ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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お化けダンジョン

 魔物の異常行動。

 それ自体は滅多に起こることではないけれど、しかし今の状況を考えればまったく柚花の言う通りで、決してあり得ない話ではない。

 いま、長崎ダンジョンの中では、それこそ妖精女王ティタニア以上の魔力を保持する存在――りりたんが潜入して『何か』をしているのだ。

 

 まさか、りりたんが魔物を煽動しているわけではないだろうが、少なくともダンジョン内の魔力や瘴気の循環に乱れが出ているのは間違いなさそうだ。

 りりたんが、いったい何をしているのかは分からない。けれど、きっとそれはりりたんにとって――いや、妖精達にとって必要なことなのだろう。桃子とて、りりたんの行動原理はある程度は理解しているつもりだ。

 

「りりたんはさ、なんでもかんでも一人でやろうとするよね」

 

「困った後輩ですよ。ここに、頼れる先輩が二人もいるっていうのに。まあ、後輩のせいで魔物が暴れてるなら、先輩としてはその尻拭いもしないとですよね」

 

「なんだ。戦いか。ヘノにまかせろ」

 

「ヘノちゃん、ここはまだ地上だから、血気にはやるのはもう少し待ってね?」

 

「わかったぞ」

 

 ホテルのロビーで奈々と情報交換をしたあと、桃子と柚花、そして奈々はいま、ダンジョンの入り口へと向かっている。もちろんヘノもポケットの中でやる気満々だ。

 ただし、ポケットの中でツヨマージを素振りするのはやめて貰った。普通に危険である。

 

「先輩。そんなわけで、今回の行動方針を改めて見直しましょう」

 

「うん」

 

「なんだ。やることが変わるのか。笛女を全員でやっつけるんじゃないのか」

 

「ヘノちゃん、私たちは初めからそんな目的じゃないからね?」

 

 柚花が言う分には冗談半分なのだと分かるけれど、ヘノの場合は本当にやっつけようとしていそうで不安である。

 

「では、改めて。当初の目的は『ハーメルンの笛吹き』への接触でしたが、それとは別に、りりたんを探し出します。その上でどうするかは、それはその場の状況次第で判断しましょう」

 

「うん。頑張ろう!」

 

「わかったぞ」

 

 イチゴと会う。そして、りりたんを探す。

 原因がりりたんだと確定したわけではない。けれど、今もどこかで『何か』をしているりりたんを、手助けしてあげたい。

 それが学園の先輩であり、そして友人としての純粋な気持ちなのだった。

 

 

 

 人混みを突き抜けて歩く。セーラー服の二人の少女に奇異の視線を向けられるのも、柚花がいれば怖くない。

 恥ずかしさも、気まずさも、二人で分け合えば半分で済むのだ。

 

「じゃあ奈々さん! 私と柚花とヘノちゃんで、ダンジョンで色々とやってみますから、待っててくださいね!」

 

「はい! あ、ただ、どうしても人が多いですから、入場時に目立ってしまいますけれど……大丈夫ですか?」

 

 長崎ダンジョンのギルドには、いま何が起きているのかを知るため、探索者たちが多く集まっている。

 ただでさえお盆で人が多い時期の昼間だ。こんな時間にダンジョンでトラブルがあれば、多くの人たちの関心がそこに向かうのは当然だろう。

 そして当然ながら、セーラー服姿の少女二人がその中を通っていこうとすれば、注目の的である。

 

 そんな状況に困惑する奈々を尻目に、柚花はずかずかとギルドへと向かっていく。

 そして、桃子は柚花から手渡されていた『とある品物』をいくつか手に取り、手のひらに包み込む。

 

「大丈夫ですよ。私はもともと知名度がありますし、先輩には裏技がありますからね。じゃあ、奈々さん。ギルドへの説明とフォローはお願いしますね!」

 

「うーん、いいのかなあ……」

 

 桃子は、遠慮がちに柚花の後ろを歩きながら――。

 手のひらに握ったクズ魔石を、パキリと砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンの中に入ると、最初は別段なにも変わったことのない、昨日と同様の長崎ダンジョンの景色だった。

 ギルドではあの後、柚花は迷いなく人混みを進んでいった。はじめこそ怪訝な目で見られたものの、柚花の特徴的なオッドアイは、探索者たちの中ではそれなりに有名だ。

 配信者タチバナ。彼女は今や、日本でもトップクラスの実力を持つソロ探索者なのだ。

 最近は世界魔法協会とも密にしているという彼女が通路を歩けば、気づいた探索者たちが進んで道をあける。

 

