ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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乱戦

「桃子。行くぞ。第二層に魔物が進軍し始めたぞ」

 

「ふぁ……っ!? 私、まんまと一服盛られて眠ってた!」

 

 桃子がヘノの声で目覚めると、そこは妖精の国にある人間用の寝室だった。

 工具入れを腰につけ、靴も履いたままの状態で、桃子はマシュマロベッドに包まれていた。どうやら、妖精達が力を合わせ、桃子をここまで運んでくれたようだ。

 薄らと瞳を開き、そしてヘノの言葉を聞いて、急速に脳が覚醒する。

 ばっと身を起こして、慌てていまの自分の状況を確認する。服装はそのままで、室内にはヘノだけだ。他の妖精達の姿はない。

 

「ヘノちゃん、いまの時間は?!」

 

「時間は夜だぞ。ぐっすり寝て。元気になったみたいだな。安心したぞ。桃子」

 

 今が何時なのか、どれだけ眠っていたのかもわからない。

 しかし、間違いなく言えることが一つある。

 桃子は、今から香川ダンジョンへと戦いに行かねばならない、ということだ。

 ベッドから跳ね起きるようにして、床に着地する。そしてバタン、と寝室のドアを開ければ、そこはすでに日の暮れた夜の花畑だった。

 ヘノの仲間である主力となる妖精達の姿はない。普段ならば遊び回っている小妖精たちがちらほら見えるが、その大半は花々の上ですでに睡眠中だ。小妖精たちが寝入っているということは、少なくとも夜のかなり遅い時間になっている。

 

「ヘノちゃん! 香川ダンジョン、行こう! 戦おう!」

 

「もちろんだ。他の連中も。みんな先に行ってるぞ」

 

 すでに桃子の両脚にはつむじ風の魔法がかけられている。

 桃子はヘノと頷き合い、花畑を駆け抜ける。桃子の軌跡をなぞるように花弁が舞う。

 行き先は、香川ダンジョン。牛鬼との戦いの場だ。

 

 

 

 

 

 

「もう、戦ってる……!」

 

 迷宮を駆けていく。昼の時間帯には居なかった魔物たちが、迷宮内には普段以上に多くなっていた。

 とはいえ、通路上に現れる動く鎧や小さなゴーレムなどは、すれ違いざまにハンマーを叩きつければ煤へと還っていく。

 桃子は道すがらの魔物を殲滅しながらも、仲間たちが戦っているであろう闘技場へと身を躍らせた。

 そこは――戦場だった。

 

「桃子。乱戦だ。あそこに突入するぞ」

 

「うん! わかった、戦おう!」

 

 そこにいるのは、第三層と繋がる通路からあふれ出る魔獣たち。

 闘技場の周囲に広がる石壁迷宮から湧き出る造魔たち。

 そして、剣を持ち、槍を持ち、盾を持ち、魔物たちを迎え撃つ多くの探索者たちが、入り乱れて戦う場となっていた。すでに空間には何かが焼けるような匂いや、鉄の匂いが充満している。

 桃子はヘノとともに二階観覧席から周囲を一瞥し、すぐに判明した目的地へと向かった。観客席の最前席。ローマのコロッセオならば、王族が使用したであろう、戦場の全てを一望できる特等席だ。

 そしてその場所は、乱戦の中でなお己の居場所を主張するかのような、止めどない電撃の発生源だった。

 

「柚花! 柚花! 大丈夫?!」

 

「あっ、先輩! 大丈夫ですけど、見ての通り、まったく大丈夫じゃないです!」

 

 桃子は、とにかく目についた造魔たちをなぎ倒しながら、電撃の発生源へとたどり着く。

 そこにいるのは当然、桃子の大切な後輩である柚花だ。彼女は最前のVIP席に陣取り、闘技場の乱戦の場へと広範囲に雷を放出していた。口元には地上のギルドといつでも連絡出来るように、マイクセットも装着している。

 柚花は桃子の姿を一瞥するが、しかし視線はすぐに眼下の闘技場へと戻される。VIP席から放出されているのは無差別な電撃かと思いきや、よくよく見ればその電流は的確に魔物――それも、このダンジョンで一番厄介な敵である『クロムシ』を狙って連鎖する電撃となっていた。

 クロムシは、魔法生物の天敵だ。人間ならまだしも、クロムシが居る場所では化け狸や妖精は自由に戦えない。なので、柚花は優先的にクロムシを殲滅する役割を担っているようだ。

 柚花の双剣からバチバチと弾けるスパークは、死者の国で出会った雷の妖精を彷彿とさせる。これは、以前見たときとは全く違う電撃の使い方だ。この数ヶ月の間に、柚花は大きく一皮むけたようである。

