ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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魔法生物巡り 後編

 水飛沫の迷宮の次は、灼熱の砂漠である。

 桃子とヘノは、魔法の耐熱装備である砂漠ポンチョに身を包み、いざ光の幕を抜けて、砂丘ダンジョン第二層『熱砂砂漠』へと身を躍らせた。

 

 ――が。

 

『モモコ、ヘノ。久しぶりよの』

 

 砂漠に出たかと思えば、唐突に桃子とヘノの二人は巨大な幾何学模様の魔法陣に包まれる。

 まばゆさに目を閉じた桃子が、再び瞳を開くと、そこは既に砂漠ではなく、巨大な地下遺跡の一室であった。

 そして目の前には、巨大な魔法生物の姿があった。

 

「うわっ?! え、なに?! スフィンクスさん?!」

 

「桃子。どうやら。すひんくすの魔法で。転移されたみたいだぞ」

 

『すまんの。其方らがピラミッドを越えるのを待つと、日が暮れてしまいそうだからな。話はリドルから聞いておるぞ』

 

 桃子の目の前に鎮座するのは、この砂丘ダンジョン第三層『地下遺跡』の門番だ。

 

 黄金色の毛並みを持つ獅子の身体に、鷲の翼。そして小麦色の肌を晒す美女の上半身。

 巨大すぎるその豊満な胸部が隠されることもなく露になっており、相変わらず目のやり場に困る守護獣。

 そう、スフィンクスである。

 

 そして、言わずもがな。いま桃子たちが転移してきたこの空間は、第三層の最終地点である『スフィンクスの間』であり、スフィンクスの背後には第四層へと続く階段が口を開いているのが覗き見える。

 

「今度はリドルか。あいつら。あちこちで。話を。伝えてくれてる。みたいだな」

 

「話が早くて助かるじゃん。もつべきは仲間だね」

 

「この調子なら。早く帰って。夕食のカレーを。2回は作って食べられるぞ」

 

「うん、でも夕食はさすがに1回にしようね」

 

 座敷童子にはルイが。人魚姫たちにはニムが。そしてスフィンクスには当然、スフィンクスの相方でもあるリドルが。仲間の妖精たちが、先んじて各地の魔法生物たちに話を通してくれていた。

 お陰で、桃子たちがやってくる前から魔法生物たちは事情を察しており、説明の手間が省けている。

 この調子なら、予定よりもかなり早い時間に一通り運び終えるかもしれないなと、桃子とヘノがカレーを交えながら会話をしていると、それをみていたスフィンクスが楽しげに笑いだした。

 

『ふはははははは! いや、其方らは相変わらず愉快よの。して、我はその宝箱をこのピラミッドに隠せば良いのだろう?』

 

「あ、はい! ピラミッドの構造は流石に分からないから、スフィンクスさんにお願いしようと思ってたんですけど、お願いしていいですか?」

 

『構わぬ。ちょうど良い空室があるでの。転移しておくとするか』

 

 言うが早いか、桃子の抱えていた魔法武器入りの宝箱がふわりと中に浮き、それを中心にしてまばゆい光を放つ幾何学模様が空中に描かれていく。ここで何度も目にしてきた、転移の魔法陣だ。

 

「その魔法陣。便利だな」

 

 ヘノがぼんやりと魔法陣の感想を呟いている間にも、光が宝箱へと集束していく。

 そして最後に一度、まばゆい光が大きく広がったかと思うと、既にもう宝箱の姿は消え去っていた。

 宝箱は既に転移され、このピラミッドの奥深い場所に眠る宝のひとつとして、叡知ある探索者に発見されるその時まで、静かに眠り続けるのだろう。

 

『本当はもう少し其方らとの時間を楽しみたいところだが、まだ箱があるのだろう? 我が出口まで転送してやろう』

 

「わ、助かります!」

 

「ヘノと桃子だけだと。ピラミッドで。迷子になりそうだしな。助かるぞ」

 

 先ほど宝箱を包み込んだ魔法陣が、今度は桃子を中心にして描かれていく。

 最初に砂漠からこの部屋へと転移されたときと同じく、光が集束していき、桃子とヘノを第二層へと転移させる力が働く。

 

『では、達者での。またいつでも遊びに来るがよい』

 

「また来ますね! 今度きっとブラジャーもってきますね!!」

 

 まばゆい光の中、最後に桃子が伝えた言葉がスフィンクスに届いたかどうかは、定かではない。

 

 

 

 

 

「はぁー、はぁー。息が真っ白」

 

 吐いた息が白くなる。

 この場所は、地上の季節に関係なく、一年中ずっと雪の降りしきる冬なのだろう。

 断熱効果の高い砂漠ポンチョに身を包んだ桃子が、ざく、ざくと、薄く積もった雪の上に小さい足跡を残していく。

 ヘノたちの案内で到着したのは、見覚えのある湖畔だ。

 しかし、そこに広がる景色は桃子の記憶と比べ大きく変わっていた。

 

