ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「どうやら。鵺を倒したあたりに。出てきたみたいだな」
「そっか、この珠が生まれた場所に戻ってきたんだね」
紅い珠に残っていた鵺の魔力の残滓は、己の産まれた地と最後まで繋がっていたのだろう。
役目を果たした珠から鮮やかな紅色が徐々に失われていき、今はもうただの黒い石となってしまった。
見た目だけなら大きめの魔石だが、もう空だ。魔力が籠っていない。魔力を見ることが出来ない桃子でも、その手に握れば何となくそれを感じ取ることができた。
「桃子。それは桃子が。持っておくといいぞ。元の物凄い魔力は無理でも。妖精の国にでもしばらく置いておけば。ある程度の魔力は戻るはずだぞ」
「魔石って、充電式の電池みたいなところあるよねえ」
桃子は専門知識がないのでそこまで詳しくは知らないのだが、魔石には大きく分けて2通りの使い方がある。
一つは、消耗品としての使いきり魔石。工房でクズ魔石を消耗品として使用しているのもそれに当たる。また、多くの魔石動力で動く道具も、最後まで使いきった時点で魔石が煤へと変わってしまうため、定期的な交換が必要となる。
交換された使用済みの魔石は大体の場合は損傷が発生しているため、クズ魔石行きだ。
そしてもう一つが、常に使用者が魔力を循環させる使い方。
ダンジョン内で魔力を持つ人間が使うことで、常に魔力吸い上げ、あるいは魔力が供給され、使い方を誤らない限りは長期的に利用できるようになる。
武具に融合される魔石はまさにその代表的な使い方だ。
ただしこちらは、元からその使い方に耐えうる高品質の魔石である必要がある。また、魔力の供給が必要なためダンジョンの外では使用できないというデメリットもある。
ちなみに、探索者たちが所有している端末は、その両方のハイブリッド技術だそうだ。
基本的には所有者の魔力で起動するが、徐々に劣化していくために定期的に新しい魔石バッテリーとの交換が必要となる。なお、ダンジョン外で動かすとすぐにバッテリーが劣化してしまうので注意が必要だ。
「せっかくだから。桃子のハンマーに。くっつけよう。ハンマーを振ったら。真空の刃が飛び出るのとか。どうだ」
「便利だけど、ハンマーには向いてないんじゃないかなあ」
融合させた魔石に指向性の魔力や能力を付与するには、更に熟練のスキルが必要とされる。風の化身たるヘノならば風の魔法を付与することは造作もないことかもしれないが、そもそもハンマーに真空の刃は何か違う気がする。
そこでふと思ったが、妖精の女王ティタニアは魔石もなしにハンマーに魔法を付与していた。もしかしたらあれは人類がまだ到達していない域の技術なのだろう。凄い。
「さてと、とりあえずここにずっと居てもしょうがないし、魔物が出たら困るから移動しよっか」
「そうだな。さっさと包帯男を。どうにかしよう」
魔石について話し込んでいたが、確かにこんな池のほとりでゆっくりしている場合ではない。今は移動が先だと桃子は思い直して、ヘノの言うところの包帯男を背負い直す。
相変わらず、桃子が人を背負うと足が地面に擦れるが、そこは命には代えられない。我慢してもらおう。
「桃子。どうする? ここを下りて。マヨイガに入れば。妖精の国には戻れるぞ」
「うーん、でもこの人を妖精の国に連れて帰るわけにもいかないでしょ。ここで、人のいる場所まで連れていって、保護してもらおうと思うよ」
今いる場所は、遠野ダンジョンの第三層、深淵渓谷。
この場所には光が差し込んでいるものの、実際の地上の時間としてはすでに日も沈みかける時間だ。今から第三層を訪れる酔狂な探索者もいないだろう。
となると、人がいるとすれば上の階層だ。
最悪、誰もいなかったとしても桃子がこっそりダンジョン入り口に怪我人を寝かせていけば、守衛なりが発見してくれるだろうが。
「わかったぞ。じゃあ。出口の近い。上の階層まで行こう。ついでに。タケノコも拾っていこう」
「ここの上が大竹林なんだっけ? タケノコ、見つけられるかなあ」
緑のつむじ風を両足に纏い、光差す深淵の崖を駆け上がる。
普通に成人男性を背負って崖を上ろうとしたら実に骨の折れる道のりになるだろうが、ヘノにかかればこのような地形のダンジョンはむしろ得意分野だった。
桃子がぴょんぴょんと崖の足場を跳ね昇り、途中で襲ってきた一反木綿はヘノが風魔法で簡単に切り裂いて返り討ちにする。
空を巡回する烏天狗はさすがに厄介だったので迂回したものの、崖を駆け昇るショートカットにより第三層はものの数分で踏破することが出来た。
そして続く第二層。
視界いっぱいに広がる険しき竹林の山。大竹林。
