゴーレムを呼び出すとか! あと、金とかダイヤモンドを錬成できたら、ド派手もド派手だよ!」
「桃子さん、ゴーレムの使役は普通に強力すぎますし、金やダイヤモンドはそれこそ人間たちに悪用されてしまいますから……」
桃子の提案は、横にいるティタニアにやんわりと駄目出しされてしまった。残念。
「じゃあ……ノンちゃんがたまにやってくれるみたいに、その場に岩が出てくるとかは? あのね、岩があるってすごい事なんだよ? 投石器の岩を運ぶ必要もなくなるし、屋外で炊飯とかするときなんかは自分でかまどを作らないといけないから、地味に役に立つかも!」
「『地味に』って言っちゃってるねぇ」
「うぐ……」
桃子は、今は武器に付与する魔法を考える時間だということも半ば忘れて、ノンの魔法の素敵さを熱弁する。
ノンの魔法には、桃子は何度も世話になっているのだ。氷部屋の壁は全てノンが作り出してくれたものだし、地面に大きな穴を掘ってもらったこともある。どのような場所でも成型されたかまどが作れるというのも、素晴らしい。
そう、ノンの魔法は、地味だけれど非常に素晴らしい魔法なのだ。地味だけれど。
「ええと、でも……ほら、ノンちゃんの魔法は本当に、すごいんだよ?」
まさかの事態だ。ノンを前にして桃子はピンチに陥り、語彙力がなくなってしまった。
地味にすごい。縁の下の力もち。目立たないけれど皆の柱。褒め言葉を考えれば考えるほどに逆効果という状況だ。
しかし、どんどん焦って追い詰められていく桃子とは逆に、ノンは穏やかに笑い、桃子に礼を言う。
「ううん、ありがとうだよぉ。見た目はともかく、魔法の発想自体は桃子さんの言う通りで、もっと色々あるかもしれないしねぇ。他にも何か、考えてみることにするよぉ」
「うん、なんか逆に気を使わせちゃってごめんね。いいの思いついたら教えてね」
ノンはやっぱり、他の妖精たちと比べても大人な感じがする。なにせ、最終的には桃子がフォローされてしまった。
ちなみに余談だが、ノンが自我を得て今のノンになったのは、およそ18年前。そういう意味では、ノンは桃子よりも年下だ。
なんにせよ、ノンは前向きに考えてくれるみたいなので、結果オーライである。
また、途中から会話に参加しなくなっていた女王ティタニア。
彼女は、悩むノンと、オロオロしながらそれを頑張ってフォローしている桃子の姿を、玉座から「ふふふ」と楽し気に笑いながら眺めているだけである。
まるで、観測者が高みから、可愛らしい少女たちによる即興の舞台劇を楽し気に観るかの如く、だ。
桃子は、口にこそしないけれど。こういうときのティタニアは「やっぱり、りりたんの娘だな」と。
心の中で、確信するのだった。
そして、次に前に出てきたのはヘノだ。
ヘノも今回の話は初めから経緯を知っているので、魔法を考える時間はいくらでもあったはずだ。
はたして自分のパートナーはどのようなものを考えてきたのかと、桃子は期待を寄せる。
「ヘノちゃんはどうするの?」
「色々考えてみたけど。難しいぞ。敵を倒すほど。強くしちゃダメなんだろ」
「まあ、強すぎる武器になっちゃうと、色々と問題があるからね。武器の世界って、なかなか面倒くさいんだよ」
妖精の力で強化された武器など、人間が持つべきではないのだ。
強すぎる力を個人が所有などしていては、それが新たな火種になることを桃子は知っている。今まで色々な漫画や映画で見てきたので、間違いない。
もっとも、それを語る桃子本人が、破壊の権化のような威力を叩きだせるハンマーを所有しているので、説得力は皆無である。残念ながら、この場にはそこにツッコミを入れてくれる後輩は不在なのだが。
「本当は。暴風で敵を飛ばしたり。真空の刃で。真っ二つにしてやりたいんだけど。それが駄目となると。ちょびっとだけの。風を出すくらいしか思いつかないぞ」
「いいじゃん、風を出す魔法。そよ風が吹き出る武器ってどうかな。なんか、簡単な扇風機みたいなの」