「桃子。これが例の。ジャガイモ入れだぞ。夜になると。氷妖精たちが。集まるんだ」

 

「へー、すごいすごい! なんか、聞いて想像していたよりも立派なお家じゃん!」

 

 ここは、摩周ダンジョン第一層『白い湖畔』。

 その中央に陣取るおおきな湖のほとり。目の前には美しい湖と、そして大きく育ってきたフキの林が広がっている。

 さらに、フキの林の入り口を飾るかのように、小さな社がひとつ、建てられている。これこそが、摩周ダンジョンに新たに作られたという『ジャガイモ入れ』兼『氷の花の妖精たちのおうち』である。

 

『ヘノ姉さまー』

 

『おうちなの』

 

『おうちだよー』

 

『ジャガイモ、あるよ?』

 

 まだ日の出ている時間なので、階層内にもまだ探索者の目が多く、氷妖精たちがこの湖畔で遊び回る時間ではない。

 ただ、今回は桃子の案内として、何人かの氷妖精たちがこの地に同行してくれていた。

 

「この。フキとかいう植物も。大きくなってきたな。これ。食べられるんだろ」

 

「うん、フキはお野菜としても食べられるし、フキの芽はふきのとうって言って、てんぷらとかにしても食べられるんだよ」

 

 今回、小妖精たちが桃子を案内したのは『おうち』ではなく、その横のフキの林である。

 林といっても、まだ大きさは桃子の身長程度だ。

 北海道のフキは大の大人よりも遥かに大きく育つものが多いため、恐らくこの目の前のフキの林も、まだまだ成長途中なのだろう。

 

「まだ。食べないのか?」

 

「これだけあれば一本くらい構わないかもしれないけど、一応ほら……コロポックルが力をつけて、許可を貰ってからがいいなって」

 

「そうか」

 

 フキは食べ物。

 で、あると同時に。フキはコロポックルたちが過ごすための家なのだ。ヘノは残念そうだが、桃子は、コロポックルたちの許可が出てからでないとこのフキは採らないと決めている。

 桃子がフキの林を感慨深げに眺めていると、氷妖精たちがフキの下に陣取って、桃子に声をかけてくる。

 

『ここの中に、箱を置いて!』

 

『おいてー』

 

「え? 箱をここの中に置くの?」

 

 この場所は、氷妖精たちの『おうち』からは目と鼻の先で、振り返るとその向こうにはペンション『パイカラ』が建っている。

 宝箱を隠すにしては探索者たちの活動範囲に近すぎるのではと桃子は疑問に思うも、しかし今は氷妖精たちの言うとおりにして、フキの影になるように抱えていた宝箱をどさりと置いてみる。

 

 すると――。

 

「……あれ? いま置いた箱は?」

 

 置いたはずの宝箱が、まるで手品のように、その場から消えてなくなっていた。

 置いて、気づいたら消えていた。超スピードでどこかの誰かが箱を動かした訳でも、誰かが桃子に催眠術をかけたわけでもない。

 武器の入った大きな箱が、本当に、いきなり消えたのだ。

 桃子が目を白黒している様子を、タネを知っている氷妖精たちは楽しげに眺めている。

 

 ヘノも不思議に思ったらしく、ふわふわとフキの林に入っていき。そして数秒後、ふわふわと林から出てきて、桃子の肩に着地する。

 

「桃子。この中。ちょっとした隠れ里に。なってたぞ。下手に入ったら。迷路で迷子になりそうだ」

 

「え!? そ、そうなの?!」

 

『モモコは大きすぎるから、入っちゃダメよ』

 

『入り口せまいの!』

 

「私が大きすぎるって言われたの、初めてかもしれないけど、そっか」

 

 隠れ里。

 

 ティタニアの治める妖精の国や、ポンコたちが住む化け狸の里がそれに当たるだろう。

 どちらも普通の人間は立ち入ることのできない、ダンジョン内に存在する、魔法生物のための別空間だ。

 つまり、このフキの中には、魔法生物――コロポックルたちの棲み家が生まれているということだ。

 

 桃子はつい、冷えて赤くなったその頬を緩めてしまう。

 願っていたコロポックルの復活が、しっかりと形になっている。桃子は今すぐにでも、この事実を柚花に伝えたかった。

 コロポックルの誕生は、桃子だけではない。柚花をはじめとした、この場所であの日、共に戦った全員の功績なのだ。

 

「よかったな。桃子」

 

「うん、色々頑張った甲斐があったよ……」

 

 きっと、宝箱はいま、コロポックルの不思議な隠れ家に保管されているのだろう。

 いつか、どこかの探索者が彼らに出会ったそのときには。あの武器は、その探索者の手に渡るのかもしれない。

 桃子は。いつの日かその時がくるのを、待ち遠しく感じるのだった。

 

 

 

 

 

「ただいまー、とりあえず、武器はあと一つかな?」

 

「桃子。ここで一度。休憩しないか」

 

