ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「そうですか、ニムが治療を……。ところで、もう一度伺いますが、リリ……たん、ですか?」
「女王。これで三回目だぞ。琵琶湖の魔女は。りりたんと。名乗っていたぞ」
妖精の国に帰ってから、真っ先に女王ティタニアの下へと足を運んだ。
そして、自らを魔女と名乗る少女、りりたんのこと。重傷の探索者たちのこと。そしてニムがその治療のために、りりたんの下に残ったことを説明する。
しかし、何も言わず話を聞いていた女王であったが、何故だか『りりたん』という名前を出すたびに困惑し、名前を聞き返してきた。
ヘノの言う通り、名前を聞き返されるのは三度目となる。
「あ、あのティタニア様。多分その……偽名というか、あだ名みたいなものですよ。さすがに本名ではないと思いますし」
「そう、ですよね。リリ……たん、ですか」
よほど、その名前が気になるのだろう。それでもなお、その名前を反芻している。
心ここにあらず、とはこういう風な人をさして言う言葉なのだろう。
「桃子。なんだか。女王は。考え込んでるし。今日のところは。さっさとカレー食べて、休もう」
「あ、うん。あのティタニア様、大丈夫ですか? 私たち、そろそろ……」
「あ、はい。すみません、ちょっと想像の斜め上でしたので……放心してしまいました。カレーは他の者に持ってきて頂きますから、本日は桃子さんはゆっくりお休みなさってくださいね」
桃子が呼びかけると、ハッと女王が我に返る。
相当気になっているのか、いつもよりもなんだか言葉が言動がふわふわしているが、まあ女王とてそういう時もあるのだろう。
女王の言葉に礼を返して、桃子とヘノは女王の間を後にする。
「ふぅ……今日は久しぶりに普通のカレーを大量に食べたねえ」
「普通のカレーも。異常に。美味しいからな」
実に奇妙な言い回しであるが、異常に美味しい普通のカレーをお腹いっぱいまで食べて、桃子とヘノはふわふわベッドに沈んでだらだらと蕩けていた。
いつものこととはいえ、ダンジョン内ではあっちへ行ったりこっちへ行ったり、あげく泳いだり担いでジャンプしたりと、よくもまあ水着姿でこれだけやったものだなと桃子は自分のことながら思う。
今はさすがに水着は裏の水辺で洗ってから干しており、寝間着姿になっているが。
「桃子。さっきの話だけれど。女王は。魔女の。りりたんの名前が。そんなに気になっていたんだな」
「ヘノちゃん、多分なんだけど、りりたんとティタニア様は知り合いだったんじゃないかな」
桃子の顔の横でふわふわに沈んでいるヘノが、先ほどの話を持ち出した。
実は桃子もずっと気にはなっていたのだ。女王ティタニアの態度もそうだが、りりたんは最初から女王ティタニアの名前を知っていた。
博識だなどと言っていたけれど、少なくともいま現在ここにいる妖精の女王の名前などは、どの本にも書かれていないだろう。もっと古い時代の、それこそ物語のような時代の妖精ならまだしも、だ。
「ヘノは。あの魔女をこの国で見たことなんてないから。女王と知り合いだったとしても。ヘノが生まれるよりも。もっと前のことだろうな」
「ヘノちゃんって、五年以上は生きてるんだったっけ? りりたんが15歳だから、最大でも十歳の頃……ううん、さすがに無理がないかなあ……ふあぁあ」
桃子もあれこれ色々と考えてみるが、結局は本人に聞かないと分からないことなのだろう。
なんだか無駄に頭の中がこんがらがってきて、そろそろ脳みそが働かなくなってきた。
そして、己の意思とは無関係に、ふと気づけば両の瞼が閉じようとしている。
「ん……桃子。今日は疲れてるだろう。そろそろ。お布団かぶって寝ような。ヘノが一緒に寝てやるからな」
「うん、抱っこしていい?」
「いいけど。苦しかったら。逃げるからな。桃子の寝相。たまに苦しいからな」
「うーん……がんばる……おやすみい」
そして、掛け布団を頭からかぶり、胸元にヘノを抱いて眠るのだった。
なお、ヘノは30分で苦しくなって脱出した。
「じゃあヘノちゃん、ちょっと行ってくるね」
「適当に。探索者たちでも眺めて。待ってるぞ」
そして日が明けて、ここはダンジョン第一層のゲート前。
つまり、房総ダンジョンの入り口だ。
桃子はヘノとタケノコ掘りの約束こそしたものの、道具も何もなく、そして今回ばかりはギルドにもある程度のことは報告せざるを得ないと判断して、ダンジョン外のギルドへと向かっている。
今更気づいても手遅れではあるのだが、琵琶湖の怪我人が遠野で救出されるなどどう考えてもおかしい。
