ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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Leagadh an Vampire

 ツヨマージの力を全開にしたヘノがこの広大なロビーの空域を支配し、柚花と桃子が英霊の周囲の魔物を引き受ける。

 だが、さすがに第四層であり、不死者の王が支配する城塞だ。戦っても戦っても、不死の魔物たちは次々と湧き出てくる。

 はたして、どれくらい戦っていただろうか。ようやく英霊たちがロビーを覆う結界を完成させたことで、この場での戦いは一時的に終結を見せた。

 

『すまない、キミたちの助力に感謝する!』

 

 桃子たちとともに戦ったはずの幾人もの英霊たちは、ロビーの戦いが終わるや否や、それぞれが光の珠へと変化し、次々にこの城の奥へと飛び立っていく。

 

「はぁ……なんですか、英霊って随分忙しいんですね」

 

「仕方ないよ。城の中はさ、きっといまも戦闘中だもん……でも、私はちょっと、水、水を飲もう」

 

「この階層は。瘴気が特別濃いからな。桃子たちは。いつもよりも。影響があるかもな」

 

「ああ、だからこんなに息切れするんだね……」

 

 一方、桃子と柚花はかなりの疲労である。どうやらヘノが言うには、この疲れは瘴気の影響も大きいらしい。

 終わりの見えない戦いというのは、今までも幾度も経験してきたことだ。弱音を吐くつもりはない。

 けれど、ここはまだ、城の門を潜りひとつ目の部屋でしかないのだ。

 城の奥ではすでに先行した英霊たちやりりたんが戦っているはずなので、ゼロから全て戦わねばならないわけではないにしろ、先行きを考えると明るい気持ちにはなりようもない。

 

「このロビーは、英霊10人がかりで結界を張ったから、しばらくは大丈夫だよ。ゆかたんちゃん、スズランちゃん、私たちも行こう」

 

「ふぅ……さすがにイチゴさんはタフですね、疲れとかないんですか?」

 

「そりゃ私も死者の端くれだからねー」

 

 ハーメルンの笛吹きは、あくまで死者たちの心残りが集まって生まれた存在というだけであり、厳密には彼女自身は死者ではない。

 けれど、彼女は自身を死者と定義している。

 だから、疲れない。

 理論としては暴論もいいところだが、桃子も柚花も、今は少しでも息を整えるために、ツッコミの言葉はでてこない。

 

「行こうとは言っても、どこに行けばいいのかな。ヘノちゃん、わかる?」

 

「さすがに。瘴気が濃すぎて。わかんないな」

 

「先輩。こういう場合の相場は決まってますよ。とにかく高いところです! 上を目指しますよ!」

 

 立ち上がり、柚花が天井を指さして、断言する。

 ここが魔王城ならば、主がいるのは最上階。必ずしもそうとは限らないけれど、当てもなくうろうろするよりはわかりやすいだろう。

 

 そうして、桃子たちはただただ、城の上階を目指すこととなる。

 

 

 

 

 桃子たちはいま、巨大な渡り廊下を歩いている。

 上を目指すとは言ったものの、やはりここは城の形をしてはいるもののダンジョンだ。上を目指そうにも、空間がところどころマヨイガのごとくねじ曲がっており、道のりは順調とは言い難い。

 いまも、下手をすれば外観の高さよりも上まで有るのではないかという螺旋階段をアンデッドたちと戦いながら上り切ったところだ。

 螺旋階段を上った先は、別の塔と繋がる渡り廊下だった。天井は高く、やはり空間としては巨大である。

 

「この城、外から見ても巨大でしたけど、中はめちゃくちゃに広いですね」

 

「うん。ダンジョンにしては小さいと思ったけど、そんなことはなかったね」

 

「広々としてて。戦いやすいな」

 

「ヘノちゃんにはそうなのかもねえ」

 

 救いがあるとすれば、桃子たちが進む通路は、すでに別な英霊、もしくはりりたんによってほぼ殲滅されたあとである、ということだろう。

 足下には数多の魔石が転がり、現れる魔物たちの量もロビーのときほどではない。

 

 この渡り廊下にも、絵画から現れる死霊のようなものがちらほら出現するものの、数は少なく、柚花やヘノが八つ当たり気味に遠距離から魔法ではたき落としている。

 そんな、渡り廊下を中ほどまで進んだところだろうか――。

 

 

 ズシン

 

 

 突然の揺れ。そして、どこからか爆発音と、大規模な破壊音が聞こえてきた。

 

「え? なに? 今の爆発は……?!」

 

「桃子。いたぞ。魔女だ。……外だ!」

 

 それに気がついたのは、ヘノだった。

 ヘノは真っ先に、渡り廊下を覆うステンドグラスへと、圧縮した暴風を力任せに叩きつける。ガシャアン! という派手な音とともに、ステンドグラスは煌めきながら屋外へと破片をまき散らして消えていく。

 

