ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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雪の果実

「すごいすごい、果物がたくさん実ってるよヘノちゃん!」

 

「本当だ。妖精の畑ほどじゃないけど。たくさん実ってて。どれを食べるか。悩むぞ」

 

「うぅ……ど、どれを食べてもいいって言われると……む、難しいですねぇ」

 

 クルラに案内されたそこは、まさに小規模の果樹園だった。

 それまでは緑と茶色で構成された木々だったのが、この空間の中心部に向かうにつれて、木々の中には赤や黄といった、色とりどりの果実の色味が加わっていく。

 林檎にも似た、ダンジョンでよく見かけるタイプの果物。小さい実が連なった、葡萄の亜種のような果物。それに長細く伸びたマンゴーのような、地上では見たことのないような果物もある。

 この場所では大まかにはその3種類のようだけれど、しかしその実のなっている木によって、そのサイズや色味に違いが出ておりバリエーション豊富なため、全体的には様々な果物がなっているように見える。

 

「ちょっと。適当に。食べてみるか」

 

「うぅ……うぅ……さ、最初の一つは重要ですし、ど、どうすれば……」

 

 たくさんの果物を発見するや否や、さっそく一番近くにあった果実をもぎ取って、いきなりその場でかじり付くヘノと、一つずつ木の実を間近で眺めていき、じっくりとどれから食べるか悩み始めるニム。実に対照的な二人である。

 しかし、ニムが最初のひとつを決めかねている間にも、ヘノは「なるほど。うまいな」などと言いながら二つ目、三つ目までを食べ尽くしており、選び切れないニムは涙目になっている。

 

「ニムちゃん、とりあえず気になったものを取ってみたらいいんじゃない? 気になるのを、教えてくれる?」

 

「じゃ、じゃあ……そ、そこの赤くて、つやつやしたのを……」

 

「じゃあ、はい、ニムちゃん。よく冷えてるよ」

 

「うわぁい、ひ、冷やした果物なんて、おもしろいですねぇ……」

 

 桃子は、近くの木から、真っ赤になって艶のある林檎のような果物をもぎ取り、ニムに手渡す。

 林檎のような外観の果物は、ダンジョンでは比較的メジャーなタイプの果実だ。

 多くのダンジョンの上層に実っているそれは、シャクシャクとした触感に、甘い蜜を含むものが大半であるため、様々な探索者に重宝されており、現地調達の非常食としても好んで食べられている。

 しかし、一見どれも似たような見た目をしているが、実はダンジョンごとにその味わいや食感に様々な違いがあるのだ。世の中には、各地の「林檎もどき」の食べ比べを趣味とする探索者もいるという。

 また、探索者でない人々にもその実のファンは多く、採取量の多かった日などは、各地のギルドに隣接した一般市民向けの売店で売り出される光景も珍しくない。

 なお、ニムが紅い林檎もどきを抱いて喜んでいる間、ヘノはまだ熟れていない青々とした果実にかじり付き、その渋さに顔を歪め、ぺっぺと吐き出していた。

 

 

 

 

 一方、そこまで果物目当てでがっついていない柚花とクルラの二人は、果物狩りで楽しげにはしゃいでいる三人を、離れた場所から眺めていた。

 とは言っても、何もせずにボーっとしているわけではない。柚花が行っているのは、魔物狩りである。

 人間である柚花の存在に気付いた魔物が近づこうとするたびに、雷の魔法で遠間から敵を討つ。その繰り返しで、柚花はその場から動かないままに、効率的に魔物たちを撃退し続けていた。もっとも、落ちた魔石は歩いて拾いに行かねばならないので、そのときはフットワークの軽いヘノたちに協力してもらうつもりである。

 桃子が籠に木の実をぽいぽいと放り込んでいる様子を眺めながらも、柚花の双剣は絶え間なく、ビリビリと雷のスパークを発している。

 

「んふふ♪ 柚花の雷、エレクの雷に似てるわ♪ 雷の魔力を使ってるのね♪」

 

 剣にビリビリとスパークを纏わせ、魔物を的確に狙い澄まして遠距離から感電させていく柚花を見て、クルラがぼそりと口にする。

 柚花の双剣にはティタニアが見繕ってくれた魔石がはめ込まれており、スパークはそれを中心にしてビリビリ、バチバチと発生している。

 それはまるで、今は亡き雷の妖精エレクがいつも身にまとっていた、ビリビリ弾ける"雷の魔力"の再現だ。

 そう、クルラの分析は全くその通りで、今の柚花は"雷の魔法の使い手"ではなく、"雷の魔力の使い手"として成長していた。

 