この階層の空は地上の時間と連動しているようで、すでに空が赤くなっている。間もなく日が落ちこの竹林も真っ暗になってしまうことを考えて、桃子も足早になっていく。
遠野の探索者により開拓されてきたのであろう山道を辿っていると、背後に背負った包帯男が、反応を見せた。
「ぐ……ここはどこだ……俺は……死んだのか……」
「桃子。こいつ。目が覚めたみたいだぞ」
「え? わ、っとと……あの、まだ生きてますよ! 今から探索者さんたちに頼んで、病院に連れていってもらいますからね!」
今は桃子が直接背負っているので、どうやら【隠遁】も効力を失っているらしい。
朦朧とした意識のまま、男性が声をあげる。
「俺は、巨大魚に食われたんじゃ……」
「ち、違います! あのクジラはあなたたちを助けてくれたんです。えと、人魚姫のところに保護して、ずっと治療してくれてたんですよ! クジラと人魚姫が、助けてくれました!」
「そうか……助けてくれたのか……そ、そうだ! イリアは? 彼女は……うっ……!」
桃子は男性を背負ったまま、声を荒げる。もしかしたら、大怪我をしたほうの女性は、彼にとって大事な人だったのかもしれない。
「ああもう、無理しないでください! ええと、女性の方もクジラが助けてくれました! 怪我が酷かったので、まだ人魚姫が治療してくれてますけど、無事ですからね」
男性も心配ではあるが、それと共にこの男性にはペルケトゥスと人魚姫が人間の味方であると証言してもらう必要がある。男性が意識を取り戻したのをこれ幸いにと、繰り返しアピールした。
クジラと人魚姫は、あなたを助けてくれた、敵ではないのだ、と。
「そうか……クジラが……しかし、キミはいったい……」
「あー、えーと、私は、萌々子です。座敷童子です! 人魚姫の友達で、あなたのことを任されたんです」
状況説明が難しい。
琵琶湖ダンジョンでクジラと人魚姫に助けられ、連れ込まれることになる病院が遥か遠い岩手県の病院というのは、桃子でなくとも訳がわからない。
よって、桃子はまたもや座敷童子に押し付けることにした。最近は、困ったら萌々子ちゃんのせいにしておけばいいやとか思いつつある。
「桃子。最近。やっぱり。開き直ってきたな」
ヘノにまで言われてしまった。
「座敷……わらし……」
「ほら、まだ毒がまわってますから、眠っててくださいね。絶対に助けますからね」
「ああ……ありがとう……」
そうして男性は、再び眠りについた。
やはり、半魚人の使う毒はまだ彼の身体を蝕んでいるのだろう。
この毒もどうにかしなければいけないなと、桃子は強く思うのだった。
「ちょっと。変な妖怪が。多いな」
竹林の中は、ヘノから見ればたいして強くはないものの、マヨイガとは違う妙な妖怪が多く出没した。
蓑から油瓶を垂らしただけのよく分からない妖怪は、なんだか分からないが倒したら油瓶を落としていった。
桶で小豆を洗っている妖怪は、近くを通ったら小豆を投げてきた。ちょっと痛かったが、離れたらまた小豆を洗い出した。
古来より、日本の妖怪というものは行動原理がよく分からないものも多い。
しかし、中には普通に人間を襲ってくる危険な妖怪も当然潜んでいるわけで、もう薄暗くなってきた竹林を進む足をとめ、桃子はヘノに提案する。
「ヘノちゃん、どこか人とかいるかな? もう暗いし、私がうろうろするより、人を探した方が早いかも」
「わかったぞ。なら……」
ヘノが空中に高く舞い上がり、しばらくの間集中する。
一陣の風が吹き、竹と竹のぶつかる音があたりに響く。
「桃子。こっちだ。こっちのほうに。人間みたいな。気配がするぞ」
風に乗って気配を感じ取ったのだろう、桃子のそばまで降りて来たヘノが右側の竹藪を指さす。
竹の中を進んで行くことになるかと思ったが、地面をよく見れば人が通ってきたのだろう踏み固められた道が存在していた。
ヘノの明かりを頼りにその道を進むと、確かに先の方に探索者のものと思われるランタンの光が揺れている。
光に誘われるように桃子が近づくと、恐らく今から地上へ戻るのだろう、ダンジョンの素材などを詰めた籠を背負った探索者たちが見えた。
「すみませーん!」
桃子が声をかけるが、【隠遁】の効果で恐らくは普通に声をかけただけではうまくは認識されていないだろう。
なので桃子は、近づいて一番近くにいた長身の男性探索者の袖をクイと引っ張って、見上げるかたちでもう一度声をかけた。ヘノはその間、少し離れたところで見守っている。
暗くとも、これだけ近づけば桃子が背負う探索者の姿くらいは認識できるだろう。
「すみませーん! この人、お願いします!」
「え……え……? え?!」
「あれ、これでも気づいてないのかな? うーん、【隠遁】はこういう時が本当に不便だなあ」
目の前で怪我人を背負った桃子が声をかけたのだが、長身探索者はただただ「え」を繰り返すだけだった。
