ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
風の妖精ヘノから、衝撃の事実を聞いた翌日。
「うわあああ、私がドワーフじゃん……!!」
自宅のパソコンで、改めてダンジョン情報サイトにアクセスして調べてみた。
中には明らかに話が盛られているものもあるのだが、出てきた情報をまとめると、大体はこのような感じだ。
情報1:子供のような体躯で大きなハンマーを持っている
これはそのまま、事実である。
子供呼ばわりされるのは桃子も不本意だったが、身長ばかりは仕方ない。
情報2:房総ダンジョンで鉱石を掘り続けている
別に桃子は常に鉱石を掘り続けていたわけではないのだが、実際にここしばらくは採掘ポイントで石を掘りまくっていた。
情報3:長いひげが揺れている
これはない。桃子はちょっと傷ついた。
おそらくは、桃子の背中で揺れる大きな三つ編みのことだろう。
とはいえ、ヒゲと間違えられるのはさすがにショックであった。何故、背中に揺れる髪を髭と間違えるのか。
情報4:妖精のような光がついて回っている
今ならわかる。桃子の近くにずっとついてきていたという風の妖精、ヘノだ。
ヘノによると、ヘノが桃子を観察し始めたのが、ちょうど房総ダンジョンの迷宮の変化があった時期。この目撃談の出始めたタイミングと合っている。
そしてこれらの情報に加えて、昨日のモンスターに襲われていた三人組は新人の配信者グループだったらしく、その危機を救った謎の存在ということでちょっとしたトレンドになっていた。
桃子もその映像動画を見てみたのだが、確かにノイズの向こうに巨大なハンマー持つ人影が確認できた。
決してその人影は、ファンタジーに出てくるドワーフのようなずんぐりむっくりした体型ではない。ないのだが、一瞬だけ揺れた三つ編みが、シルエットだけだと確かに髭に見えないこともないのが困る。
桃子は髪型を変えることを本気で考えた。
「あれ? でも、私ってもっと前からダンジョンに入ってるんだけど、最近になってそんな噂になってるのはなんでなんだろう……?」
「推測。それはきっと。むぐむぐ……ヘノが。お前に。むぐむぐ……付いて回ったから」
桃子の肩の上でくつろいでいたヘノが、ビスケットを食べながら口を開く。
実はこの妖精、昨日まではずっと桃子に見つからないように背後を飛び回っていたのだが、一度見つかってからは開き直り、ダンジョンどころか自宅までついてきてしまった。
さすがに、屋外ではカバンに隠れた状態で、だけれど。
「ヘノちゃんが一緒にいると、噂が広まっちゃうってこと?」
「お前のスキル。むぐむぐ……イントンとか言ったか? 強力な魔力の衣を纏っているけど。むぐむぐ……ヘノみたいな。魔力をまとった妖精が。近くにいると。むぐむぐ……魔力に。乱れが生じるみたいだな」
「ええと、つまりは……【隠遁】の効果が弱まるってことなのかな? となると、なるほど。ヘノちゃんが私の観察を始めたから、中途半端に認識されるようになって、結果として私がドワーフ呼ばわり……」
「むぐむぐ」
少しだけ恨みがましくヘノにジト目を向けるが、小さな妖精は桃子の肩で全く気にした様子もなく、すでに3枚目のビスケットを食べ始めている。
やれやれとため息をついて、肩に乗っかる妖精を指先でつまんで、デスクの上に移動させた。移動させている間もモシャモシャとビスケットを食べ続ける姿は、ヒマワリの種を咀嚼し続けるハムスターを彷彿とさせた。
「まあ、ドワーフはこの際諦めるとして。そもそもヘノちゃんはどうして私を観察してたの? 普通に話しかけてくれれば、私も嬉しかったよ?」
正面から問いかけると、ヘノもビスケットを食べる手を止めて答える。
「妖精は。信頼できる人間にしか。姿を見せちゃ駄目なんだ。ヘノは。女王様に言われて。信頼できそうな人間を。探しにきたんだぞ」
「じゃあ、他の人じゃなくて、私をずっと観察していたのはどうして?」
「お前は。人より。魔力が濃くて。不思議な形でまとってたからな。気になったし。ほかの人間が。ドワーフと言っていたし。カレーも。おいしそうだったからな」
「カレーは関係ないねえ」
いまいち締まらない説明に、桃子は苦笑する。
が、ヘノは淡々と続けた。
「実はいま。妖精の国で。大変なことが。起きてるんだ。それをどうにかするには。人間の手助けが。必要なんだ。このままだと――」
このままだと。
ごくり、と桃子が唾を飲む。
「妖精たちが。落ち着いて。眠れない」
「眠れないだけ?!」
「あと。人がひとり。死ぬ」
「えっ、そっちのほうが一大事じゃない?!」
おまけのように付け加えられた情報に面食らう。
妖精が眠れない……のがどうでもいいわけではないけれど、さすがに人命が関わるとなると話が変わる。
のだが。
「煩い。お前は。つっこみが。いちいち声が大きすぎるぞ」
「えー……」
まさかの駄目出しだった。
基本的に静かなダンジョン内で暮らしている妖精のヘノは、いちいち大きい声で反応されるのがお気に召さなかった様子だ。耳に手をあて、キーと威嚇されてしまった。
話の腰が折れてしまったため、気分を取り直すために二人でお茶を飲んでから、改めて説明を受ける。
「というわけで。信頼できる人間にしか。話せないからな。次に。ダンジョンに入ったときに。説明するぞ」
「うん、わかった。でも、人命がかかってるなら明日にでも行こうね」
「それでいい。じゃあ。今日一日は。ヘノは。お前の部屋で。寝て過ごすことにするぞ」
