ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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長崎旅行

「それじゃあ、ようやく香川ダンジョンのうどん店が営業再開するんだ。時間かかっちゃったけど、よかったねえ」

 

「第一層は。本当に。何もなくなってたからな。なかなか。壮観だったぞ」

 

「あはは……まあ、和歌さんのあの魔法をあれだけ連発したわけだし、更地になるのも仕方ないっていうか……」

 

「たぬきのやつも。営業再開に。喜んでたぞ。うどん店がないと。香川ダンジョンが始まった気がしないって。言ってたからな」

 

 日の暮れた妖精の国の花畑。

 桃子とヘノは妖精の畑を見下ろすベンチに座り、広い畑の光景を眺めながら、ゆったりと色々な話をして過ごしていた。日の暮れたあとの妖精の畑には、いくつかの魔法光が灯されており幻想的な風情を醸し出している。何度見ても、ここは畑ではなく果樹園の様相である。

 そんな景色を眺めながら、桃子とヘノはとりとめの無い雑談に花を咲かせていた。最近の工房のこと。ダンジョンで見つけた面白いもの。香川ダンジョンのその後のこと。琵琶湖ダンジョンのこと。いくらでも話は出てくる。

 

「ところで桃子。もうそろそろ。カレーを作る時間じゃないか?」

 

「ん、そうだね。そろそろカレーを作らないと、遅くなっちゃうね」

 

 しかし、ふいにヘノが口にした言葉に反応し、桃子がすっくと立ち上がる。

 太陽はもう傾き、空はオレンジ色になりつつある。夕食時――あるいは、今から準備を始めるとなると少し遅い時間になってしまったかもしれない。

 

「よし。ヘノも手伝うぞ。今日は何カレーを作るんだ?」

 

「そうだなあ……じゃあ、最近また北海道のジャガイモが溜まってきてるし、ジャガイモたっぷりのカレーにしちゃおうか。芽が出たら食べられなくなっちゃうしね」

 

「えっ?! 先輩、さっき外で一緒にカレーハンバーグを食べてきましたよね?」

 

「そうなのか。桃子は。相変わらず。カレーしか食べない生き物なんだな」

 

「や、やっぱり桃子さんは……カレーのお化けなんですかねぇ……こわい」

 

「あの、一応は私、生き物としてはカレー以外も食べられるからね?」

 

 そして、桃子の発言に驚いているのは柚花である。

 ベンチに座っていたのは桃子とヘノだけではなかった。その横では、柚花がニムを膝に乗せたまま、黙々と受験勉強をしていた。

 受験勉強と言っても、ここはただのベンチであり勉強机ではないため、柚花はただ黙って参考書を黙読しているだけだが、柚花のスキルならばそれだけでも十分に身になっているのだそうだ。学力が平均レベルだった桃子にしてみれば、実に羨ましいスキルである。たまに、脳のブドウ糖が足りているのかは心配になるが。

 しかし柚花の勉強はさておき、実は柚花の言う通りで、先ほどまで桃子は地上のドイツ料理店にて、魔法協会職員の老芝奈々を交えての夕食を食べてきたところである。夕食からはまださほどの時間も経っていない。なんなら、時間的にはこの日の食事はこれ以上とらない方が健康的なくらいである。

 

「先輩、さっきのカレーハンバーグの後に夜食のカレーを食べるんですか? その……さすがに乙女として、どうかと思いますよ?」

 

「あはは、違うよお。さっきのカレーハンバーグを食べたら、なんだか自分でも無性にカレーを作りたくなっちゃったんだよね。美味しいカレーを作って、ヘノちゃんたちにたっぷりと御馳走したいなって」

 

「桃子のカレーは。この国の妖精みんなの。大好物だからな。いくら作っても。多すぎることはないぞ」

 

「そうですねぇ。カ、カレーはどれだけ食べても……お、美味しいですからねぇ……」

 

 どうやら、柚花の心配は杞憂であった。さすがの桃子といえども夕食後に更なるカレーを食べるなどという荒行をするわけではないようだ。いくらダンジョン内で身体を動かしていると言っても、そのペースでカレーを食べていては乙女として問題がある。

 今から作るのは、あくまで妖精たちのためのカレーだ。

 桃子はカレーが好きだが、それは当然食べるのが好きというだけではない。誰かのためにカレーを作るというのも、桃子の大切なアイデンティティなのである。

 

「まあ、そういうことなら。じゃあ私もサポートしますよ。カレーを作るって約束もありますし、せめてお手伝いくらいはさせてください」

 

「わ、ありがと柚花! じゃあ一緒に作ろうか!」

 

