ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「ヒカリさんは、和歌さんを含めた4人パーティだったんだけどね。とある暗い森で強敵と戦ってたんだって」
桃子は、静かに語っていく。
以前、ニライカナイでの決戦前に桃子、和歌、ヒカリ、エレクの四人でカレーを食べたときに、ヒカリに聞いた話だ。
これはヒカリが生前にとあるダンジョンで体験した、不思議な出来事だという。
「それで、パーティみんなで連携して戦ったの。でも、敵は強かった。特殊個体ほどじゃなくとも、それに準ずるくらいの魔物だったんじゃないかな……って」
ヒカリのパーティメンバーで、桃子が知っているのは和歌のみである。
他の二人は鵺に負わされた怪我が原因で探索者を引退したというが、ヒカリや和歌と並び立っていたというのならば、かなりの実力者だったに違いない。
そんな彼らでも手こずる難敵と戦っている最中のことだ。
「それでも、気づけばうまく連携が繋がるようになって、その魔物をめでたく撃破したんだ。でもね、魔物を倒したときに……気づいたの」
桃子は、ここで息をつき。
そして、じっくりとタメを作ってから、怪談話のキモを語る。
「連携していたメンバーが……一人、多かったんだって……!」
知らない間に増えている仲間。
それこそ、最近では『ハーメルンの笛吹き』という怪異がそのような存在だが、桃子がヒカリから聞いた話はそれとはもっと違うベクトルの、怖い話だった。
「ふふふ。それは不思議ですね。笛吹きでも増えていましたか?」
「違うの、違うの。魔物を倒して、皆で集まったらね――そこに、いたんだって」
「ゆ、幽霊ですか?」
奈々の言葉に、桃子は首を横に振る。
「知らないヒゲのおじさんが一緒に戦ってて、ものすごいテンションで全員とハイタッチして……一人で帰って行ったんだって!」
場に、沈黙が走る。
桃子の語る怪談話。それは、知らないおじさんの話だった。
最初にヒカリからこの話を聞いたときは、桃子もなんとも言えない不気味さに、絶句したものだ。
「いや、怖いですけど……」
柚花は何か言いたげに小さく呟くが、それ以上の言葉がない。
部屋に不思議な沈黙が通り過ぎてから、司会進行役のりりたんが口をひらく。
「ふふふ。二人目のお話も、身の毛のよだつお話でしたね。ではももたん、ランプを消してください」
「りりたんの恐怖判定、ガバガバすぎませんか?」
どうやら、桃子の語った話も、りりたんの判定では『身の毛もよだつ話』としてカウントされたようだ。
柚花は納得いかない様子でツッコミをいれているが、りりたんは柚花の言葉など聞こえていないかのようにスルーをしている。
進行に従い、桃子がランプを消すと、残りの灯りは3つ。
室内を照らす分には問題ない明るさだけれど、そろそろ部屋の隅の暗闇が気になってくる。
そして、次は桃子の横に座る柚花が話す番だ。
「じゃあ、私の番ですね。このメンバーでダンジョンの話をしても仕方ないので、地上で――うちの学校『聖ミュゲット女学園』に伝わる、ちょっとした怪談話です」
ごくり、と誰かが唾を飲む音が静かな部屋に響く。
はじめはヘノの拍子抜けな物語から開始した百物語だが、気づけば桃子も、この百物語の空気に飲まれていた。
「どこの学校にも七不思議っていうのはあると思います。まあ、先輩とかはよく知ってると思いますけど」
柚花は、ちらりと桃子を見やる。
桃子はこの春にめでたく『トイレの花子さん』としてデビューしたという経歴があるのだ。考えようによっては、七不思議界の大型新人である。
「聖ミュゲット女学園にもそういうのはあるんです。ベタな話ですが、動く人体模型とか、無人の体育館でボールの音が鳴り響く、とか」
それは、桃子も在学中に噂程度なら聞いたことがある。
当時はたいして気にしなかった噂話だったけれど、いざ後輩である柚花の口から語られると、母校の懐かしい理科室や体育館の姿がよみがえってくるようだった。