 そして桃子。

 桃子は、柚花から渡されたクズ魔石を砕くことで、地上でも【隠遁】を発動させられるのだ。

 クズ魔石一つで数秒ほどの効果だが、クズ魔石が10個もあれば、通路をくぐり抜ける短い時間程度は問題なく【隠遁】を継続できた。素通りだ。

 ただし、ギルドカードの確認もせずに門を潜り抜けてしまったので、桃子の心臓は緊張でドキドキだ。

 なお。柚花がなぜクズ魔石をそんなに所持していたのかは、桃子は後日改めて問いただすことにした。

 

 

 

 無事にダンジョンへと侵入し、何はともあれ状況を確認しようと山道を少し進んでいくと、なるほど確かに、魔物の様子がおかしいのがわかる。

 

「あれが。このダンジョンの。魔物たちか。弱そうだな」

 

「え、なんで?! ゴーストが昼間っから人型してるじゃん!」

 

「どうやら、これが奈々さんの言っていた『異変』ってことみたいですね。まあ、とりあえずやっつけちゃいましょうか」

 

 この長崎ダンジョン第一層に潜む魔物『ゴースト』は、本来ならば昼間は半透明のクラゲのような影であり、人に取り憑き不調を引き起こす程度の、さほど恐れるべき魔物ではないはずだ。

 しかし、今はそのゴースト達が"人間の形"をして、山の中を歩いている。これは、夜のゴーストだ。昨晩、りりたんとイチゴに騙されて、桃子がひたすら戦った魔物である。

 お化けが苦手な桃子が人型のお化けたちを前にしてパニックに陥っていないのは、昨晩戦った散々な経験があるからだ。りりたんとイチゴには感謝せねばならない。

 

「こいつら。半透明の。ゴブリンかなにかか?」

 

「そうですね。大した魔物じゃないって意味では、ゴブリンと大差ないですよ」

 

 人型のゴーストに慌てている桃子を尻目に、ヘノが放った魔力をまとった暴風と、柚花の放つ連鎖する電撃【チェイン・ライトニング】によってゴーストたちは一瞬にして消滅していく。

 物理的攻撃には耐性の強いはずの霊体タイプの魔物だが、魔力のエネルギーを操る二人にとってはゴブリンと大差ないようだ。

 

「うわ。なんか柚花とヘノちゃんがいたら、ゴーストも全然怖くないね。私は昨日、散々だったのに」

 

「先輩はお化けとか苦手ですもんね。私が守ってあげますから、離れないで下さいね」

 

「そうだぞ桃子。安心しろ。こんな連中。ヘノが一網打尽にしてやるからな」

 

「あはは、二人とも頼もしいじゃん」

 

 実際に、広範囲に魔法を放てる二人がいれば、桃子がゴーストに襲われることはなさそうだ。

 頼もしい少女たちの姿に、混乱気味だった桃子の心も解きほぐされていく。

 

「それにしても、どういうことなんだろう。昼間からゴーストが人の形になってるのって、おかしいよね?」

 

 長崎ダンジョンの異変。それは恐らく、たった今目撃したゴーストの変貌を指すのだろう。もちろんゴースト以外の魔物も何かしら変貌しているのかもしれないが、なんにせよ異変が起きているのは確認できた。

 今はまだ昼間の時間帯だ。空には太陽が昇っており、ゴーストのような悪霊がおどろおどろしい本性を見せて闊歩するには、いくらなんでも早すぎる。

 

「ヘノちゃん、何かわかる?」

 

「そこに。変なキノコが生えてるな」

 

「ああ、あれは毒キノコに違いないって昨晩結論が出たよ。味は美味しかったけどね」

 

 話がいきなり逸れてしまった。今はキノコの話をしている場合ではないのだ。

 桃子は改めて、ヘノではなく柚花に意見を聞いてみた。

 

「柚花、何かわかる?」

 

「"英霊"でしたっけ? 長崎ダンジョンは、太陽が出ているうちは、英霊が悪霊たちを封じているっていう話を聞いたことあるんですけどね」

 

「じゃあ、今は英霊が力をなくしてるっていうこと? それとも、悪霊たちが強くなっちゃったの?」

 

「……それは英霊の関係者を捕まえて、洗いざらい吐かせることにしましょうか。ヘノ先輩、何か変わった反応とかありますか?」

 

「あっちに。魔物が暴れてる場所があるぞ。人間とか。人間じゃないのとかも。いる気がする。つむじ風の魔法で。急ごう」

 

「わかった! 行こう!」

 

 桃子と柚花は、つむじ風の魔法を両足にまとい、森の中をまさに風のように駆け抜けた。

 ヘノは迷いなくまっすぐに飛び、途中ですれ違う人型のゴーストたちは暴風と電撃で瞬時に消滅していく。

 

「柚花、こっちの方角って多分……」

 