そう言うと、ベッドの脇に積んであったぬいぐるみの下へとフワフワ漂い、大きめの熊のぬいぐるみの腕の中にスッポリと入り込む。
どうやら、このぬいぐるみを己の寝床と決めたらしい。
「そういえばヘノちゃん、今更だけどヘノちゃんってダンジョンの外に出ても大丈夫なの? 魔力とか……」
魔力。
それはダンジョン内に漂っている謎のエネルギーであり、ダンジョンの外――地球には、もともとは存在が確認されていないものである。
今でこそ魔石を加工する技術の進歩で、地上でもある程度は魔力を利用した道具や装置が流通しているけれど、それでも大気中に魔力があるわけではない。
探索者がダンジョン内で行使できる【スキル】も魔力によるものであり、特殊な例外でない限りは地上に出たらそれらの能力は使えなくなるというのが、ダンジョンに関わる人々の常識である。
「ヘノは。ダンジョンの外でも。しばらくの間なら。問題ないぞ。魔法さえ使わなければ。一週間は。いられるんじゃないか」
「そっか。ほら、モンスターってダンジョンから出られないでしょ? ヘノちゃんはモンスターじゃないけど、ダンジョンの外に出て大丈夫なのかなって心配だったんだよね」
「外に出る。理由がないからな。出ようと思えば。妖精も。モンスターも。自由に外に。出られるぞ」
「ん? モンスターも?」
桃子は妖精であるヘノの生態を聞いただけだったのだが、ここでふと、引っかかった。
モンスターは地上にまでは出てこない。地上の大気には魔力がないから。
これもまた、地上でスキルが使用できないのと同様で、ダンジョン関連では常識として考えられている事柄なのだ。
しかし、ヘノはなんと言った?
「魔力の少ないモンスターは。地上ですぐ。塵になるけれど。強いやつなら。魔力が尽きるまで。生きていられるし。魔法も使えるし。炎も吐けると思うぞ」
「嘘……」
これ、実はとんでもないことを聞いちゃったのでは?
桃子は背すじが寒くなる気がした。
「安心しろ。モンスターが地上に出るなんてことは。まずないしな。ヘノが産まれてからいままで。そんなことは聞いたことないぞ」
「そうなの? そういえばヘノちゃんて、何歳なの?」
「お前よりは。長生きしてると思うぞ。いち。に。さん。よん……。すくなくとも。五年以上は。生きてるからな」
「いや、私も五年以上生きてるからね」
妖精の時間感覚というものは、やっぱり人間とは違うのだなと。
指折り数えるヘノを眺めながら、桃子は思うのだった。
【りりたんの朗読チャンネル】
おはようございます、こんばんは、りりたんです。
今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。
モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。
それでは前回の続きです。
猿でもわかるダンジョンの常識辞典。民名書房刊。
スの項目の続き。
スキル。
探索者が己の魔力を使用することで発現できる、探索者が使用できる様々な能力。
本人に素質がある場合、ダンジョン内の行動によって新しく習得できるとされている。
先天的に所有しているスキル、通称「固有スキル」というものもあるが、いつ習得しているのか、どのような基準で与えられているのかは、長年議論されているもののまだ研究段階である。
大気中に魔力が存在しないため、ダンジョン外では使用できない。
ちなみに、りりたんは。書物に関わる固有スキルを持っています。
詳細は個人情報だから内緒ですよ。でも、ダンジョン内で色々活用できる、便利なスキルですよ。
スクロール。
ダンジョン内で稀に発見される、魔法が記された書物。巻物。
これを開き読み解くことで、使用者に魔法の素質があればその魔法を発動できる。
更には、適合性が高ければその魔法をスキルとして習得することも可能である。
その性質上、スクロールは非常に価値が高く、ダンジョン庁ならびに世界魔法協会によって、持ち帰られたスクロールは流通の規制および管理が徹底されている。
欲しいですね。スクロール。あればあるほど良いです。
魔法協会が独り占めしてるのは、ずるいと思いますよ。
ここだけの話、書物である以上は私のスキルで活用できるんですよね。
ふふ、スキル効果は、内緒ですよ。
スタンピード。
動物の群れの暴走をさす言葉であるが、ダンジョンにおいては主に、下層のモンスターが、集団で上層へと移動する異常行動のことをさす。
大規模なものとしては、1980年代イギリス、アイルランド西部に存在するダンジョンで下層のモンスター群が全て凶暴化し、第一層まで集団で上がってきた事例が確認されている。
そのスタンピードによって、当時ダンジョンに足を踏み入れていた探索者の大半が犠牲となった。また、そのダンジョンを中心として周囲のダンジョンも同時にスタンピード現象を伴い、甚大な被害となった。
第一層を越え、地上へとモンスターが上ってくる危険性を指摘している研究者も居るが、モンスターには地上へ出ると塵へと変わる性質が確認されているため、今現在ではその危険性は否定されている。
怖いですね。下層のモンスターって、強いですからね。大変大きな被害が出たんですよね。
当時の被害は、探索者だけではなかったのですよ。
日本も、イギリスと同じくらいダンジョンが多いので、他人事ではないですよね。
りりたんも、スタンピードが起きたら朗読どころじゃないかもしれませんね。