「ニライカナイで、本人に直接コツを教わりましたからね。クルラさんは……その、エレクさんと顔なじみだったんですよね?」

 

「ええ。わたしもあの子も、あまり妖精の国には帰らない妖精だったから、顔を合わせる機会は少なかったけれど……それでも、長い、長い期間。私たちは一緒だったんだもの」

 

「ああ……そうなんですね」

 

 エレクは13年前に死んでしまった雷の妖精であり、ティタニアの最初の娘でもある。

 そして、常世の国ニライカナイにて、魂だけになろうとも桃子たちと共に戦ってくれた、かけがえのない仲間でもある。柚花はその戦いの際に、死者であるエレクと、短い時間とはいえ交流を持ったのだ。

 柚花が知る限りは、今いる妖精たちの中で一番年上なのは薬草の妖精ルイ、そして次に長いのはこの桃の木の妖精クルラであったはずだ。それだけ、彼女たちはエレクと過ごした時間も長い。

 エレクについて語るクルラは、とても優しげで、寂しそうだった。

 

「でも、良かったわ。あの子が生きていた証しを、柚花が継いでくれたんだもの♪ うれしくて、お酒が進んじゃうわね♪ 柚花もお酒、飲みましょ♪」

 

「あはっ、提案は魅力的ですけど、人間は20歳までお酒を飲んじゃいけないんですよ。人間のルール、知ってますよね?」

 

「でも、村の子たちは、お祭りとかでお酒を飲んじゃってるわよ♪」

 

「うわー、ローカルルール。私は今のは聞かなかったことにしますよ」

 

「んふふ♪ 大丈夫よ、ばれないもの♪」

 

 思いの外しんみりしてしまった話題を、ローカルルールの話題で押し流す。

 桃の窪地は、地元の山村に隣接した土地だ。恐らく、村の人々はお祝い事のときには、こっそりと、あくまでこっそりと、皆で酒を酌み交わしているのだろう。

 もちろん違反は違反なので柚花は言葉を選ぶけれど、しかしさすがは『ウワバミ様』を信仰している村だなと、感心すらしてしまう。

 

 そうして、魔物を電撃で撃退しつつ、クルラのお酒談義を柚花が聞き流していると、白い息を弾ませた雪ん子姿の桃子が、籠いっぱいの果物を持って戻ってきた。

 雪ん子のわら帽子と、食材を大量に入れた籠の組み合わせが、なんだか非常に似合っている。

 

「柚花、クルラちゃん。ほら見て、たくさん採って来ちゃったよ。せっかくだから食べてみたいんだけど……どこかゆっくり腰をおろせる場所ってあるかな?」

 

「そうねえ、確か、オウカが使ってたテーブルと椅子があるはずよ♪」

 

「ああ、オウカさんがおつまみ食べてお酒飲んでる配信で、確かに椅子に座って食べてましたね。あの配信、なんだかんだで続いてますね」

 

 柚花は会話をしつつ、チラリと桃子の抱える籠の中を覗いてみる。

 そこには様々なサイズや色合いの果物が詰め込まれている。

 そして、それら果物と一緒に、それをモシャモシャ食べる緑色の光を放つ妖精と、ちゅぱちゅぱと果物の汁を吸って楽しんでいる蒼い光を放つ妖精も一緒に籠に放り込まれているのを見てしまい、内心ぎょっとした。

 籠に放り込まれていることに対しては、彼女らは特に疑問はもっていなさそうである。

 柚花はそれについてのコメントは控えた。

 

「オウカたちがあの撮影を終えたあとは、余ったおつまみを肴にして、わたしも一緒にいただいてるのよ♪ オウカと、いつかは小梅ちゃんとも一緒にお酒を飲みたいわ♪」

 

「小梅ちゃんて、先輩よりちいさい子供じゃないですか。お酒を飲めるようになるの、10年以上先ですよ?」

 

「んふふ♪ いいのよ、ローカルルールを採用するの♪」

 

「それにしたって小学生はアウトですって」

 

「え? 二人とも、何の話?」

 

「あー駄目です駄目です。先輩は聞いちゃいけない、ずるい妖精の話です」

 

