ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 百物語
とっても怖い話


 長崎旅行の最終日。

 奈々が用意してくれたホテルの一室には、桃子、りりたん、奈々の元々の宿泊客3人に加えて、ハーメルンの笛吹き事件の騒動で長崎へと訪れた柚花が宿泊客として追加されていた。

 元から魔法協会が用意したVIP向けの大きな客室であり広さ的には問題なかったのだが、急な人数の変更にも対応してくれたホテル側には頭が下がる思いである。

 

 昼には長崎ダンジョン周辺の街でのショッピングや観光を満喫し、夕方にホテルへと帰還して。

 桃子と柚花が入浴を済ませ、濡れた髪にタオルを巻いた姿で、客室の居間へと戻ってきた際のことだ。

 

 

「ももたん、ゆかたん、夜になったら百物語をいたしましょう」

 

 桃子と柚花が入浴を終えて、頭にタオルを巻いたままの姿で居間へと戻ってくると、ヘノと二人で過ごしていたはずのりりたんが、唐突にそんなことを言い出したのだ。

 なお、奈々は現在は魔法協会の長崎ダンジョン支部へと出向いている。長崎ダンジョンでの事件の報告などで、彼女は連休だというのに色々と多忙なようだ。

 

「百物語って、怪談話をみんなで話していくっていうアレのこと? 話をしたら、一つずつ蝋燭を消していくっていう?」

 

「ええ、心霊現象などの体験談を、順番に語っていくアレです。せっかくのお盆ですし、いい機会ではありませんか?」

 

「つい先日、ダンジョンで敵も味方も死者だらけの事件を起こしておいて、今さら心霊現象もなにもなくないです?」

 

「いえ、ダンジョンのアンデッドたちと地上の怪談話は別物です。情緒や風情が違うのですよ」

 

 柚花が、桃子の髪にふわふわのタオルをかけて水気を吸い取りながら、りりたんに辛辣なツッコミを投げかける。濡れた髪はヘノに乾かしてもらうことも可能だが、ヘノのやり方だと髪の毛が逆に乾燥しすぎるきらいがあるので、丁寧なタオルドライのほうが髪質には優しいのだ。

 

 心霊現象についてはまさに柚花の言うとおりだった。

 なにせ、この場にいるメンバーは全員、ダンジョンの奥で英霊たちと協力し、不死者の王の率いるアンデッド軍団と戦っていたのだ。敵も味方も死者しかおらず、もはや幽霊を信じるとか信じないとか言うレベルの話をとうに通り過ぎていた。これ以上の心霊話などあるのだろうかと、甚だ疑問である。

 しかし、どうやらりりたんが求めているのは『情緒や風情』だそうだ。

 そう言われてしまうと、一般庶民である桃子としてはりりたんの言いたいことも分かる。

 

「ヘノも。百物語っていうの。さっきのテレビで。なんとなく。覚えたぞ」

 

「あー、テレビの影響かあ」

 

 りりたんの後ろで、窓の外から見下ろせる街並みを眺めていたヘノが、会話に加わってきた。

 桃子と柚花が入浴中、どうやらヘノはりりたんと共に地上のテレビを視聴していたようだ。言われてみれば、客間のテレビのスイッチがつけられており、賑やかな芸能人たちのトーク番組が流されたままになっている。お盆だけあって、桃子たちの入浴中に怪談番組でも放送していたのだろう。

 つまり、りりたんとヘノはテレビの影響を受けたのだ。妖精ならではの影響されやすさである。

 

「でも、百物語って言われても、そんな話すぐには思いつかないなあ……」

 

「ふふふ。大丈夫ですよ。大切なのは雰囲気ですから、そこまで本気の恐怖話ではなくとも構いません」

 

 正直な気持ちを言えば、桃子は心霊の類いは苦手な部類である。

 ダンジョンで幽霊と肩を並べて戦おうと、ひたすら不死者たちをハンマーで叩きのめそうと、それとこれとは別なのだ。まさに、りりたんの言う『情緒と風情』が違うのだ。

 しかし、そのように迷いを見せる桃子だったけれど、ヘノの言葉が桃子の背中を押す。

 

「ヘノは。やりたいぞ。とっておきの話があるから。桃子たちにも。聞かせてやるぞ」

 