 柚花がカレーを作るというのは、香川ダンジョンで交わした約束だ。

 牛鬼との戦いにおいて、柚花は奥の手として、桃子を水に沈めて人魚姫を召喚する作戦を実行した。作戦そのものは結果オーライで、ヒメは目論見以上の大活躍をしてくれたのだが、だからといって桃子を水に沈めた行為が許されるわけではない。なので、せめてもの贖罪としての約束だ。

 けれど、柚花はすでに気付いている。

 桃子という人間は、そもそも柚花がカレーを作っているのを黙って見ているような人ではない。なにせ、たったいま話していたように、桃子は自分でカレーを作る行為そのものが大好きなのだから。絶対に、柚花がカレーを作りはじめたら自分も一緒に作ると言い出すタイプだ。

 なので結局、自分が桃子にカレーを作るという約束は、当分果たせそうにないなと。柚花は頭の片隅で確信しているのだった。

 

 

 

 

「というわけでヘノちゃん、お盆休みに入ったらさ。私はまた長崎に行ってくるから、お土産はカステラでいい?」

 

「長崎か。本当は。ヘノも行きたかったんだけどな」

 

 今日のカレーは、ジャガイモとキノコがメインのほくほくカレーだ。桃子は自分でカレーを食べるわけではなく、ヘノがはぐはぐと食べている姿を幸せそうに眺めていた。

 そうして妖精達の食事が終わったところで、桃子のお盆休みの予定についての話を伝える。

 これはヘノたちには前々から伝えていたことなのだが、お盆休みに桃子は旅行に行く計画を立てていた。

 というのも、桃子が二週間だけ通っていた七守小学校。その裏手にある神社のお祭りを一緒に見に行きませんかと、奈々から提案があったのだ。

 具体的には、七守小学校の旧校舎を見守る位置にある、山の中の小さな社。そこには、江戸時代に七つの御神体が奉納されたという言い伝えが残っている。夏になるとその社にかがり火を投げ込む不思議な祭りがあるらしく、それを一緒に見に行きませんか、という誘いの連絡である。

 

「ヘノ袋が残ってればよかったんだけど、使っちゃったからね」

 

「まいったな。使ったのは。後悔してないけど。桃子についていけないのは。つらいな」

 

 魔法生物であるヘノは地上では魔力が大気中に霧散してしまうために、長く活動はできない。ただし、紅珠のような莫大な魔力の供給源さえあればその限りではない。

 春に起きた長崎の七不思議の事件の際は、りりたんが貸し出してくれた紅珠入りの巾着――ヘノ袋を桃子が常備することによって、ヘノの遠征を可能としていた。それがなければ、あの事件は解決出来なかったかもしれない。

 しかし、ヘノ袋に使っていた紅珠は、少し前にセイレーンの新たなる心臓として使用してしまったために、今はヘノ袋が存在しないのだ。

 もちろん紅珠を失ってでもセイレーンを救ったことに対して、ヘノは後悔などはしていない。しかしそれはそれとして、桃子の遠征について行けなくなったのは痛手である。

 

「あはは、大丈夫だよ。今度はあくまで、お祭りみたいな行事を見に行くだけだからね」

 

「おまつりは。分からないけど。美味しいものがあったら。お土産にしてほしいぞ」

 

「うーん、美味しいものがあるかどうかは、さすがに行ってみないことにはわからないなあ」

 

 長崎のお盆といえば『精霊流し』という非常に賑やかで派手な行事が有名だけれど、あれはあくまで供養の儀式であり、お祭りではない。

 なので、七守の神社の儀式も厳密にはお祭りではなく、儀式という側面が大きいのかもしれない。

 桃子は考え込むが、そもそも仮にそこに美味しい夜店があったとして、それをヘノに持ち帰るのは現実的ではないので、考えても仕方ないことだった。

 一方、ヘノと比べてゆっくりとカレーを食べていたのは、水の妖精のニムである。彼女は、ジャガイモをひとつひとつとって、じっくりと端から吟味するように齧り付いていた。食いしん坊妖精といえばヘノのことだが、もしかしたらニムはヘノ以上に食へのこだわりは強い妖精なのかもしれない。

 

「ゆ、柚花さんは、長崎には行かないんですかぁ……?」

 

「私も先輩と旅行には行きたいんですけどね。魔法協会からの依頼とか、学校の受験勉強とかが重なっちゃって難しいんですよね」

 

「せめて柚花が調査する先が長崎ダンジョンだったなら、現地で合流できたんだけどねえ」

 

「うぅ……ゆ、柚花さん、可哀想……めそめそ」

 

