ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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悪霊たちのイベント会場

「なんか。凄いことに。なってるな」

 

『呑気に見てないで! 早く! 早く! 敵が多すぎるノヨ!』

 

「分かりました、分かりましたってば! 先輩は待っててください、こういうのは私の得意分野なんで!」

 

 教会前の広々とした空間は、大規模なハロウィンのコスプレイベント会場かと思うくらいに、ゴーストやスケルトンで溢れかえっていた。しかし、残念ながらそこにトリック・オア・トリートでお菓子をくれる相手はいない。それら全てが、瘴気で動く魔物たちだ。

 これは一体何事なのかと桃子たちが混乱していると、そこに真っ直ぐに飛んできたのが、若き頃のティタニアの親友であり、今はりりたんの眷属となった深紅の翅の妖精――ルビィである。

 いったいどういう事情なのか、ルビィが人間たちに力を貸して共に戦っており、桃子たちに気づくや否や、とにかく魔物を倒すようにと急かしてきたのだ。

 

 桃子も巨大化させたハンマーを構えたが、しかしこのような群れを相手どるのは柚花の得意分野だ。彼女の【チェイン・ライトニング】は魔物から魔物へと連鎖する。これだけ密集していれば、電撃の連鎖で一網打尽に出来るだろう。

 なので、桃子はおとなしくその場で立ち止まり、双剣にパチパチと電撃のスパークをまとわせた柚花の姿を見守ることにした。

 

「私は魔法協会から派遣されました、探索者のタチバナです! 魔法で一掃しますから、探索者のみなさん教会の中に退避してください!」

 

 まるで電流を帯びたようにスパークを弾けさせた柚花が魔物の群れの中央を走り抜けると、ゴーストやスケルトンは瞬時にその場で消滅していく。

 物理攻撃にはめっぽう強い悪霊たちも、電撃のようなエネルギーの攻撃には手も足も出ないようだ。

 

「ほら、はやく中へ!」

 

「ごめんなさい、助かるわっ! ほら、ヒナタたちも急いで!」

 

「キミ、その格好は……いや、わかった! コカゲもさっさと中に入れ!!」

 

「いや……俺は……」

 

「いいから急げ!」

 

 教会を死守するように戦っていた探索者たちは、柚花の言葉に従い教会内へと避難する。

 ヒナタ、アサ、そして――コカゲ。

 桃子は、彼らが扉を潜り、安全な教会内へと入っていくまで。ずっと、視線を外すことが出来なかった。

 

『よし、これで良いワネ! さっさと全部、ヤッツケちゃいなさいヨ!』

 

「わかりました! では、ゴーストもスケルトンも全部まとめて――【チェイン・ライトニング】!!」

 

 巻き込まれる恐れのある探索者たちが居なくなれば、あとは独壇場だ。柚花は双剣を敵へと向けて、連鎖する稲妻の魔法を発動させる。双剣を始点にして、そこから猛烈なまばゆい光が辺りに迸る。

 柚花の双剣には、妖精の女王ティタニアが自ら見繕った、雷の魔法と相性のいい魔石がはめ込まれている。更には、柚花は雷の妖精から直接『雷の魔力』について教えを受けている。つまり、物凄く強いのだ。

 下層の強力な魔物ならばまだしも、第一層の悪霊の群れなど、すでに今の柚花の敵ではなかった。

 

 光が終息すると、そこにはすでに、ハロウィンパーティの如き魔物たちの姿はなくなっていた。

 所々、煤になりかけのスケルトンの残骸が散乱しているけれど、それらも見ているうちにことごとく煤へと還っていく。

 

「よっし、一発KOですね! 私の活躍をニムさんに見せてあげられないのが残念ですよ」

 

 所々、地面や木々も焼けており、辺りには焦げ臭さが漂ってはいるものの、柚花の魔法の精度はほぼ完璧な仕上がりだった。

 近くで見ていた桃子たちには影響を及ぼさずに、的確に、ゴーストとスケルトンだけを焼き尽くしている。どれだけ精度を高めればここまで器用なことが可能なのだろうかと、桃子はいたく感心していた。

 

「なんだか。後輩のやつ。もの凄く。派手になってきたな」

 