「うーん、ヘノちゃんがそんなにやってみたいなら、私もやってみるかな。怖いけど、頑張る!」

 

「先輩が参加するなら、もちろん私もノーとは言いませんよ。付き合いますね、先輩」

 

「ふふふ。では、全員参加ですね。奈々たんが戻ってくる前に、百物語の準備を進めてしまいましょう。腕がなりますよ」

 

 心霊話が苦手な桃子も、珍しくヘノがやりたがっているのならばノーとは言えず、そのままりりたんに押し切られる形で百物語の開催が決定するのだった。

 

 

 

 

 奈々は先日の事件の影響で、休暇の旅行中にも関わらず魔法協会での作業が発生してしまっており、彼女が帰ってきたのは日が沈んでしばらくしたあとの時刻だった。

 

「え? 私も百物語に参加するんですか!?」

 

「ふふふ。当然です。ななたんは地上の怪異担当部署なのですから、むしろ怪談話なんてお手の物でしょう?」

 

「うーん……まあ、あとから考えると背筋が凍る話はいくつかありますが」

 

「なら、それをお願いいたしますね」

 

 奈々にしてみれば、ホテルに戻った途端に少女たちが百物語の準備を進めているのだから、まさに寝耳に水だろう。

 もっとも、準備といっても、ホテルから人数分のランタン型ライトを借りてきて、電化製品などの光を発するものに厚手の布を被せただけだ。カーテンは厚手の遮光カーテンが備え付けられていたので、この状態で照明を消したら室内は真っ暗になる。

 なお、準備の大半は、言い出しっぺのりりたんが率先して行っていた。

 

「先輩。なんだかあの子、随分とノリノリじゃないですか?」

 

「りりたんってさ、実はこういう庶民的な遊びとかイベントごと大好きなんじゃないかな」

 

「深潭の魔女の意外な素顔ですよね」

 

 桃子と柚花は、エアコンの効いた室内で冷えたお茶を飲みながら、うきうきと準備を進めるりりたんを眺めていた。

 桃子は今回、一緒に旅行をしたことで、天海梨々という少女に近づけた気がしている。

 これで、一緒に遊ぶ内容が『百物語』でなければよかったのにな、と。桃子は喜びと抵抗が同居する、実に複雑な感情を味わうのだった。

 

 

 

 

 

「では皆さん、ただいまから『百物語』を開催しますよ。今宵語られるのは、世にも恐ろしい心霊話の数々です。順番に語っていき、それぞれ話し終えたら手元のライトの灯りを消していってくださいね」

 

「面白いな。これ。魔力で光るわけじゃないんだな」

 

「ヘノちゃん、暗いところでライトをちかちかしないの」

 

 全員で、部屋の中央に輪になって座る。

 室内の照明は全て消してあり、光を発する家電などには上から布を被せて光を遮断してある。

 それでも今は、各自の前に設置された5つのライトが灯っているので、決して部屋は暗くはない。けれど、これから一つずつ、この灯りを消していくことになる。

 なお、いつもなら桃子の肩に乗っているヘノもいまは参加者としてカウントされており、LEDの明かりの灯る、ランタン型のライトを興味深そうにいじっていた。

 

「では、順番を決めてしまいましょうか。今宵、どなたか最初にお話ししたい方はいらっしゃいますか?」

 

「ヘノが話すぞ。さっきのテレビ見てたら。似たことがあったのを。思い出したんだ」

 

「ヘノちゃんが、怪談話かあ……」

 

「妖精って、幽霊とかを怖がる感覚ってあるんですかね」

 

 りりたんの問いかけに、ヘノが真っ先に手を挙げる。

 テレビでいったいどのような内容の怪談話を放送していたのか、ヘノは妙にやる気に溢れていた。

 はたして、妖精の語る怪談話とは、どのようなものなのだろうか。

 これはもしかしたら前代未聞の試みなのではないかと、桃子のなかの好奇心が首をもたげてくる。

 

 

 

 

「これは。実際にあったとっても怖い話だぞ。あるとき。ヘノが。夜に妖精の湖の様子を見に行ってたんだ」

 

