ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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七守神社

「桃子ちゃん! ひさしぶりー! うわ、それってあの時も着てたモチャゴンの派手な上着? たった数ヶ月前なのになんだかすっごく懐かしいねっ! でも、その上着ってさすがにこの季節だと暑くない? 中に冷たいやつとか入れてたりするの?」

 

 小学校の子供の数も減り、決して人の多い地区ではない七守だけれど、神社の祭りは桃子が思った以上に盛況だった。

 奈々、りりたんと三人で提灯の並ぶ石畳の階段を上っていくと、階段の上から聞き覚えのある明るい声がかけられる。

 この、容赦なく降り注ぐ会話の濁流を桃子はよく知っている。これは七守小学校6年生の友人、夏野日葵のものだ。見上げれば、浴衣姿の日葵と、その横には同じく浴衣姿の茉莉子の姿がある。

 

「うわ、日葵ちゃん久しぶりー、相変わらずマシンガントークだね! それに、茉莉子ちゃんもお久しぶり!」

 

「うん」

 

「なんか茉莉子ちゃんの『うん』も懐かしいや」

 

 桃子は2人の姿を見ると、石畳を駆け上がる。

 たった数ヶ月前に二週間一緒に過ごしていただけのクラスメイト。それでも、桃子にとっては大切な、かけがえのないクラスメイトたちだ。

 

「先生から聞いたんだよ、桃子ちゃんが今日のお祭りを見に来るんだって! 昨日は茉莉子ちゃんの家にお泊まりしてたんだけど、久しぶりに会えるからテンションあがっちゃってさ。お婆ちゃんにも、早く寝なきゃだめよって呆れられちゃった。ね、茉莉子ちゃん」

 

「うん」

 

「あはは、嬉しいな、そんな風に楽しみにしてくれて」

 

 日葵と茉莉子のまりまりコンビはクラスで2人だけの女子児童だが、桃子を加えれば3人だ。女児が3人寄れば騒がしく、気分も楽しくなってくる。見れば、日葵と茉莉子の手には、ヨーヨーと綿菓子が握られている。神社で行われる厳かな祭りなのかと思っていたのだが、どうやら夜店などもしっかりと出ているようだ。

 見れば、ヨーヨーや綿菓子のような子供が喜ぶ店だけではなく、焼き鳥なども焼かれていて香ばしい香りが漂っている。タレでも塩でもない、プレーンの焼き鳥が目の前で焼かれており、非常に美味しそうだった。

 

 そうして桃子が級友2人に囲まれて、まりまりももトリオ――略してまりもトリオになっている一方で、その保護者たちも挨拶を交わしていた。

 

「お久しぶりです、紅子さん。お元気そうでなによりです!」

 

「ええ、奈々さんこそ。魔法協会のお仕事が忙しいと聞いていたから、お盆休みも働いているものかと思ってたわよ」

 

「あはは、最近偉い人にツテが出来て、そのお陰か労働環境の改善が進みまして」

 

 茉莉子の祖母である、名波紅子。

 七不思議の事件で桃子たちとともに冒険をした下級生、久世紅子の50年後の姿であり、児童書『モチャゴンシリーズ』の執筆者でもある。

 どうやらこの日は紅子が保護者としてまりまりコンビに付き添っていたようだ。

 

「それで、そちらのお嬢様が、お話していた子かしら?」

 

「私、天海梨々と申します。ももたん――いえ、花子さんとうちのペコが、色々とご迷惑をおかけしました」

 

「ちょ、ちょっと梨々さん、それ系の話をこんな場所でしちゃ駄目ですよーっ!?」

 

 りりたんの突然の「花子とペコ」発言に、驚いた表情を見せる紅子。そして、驚きを通り越して顔を青くするのが奈々だ。

 花子とペコは紅子が50年前に出会った少女と妖精――今では機密事項のひとつでもある名前だった。

 これについては、記憶の抹消とまではならなかったが、春先の事件の後には、紅子もいくつかの機密書類に判を押したはずだ。

 

「ふふふ。どうせ誰も聞いておりませんし、聞いたところでわかりませんよ。ななたんは心配性ですね」

 

「そうは言いましてもですねえ……」

 

「あらあら。でも、あなたもその――そちら側のかた、なのね?」

 