「ある日、学園のシスターが私に頼んできたんです。生徒たちの安全のためにも、私の【看破】で、七不思議がダンジョンに関連するような現象でないか確認してほしいって」
桃子の隣で、柚花は静かに語る。
LEDの明かりは蝋燭のように揺らめくことはないけれど、ライトに照らされた柚花の背後には、光の届かない暗闇がある。
桃子は、どことなくその暗闇に何かが潜んでいるような気がしてならず、そっと、柚花の手を握る。
時折訪れる沈黙に、どこかで『ペリ……ペリ……』と、何かをはがすような音が聞こえる気もしてくる。
「それで、私はクズ魔石を持参して調べてみたんですよ。まあ本当は地上でスキルを使っちゃ駄目なんですけど、人助けとして割り切って。まずは、放課後に体育館を覗いてみたんですが――」
柚花が、七不思議とされる場所をひとつずつ巡っていった話を語る。
そのどれもが桃子にとって懐かしく、桃子の在学中にも七不思議の不思議な噂が囁かれる場所だった。
そして、柚花は七つの場所を巡り終えると――。
「――結論から言うと、噂の箇所に変わったことは何もなくて、実際には怪現象なんてありませんでした」
柚花が、おどけるように言う。
それを聞いて、桃子は安心したような、拍子抜けをしたような、そのような感覚にとらわれる。
「ただ、最後に不思議なオチがありまして――」
しかし、柚花の話は続いていた。
「確認を終えて。最後に、何事もなかったことをシスターに報告しようとしたんですけど――そもそも、名簿を見ても、人に聞いても。初めから、そんなシスターはいなかったんです」
「ひえ……」
怖い話の定番だ。そんな人間は、はじめからいなかった。オチとしてはありふれたものだが、しかしこれは柚花の実体験として語られているために妙にリアルで、ぞわっとした感覚が桃子の背筋を襲う。
もっとも、桃子自身が『そんな幼なじみはいなかった』をつい最近経験しているのだが、それとこれとは別である。
「どういうことだ。いなかったなら。ちゃんと探さなきゃ駄目だぞ」
「いえ、ですからヘノ先輩。探したけど、そんな人はいなかった、っていうお話なんですよ。オチを解説させるのやめてくださいよ」
「大丈夫だ。後輩だったら。ちゃんと見つけられるぞ。頑張れ」
「待って待って、そうじゃないのヘノちゃん。いまのお話のオチはそういうことじゃないんだよ。頑張っちゃ駄目なお話なんだよ」
「なんだそれ。そこは頑張らないと。駄目だろ。後輩はやれば出来るやつなんだから」
「もちろん柚花はやれば出来る子なんだけど、この話ではやらなくて良かったんだよ」
「ちょっと二人とも、私が『やれば出来るかどうか』を主題にするのやめてくださいよ」
桃子の背筋がぞわりとしていたのは数秒のことである。ヘノによるトンチンカンなツッコミのおかげで、雰囲気は台無しになってしまった。
いっぽう、オチを解説させられた挙げ句、ヘノと桃子の愉快なコントに巻き込まれ『やれば出来るのにやらなかった子』みたいになってしまった柚花は憮然とした表情だ。
桃子に握り返す柚花の手には、少しだけ乱暴に力がこもる。
「私、ヘノ先輩たちの前で怪談を披露するのは金輪際やめますよ」
「ふふふ。三人目のお話も、絶叫が絶えぬ恐ろしいお話でしたね」
「りりたん、あなたもしかして周囲の状況とか何も見ないで進行してませんか?」
柚花が苛立ち紛れにツッコミを入れる。
確かに、柚花の話は怖くはあったものの、絶叫をあげたメンバーは一人もいない。りりたんが適当なコメントを述べているだけだということが、はっきり確定した。
だが、柚花は律儀に手元のランプをオフにする。ぐだぐだなコントのような終わり方になってしまったけれど、灯りを消していくとやはり怪談のおどろおどろしい雰囲気は増していく。
「では、次は私――りりたんが、みなさまを世にも奇妙な世界へとお連れしましょう」
