ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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魔法生物巡り 前編

『母上。こうして対面するのは、初めて……だな。儂がドワーフだ』

 

「う、うん……はじめまして。ええと……私がお母さん、になるのかな?」

 

 房総ダンジョン第一層である『森林迷宮』。

 ここはその名の通り、広大な森林で構成された階層であり、全体的に起伏も少なく、ダンジョンの中でもかなり探索しやすい部類の環境だ。更には、出現する魔物が弱く、危険度もかなり低いダンジョンとして知られている。

 なので、階層中央の開けた土地には、一部の人々からは『キャンプ場』とも揶揄される、気楽な探索者たちの集まるキャンプファイアー広場が広がっていた。

 

 そのキャンプファイアー広場を見下ろせる、少し離れた小高い丘の上では、いま。

 生き別れ――とかいう訳ではないのだが、初の母子対面が行われていた。

 母親は、見た目が小学生のような少女、桃子。少女と言っても、実はすでに19歳の成人だ。

 子供は、ずんぐりとした体形の、小柄ながら逞しい筋肉と豪快な甲冑に身を包んだ、立派な髭を持つドワーフだ。見た目からして随分なベテラン戦士だが、実は彼はこの世界に生まれ落ちてからまだ半年程度しかたっていない、日数だけを見るならば生まれたばかりの存在である。

 

「えへへ、な、なんか……どう接したらいいのかな。ええと……」

 

『ふふ、母上はまだ子供なのだ。儂のような老兵が息子と言われても、混乱するのは致し方あるまい。だが、もっと気軽に接してくれると儂も力を抜けるのだがな』

 

「私一応これでも成人なんだけど……まあいっか。じゃあ、よろしくね、ドワーフさん」

 

『ヘノ姉さま! カレーの匂い! ずるい!』

 

「お前こそ。毎日ハンバーグ食べてるんだろ。少しくらい。我慢しろ」

 

 そして、桃子とドワーフのぎこちない挨拶を眺めているヘノと、そのヘノにしがみ付くようにしてじゃれついている氷の花の妖精、ルゥ。

 ルゥは桃子のカレー因子が強すぎて個人行動に走るきらいがあったのだが、今はドワーフを保護者代わりにしてこの房総ダンジョンを根城に暮らしている。お陰で、毎日のようにドワーフの祭壇に供えられたハンバーグを食べているという、舌の肥えた妖精が誕生してしまった。

 今のヘノはあくまで桃子の付き添いなので、ルゥにじゃれつかれても全く相手せずに、桃子たちの会話を眺めていた。

 

 桃子とドワーフはいま、焚き火を挟んで対面している。

 ドワーフも普段は桃子のように【隠遁】の力で人々からはその姿が隠されているのだが、今はその姿がうっすらと桃子の目にもうつっている。

 

「ドワーフさんは、自分の姿を見えるように出来るの?」

 

『そうだな、母上とはまた違うようだ。この地では以前よりドワーフの目撃談が多かった故に、儂は「視認できる存在」として生まれたのだろうな』

 

「そっかー。ごめんね、私が房総ダンジョンで人助けしたり、岩を掘ってたりしたせいで、勝手な噂になっちゃって」

 

『そのお陰で儂が生まれたのだから、謝る必要などないぞ、母上』

 

 ドワーフがこの世界に生まれた経緯は、桃子が持つ【創造】という力によるものである。

 桃子の活動をきっかけとして広まっていった『房総ダンジョンに住むドワーフの噂』が、多くの人々の想いの力となった。それが【創造】によってひとつに束ねられ、この房総ダンジョンを守護する存在として誕生したのがこのドワーフだ。

 桃子から生まれた存在ではあるけれど、彼を形どるものの大半は、噂という形で広まった人々の願いであり、信じる心である。

 なので、必ずしも桃子の想像した通りの存在というわけでもなければ、桃子と同じ能力というわけでもない。

 

 桃子がドワーフと自分の違いに「へぇー」と感心していると、いい加減待つのが面倒臭くなってきたヘノが声をかける。

 

「おい。ドワーフ。それより。この宝箱は任せていいんだな?」

 

『うむ、任せよ。下層の、滅多に探索者の訪れないような場所にでも、こっそりと隠してくることにするよ』

 

「うん、じゃあ、宝箱はお願いするね、ドワーフさん」

 

 桃子の背後には、宝箱がひとつ用意してあった。これは桃子特製の宝箱であり、中には『妖精の弱い魔法』が付与された武器が隠されている。

 最初は、桃子とヘノの二人で適当な場所に隠してまわろうかとも考えたのだが、そこに「桃子さんよりダンジョンに詳しい魔法生物に頼ってみては」というティタニアの助言があったのだ。

 確かにティタニアの言う通りで、今回の7つの武器を隠す場所を全て自分達で探していては、7つどころか、1つ目か2つ目の時点であっという間に日が暮れてしまう。

 そこでまず、この房総ダンジョンに住まう『ドワーフ』に宝箱をひとつ託そう、ということに落ち着いたのだ。

 