 柚花は、地上のレストランでも話していたように、別個で魔法協会から調査依頼を受けている。

 来年から正式に契約を交わすと言っていたが、高校三年生にして魔法協会からの依頼を受けているあたり、すでに柚花はエージェント扱いなのだろう。

 桃子としては柚花と一緒に旅行が出来ないのは残念ではあるのだが、受験生で、更には重要な仕事を受けているのだからこればかりは仕方ないことである。

 とはいえ、まさに今、柚花は桃子と共に外泊をしている真っ最中だ。それこそ第三者である老芝奈々や窓口杏の目から見れば「いつも桃子さんと2人で宿泊してるじゃないですか」と映るのだが、妖精の国に宿泊するのと、遠方へ旅行に行くのとでは気持ちの面でやはり違うのだろう。

 柚花は、普通に残念がっていた。

 

「でも大丈夫です。魔法協会の調査はティタニア様の守護下に入ってる新宿ダンジョンや鎌倉ダンジョンなんで、ニムさんとはいつでも会えますよ」

 

「う、うわぁぁい……うぅぇへへ……」

 

 相変わらず、ニムはときおり不思議な笑い方をするのだが、さすがにもう桃子も柚花も慣れたものである。ツッコミひとつなく、喜ぶニムをにこやかに見守っている。

 今回柚花が派遣されるのは、新宿ダンジョンや鎌倉ダンジョンといった、主に『ハーメルンの笛吹き男』と思われる行方不明者報告の多い、首都圏のダンジョンだ。そして首都圏のダンジョンは、全てティタニアの庇護下に入っている。

 なので、この妖精の花畑のどこかにある光の膜を使えば、妖精であるニムは好きなときにそれらのダンジョンへと転移し、柚花のもとへ駆けつけることが可能なはずだ。

 

「じゃあ柚花、私が留守の間はヘノちゃんのこともよろしくお願いね?」

 

「そうだな。後輩。桃子がいない間は。ヘノのおやつをよろしく頼むぞ」

 

「私にヘノ先輩の手綱が握れる気はしませんけど、まあ頑張りますよ」

 

「なんだ後輩。ヘノに。たづななんていうものは。ついてないぞ。何を握る気だ?」

 

「言葉のあやなんですよねえ」

 

 柚花の言葉に、意味もわからないままに憮然とした顔で応えるヘノ。

 桃子は少しだけ心配になったけれど、ヘノはなんだかんだで柚花にもかなり心を開いているのを桃子は知っている。

 お盆の休み中、桃子がいない間は柚花がヘノのことを見ていてくれるに違いない。

 

 信頼できる相手が、信頼できる相手を大切にしてくれる。

 これは、とても幸せなことなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とあるうどん職人たちの会話】

 

 

「なあ、えあろにポンコ、今更だけどよ」

 

「何よマグマ。改まっちゃって、そういうの似合わないわよ」

 

「そうっすよ。まじめな顔なんてマグマ師匠らしくないっすよ」

 

「お前ら、俺をなんだと思ってるんだ? いや、ポンコは仕方ないけどよ、えあろだけ牛鬼を倒したときの記憶があるのって……なんか、ずるくないか?」

 

「なによマグマ。仕方ないじゃないの、私は……ほら、知り合いだし」

 

「知り合いって誰とだよ! うがああ、気になるな! なんとなく、すげえ熱い仲間がいた気がするんだけどよ!」

 

「ええと……まあ、そうね。一応ほら、守秘義務があるから私の口からは言えないけど」

 

「そうっすね! えあろ師匠は、フラムさんの話はしちゃ駄目っす! 怒られちゃうっすからね」

 

「フラム? そうか、俺の熱い仲間の名前はフラムっつーのか!」

 

「あちゃあ……まあいいわ。マグマ、それ絶対に口外しちゃ駄目な話だから気をつけてちょうだいね」

 

「おう! 心に刻みつけるぜ! ……あー、それで一応確認だが、俺のことだから、戦いの時にテンションがあがってお前に変なこととか言ってなかったか?」

 

「あなたはいつも変なことしか言ってないじゃないの。どのことだか分からないわよ」

 

「お、おう……その様子だと何も言ってないみてえだな」

 

「師匠、それってもしかして、マグマ師匠がえあろししょうのことす――むぐっ?!」

 

「ちょっとマグマ、なにポンコちゃんを羽交い締めにしてるのよ! やめなさい、駄目よ女の子にそんなことしちゃ!」

 

「うがああ! ポンコ、絶対に言うなよ! 絶対に言うなよ!」

 

「っぷはあ、わかったっす! 絶対に、マグマ師匠がえあろ師匠とつがい――むぐっ?!」

 

「だあああ!」

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