「趣旨が変わってない?」
りりたんは百物語というより、奇妙な話を主題としたドラマ番組のストーリーテラーみたいになっていた。
「皆さんは、前世というものの存在を信じておりますか?」
「信じるもなにも……」
りりたんの質問に、桃子が代表して答える。
前世を信じるもなにもない。なにせ、この質問をしてきたりりたん本人が、先代の妖精女王ネーレイスの生まれ変わりという特異な存在なのだから。
桃子はりりたんの質問の意図がわからず、困惑した表情を見せる。柚花と奈々も、反応としては似たようなものだ。
「ふふふ。でも、かく言う私も昔は『前世の記憶』などと言うものは信じてはいなかったのですよ」
りりたんの言う"昔"とは、それこそ前世――女王ネーレイスだった頃のことだろう。
りりたんの続く説明に、桃子たちは静かに耳を傾ける。
「魔力や魂がリサイクルされることはあっても、記憶が持ち越されるなどと聞いたことがありませんでしたから」
輪廻転生をリサイクル呼ばわりするのはともかくとして。
どうやら、女王ネーレイスは、記憶の持ち越しというものは一切信じていなかったようだ。そのネーレイス自身が記憶を持って人間に生まれてきた実例になっているのだから、皮肉なものである。
しかし、何はともあれ。
りりたんが今から語る話は、『前世』にまつわる物語のようだった。
【フルーツ☆タルト所属 カリンの配信チャンネル】
パティシエのみんな、こんにちは! みんなのアイドル、カリンだよ!
今日は昨日の続きね。カリンの部屋で、みんなで百物語をしてるところだよー!
『みんなって言っても、三人だけで交代で怪談話をしてるだけですけどね』
『三人で百話するまでこの企画を続けるだなんて、どうかしてるわよ。ええと……今は何個目の話だったかしら?』
ええと、いくつだったっけ? パティシエさん、覚えてる?
ふむふむ、昨日の最後はカリンが猫を追いかけたら白いビニールだったって話で、60話目で終了したってさ。
『改めて聞くと酷い話ですね。怪談話じゃなくて、ただのドジ話じゃないですか』
えへへ、その時は本当に怖かったんだってば。だって、白猫が風にのって音もなく通り過ぎていくんだよ? 霊的なものを感じちゃうじゃん。
まあそれはともかく、次はリンゴちゃんだよ? 一晩あけたんだから、心霊体験の10個や20個思い出したんじゃない?
『私の人生で、心霊体験なんて一度きりともないわよ。でも……そうね、昔みた不思議なものを思い出したわね。クルミは覚えてる? 泣く巨人のこと』
『……ああ、いましたね! 小学校くらいか、もしかしたら幼稚園の頃でしたっけ?』
え、何の話? 二人とも知ってる話なの? ずるくない?
『ずるいと言われても、幼なじみだから仕方ないですよ。カリンさんも幼なじみになれば良かったんですよ』
ずるいじゃん! カリンも幼なじみ欲しい! 今から唐突に幼なじみ増えないかなー。
『幼なじみが増えることなんてあるわけないじゃない、おバカ。それより、泣く巨人っていうのはね、私とクルミが一緒に近所の公園を歩いてたら、大男がめそめそ泣いてたのよ』
『大男って言っても、当時の私たちからみたら大男ってだけで、今思えば身長が高めの中学生くらいでしたかね』
ふうん、それを泣かせたの?
『違うわよ。小さかった私たちが、慰めてあげたのよ。年上の姉に酷い目に遭わされてつらいって泣いてたんだったかしら? 私たち、相談に乗ってあげたのよ』
『私たち、かなり適当なこと言ってませんでした? マスクマンになれ、とか、ダンジョンで修行しろ、とか』
幼女二人が、ダンジョンでマスクマンになることを勧めてきたわけだね。
その泣きべそ巨人は、結局ダンジョンでマスクマンになったの?
『ダンジョンにマスクマンがいるわけないじゃない、おバカ。ただ、小さい女の子は素敵だーとかなんとか気持ち悪いことを呟いてたのを覚えてるわね』
『今思えば、普通に事案ですよね』