 もっとも、ヘノに言わせれば、魔法の精度よりも派手さのほうが見所だったようだ。

 

「うん、さすが柚花だよ。私なんてもう、足下にも及ばないんじゃないかな」

 

「桃子。さすがに。桃子はそこまでちっちゃくないだろ。大丈夫か?」

 

「今のは比喩表現なんだよ」

 

 先ほどまでの緊迫した空気が嘘のように。

 広々としたスペースに、桃子とヘノの気の抜けるような会話が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 悪霊たちのイベント会場は、今や無人の草原である。所々地面が焼け焦げており、教会の外壁も一部破損が見受けられるが、あの数の魔物を相手にこの程度で済んだのだから安いものだ。

 桃子も、魔物がいなくなりようやく会話の余裕ができたので、りりたんの眷属であるルビィがどうしてこの場所にいるのかを問いただすべく歩み寄る。

 

『もう、遅いのヨ。さてはピーチチャイルドたち、地上でのんびり、ゆっくり過ごしてたワネ!』

 

「ご、ごめんなさい。あとルビィちゃん、その呼び方は恥ずかしいから、別な名前にならないかな?」

 

『そうナノ? でも、お母様が、ネーレイス様がそう言ってたんだもの! それに、可愛いからいいじゃナイ!」

 

「あはは、可愛いかー……うう、複雑だなあ」

 

「なんていうか、相変わらず荒くれた妖精ですね、この子」

 

 ピーチチャイルド。

 それは、今から遡ること50年前のこと。ひょんなことから過去の世界へと紛れ込んでしまった桃子が、当時の妖精女王ネーレイスの前で口走ってしまった自己紹介だ。

 あの時は桃子とルビィは顔を合わせてはいないはずだが、もしかしたらあのあとティタニアやネーレイスから聞いたのかもしれない。あるいは、最近になってりりたんがその話をルビィに語ったのかもしれない。

 しかしどちらにせよ、桃子としてはあれは恥ずかしい過去なので、出来れば忘れていて欲しかった。

 

「桃子。ぴーちちゃいるどって。なんだ? 面白そうだな」

 

「いや、いや、その名前は置いておこうねヘノちゃん。あ、ほら、あそこにキノコが落ちてるよキノコ」

 

「本当だ。なんでこんなところに。キノコが落ちてるんだ? 食べるか?」

 

「いや、食べないけどね」

 

 キノコの話題でヘノを誤魔化すことに成功した。やはりキノコは万能だ。そして、ヘノにはこのまま忘れてもらいたいところだ。

 なお、落ちていたキノコは恐らく昨日の調理中にこぼれ落ちた毒キノコだ。美味しいが、食べないほうがいい。

 

「さてと。愉快な先輩がたのやりとりは置いといて……」

 

『なにヨ。とりあえずどういう状況なのかをワタシに聞きたいけど、なんだか面倒くさいナ、って言いたげな顔で見るじゃないノ』

 

「ルビィさん、そこまで的確に相手の心が察せるのに、どうしてそんなに跳ね返りになっちゃったんですか?」

 

『失礼ネ! ワタシのどこが跳ね返りなのヨ!』

 

 ヘノとの愉快なやりとりを終えた桃子が気づいたときには、柚花とルビィの愉快なやりとりが新規に始まっていた。

 さすがにこの調子では話が全く進まないので、桃子はこの場における先輩ポジションとしての自覚を持ち、二人の間に割って入る。

 

「ほらほら、もう。柚花もルビィちゃんも、とりあえず落ち着いてさ。お話聞かせて?」

 

『まあ、いいワ。とは言っても、ワタシはネーレイス様に頼まれて、ここの人間タチを護ってただけなノ』

 

「ルビィさん。ネーレイス様って、りりたんのことですよね? あの子、今どこで何をしてるんです?」

 

『色々大変なノ! そうだ、詳しいことは、アイツに聞いた方が早いワ!』

 

「アイツって……」

 

 ルビィが指さした先。それは、教会の入り口であるステンレスの扉だ。

 その扉の前には、先ほど中へと避難したはずの陰気な青年――コカゲが、無言で立っていた。

 

 

 

 

 