昨日はとにかく病院へ運ぶことばかり考えていたのだが、今思えば萌々子ちゃんはそこら辺をあまり考えずに色々やりすぎた。
なので、ある程度の事情を把握しており、守秘義務を守ってくれているであろう房総ダンジョンの室長さんに、協力を仰ごうという魂胆である。
ダンジョン内のことならば桃子一人でどうにかなるかもしれないが、こと別々のギルドが関わってくると、桃子に出来ることなどない。ギルドにはギルド、という判断だった。
「あ、窓口さんいた! あのですね、ちょっといくつかお話があるんですけど大丈夫ですか?」
「あら桃子さん、おはようございます。ええと、では奥の部屋へ行きましょうか。ここでは話せない内容なんですよね?」
ギルドの一番奥の桃子が贔屓にしている受付窓口には、紛らわしい名前の窓口さんの姿。
最近は桃子が朝帰りや泊まり込みをしても慣れてきたのか、彼女もあまり驚かなくなった。むしろ、桃子が何も言わずとも話を先読みする窓口の察しの良さに、桃子の方が驚いた。
「わ、話がはやい。えと、はい。ちょっと、ここじゃ駄目かもですね」
「なるほど。では、室長も呼んできますね」
「ええとですね。単刀直入に言いますけど……」
房総ダンジョンの応接個室にて。
ソファに座って真剣な趣で重い口を開く桃子。そしてその正面に並んで座っているのは、千葉房総ダンジョン室長のヤマガタと、そして唯一桃子のスキルを把握している一般職員、窓口だ。
この二人を前にして、桃子は今まで守り通してきた秘密を告白する覚悟を決めていた。
「座敷童子の萌々子ちゃんって……私なんです」
「あ、はい、そうですね」
「だよね? ぼくたちもそうだと思ってたよ」
ふたりの反応は、滅茶苦茶に軽かった。
「えっ?! な、なんですかその反応?! わ、私としては一大決心だったんですけど……!」
「あのですね、桃子さん。その……なんと言いますか。正体を隠したいならせめて名前は変えた方が良いですよ」
守り通していた秘密がバレていたのもショックだったのに、更には普通に正論でアドバイスが返ってきた。
「だ、だって! そ、それはでも、サカモトさんが悪いんですよ、あの鎧の人!」
「わはははは。彼が名前呼んじゃったんだっけ? 探索者の男どもはそこんところ配慮出来なくてごめんね、桃子くん。本当に仕方ない奴らだよ」
そもそも『ももこ』という名前を配信カメラの前で暴露してしまったのはサカモトなのだ。桃子的には、それについてはとんだ巻き添えなのだ。
室長のヤマガタはその話を聞いて大笑いしているものだが、桃子的には笑い事ではなかった。
しかし、この話題を続けるつもりもなかったのだろう、窓口がどんどん話を進めていく。
「では桃子さん。こちらも単刀直入に進めさせていただきますが、おそらく仰りたいのは、昨日救助した男性が訳ありなので情報を隠しておいてほしい、とかそんなところでいいですか?」
「あ、はい。え、窓口さん超能力者か何かですか? 怖い……」
「そりゃまっ、キミが座敷童子ちゃんだとしたら、このタイミングの話ならそれしかないでしょう。まあぼくらが他所のギルドに直接言えるわけじゃないけど、それについては個人情報もあることだし、妖精案件だからね。偉い人づてに連絡してもらっておこう」
なんだか、桃子がここで相談しようとしていたことは全てお見通し状態だった。
自分の正体……というか、妖精の国であちこちに移動していることはばれないようにあれこれ配慮してきたつもりだったのだが、自分の努力に何の意味もなかったのかと、桃子はしょんぼりする。
が、それも数秒のこと。そもそも本題はそこではなく、ギルドという立場を持つ二人に頼みたいことは、別にあるのだ。項垂れている場合ではない。
「あ、あとですね。その救助した男の人にも関係してくるお願いなんですけど――」
「琵琶湖のクジラは妖精の友達で、人を助けただけ……か。いやはや、とんだどんでん返しじゃないか」
桃子は、この二人の守秘義務というものを信じることにした。
さすがにもう、この二人も妖精の国の特性は把握しているだろうから、詳細までは話さないにしても、琵琶湖で起きている事件についてのあらましは一通り伝えた。
とはいえ、魔女――りりたんについては、琵琶湖にいる妖精の仲間、という別な置き換えで説明させてもらったが。
「室長。それも、上の方の力でどうにかなりますか?」
「……桃子くんには申し訳ないけど、あれはギルドや魔法協会とはまた違う組織や企業が進めてる案件だから、直接止めるのは難しいな」
「そう、ですか……」