 そして、外から風の吹き込むその穴から見えたのは、先の方に見える、この不死者の城の、天守塔だった。

 その巨大な壁面が崩れ落ち、その中からは、巨人が――いや、巨大な漆黒のゴーレムが姿を現し、全てを破壊するかのように暴れている姿が見えた。

 そして、その手には。

 その巨大な右腕に握られたのは、艶のある黒髪と、若草色のセーラー服。力なく下げられた腕からは、赤い色が流れ落ちているのが、遠目からにも見える。

 そのすぐ横では、赤く煌めく光――ちいさな妖精が必死に魔法を放っているが、巨大すぎるゴーレムには焼け石に水のようなものだ。

 

「りりたんっ!!」

 

「桃子。行くぞ。あの巨人。壊すぞ!」

 

 頭で考える間もなく、桃子の身体は動きだした。

 ヘノが、全力のつむじ風の魔法を桃子の両足にまとわせ、桃子は迷いなく、その割れた穴から外へと高く、翔びたつ。

 渡り廊下はかなりの高所ではあるものの、周囲には城塞の塔や外壁、破壊されたオブジェクトなどが存在し、足場がないわけではない。

 

「先輩っ! サポートします!」

 

 背後からは、破壊された渡り廊下の窓から身を晒した柚花が、空中に舞う悪霊たちを電撃ではたき落とし、桃子の妨げになるものを排除していく。

 言葉もない。けれど、阿吽の呼吸だ。桃子は柚花を信頼し、屋外の空を舞う悪霊たちには見向きもせず、りりたんの元へと最速で空を駆けていく。

 

 

 

 

「桃子。このまま。全力で叩くぞ!」

 

「わかった! 目指すは頭!!」

 

 ヘノが大気を操り、桃子を追い風で高く上空へと巻き上げる。

 桃子はヘノの風を受け、塔から塔へ跳ね、ときに壁を蹴り、巨大な城塞の上空を翔ぶ。

 

 風が桃子を包み込む。

 この風は、ヘノの力だ。

 ここがたとえ、瘴気に覆われた不死者の城であろうとも、落下すればただでは済まない上空だろうとも。

 ヘノとともにいる限り。ヘノの風に包まれている限り。桃子に、恐怖はない。

 

 次々と、清浄な白い光が桃子へと降り注ぐ。

 これは、空を駆ける桃子に気づいた数多の英霊たちの祈りだ。桃子に、その聖なる力を託すということだ。

 

「私、りりたんに言いたいことが沢山あるから……! 怒ってることもたくさんあるからっ!!」

 

 風とともに舞い上がり、巨大なゴーレムの頭上をとる。

 桃子はハンマーを振り上げ、ありったけの魔力を込める。英霊の光。緑色の風。破壊を司る紅珠の力。そして、桃子自身の莫大な魔力。

 それら全てが、ハンマーを包み込む。

 

「だから、だから……っ!!」

 

 ゴーレムの右手に握られたままのりりたんと、視線が絡み合った気がした。

 

 

「りりたんを、返せえええぇぇっ!!!!」

 

 

 一撃。

 

 

 ハンマーに込められた全ての力が絡み合い、瞬時にそれは、途方もない魔力の爆発となる。

 そして、まばゆい光とともに。巨大なゴーレムの上半身は、吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ。本当に、危ないから来るなと忠告したというのに、ももたんたら」

 

 爆音と、粉塵。そして吹きすさぶ暴風のなかで、少女の声が響く。

 

「でも、助かりましたよ。おかげで、あの不死者の王を滅ぼすための魔力を練る十分な時間が稼げました」

 

 少女が見据えるのは、決して巨大なゴーレムなどではない。それを操っていた、数多の死霊たちを従える不死者の王の姿だ。

 桃子が引き起こした魔力の爆発によって、不死者の王との戦いを邪魔する塵芥は全て消え去った。ようやく、魔女の反撃の時間が訪れた。

 破壊された城壁を境に、深潭の魔女と、不死者の王がにらみ合う。

 

「本当は、もっと素敵な詠唱で決めたいところですけれど、この魔法には、すでに素敵なかけ声がありますから――」

 

 深潭の魔女の身には、いくつもの聖なる光が宿っている。

 これは、ここまで共にやってきた、英霊たちの力だ。

 そして、ここまで共にやってくることの出来なかった英霊たちが、最期に託した力だ。

 

 英霊たちだけでは、どれだけ抗おうと、願おうと。不死者の王の絶大な力を打ち破ることはできなかった。

 深潭の魔女だけでは、"人間の少女の身体"が、この濃厚な瘴気の中での戦いに耐えられなかった。

 けれど、今ならば。

 英霊と、魔女が共に在るならば。

 

 終わりなき不死を、討つことができる。

 魔女は、己の力で作り出した『魔導書』を片手に、不死者の王へと向けて、その魔力を解き放つ。

 

 

「滅びよ魔物! 【フレアバースト】!」

 

 