相手からはどう見えているのだろうか。宙に浮いた怪我人が声をかけてきたように見えるのか、はたまた怪我人もろとも【隠遁】の効果で見えなくなっているのか、当事者の桃子からは判断がつかない。
改めて桃子は、もう一度クイっと男性探索者の手を引いて、声をかける。
「この人、毒が回っているので、病院まで連れていってあげてください!」
少なくとも、手をつかんで互いに触れている状態ならば、自分の声が【隠遁】を超えて認識できることは知っている。
そして、長身探索者の返答を待たずに、背負った男性をグイっと押し付けるように差し出した。
「あ、え、みず……ぎ……じゃなくて、怪我人?! おいあんた、大丈夫か! おいみんな来てくれ! いま、も、も……いや、ここに重傷者が!」
なんだか一部変なことを言っていた気もするが、とりあえず怪我人を受け取ってもらうことが出来た。
喧騒に気づいた仲間の探索者たちも周囲から集まってきたため、桃子はスイっと身を引いて、離れて隠れていたヘノと合流する。
「ええと、とりあえずは大丈夫かな?」
「よかったな。桃子。これで。一件落着だな」
「うーん、まだ一件落着ってわけじゃないんだけど……」
見れば、いきなり現れた怪我人を囲って、探索者たちは大騒ぎになっている。
そういえば、パッと見では血のこびれついた包帯などを巻いていて、とんでもない重傷者に見えるのだった。しかも、包帯を巻く際に外したのだろう、探索者端末などの身元を保証するものも身に着けていないので、暗い竹林から急に現れた不審な重傷者だ。
とはいえ、いくら不審だからといって、怪我した探索者を見捨てて帰ってしまうということもないだろう。
聞こえてくる会話からして、どうやら地上のギルドに信号を送り、医療スタッフを用意してもらっているようだ。あとは彼らに任せておけば大丈夫と、桃子は安心する。
「ところで桃子。タケノコは。どこになってるんだ? 上の方か?」
「ヘノちゃん、タケノコは土の中にあるんだよ。今日はもう暗いから、ちょっと難しいよ」
さて、周囲は気づけばもう夜だ。
ヘノがうっすら光っているし、心なしか竹林の所々に魔法の光が灯っているために、真っ暗闇ということはないのだが、それでも今からタケノコを掘るのには無理がある。
そもそも道具もなにもないし、もう慣れてしまったものの、実はずっと水着姿だ。
「なんだ。タケノコって。ジャガイモの仲間だったのか。ちょっと。面倒臭いんだな」
「ジャガイモとも違うけどね。今度、掘る道具とか持ってきて、一緒にさがそ」
「わかった。じゃあ。明日だな」
「気が早いね、ヘノちゃん」
竹林さえ抜ければ、夜でも明るい深淵渓谷と、昼夜がさほど関係ないマヨイガ。
それなりに帰りの道のりはあるけれど、ヘノと二人ならぴょんぴょん跳ねていけばすぐに妖精の国へ帰れるだろう。
桃子は、大騒ぎの探索者たちをよそに、ヘノとダンジョンの奥へと続く道――家路につくのだった。
【遠野ダンジョン専用 休日の雑談スレ】
:萌々子ちゃんを守る会、意外と立候補者多いらしいw
:サカモトが参加表明してるらしいな。あいつ深援隊どうするんだ。
:深援隊も遠野にホーム作っちゃってるし、この半年で立派な遠野のパーティよ
:いまギルドから書き込んでる なんか大変なことになってる
:詳しく
:どうしたの。
:なんか大怪我してるやつが運び出されてきたんだけど、誰だか分からないってギルド職員が大混乱中
:なにそれ、顔が認識できないほど大怪我してるってこと?
:そうじゃなくて、ちらっと見たんだけど血まみれの包帯してる男の人なんだけど、端末も未所持で受付に記録もないって
:事件だな。
:最近は毎週のように事件があるなここは
:ちょっとギルドに行ってみるかな
:俺も行ってみる
:野次馬ニキらフットワーク軽くて好きよ
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:聞き込みレポート 発見者は竹藪で素材集めしてたパーティで、萌々子ちゃんと思われる水着の女の子から怪我人で毒を受けてますって押し付けられた、と証言している
:なんで水着
:そいつはもっと詳しく尋問せねばなるまい
:萌々子ちゃんが怪我人を連れてきたってこと? 生きてるの?
:生きてはいる ちらっと見たけど包帯の血の跡はすごかったが出血なんかは止まってたようだ
:座敷童子って結構上の層まで登ってくるんだな
:ここの毒っていうと、妖怪か? それとも毒キノコとか毒草かな?
:わかんないけど、その怪我人は救急車で運ばれていった
:萌々子ちゃんが怪我人守ってるんじゃん 守る会しっかりしろよ
:座敷童が水着を着てることに疑問を持たないお前たち大好き