 そして、柚花を中心として、薄らと空気中に霧が発生している。それは、柚花を守る霧の保護膜であり、電撃をより広範囲に広げるための補助装置でもある、霧の領域だ。

 これは、先ほどから柚花の周囲をひっきりなしに飛び回っている水の妖精、ニムによるものだ。

 

「うぅ……柚花さんは、わ、私が守りますからねぇ……!!」

 

「ニム。お前。そんな風に。姿を晒して。大丈夫なのか」

 

 ヘノはニムの元へと飛び、柚花の周囲に暴風の盾を張り巡らせる。魔物は地面だけではない。宙を駆ける鳥形の魔物の影を、ヘノは片っ端から暴風で地面へと叩きつける。

 ニムは今、その姿を隠そうともしていない。普段ならば人間の姿を恐れ、柚花の陰に隠れているニムが、堂々と姿を現しその水の力を行使していた。

 

「あ、ヘノぉ……じ、実は、今はですねぇ……」

 

「ヘノ先輩っ、参加してる探索者は全員守秘義務にサイン済み、かつ、あとで記憶消去すること承知済みです!!」

 

 ヘノの問いかけに迅速に答えたのは、今もなお瞳に【看破】の光を宿し、ビリビリと稲妻のはじける双剣をタクトにし、闘技場の全てをカバーする雷を操っている柚花である。

 以前、柚花は並列思考が得意だというような話を聞いたことがあるが、実際に彼女は敵と戦いつつ、桃子やヘノに状況を説明している。

 それに加えて【高速思考】なるスキルも所有しているはずだ。恐らく、今の柚花は桃子5人分くらいは同時に様々なことを考えて戦っているのだろう。いや、桃子が5人いたとしてもそこまで的確な判断力は持たないかもしれない。5人中3人はカレーのことしか話さない。

 そして、そんな高スペック後輩である柚花の情報通り。この戦場では、魔法生物たちが己の姿を堂々とさらけ出し、止めどない魔物の群れと戦い続けていた。

 桃子は、周囲の迷宮から観客席へと入り込んできている動く鎧たちを無慈悲なハンマーでスクラップに変えながら、周囲の戦いを確認する。

 

 

 

 

 

「魔物ども、倒すたぬよ!! 人間、手を貸すたぬ!」

 

「化け狸のおっさん、俺たちはどう動けばいい!」

 

「おいらは術が得意たぬから、足止めを任せるたぬよ!」

 

「ヨシ! お前たち、化け狸が術を使うために、何がなんでも魔物たちの動きを阻害しろ! 人間の底力見せるぞ!」

 

「はい! 隊長!」

 

 二足歩行の狸が、人間のパーティに混ざって陣形を組み、互いを守りながら戦っている。

 彼らは人間姿に化けることをやめて、その本来の姿である、二足で歩く巨大な狸の姿を晒していた。

 見れば、彼だけでなく、この闘技場の各所で多くの狸たちが本来の姿を現し、人間と手を組んで戦っている。

 彼らはいま、本気だ。ただこの戦いを勝つために、魔法生物としての力を全てさらけ出しているのだ。

 

 

 

 

 

「うおおお! 俺の炎の剣が、今! 敵を倒す!! 今、必殺のぉ――!!」

 

「いけえ! マグマ! アタシの炎の力を使え! スーパーフラムソードだ!!」

 

「あなたたち、技名はいいからさっさと戦って!」

 

 真っ赤な炎が舞い上がった箇所を見てみれば、そこにはこの上なく熱いペアが猛威を振るっていた。

 炎のうどん職人マグマの剣は、炎の形を象った無駄に派手な剣である。その剣は灼熱の力を持ち、魔物を炎の力で倒す攻撃的な剣だった。

 それが今では、赤い髪をした火の妖精、フラムの援護を受けて、実際に剣の形を成した火柱として敵を焼き払っている。

 そこには、火の妖精フラムを中心に据えて、マグマ、えあろ、氷河、田中――うどん四天王が陣を組んでいた。

 

「お前ら! 熱くて好きだぞ! いけいけ! 燃やすぞーっ!」

 

「さすが、火の妖精。炎の剣を持つマグマさんとの相性は素晴らしい。例えるならば、うどんに天かす――いや、うどんにはおあげのほうが似合うかもしれませんね。難しい問題です」

 

「ユキヒラ! お前こんな時にまでグルメ解説すんなや!」

 

「うむ」

 

 四天王の横には、見慣れてしまった三人組の姿もある。

 あの一角は、恐らく炎と美食のパワーで魔物を撃退し続けてくれることだろう。

 

 

 

 

 

 そして、さらに人目を引く巨大な影もある。

 それは、この闘技場の門番とも言うべき、あの巨大なゴーレムだ。

 もし、この状況であの巨大なゴーレムまでが暴れ始め、探索者へとその力を振るい出したら――などという桃子の心配は、一瞬にして払拭される。

 