 魔女が、最大の魔力を込めて唱えた獄炎の魔法は。

 壮絶な爆音と、衝撃を伴って。

 

 呪われた空を、赤く、赤く照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、先輩。そろそろ起きませんか?」

 

 桃子の耳に、とても安心する声が届く。

 

「ふふふ。せっかくボスを倒したというのに、爆発で吹き飛んで気絶するなんて、いくらなんでもあんまりですよ?」

 

「桃子は。ハンマーに力を込めすぎると。いつも吹き飛ぶんだ」

 

「スズランちゃん、頑丈でよかったねー」

 

 そして、その声は一人だけではない。

 みんな、桃子にとって大切な人たちの声だった。

 桃子の意識は、少しずつ、少しずつ。ゆっくりと表層へと浮上していく。

 

「むにゃ……ニンニク、入れすぎだよぉ……って……あれ? カレーは……? いてて」

 

 桃子は、夢から覚める。

 たった今まで仲間とカレーを作る夢を見ていたのだが、気づけばそこにカレーはなくなっていた。

 朦朧とした頭で、むくりと上半身を起こす。なぜだか、身体中がひどく打ち付けられたように痛い。

 

「桃子。起きたか。ここは教会だぞ」

 

「え? ヘノちゃん? あれ、第四層は? 英霊のみなさんは? ニンニクカレーは?」

 

「先輩、一気に魔力を使いすぎて気絶してたんですよ。戦いは終わりましたし、英霊の方々は帰っていきました」

 

「じゃあ、カレーは?」

 

「それはきっと。桃子がみてた夢だな」

 

「そっかー」

 

 桃子が周囲を見回すと、そこは第一層にある教会だった。

 どうやら、最前列の信徒席に桃子は寝かされていたようだ。すぐ横を見れば、マリア像が優しく桃子にほほえみかけている。

 そして。

 

「おはようございます、ももたん。ふふふ。ニンニクたっぷりカレーのおかげで、勝利できました。ニンニクは悪霊を退けるというのは、本当だったのですね」

 

 セーラー服をぼろぼろにしたりりたんが、そこにいた。

 いつもならば魔力で身を護っているはずのりりたんの服が、ぼろぼろだ。所々は破れ、すり切れ、そして赤黒い跡すら残っている。

 足下を見れば、ローファーもどこかでなくしてしまったのだろう。りりたんは素足で――。

 

「りりたん……その足……」

 

「ふふふ。ももたん、今は私のことなどどうでもいいでしょう? ほら、立ち上がってください。外に出るのですよ」

 

「え? え?」

 

 桃子の都合などお構いなしに、りりたんは桃子の手をとると、教会の入り口へと引っ張っていく。

 ステンレスの扉には、すでに柚花が手をかけて、桃子が訪れるのを待っていた。

 

「じゃ、あけますね。先輩も、しゃきっとしてくださいね」

 

「あ、うん……?」

 

 そして、柚花が扉をあけると。

 

 

 教会前の広場には、数多の探索者の姿があった。

 いや、彼らの身体はほのかに白く光を帯びている。彼らは――。

 

「え、英霊……さん、たち」

 

『お、目覚めたか。お嬢さん』

 

『私たちは、あなた方の尽力に感謝します。そして、いつか来る災厄の日には、我らも力を貸すことを誓おう』

 

「ふふふ。どうやら交渉は、大成功のようですね。来た甲斐がありました」

 

 数多の英霊たち。

 探索者としての装備を備えた姿のもの、羽衣のような衣装に身を包んだもの、すでに形もおぼろげで、今にも消えてしまいそうな光で構成されているもの。

 彼ら全てが、この地を守り続けた英霊なのだ。

 

 りりたんが先頭にたち、英霊たちのリーダーと思われる強い光と挨拶を交わす中、桃子も慌てて頭を下げる。

 すると、そんな桃子の前に、二人の英霊がふわりと、歩み寄ってきた。

 

『あなたには、私たちの"心残り"が、迷惑をかけたわね』

 

『すまないね。うちの孫を……よろしく頼むよ』

 

「イチゴちゃんと、コカゲさん……?」

 

 その二人は、ミュゲットのセーラー服に身を包んだイチゴと、質素な和装に身を包み、その手に竹でできた細い横笛を手にしたコカゲの二人だった。けれど、桃子にとってのイチゴ――ハーメルンの笛吹きはすぐ横に立っている。

 ならば彼らは、その元となった……"心残り"の持ち主なのだろう。

 

『その子を――私たちの生み出してしまった"ハーメルンの笛吹き"を、よろしくね。後輩さん』

 

 彼女は、それだけを言い残すと、静かに光となって、消えていく。

 気づけば、その場に大勢居た英霊たちもまた、光となっていく。彼らの居るべき場所に戻るのだろう。

 

「先輩、先輩! ありがとうございました……!!」

 

 桃子は、遠くへと消えていく名も知らぬ先輩に届くようにと。

 声を張り上げて、別れの言葉を紡ぐのだった。

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