 そちら側のかた。紅子は周囲の人間に聞かれても大丈夫なように言葉を選んでいるが、つまりは「妖精の関係者」あるいは「ももたん一味」というような意味合いなのだろう。

 りりたんは、深海のような暗い瞳を細くして、笑顔を返すだけである。否定も、肯定もしない。

 

「あなたのことは、なんて呼べばいいかしら?」

 

「りりたん、と呼んでください。私も、尊敬を込めて『ダージリン先生』と呼ばせていただきますね」

 

「あらやだ、こんなお婆ちゃんになって愛称で呼び合うファンが増えちゃったわね。じゃあよろしくね、りりたん」

 

 互いににっこりと笑顔を見せて、握手を交わすりりたんと紅子。

 横ではらはらしていた魔法協会の末端職員とは裏腹に、りりたんはもとより、紅子も飄々としたものだ。さすがは、年の功である。

 

 

 そして、祭りは進んでいく。

 社の前には、地域の大人達が集まり、何かしらの準備を始めていた。

 一方、日葵たち子供は夜店を覗いてははしゃぎ、そして境内の広場では提灯の明かりに照らされて幾人もの子供たちが鬼ごっこなどで遊んでいた。

 見渡せば、桃子の想像よりも多くの人たちがこの祭りに訪れているようだ。

 特に、身体のがっしりとした若者が妙に多く、儀式の準備を率先して手伝っている。

 

「どこかにうちのお兄ちゃんもいるはずなんだけど、ちょっと今は準備で忙しいのかな。この地域ってね、ダンジョンのスキルを持ってる人が昔から多いから、探索者をやってる人が多いんだよ! うちのお兄ちゃんも探索者だから、リスを連れて帰っちゃったしね!」

 

「リス太郎かあ、懐かしいなあ」

 

 日葵の説明から察するに、がっしりとしているのはこの地域出身の探索者たちなのだろう。

 ダンジョンの探索者というのは、普段から不可思議な力や存在の恩恵のもとで戦っている。だからこそ、このような信仰に関わる行事には積極的なのかもしれない。

 なるほどなと思っていると、ずい、と。茉莉子が、数センチ角の包み紙を差し出してきた。

 

「あの、桃子ちゃん。これ……お塩だよ」

 

「え? お塩? これどうするの?」

 

「ええと、配られてたの……」

 

 塩である。

 数センチ角の紙の中には、確かに、ひとつまみほどの白い粉が入っている。

 はてさて、塩を渡されていったいどうすれば良いのかと桃子はきょとんとして茉莉子の顔を見返すと、茉莉子も実はよくわかっていないようで、曖昧な笑顔を浮かべていた。

 よくよく考えれば、茉莉子も昨年のこの時期にはまだ東京におり、この祭りに参加するのは初めてなのだ。配られていた塩を桃子に手渡したはいいものの、恐らく彼女もこの意味までは知らないのだろう。

 そこでやはり、頼りになるのはマシンガントークの日葵である。

 

「あのね、これは長崎ダンジョンの中で取れた塩なんだよ」

 

 日葵は、包みを軽く開いて、指先に塩をつけてぺろりと舐めてみせる。

 

「昔から、ここのお祭りのときにはこのお塩をなめることで、英霊さまの加護を貰う風習が続いてるんだって。あっ、英霊さまっていうのは長崎ダンジョンの先祖代々の探索者の人たちでね、亡くなった後もずっと私たちのことを見守ってくれてるんだよ」

 

「へえ、そうなんだ? なんだか、歴史があるんだねえ。すごいね、茉莉子ちゃん」

 

「うん」

 

 長崎のお盆といえば、昔から『精霊流し』という弔いの儀式が有名だ。街なかを精霊船が練り歩き、花火や爆竹がひっきりなしに鳴り響く派手な行事は、東京出身の桃子ですらテレビなどで見たことがある。

 そしてそれと同時に、長崎ダンジョンで行われる『英霊流し』という、長崎の探索者たちの魂を英霊船に乗せて送り出す儀式もまた、ダンジョン界隈ではよく知られている話だった。

 精霊船が故人を極楽浄土へ送り出す儀式ならば、英霊船は、亡くなった英雄たちをダンジョンという未知の世界へと送り出す船である。

 

「一昨年死んじゃったうちのお爺ちゃんも昔は探索者だったから、英霊船に乗って大村湾に流されていったんだよ。綺麗だったけど、なんだか……うん、寂しかったね。まあいいや、とりあえず舐めちゃっていいんだよ、そのお塩」