 純真無垢な桃子に、法律違反でお酒を飲む村人の話など聞かせてはいけないのだ。

 柚花は18歳の新成人として、この話題にストップをかけることにした。

 

「なんだ。クルラ。おまえ。ずるいことしてるのか」

 

「うぅ……も、もしかして……わ、私のいない間に……柚花さんと仲良く……」

 

「ニムの柚花さんをとったりしないわよ♪ 私には村の皆がいるもの♪」

 

「うぅ……うぇへへ……わ、私の柚花さん……」

 

「ニムは。相変わらず。笑いかた。独特だな」

 

 会話を聞きかじったヘノが、籠の中から声をかけてくる。見れば、先ほど食べていた果実はなくなり、ヘノの手には少々大きめの果実の種だけが残っていた。

 そして、ヘノはポイっとその種を籠の外に投げ捨てる。さすがにヘノも、果物の種まで食べたりはしないようだ。

 

 

 

 そして、オウカが配信撮影の際に使用していたというテーブルと椅子を準備して。

 降り積もっていた雪をはたき落とし、ヘノたちが魔法で水気を吹き飛ばせば、桃子たちがゆっくり座って食事できるテーブルスペースの完成だ。

 テーブルの上には、桃子が採ってきた多数の果物が並べられている。

 

「ここの果物。美味しいけど。気のせいか。全部冷たいな」

 

「ヘノちゃん、それは気のせいじゃなくて実際に冷たいんだと思うよ」

 

「うぅ……つ、冷たい……シャリシャリ……で、でも、甘いですねぇ……」

 

 さすがは食いしん坊妖精だ。先ほどまで籠の中でまで果物を食べていたというのに、ヘノはテーブルの上に並べられた果物にも手をのばしている。これには桃子も呆れ笑いを浮かべるしかない。

 柚花もせっかくなので、長細く、地上では見たこともない果物を端から齧ってみる。皮は少々硬いが、味わいは汁を減らしたマンゴーのような果実だった。触感がコリコリしており、果実なのだけれど、歯ごたえのある駄菓子のようでもある。

 雪の中で採取したばかりなので当たり前といえば当たり前だが、全体的に冷たい。温かいお茶があればもっと美味しく味わえそうだ。

 そんな冷たい果物を味わいつつ、桃子に今後のことを軽く聞いてみることも忘れない。

 

「でも先輩。いきなりフルーツを食べながらくつろいでますけど、ここってダンジョンのまだまだ入ったばかりの場所ですよ? 今日は奥の方にはいかないんですか?」

 

「奥のほうかあ。興味はあるけど、いま目の前にある果物も捨てがたいなあ、どうしようか、ヘノちゃん」

 

「ヘノは。とりあえずここで。カレーを食べてからで。いいと思うぞ」

 

「そ、そうですねぇ……この果物を入れたカレー……お、おいしそうですねぇ……」

 

 返ってきた答えは、半ば柚花が予想していたものだった。

 花より団子。色気より食い気。探索よりカレー。ヘノと桃子が揃っているのだから、そのような展開になるのはある意味確定していた未来だろう。

 人並みに未知への好奇心を持っている柚花としては少々物足りなくはあるが、柚花の優先度としても重要なのは桃子の満足度であり、桃子の笑顔なのだ。

 ならば、ヘノの提案どおり今日はこれからここでカレーを作ることになるのだろう。

 柚花は会話をしながらも、並列思考でカレーの準備手順や調理に適した場所まで確認していく。まさに、高スペックの無駄遣いだ。

 

「ちなみに、このダンジョンは第二層までは入れるようになってるわよ♪ 第三層は、まだお母様の力も及ばないから、やめておいたほうがいいわね♪」

 

「あれ、そうなの? てっきりクルラちゃんが守り神だから、もっと下層まで浄化できてるものかと思ってたよ」

 

「私も同感です。ティタニア様も、まだ第二層までしか掌握できていないんです? ここの第三層って、そんなに危険なんですか?」

 

「んふふ♪ 危険かどうかはわからないけど……このダンジョンは、特殊な事情があるのよ♪」

 

 まだ見ぬ、ティタニアの力も及んでいない謎に満ちた第三層。

 今からそこまで潜ろうとは思わないが、クルラの語る『特殊な事情』という言葉に、桃子はどことなくワクワクする。一方柚花は「厄介そうだから、絶対に先輩を関わらせないようにしよう」と。心の中で小さく呟くのだった。

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