そういえば、和歌が見せてくれたあの仕様書にも、ギルドではなく、どこかの会社の企業ロゴがついていたような気がする。
やはりギルドの偉い人が協力してくれるとはいえ、ギルド外のことまではどうにもできないのかと、桃子は意気消沈する。
が。
「でも、聞いた限りでは、その怪我人が意識を取り戻して、真実を証言してくれればいいんだろう? なら、時間稼ぎくらいはやってやろうじゃないの」
「本当ですか? やった!」
時間稼ぎが出来るという言葉に、消沈していた桃子はすぐに浮かび上がってきた。
今のところの作戦は、討伐計画の前に解毒薬を作り、それで二人の探索者に目覚めてもらう。そして彼らに誤解を解いてもらう。それで解決。
つまりは、解毒薬を作る時間と、イリアさんという女性探索者の治療が終わるまでの時間。それを稼げれば大丈夫なはずなのだ。
これが、桃子とヘノが話し合った、事件解決へと至る作戦である。
「で、桃子くん。勝算は?」
「……きっと、大丈夫です! あ、あともう一つお願いがあります!」
「もうここまで聞いたら何が来ても驚かないよ。なんだい?」
ここで、ついでとばかりに桃子はもう一つのお願い事を口にする。
はじめての頃は緊張していた房総ギルド室長との面談だが、こう顔を合わせていると親戚のおじさんのようで話しやすく、ついつい気軽にお願いをしてしまう。
ちなみに、室長や窓口からみれば桃子は親戚の子供、いわば姪っ子のようなものとして認識しているので、お互い様だろう。
もちろん、実際にはそんな血縁関係は存在しない、架空の記憶である。
「タケノコ掘るためのシャベル、借りていっていいですか?」
少しの、沈黙。
妖精案件が結んだ、房総ダンジョン、遠野ダンジョン、琵琶湖ダンジョン。
それぞれ違う管轄で起きている問題ごとに頭を悩ませているところに、更に追加で落ちてきたお願い事は、まさかのタケノコ掘りのシャベル。
これには室長ヤマガタも、窓口も、ちょっとの間だけ思考が真っ白になってしまった。
「うん……うん? あー、シャベルってあったっけ、窓口くん」
「え? あ、はい。たしか倉庫にあるので、あとで準備しますね。桃子さん、あの、今からタケノコ掘りにいくんですか?」
「はい、頑張ってきます!」
「あ、うん。頑張ってくるといいよ」
ピッケルやシャベルなど、探索者向けの簡単な道具類ならばギルドで貸し出しも行っているので、何も問題はない。が、普通に驚いて、理解が遅れてしまった。それまでの話と、なんの関連性もなかったから。
余談だが、タケノコを掘るために道具を借りていった探索者は、房総ダンジョンにおいては桃子が初である。
そしてその後、窓口が倉庫からシャベルを持ってくると、桃子は笑顔でそれを受け取り、意気揚々とタケノコ掘りの場――もとい、房総ダンジョン内部へと帰っていく。
「いやあ窓口君、最近の子供は人助けしたりタケノコ掘ったり、アグレッシブだねえ」
「タケノコ……」
室長と窓口は深く考えるのをやめて、ダンジョン入り口へと消えていく小さな身体の大きな三つ編みを眺めているのだった。
【とある妖精たちの会話】
「おい。ルイ。毒草の妖精であるお前に。頼みがある」
「ククク……私はこれでも、薬草の妖精なんだけどねぇ」
「お前に。毒の解析と。薬草の調合を。頼みたいぞ」
「無視とは……ククク……まあいいよ、毒の実物は、あるのかい?」
「この血の付いた包帯に。毒がまだ。ついてるはずだから。頼む。お前だけが。頼りなんだ」
「まったく……大切な友人の頼みじゃあ、仕方ないねぇ」
「聞いたか! ヘノが! ルイに! 毒の調合を頼んでたって!」
「おやおや、それは大変な話ではないかね。一体誰に、飲ませようというのだね?」
「そりゃあもちろん! 悪い奴だろ! 悪い奴に毒を飲ませるんだろ!」
「なるほどねえ、謎は解けたよ。キミ。ヘノは、悪い奴に毒を飲ませようとしているのだね?」
「なに! そうなのか!」
「聞いた? ヘノが、悪者たちと一緒に毒を飲もうとしてるらしいヨ」
「それは、心配だよぉ。何があったって、言うんだろうねぇ」
「多分、先に倒れたほうが負ける、勝負だヨ」
「さすがヘノだねぇ。勇ましいんだよぉ」
「今度ヘノにあったら、勝てるように応援してあげるヨ」
「ヘノ、お酒ちょーだい♪」
「なんだ。どうしたんだ急に。別にお酒はないぞ」
「聞いたよ♪ 悪酔いする、お酒を買ってるんでしょ♪」
「買ってないぞ。なにがあったら。ヘノが。そんなものを買うんだ」
「酒は百薬の長だよ♪ さ、飲もうね♪ おいしいよ♪」
「なんだこいつ。さては。人の話。聞いてないな」