 その場を、不自然なほどの沈黙が支配する。

 桃子が、コカゲの前に立つ。小さな少女が、長身の青年を、無言でジッと見上げている。

 

「あ、ええと……コカゲ……だ。よろしく」

 

「……」

 

「中の連中は、眠らせてきたよ。色々と、知られたくない話も……その、あるだろうし……」

 

「……」

 

 桃子は、口を真一文字に閉じたまま、怒ったような顔でコカゲを見上げている。睨み付けている。

 コカゲという名前は知っている。彼は、桃子とりりたんがこの教会で出会った探索者であるヒナタの『幼なじみ』だ。

 そして、ヒナタの『幼なじみ』は――。

 

「こいつ。よく見てみたら。人間っぽいけど。人間じゃない。ちょっと人間の。変な奴だな」

 

 ヘノが、瓶詰めラー油の商品名のような絶妙なたとえを口にする。

 そう。まさにヘノの言う通りで、彼は人間ではない。

 桃子は相変わらず口を真一文字に結んだままだ。そして柚花もまた、桃子の横に立ち、コカゲを睨みつける。非常に恨みの込められた、憎々しげな視線を叩きつける。

 

「新宿やら鎌倉やら色々探し回りましたけど、ようやく見つけましたよ。あなたのことは、なんとお呼びすれば良いですか? ハーメルンさん……はさすがに変ですし、コカゲさんですか? それとも――イチゴさん?」

 

 イチゴ。

 柚花がその名前で呼びかけると、コカゲは観念したように両の目を瞑る。

 そして、まるで幻のように。蜃気楼のように、その姿がぶれていく。

 陰気な男性だったその姿がぼやけて消えていき、そこにはコカゲよりも一回り小柄な、一人の少女の姿が現れる。

 若草色を基調としたセーラー服は、まさに今、桃子と柚花が着用しているものと全く同じ制服だ。

 そして、後頭部には特徴的な黄色いリボンをつけている。

 

 少女は、そわそわと、視線を泳がせてから。小さく、口を開く。

 

「……あの、なんていうかさ。あんな別れ方したばかりで、どういう顔で再会したらいいのかわからないんだよね」

 

 そこにいるのは、もうコカゲではない。

 今朝、桃子と別れたばかりの少女。桃子の"存在しない"幼なじみ。そして、怪異『ハーメルンの笛吹き』。

 イチゴが。桃子の前に、立ち尽くしている。

 

「イチゴちゃん……イチゴちゃん……」

 

 ぽふ、と。

 桃子がイチゴの胸を叩く。

 

「バカぁ……イチゴちゃんのバカぁ」

 

 ぽこぽこと、桃子がイチゴを叩く。

 もちろん、力は入れていない。けれど、そこには確かな怒りが込められていた。

 柚花はそれを、苦虫を噛み潰したような顔で見つめている。

 ヘノは、いつのまにか拾ったキノコを両手で抱えながら、「誰だこいつ」という顔で眺めている。

 ルビィはきっと、主であるりりたんを通して全てを見ていたのだろう。無言で、二人の成り行きを見つめている。

 

「スズランちゃん……もう知ってるだろうけどさ、私はあなたのイチゴちゃんじゃないんだよ」

 

「知ってるけど、でも……あなたは、あなたは……私のイチゴちゃんじゃん!」

 

 桃子が、イチゴを叩く手をとめて。

 イチゴの胸元に、自分の頭を埋めるように、よりかかる。

 

「一緒にカレー食べたもん! 一緒に冒険もしたもん! りりたんと三人でお化けと戦ったもん! なんで居なくなっちゃうの! ばか、ばかぁ!!」

 

 桃子がイチゴに抱きついて。

 そして、イチゴも遠慮がちに、桃子の背中に手を回し、桃子の三つ編みを撫でている。

 

 

 

 

 

「桃子が珍しく。たかぶってるな」

 

『モウ、どうするのヨ。全然話が進まないじゃないノ!』

 

「本当。この怪異、どうしてやりましょうかねえ……」

 

 キノコを抱いたヘノと、呆れたようなルビィと。

 そして、イライラした気持ちを隠そうともしない柚花が。静かに、桃子たちの姿を眺めているのだった。

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