「ノンさん、できる限り足の関節部分の強度を高めてください」

 

「わかったよぉ、クヌギさん。リドルはどうだよぉ?」

 

「ボクにかかれば、ゴーレムの魔力回路程度、とうに書き換え完了しているのでは、ないかな?」

 

 大きな化け狸。両脚にまだ黒い火傷のような跡が残るあれは、クヌギだ。

 そしてクヌギの横には黄色い光を放つ妖精が二人。大地の妖精ノンと、魔法の鍵の妖精リドルだ。

 ゴーレムを使役する術を使用するクヌギ。魔力回路を自由に操る術を持つリドル。そして、岩で出来たゴーレムを自在に強化出来るノン。

 その三人の力により、まるで巨大ロボットのように強化されたゴーレムが、魔物を相手に奮闘している。

 

「面白いね。ピラミッドにこのゴーレムをたくさん配置するのも、悪くないのでは、ないかな?」

 

「リドル、遊んでないで、他の造魔もどんどん回路を支配していくんだよぉ」

 

 クヌギとリドルを中心に、魔物として暴れていたゴーレムたちはその支配を上書きされ、人間側の戦力として戦いはじめている。

 第一層へと繋がる階段前は、巨大ゴーレム率いる鉄壁のゴーレム軍団により、魔物の侵入を拒み続けていた。

 

 

 

 

 

 戦いの場は闘技場の武舞台だけではない。

 闘技場の端、石壁迷宮へとつながる通路には、緊急の避難所が設置されていた。

 怪我人たちがそこへと担ぎ込まれ、その場では多くの治癒魔法使いたちが探索者たちの治癒を行っている。桃子がここへ駆け込んできたときに感じた血の匂いは、決して武器の香りだけではない。探索者たちにはすでに、多くの犠牲者が出ているのだ。

 その犠牲者を救うこと。全ての探索者を護り通すこと。魔物を倒すことだけが戦いではない。味方を癒やし続けることもまた、彼らの戦いなのだ。

 

「サカモトさん、あなたそれ鬱陶しいから視界に入らないでくださいまし!」

 

「派手好きな人間にろくな奴はいないヨ」

 

「ククク……」

 

「みなさん無茶言わないでくださいよ! 救護班の防衛を一人で担ってるんですから、もう少し優しくしてください!」

 

 回復術士の筆頭として、治癒部隊に指示を出しているのは深援隊の副隊長でもあるオウカ。

 そしてその周囲では、緑色の光を放つ妖精達が治療をサポートしている。

 さらに、彼らを守るようにして避難所の前に陣取り、襲い来る魔物の波を一人で足止めしているのは、全身が金ぴかになっている鎧の人物だ。

 

「え、なにあの金ぴか……」

 

 桃子はつい、戦いの最中だというのに、まばゆく煌めく金ぴか鎧を二度見してしまう。

 

「リビングアーマーと区別が付かなくて、急遽金色のスプレーでコーティングしたらしいです」

 

「もう! 工房に発注してくれればもっと丁寧な塗装もしたのに……っ!」

 

 鎧の人物――サカモトの鎧は、桃子がメンテナンスし、可動域などもしっかりと確認して調整したものなのだ。

 それに、考えなしに塗装スプレーなどと言うものを吹き付けてしまえば、ミリ単位の調整に塗装が混じり台無しになってしまうのは必然である。

 戦いの最中とはいえ、自分の仕事を台無しにしかねないサカモトのやり方にはムカムカする気持ちも湧いてくるが、事情が事情だ、仕方が無い。

 次はきちんと塗装も含めてメンテナンスをし尽くしてやると桃子は心に決めながら、目の前に迫り来る動く鎧――鋼色のリビングアーマーを叩き潰した。

 

 

 桃子は、柚花を守る位置取りで戦っている。

 本来ならば、桃子も闘技場に降りて大型の魔物を倒すための戦力になった方が良いのかもしれないが、柚花を放っておくわけにもいかず。

 そして、あまりの乱戦状態に、姿の見えない桃子が巨大なハンマーを振り回すのは、逆に危険かもしれないという判断もある。

 

 ヘノは空中の敵に対処しつつ、ニムの霧を風で拡散し、柚花の電撃がより広範囲に広がるようにサポートを続けている。そして観客席から襲いかかる魔物は物理的に桃子がハンマーで叩き潰す。

 柚花は、司令塔だ。何があろうと、柚花の邪魔をさせるわけにはいかない。

 襲い来るリビングアーマーと、そしてゴーレムたち。

 

 ただひたすらにハンマーを振るい戦い続ける、桃子の防衛戦が、いま。

 香川の闘技場で、開始されるのだった。

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