「じゃあ。それでいいか。せんぷうき武器だ」
風の妖精の魔法を付与した、扇風機武器。
どこからどう空気が噴き出るのかはよく分からないが、ダンジョンによっては非常に蒸れたり、とにかく暑かったりする場所もあるのだ。
桃子は頭でイメージを働かせてみる。近年は地上でも夏場になるとポータブル型の扇風機を使う人が多いけれど、それの武器版だ。
夏の蒸し暑い日に、涼しい風の出てくる剣を首からかける姿を想像する。ビジュアル的には不可解なことこの上ないが、効果としては気持ちよさそうだ。
「うん、暑い夏の日とかには良さげじゃん。それでいいですか? ティタニア様」
「ええ、問題ありませんよ」
「よし、じゃあ採用! 小さな風魔法!」
というわけで、風の妖精ヘノが付与する『弱い魔法』は、ハンディ扇風機魔法に決定した。
すんなりと決まったので、ヘノと桃子は互いに満足げに微笑みあい、その姿をティタニアが更に満足げにニコニコ眺めている。
みんな笑顔で、平和な空間だった。
これも全て、ハンディ扇風機のお陰だ。
「さて、ボクは特別枠ということで、いいかな?」
「うん、今日はよろしくね、リドルちゃん」
最後の妖精は、鍵の妖精リドル。
彼女は砂丘ダンジョン第三層の扉を開く『スフィンクスの鍵』という魔法アイテムが意思を持ち、妖精となった特殊な経歴の持ち主だ。
砂漠のダンジョン出身らしく、ボーイッシュな黒髪に褐色肌で、一見すると美少年にも見えそうだ。
だが、クールで美形な外見とは裏腹に、とにかく『謎』が好きすぎて、謎もなにもない場所から一方的に『謎』を見つけ出しては推理を始めてしまうという、実に愉快なポンコツ妖精である。
だがしかし、この日はリドルの力を借りることとなる。
それは、「武器に魔法を付与する」という話を聞いたティタニアの提案だった。
武器に魔法を付与するにあたり。桃子は、スキル【加工】――今は進化し【創造】となっているが――を使用し、武器に魔石をはめ込むところまではできる。
ただし、そこから先の魔法の付与となると桃子は門外漢であり、更にはそこに特殊な機能を組み合わせようと思えば、それ相応の専門知識が必要となる。
そして、目の前で賢いポーズをとっているこの謎かけ妖精リドルは、ティタニア曰く「魔法アイテムの専門家」なのだという。
普段の姿からはにわかに信じられないのだが、そもそも彼女自身が砂丘ダンジョン第三層という、魔法的な罠のひしめく階層の管理者なのだ。
魔法的なギミックはもちろんのこと、道具に魔法の仕掛けを構築することなどリドルにとってはお手の物である。
「ボクにかかれば、桃子くんのハンマーが別な人間に奪われた際、魔力を逆流させ爆発させる仕組みくらいはお手の物では、ないかな?」
「凄いけど物騒だからそれはいらないかな……」
「おや、それは残念」
そして、桃子が最近になってようやくわかってきたことなのだが、このリドルは実はきちんと賢いのだ。彼女は、実はやろうと思えばものすごい才能を持っているのだ。
ただ単に、やろうとしないだけなのだ。
人の話をきちんと聞き、自分の力を行使するより、人の話も聞かずに世の中に蔓延る『謎』と向かい合うことを優先しているだけなのだ。
なんというか、実に勿体ないなと、桃子はしみじみ思う。
そんなもったいないリドルだが、今回はきちんとティタニアが説明してくれていたようで、頼りになるリドルとして協力してくれている。これはレアキャラだ。
「ではリドル。先ほどまでのやり取りは、きちんと聞いておりましたね?」
「もちろんさ。本当は謎を探しに行きたかったところなのだけれど、ね」
宝箱に入れて各地のダンジョンに配る武器そのものは、数としてはなかなか大量にある。
しかし、今回はリドルを除く7人の妖精の魔法をひとつずつ付与していき、合計7つの武器を製作してみることになった。いわゆる、お試しだ。
これがうまくいけば、残りの武器も様々な些細な魔法を付与してから宝物にして配ってまわることができる。