『カレーは? いつ作るの?』

 

「ルゥちゃんは本当、カレーが好きだね。じゃあ、今日の夕食時にはまた花畑でカレーを作るから、ルゥちゃんも食べにおいで」

 

『わあた!』

 

 ルゥは元気に返事をすると、宝箱を吟味していたドワーフの頭の上にちょこんと着地する。

 既に慣れてしまっているのか、頭の上に着地されてもドワーフは気にも留めていない。

 実に自由で、成長著しい小妖精だ。

 

「次に。自我が育ちきるのは。こいつかもしれないと思うと。なんだか。複雑だな」

 

「ヘノちゃん、そんなこと言いつつそんなに嫌そうじゃないじゃん」

 

「そうか? それより桃子。次いくぞ」

 

 そんなやり取りを小声でヘノと交わしながら。

 ドワーフとルゥの二人に見送られながら、桃子とヘノは次なる場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

『お母さん、宝箱を隠しに来たんだよね?』

 

「お、耳聡いね萌々子ちゃん。お久しぶり!」

 

 岩手県、遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』。

 一般的なダンジョンはおよそ新宿区ひとつ分の広さなどと言われているが、このマヨイガはそれだけの広さをもつ、巨大和風建築だ。

 しかも、離れた部屋と部屋が空間を超えて繋がっているため、気づけば全く覚えのない場所に迷い込み、一度迷えば二度と戻れないとも言われる恐ろしい階層である。

 

 そしていま、桃子の手をくいと握っている着物姿の幼い童女は、そのマヨイガに新たに生まれた守護者『座敷童子』である萌々子だ。

 彼女もまた桃子同様に【隠遁】に近い体質を持っており、手を離すと桃子からはその姿が見えなくなってしまう。

 なので、マヨイガではいつも桃子とこうして触れあう形でコミュニケーションをとっている。

 

「座敷童子。誰から。宝箱の話を聞いたんだ」

 

『さっき、ルイちゃんが教えてくれたよ』

 

「あれ、ルイちゃんがここに来るんだ? 珍しいね」

 

『ルイちゃんね、よくお花を持って第三層まで出かけてるんだよ』

 

 どうやら、桃子たちがドワーフのもとで話し込んでいる間に、妖精の仲間――薬草の妖精ルイがこの遠野ダンジョンを訪れて、萌々子に今回の宝箱について説明してくれていたようだ。

 薬草の妖精ルイが、この植物のあまりないマヨイガまでやってきているのは少し意外だった。ルイはいつも「ククク……」と怪し気に笑い、薄暗い場所で毒草を吟味するのが好きな妖精なので、マヨイガのような植物の少ない場所へ来るイメージが薄いのだ。

 けれど、ルイの目的地が遠野ダンジョン第三層『深淵渓谷』だったと聞けば、桃子は何となく察せられた。

 桃子の脳裏に、かつて深淵渓谷にてその命を落とした、ルイの親友だったという雷の妖精の姿が浮かぶ。

 ――が、桃子が死者の国で共に旅をした元気で明るかった妖精へ想いを馳せる暇もなく、ヘノがせっかちさを発揮して、さっさと話題を進めていった。

 

「おい。座敷童子。そんなことより。宝箱を隠すのに。ちょうどいい場所。知らないか」

 

「あ、そうだった、私たち宝箱を隠しに来たんだった。どうかな萌々子ちゃん、どこかいい場所に心当たりってないかな?」

 

『お母さん。私が一人で隠してきてもいい? お母さんたちも知らない場所のほうが、面白いでしょ?』

 

「なるほどな。面白そうだな」

 

「確かに、私も答えを知らないほうがドキドキするかも」

 

 桃子が担いでいた宝箱を畳の上にどさりと置く。

 なかには武器が入っているために、萌々子のような小さな子供に持たせるには大きく重たいかもしれないが、しかし彼女は様々な能力を行使できる不思議な座敷童子なのだ。

 座敷童子の権能ならば、宝箱の一つくらいはどうとでもなるのかもしれない。

 

 桃子とヘノは想像する。

 自分たちの知らない場所に、ひっそりと隠された宝箱。それを探してダンジョンを探検する、自分たちの姿。

 隠す側に回るだけでなく、宝箱を探してまわる側というのもまた、非常に楽しそうだ。もちろんその中身は自分達が魔法を付与したものなので、見つけたとしても回収するつもりはないけれど。

 

「いっそ。他のダンジョンでも。隠し場所は知り合いに任せて。いいんじゃないか?」

 

「それもそうかもね」

 

 房総ダンジョンでは、流れでドワーフに任せて来たけれど、この調子で他のダンジョンでも同じように魔法生物たちに任せた方が、桃子たちにも楽しみが残るし、時間的にも効率的だろう。

 今後の方針が決定した。

 

『じゃあ、お母さん。また今度遊びにきてね、松茸焼いてまってるからね』

 

「はーい! 松茸大好き、一緒に焼いて食べようね!」

 

「松茸焼いてるのは。座敷童子じゃなくて。探索者たちだけどな」

 