「ええ、教会です」

 

 入り江に建てられた、小さな教会。

 桃子とりりたんが祈りを捧げ、イチゴが桃子の前に現れ、そして昨晩はともに夜を過ごした、英霊たちの加護を持つ教会。

 

 桃子の心の中で、期待と不安がせめぎ合う。

 イチゴがいたならば、なんと言えばいいのだろうか。

 イチゴがいなかったら、どうしたらいいのだろうか。

 しかし、そんな不安を吹き飛ばすように、山道を抜けた先には意外な光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

「な、なにこれ?!」

 

「ちょっと、こんなのちょっとしたスタンピードじゃないですか!」

 

 桃子たちが森を抜けた先、教会前の空けた空間は物凄い混雑状態だった。混雑といっても、探索者が大勢いるわけではない。数え切れないほどのゴーストが群がり、教会へと押し寄せていたのである。

 その光景はつい先ほど地上で見かけた、長崎ダンジョンギルドに探索者たちが押し掛けている様子を彷彿とさせた。それだけの悪霊たちが、この場に押し寄せていた。

 

 見ればそこに湧き出ている魔物はゴーストだけではなく、中には学校の理科室で見たことがあるような骨格標本――魔物としてはスケルトンと言うべきだろうか、そのようなものまで現れている。

 奈々の話では「スタンピードほどの危険性はない」とのことだったが、この教会周辺に限定するならば、これはスタンピード以外のなにものでもない。

 

「柚花、あそこ!」

 

「ええ! ヘノ先輩、いきますよ!」

 

「わかったぞ」

 

 そして、視線を教会へと向ければ、そこには悪霊の群れに抗う人間たちの姿があった。

 

 

「アサ、コカゲ、みんな、落ち着けば大丈夫だから、耐えるぞ!」

 

「わかったわ!」

 

「……ああ」

 

『ソノ調子ヨ!』

 

 小さな教会を護るようにそれらと戦っているのは、まだ若い、何人かの探索者たちだ。

 その中には、武器を構えたヒナタとアサ、それにヒナタの横には見覚えのない、少々陰気な青年の姿もある。その姿に桃子の心臓が不思議と高鳴る。

 

 そして、桃子たちを驚かせたのは奮闘する彼らだけではない。

 彼らの中心には、見覚えのある真紅の光が舞い踊っていた。

 

『ああモウ! お母様に頼まれたから来たケド、魔物が多すぎなのヨネ!! 人間、頑張りなさいヨネ!』

 

 赤い光を放つ、うっすらと透けて見える妖精が、探索者たちをサポートするように声を荒げていた。

 桃子は彼女を知っている。あれは、あの妖精は――。

 

『あーっ! ピーチチャイルド! アナタ達、来るのが遅いワヨ! さっさとこの魔物、やっつけちゃいなさいヨ!!』

 

「ルビィちゃん?!」

 

 それは、遙か過去の妖精の国――ティル・ナ・ノーグに生きていたはずの、ティタニアの親友。

 そして、今の時代ではりりたんの眷属として存在している、赤い蝶の翅を持つ、過剰なツンデレ妖精だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ACEROLA撮影チャンネル】

 

わおーん♪

 

どうかしら、今日は奈良県の吉野ダンジョンで噂になっていた『けものの姫』の衣装よ。

イヌ耳に、顔には野性的な塗料で紋様をつけてみたの。

服装も手作りなのよ? 毛皮風で、野性的にしてみたのよ。わおーん♪

 

 ≪パシャ≫

 

本当はお盆だから幽霊の格好でもしてみようかと思ったけれど、さすがにギルドの職員さんにとめられちゃったわ。

この時期は、ニライカナイ伝説のあるここ龍宮礁までやってくるお客さんが増えるのよ。

その人たちが、本物の幽霊だと勘違いしたらどうするんだ、ですって。わおーん♪

 

 ≪パシャ≫

 

長崎ダンジョンには、ゴーストって言う幽霊の魔物が出てくるらしいけれど、あれってどうなのかしらね。

本物の幽霊? それとも、幽霊みたいな姿の魔物? どっちなのかしら。

でも、本物の幽霊だとしたら、探索者のみんなは戦いづらいわよね。わおーん♪

 

 ≪パシャ≫ ≪パシャ≫

 

長崎といえば、知ってる? 長崎ダンジョンって、入るときにお塩を舐めるの。

あれって、長崎ダンジョンの『英霊』の加護がつくらしいわよ。

だから、あのお塩を舐めた人たちはきっと、全国各地に散らばったとしても、『英霊』の加護が受けられるのね。

素敵なお話ね。

 

 ≪パシャ≫ ≪パシャ≫ ≪パシャ≫

 

わおーん♪

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