「よし、じゃあ今日はよろしくね、リドルちゃん」
「ああ、任せたまえ。謎に満ちた仕掛けの魔法武器を作るだけだろう? 腕がなるのでは、ないかな?」
「なんだか誤解があるような気もするけど、まあなんとかなる……かな?」
少々不安も残るけれど、ピラミッドの鍵そのものであるリドルが、魔法道具の製作を監督してくれるのなら、失敗はないだろう。
いよいよ本番、弱い魔法の付与された特殊な武器の開発だ。
準備は万全。
今から、皆が簡単な魔法を付与していく段階までやってきた。
武器に魔法の付与などしたことない妖精が大半だったけれど、今回のような『弱い魔法』ならば行き当たりばったりでも比較的どうにかなっている。
桃子の目の前では妖精たちがなんやかんやと話し合いながらうまくことを進めているようだった。
桃子は魔法のことは分からないので、ここまで来たらあとは魔石や武器に魔力を通して光ったり光らなかったりしている妖精たちの姿を眺めているだけ――とは、残念ながら、いかないものである。
「おいリドル。風にカレーの匂いをつけたいんだけど。出来るか」
「なんと。さすがにそれはボクの力を大きく超えた願いだけれど、桃子くんの協力さえあれば可能なのでは、ないかな?」
「待って待って、私が言うのもなんだけど、さすがにそこはもう少し普通の風にしようね、ヘノちゃん」
油断すると、武器から出てくる風をカレーの匂いに改造しようとする妖精にストップをかけ。
「手のひら限定で治癒する魔法だなんて、随分酔狂なのでは、ないかな? いったい何処の誰だい、そんなものを考えたのは」
「ククク……誰だろうねぇ、そんな無茶を言い出したのは……」
「な、なんかごめんなさい……」
自分の思い付きのせいで苦労している妖精たちに、平謝りをしたり。
右に泣きそうなニムがいれば、行って怖がらなくてもいいと言い。
左にカレーのリクエストがあれば、あとで作るから待っててと言い。
そんな感じの、なんだか忙しい桃子になってしまった。
そして、そんな桃子に名指しで声がかかったのは、皆の作業が終盤になった頃である。
「桃子♪ せっかくだから、銘を彫りましょう♪ ノンと話したんだけど、ノンならすぐに銘を入れられるわよ♪」
「私、文字はあまりよくわからないけど、見本があれば多分大丈夫だよぉ」
「クルラちゃん、銘なんて知ってたんだね」
銘。
一般的には、刀や包丁のような刃物に、製作者の名前を刻み込んだものである。
現代でも、包丁ならば製作企業やブランド名が銘として刻まれることがある。
また、一部のダンジョン武器の職人は自分の銘を彫っているはずだ。なお、桃子の師匠であるところの親方の製作した武器は、基本的には煩わしいあれこれを嫌って無銘の武器となっている。
その銘を刻もうというのが、クルラとノンの提案だ。
ノンの魔法を使うなら、銘を刻むというよりも、金属を変質させて銘を残すと表現したほうが正確かもしれない。
「んーでも、これ別に私が作った武器っていうわけじゃないんだけど……」
「いいのよ♪ もう、ここまで改造したんだもの、桃子のオリジナルだわ♪」
「それに、私たちが魔法を付与した武器なんだって分かりやすくなるし、思い出になるよぉ」
人間の文化に詳しいクルラと、下手な人間以上に良識のあるノンの二人に推されると、桃子としても心が揺らぐ。
さすがに、他人の武器を修理しただけの人間が銘を刻むなどというのは言語道断だとは思うのだが、しかし現に、ここにある武器たちは既に魔法武器となり、元のものとは大きく変質しているのは間違いない。
それに加えて「思い出になる」と言われてしまうと、人の良い桃子が断り切れるわけもない。
「なるほどなあ。あ、でも名前を刻んじゃうと、もし調べられたら困っちゃうし、どうしようか……」
「んふふ♪ なら、こういうのはどうかしら――」
そして、クルラが提案した『銘』は。
まさに、クルラと桃子だからこそ思いつくような、そのような銘だった。