 

「うん……しょっぱい」

 

「ぺろ……まあ、お塩だね」

 

 日葵の話に――長崎ダンジョンの英霊たちの話に思いを馳せながらも、ぺろりと塩をなめとってみる。

 何の変哲もない、塩だった。普通にしょっぱい。

 

「ちなみに、通な人はそこの夜店で売ってる焼き鳥にかけて食べるんだよ」

 

「えっ、じゃあ私もそうすればよかったなあ」

 

「あははは、ごめんごめん! また来年来たときには、塩焼き鳥にして食べちゃってね!」

 

 見れば、先ほどの体格の良い探索者集団が、プレーンの焼き鳥に塩を振りかけてがぶりと一口で食べている。

 タレでも塩でもない焼き鳥は珍しいなと思っていたが、なるほどそういうことかと桃子は納得する。あれは、儀式の塩をふりかけて食べる焼き鳥だったのだ。

 

 桃子達が塩の話で盛り上がっている後ろでは、この土地に長く住んでいる紅子も当然のように塩をなめている。その横では奈々も、紅子に促されるままにおずおずと塩を舐めていた。

 この祭りに訪れた人々は、誰しもがこの塩をなめることで、ダンジョンを守護する英霊の加護を祈っていた。

 これはきっと、そういう儀式でもあるのだろう。

 

 ――ただ一人。

 深海のような瞳を細めて。

 まるで、苦虫を噛み締めたような表情で、塩の包みを見つめる少女がいたことに気付くものは、いなかった。

 

 

 

 それまでの賑わいとは裏腹に、かがり火の儀式は静かに進行された。

 以前にも、奈々から話を聞いていた。この神社のお社にかがり火を投げ込むという、江戸時代から続く不思議な儀式である。

 神社の神主が取り仕切るのかと思ったが、どうやらこの儀式を取り仕切っているのは桃子も見覚えのある人物、小学校の校長先生だった。

 彼が手に持った短い棒の先にかがり火を移す。いわゆる、松明だ。

 それを、ぽいっと。まるでパスをするかのように、扉を開いた社の中に放り込む。

 

 松明は、木製の社の中で燃え続ける。

 しかし、不思議なことに社には引火する気配もなく、ただただ、美しい火の粉だけが舞い上がる。

 

「うわぁ……りりたん、これってどういうことなんだろう」

 

「ふふふ。どうもこうも、ももたんもよく知っているでしょう? 見事な『怪異』の片鱗です。踊る火の玉とは、仲良くしたのでしょう?」

 

「……うん、そうだね」

 

 火の粉が宙を舞う。

 恐らく、今年のかがり火もまた。地域の子供達を見守る存在として、この地に残り続けるのだろう。

 桃子は、あの不思議な旧校舎で出会った火の玉たちを思い出す。100を超す火の玉たちは、茉莉子と紅子を守ってくれた彼らは――この社に投げ込まれた、数多のかがり火だったのだ。

 

「火の玉は、こうして増えていくんだね」

 

 桃子の横では、茉莉子が。そして紅子が。

 きっと、同じようにあの夜の火の玉たちを思い出しているのだろう。

 

 祭りの喧噪のなかで。どこか、遠くから。

 懐かしく、そしてとても楽しいピアノの演奏が、耳に届いたのは。

 きっと、気のせいではないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ】

 

:おうおうお盆休みだぞ! 萌々子ちゃんの墓参りに行きてえなあ

 

:第四層に行けば墓がたてられてるよ

 

:俺の実力じゃ先に自分がお墓に入っちゃうから無理

 

:草

 

:自分のお墓の掃除をしている萌々子ちゃん(イラスト)

 

:お供え物の饅頭をちゃっかり懐にいれててわろたw

 

:人魚姫×セイレーンがみたいです

 

:セイレーン×人魚姫じゃ駄目なんか?

 

:やめろやめろ、ここでそういう戦争をするな。両方萌々子ちゃんの毒牙にかかれば良かろう

 

:おめぇ頭いいなあ

 

:けものの姫イメージイラスト描いたよ。(イラスト)

 

:絵柄が……どこかの映画そっくりです

 

:ドーモ。けもののひめ=サン

 

:色々アウトだよw

 

:蜘蛛を踏みつぶす鎧萌々子(イラスト)

 

:世の蜘蛛への風評被害なんだよなあ。牛鬼のせいで。

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