 

 

 

 

 四方から滝の轟音が響き渡り、通路を歩いているだけで水飛沫を受け全身がびしょ濡れになる。

 ここは琵琶湖ダンジョン第三層『滝の迷宮』である。

 桃子は今回、二つの宝箱を抱えてこの土地を訪れていた。桃子の考えどおりならば、この迷宮には二つのダンジョンを己の領域とする、二人の魔法生物がいるはずなのだ。

 

 そして、二つの箱を抱えた桃子が水飛沫でびしょ濡れになりながら歩いていると、彼女は現れた。

 

 その姿は、青い水着のような衣装を身に纏った桃子そのものだ。ただし、彼女のほうは肌が小麦色であり、目付きも鋭く、威圧的だ。

 彼女こそは、この琵琶湖ダンジョンを守護する魔法生物、人魚姫である。

 もっとも、いまは人に化けた姿でペタペタと足音を鳴らしながら歩いているので、人魚特有の美しい尾ひれは存在していない。

 彼女――人魚姫のヒメは、水しぶきも気にせずに桃子のもとへとやってくる。そして実に端的に、一言だけ声をかけた。

 

『……母様。こっち、きて』

 

「ヒメちゃん! わ、なんか、不思議な感じ!」

 

 目の前に、自分と同じ姿の存在がペタペタと歩いている。

 自分そっくりドッペルゲンガーに関しては、既に化け狸のポンコによる『ももポン』である程度は見慣れている。

 けれど、このヒメとの出会いは、桃子にとっては非常に新鮮なものだった。

 

「そういえば。人魚姫と桃子。二人が一緒の姿は。初めて見るな」

 

 以前、尾道ダンジョンの事件のときは、ヒメはずっと桃子の身体に憑依する形で姿を現していた。

 なので、桃子が自分とは違う第三者としてヒメと出会うのは、今回が初なのである。

 初めてのヒメとの触れ合いに無邪気に喜ぶ桃子とは対照的に、ヒメは表情を変えず、ただ桃子の裾を掴み、無言で目的地へと引っ張っていく。

 この鉄面皮具合も、相変わらずだ。

 

 ヒメが桃子を連れていった先は、一つの小さな滝壺だ。他の滝と比べると流れ落ちる水の量が少なく、この場所ならば滝の音で会話がかき消されることもなさそうだ。

 そして、その滝壺からは、もう一人の魔法生物が顔を出していた。

 海を思わせる青い髪を濡らし、その胸元には身体に融合する形で鮮やかな赤い魔石が自己を主張している。水面下の下半身には人間の脚はなく、美しく光を反射する、おおきな魚の尾ひれが透き通った水の中で揺られているのがわかる。

 

「モモコ! ヒサシブリネ!」

 

「セイレーンさん! こんにちは、元気そうでよかった!」

 

 彼女は、ヒメと同じく人魚の姿をした魔法生物、セイレーン。

 今回、桃子が会いにきた、もう一人の魔法生物だ。

 

『……母様。ニムから、話は聞いてる』

 

「宝箱ヨネ! 深潭宮ニモ、瀬戸幻海ニモ、ワタシタチガ、隠シテオクワネ!」

 

「わ、話が早い!」

 

 再会を喜びセイレーンと桃子がはしゃいでいたが、少しするとそこにヒメが声をかけてきた。

 それはもちろん、今回の宝箱についてである。

 桃子が二つの箱を運んできたのは、琵琶湖ダンジョンの人魚姫と、尾道ダンジョンのセイレーン。二人の魔法生物に、それぞれの箱を託すためだ。

 

「よかったな。桃子。予定どおり。一気に二か所。クリアできるぞ」

 

「そうだね。水中に隠されてる宝箱っていうのも、ロマンがあってわくわくしちゃうね」

 

 今回の二つの宝箱には、ティタニアがサービスとして防水の魔法を付与してくれている。

 下手すれば武器に施された魔法よりも贅沢な魔法なのでは? と桃子は勘ぐったものの、今の時代だと防水素材の箱程度は地上の技術でいくらでも量産できる。

 なので、相対的にみると防水魔法の価値はさほど高くはないのかもしれない。

 

『……本当は。ペルケトゥスも、呼びたかった』

 

「サスガニ大キスギテ、コノ穴カラハ、デラレナカッタワ」

 

「そうか。だろうな」

 

 二つの箱をヒメに手渡すと、彼女は無造作に二つの箱をザブンと滝壺へと突き落とす。

 慌ててセイレーンが二つの箱を回収する光景を、桃子は苦笑を浮かべつつ眺めていた。ヒメはこういう細やかな部分で大雑把なところがあるのだ。

 

「じゃあ、二人とも。宝箱は任せるね! あと、ペルケトゥスにもよろしく伝えておいてね!」

 

『……うん。わかった』

 

「マタ今度、一緒ニ泳ギマショウネ」

 

 そうして、二人の人魚に見送られて。

 桃子とヘノは、次なるダンジョンへと向かうのだった。

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