 冷房器具のモーター音だけが鳴り響く室内で、ヘノが淡々と語り出す。

 もとから声にあまり感情の乗らないヘノだが、いまは明かりを消し全員が静かに聞いているからだろうか、どことなく、聞くものの恐怖を煽るような語り口にも聞こえてくる。

 語られているヘノの話は、夜の妖精の国であった出来事のようだ。

 桃子は、ごくりと。つばを飲み込んだ。

 

「そうしたら。どこからか。『めそめそ。めそめそ』っていう。正体不明の泣き声が聞こえてくるんだ」

 

「待って待って」

 

 桃子は、つい口を挟んでしまった。

 目の前ではりりたんが口元に指をたて「お静かに」のジェスチャーで桃子をたしなめている。

 桃子は手を合わせて謝った――けれど、心の中ではツッコミでいっぱいだ。妖精の国で『めそめそ』と泣く声の正体など、分かり切っている。正体不明もなにもない。

 

「ヘノがそこに近づいたら。ぼんやりと青く光る。めそめそ泣いてる。正体不明の女がいたんだ」

 

「いやいや……」

 

 柚花は、つい口を挟んでしまった。

 目の前ではりりたんが口元に指をたて「お静かに」のジェスチャーで柚花をたしなめている。

 柚花は手を合わせて謝った――けれど、心の中ではツッコミでいっぱいだ。妖精の国で、青く光って『めそめそ』と泣く少女など、ほとんど答えを言っているようなものだろう。それを『正体不明の女』で押し通すのは無理がありすぎる。

 

「その。正体不明のめそめそ泣いている女に。聞いたんだ。なんで泣いてるんだ。って」

 

 桃子たちの反応を全く気にせずに、ヘノは淡々と、マイペースに。

 あくまで『正体不明の女』についての怪談話を続けていく。

 

「そうしたら。言われたんだ。『あとで食べようと思っていたクッキーが、誰かに食べられた』って……」

 

 ヘノはここで、一度言葉を切る。

 そして、一呼吸おき。

 

「クッキーは美味しかったけど。ニムのお菓子を勝手に食べたら。なんか怖いから。駄目だな」

 

「……」

 

「……あの、終わりですか?」

 

「そうだぞ」

 

 オチが、オチていない。

 だが、どうやらヘノの話はこれで終了のようだ。桃子の心には、腑に落ちない、モヤモヤとした気持ちが溢れかえる。

 一方、ヘノはいつも通りの無表情気味だけれど、どことなくやりきった感がある。きっと、本人としては満足いく怪談話だったのだろう。

 

「あのねヘノちゃん。ニムちゃんのもの、つまみ食いしちゃ駄目だよ? ちゃんと謝った?」

 

「怖かったから。食べたことは言ってないけど。ヘノがとっておきのデーツをあげたら。喜んでくれたから大丈夫だと思うぞ」

 

「パートナー同士そろってつまみ食い犯じゃないですか。その食い意地は今後どうにかした方がいいですよ」

 

 

 

 

 結局、ヘノがつまみ食いしたというエピソードで一人目は終了だ。

 最後の柚花のツッコミが、桃子としてはどこか引っかかる気がしたけれど、桃子が考える暇も与えず司会進行のりりたんが百物語を進めていく。

 

「ふふふ。一つ目は恐ろしい話でしたね。ではヘノさん、ライトの明かりを消してください」

 

「あ、りりたんは今の話でも満足なんだね」

 

「まあ、妖精に人間基準の怖い話を求めても仕方ないところありますしね……」

 

 ヘノの話は一切恐ろしい話ではなかったが、りりたん的には及第点だったようだ。

 りりたんの求めるラインがよくわからず、桃子たちの困惑は加速するけれど、百物語はその調子で続いていく。

 

「では、次はももたん。あなたが身も凍るような話を披露する番ですよ?」

 

「あ、私かあ……ええと、自分で体験した話とかじゃなくて、人づてに聞いた怖い話でもいいかな?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 次の怪談が始まった。

 それまで話していたメンバーたちも、怪談話が始まると空気を読んで口を閉ざし、桃子の話に耳を傾ける。

 

「じゃあ……これは、本当にあったことなんだって。ニライカナイでカレーを食べてるときに、ヒカリさんに聞いた話なんだけどね」

 

「初っ端から幽霊に話を聞いちゃってるじゃないですか」

 

 冒頭からの出オチのような幽霊の登場に、柚花はやはり、ついつい口を挟んでしまうのだった。

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