 摩周ダンジョンから戻り、桃子とヘノは一度休憩をとることにした。

 房総ダンジョン『森林迷宮』、遠野ダンジョン『マヨイガ』、琵琶湖ダンジョン『滝の迷宮』、砂丘ダンジョン『地下遺跡』、摩周ダンジョン『白い湖畔』と、大きな宝箱を抱えてあちこち行き来してきたのだ。

 別段、途中で過酷な道のりや戦いがあったわけではないけれど、さすがにこれだけ色々な場所を行ったり来たりしていると、桃子もヘノも、疲れてくる。

 

「ちょっと、くだもの食べて休憩しよう、ヘノちゃん」

 

「賛成だ。適当にどれかとって。丸かじりだ」

 

 桃子たちは妖精の畑にて、丸かじりできるタイプの果物をもぎ取ると、栄養補給とばかりにその場でシャクシャクとかじりついた。

 魔力を豊富に含んだ果汁が口いっぱいに広がり、疲れた身体に染み渡る。

 

「あ、桃子さんに、ヘノぉ……た、宝箱なんですけどねぇ……」

 

「あ、桃子! 最後の宝箱だけどな! もうないぞ!」

 

「え? もうないって、どういうこと?」

 

 果樹の影で休憩していた桃子とヘノのもとに飛んできたのは、ニムとフラムの二人だった。

 二人とも、最後の宝箱がもうなくなったと、桃子たちに伝えてくる。とはいえ、二人とも焦っている様子もないため、盗難にあったとかいう話ではなさそうだ。

 

「さっきな! ポンコのやつが、ダンジョンに隠しておくっすね、とか言って! 持ってっちゃったぞ!」

 

「そ、そうなんですよぉ……うぅ……」

 

「なんだ。せっかちな。たぬきだな」

 

「あはは、まあ……私から香川ダンジョンに持って行こうかなと思ってたから、ちょうど手間が省けてよかった、のかな?」

 

「あいつ。どこに隠すつもりなんだろうな」

 

 ポンコの行動範囲は、化け狸にしてはかなり広い。

 彼女がホームにしているのは香川ダンジョンだけれど、夜な夜な桃の窪地に遊びに行ったりもしている。場合によっては、香川ダンジョン以外の場所に宝箱を持ち込んでいる可能性もある。

 最後のひとつの行方は、化け狸少女に委ねられた。それはそれで、先が読めずに面白いかもしれない。

 

「なんにしても、それならこれで最初の7つの武器は、各地に隠してこれたんだね! ふう、疲れちゃった!」

 

 最後のひとつは知らないうちに持って行かれたので、気分的には少々拍子抜けではあるが、目的は達成された。

 まだまだフラムの持ち込んだ武器は多くあるけれど、妖精たちが魔法を付与し、桃子が『銘』を刻んだ不思議な武器たちはいま、日本の各地にばら蒔かれた。

 いつの日か、これらの武器が探索者たちの手にわたるかと思うと、それだけでワクワクが込み上げてくる。

 

「お疲れさまだな。桃子。宝箱。いつ頃見つかるだろうな」

 

「明日かな! 明後日かな! 早く見つからないかな!」

 

「うぅ……さ、さすがに、そんなに早くは、発見されないですよぉ。せ、せめて、一週間……」

 

「待って待って、数日で見つかるようなものじゃないから。もっと、気長に発見を待とうよ」

 

 妖精たちは、宝箱が見つかるのを今か今かと期待しているが、さすがにせっかく隠した宝箱なのだから、せめてもう少しは苦労した先で見つけてほしいというのが、宝箱を生み出した親心である。

 あくまで気分の問題だが、あっさり見つかるよりも、苦難の冒険の末に見つけてほしいのだ。

 きっと、世の宝箱設置職人たちは皆、同じような気持ちをもっていることだろう。なお、世界に宝箱設置職人がどれほどいるのかはわからない。

 

「……まあ、とりあえずお疲れさま! 今はみんなでカレーでも食べて気長に待とうよ」

 

『カレー! カレー!』

 

 桃子が皆を労うように『カレー』と口にすると、まるでそれが合言葉だったかのように、一人の氷妖精がどこからともなく飛んできた。

 カレー大好き氷妖精のルゥが、約束どおりに夕飯を食べるために花畑に戻ってきたようだ。

 

「お前。本当に。カレー食べにきてたのか」

 

「じゃあ、ルゥちゃんも食べられるように、脂分少なめのさっぱりすっきり系のカレーにしてみようねっ」

 

「た、楽しみですねぇ……」

 

「よし! きょうの料理は、手伝うぞ! 弱火でじっくり、カレールーを丸焼きだ!」

 

「焼くな」

 

 桃子たちの声を聞き、遠くから妖精たちが集まってくる。妖精たちは、カレーが大好きなのだ。

 

 いつの日か、桃子の『銘』が刻まれた武器が、多くの探索者たちを助ける日が訪れますように。

 桃子はそう願いながら、妖精たちに囲まれて。

 

 いつも通りに、平和で愉快に。

 妖精たちとともに、カレーの準備に取り掛かるのだった。

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