ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「ククク……なんだい、ようやく気づいたのかい……?」
「いくら桃子でも、もっと早く気付くかと思ってたヨ」
「え、ええ……?」
桃子たちは、妖精の国へとたどり着くや否や、妖精の畑へとまっすぐに足を運んだ。
目当ての相手は、普段から畑の薬草区画を取り仕切っている『桃子毒殺疑惑』の第一容疑者、ルイである。
そして、薬草区画にて薬草の妖精ルイと緑葉の妖精リフィが一緒に薬草の剪定作業をしているところを発見したため、桃子が意を決して『何者かに継続的に毒を摂取させられていた疑惑』について聞いてみたところ、いきなり二人の口から飛び出てきたのが上の台詞だった。
当の容疑者二人は、何も気にした様子もなく、桃子たちと会話を交わしながら薬草の余計な枝や葉の剪定を続けている。
「なんだ。本当にお前たちが。犯人だったのか」
「そうだヨ。桃子に気づかれないように毒を混入していくのは簡単だったのヨ。桃子はもっときちんと警戒した方がいいヨ。まったく、心配だヨ」
「え、ええ……?」
犯人がルイであることは、半ば予想はしていた。それ自体は、ことあるごとに毒を飲ませたがっていたルイのことなので、桃子もさほど驚きはしない。
けれど、まさか共にいるリフィまでもが共犯だったとは想像していなかった。さらに、犯人の一人であるリフィから警戒心のなさを指摘され、あげくには心配されるなどとは、桃子としては思いも寄らぬ展開である。
桃子は言葉を失い、ただただ繰り返し驚くだけの少女になってしまった。
「うぅ……も、桃子さんを、毒殺しようとしていたのが……こんな身近な仲間だったなんて……」
「いや、待って待って。ええと、私ってルイちゃんとリフィちゃんに命を狙われてたの?」
「そこ、滅多なことを言うんじゃないヨ! 桃子は妖精たちの大切な仲間だヨ、毒殺なんてするわけないのヨ!」
「うぅ……お、怒られちゃいました……めそめそ」
ニムの物騒な言葉に我に返り桃子はようやく反応したが、しかしどうやらリフィの言動をみる限り、彼女たちは決して桃子の毒殺を狙っていたわけではなさそうだ。むしろ、毒殺犯扱いをされたリフィのほうが頬を膨らませて怒っているくらいだった。
一方、その会話が聞こえているはずのルイは、相変わらず顔をこちらに向けずにクククと笑っている。背中からでは彼女の真意は読み取れない。
「で、でもぉ……ルイは最初から、桃子さんに毒を飲ませようと……し、してましたよねぇ?」
「ククク……あのときは、あのときさぁ」
ニムが言っているのは、桃子が初めて妖精の国でカレーを作った日のことだろう。
あの日は、ルイが堂々と毒草を持ってきてカレーに入れようとしていたのを、桃子もしっかりと覚えている。
あのときはまだ、ルイが桃子を仲間と認めるより前だった。なので、もしかしたら本気で桃子を毒で仕留めるつもりだったのかもしれないなと思い、桃子は一年ごしの冷や汗をかく。
「こいつら。前は。人間のこと。かなり嫌ってたからな」
「おや? 今でも私は、人間という種族そのものに心を開いたつもりはないのだけれどねぇ……?」
ルイは、人間に対して複雑な感情を持つ妖精だ。過去、彼女の親友だった雷の妖精エレクは、人間を守るために彼らと肩を並べて戦い、そして力及ばずに亡くなった。
エレクは、決して人間に殺されたわけではない。けれど、人間などに肩入れしなければという後悔を、親友であるルイが心に焼き付けるのは仕方ないことと言えるだろう。
だからこそルイは、妖精が人間と仲良くすることを良くは思っていないはずなのだ。
一方、もう一人の犯人であるリフィはそこまで深い複雑な理由があるわけではない。彼女の場合はもっとシンプルで、ただただ"自然を破壊する野蛮な種族"として人間を嫌っているところがある。
しかし、そんなリフィが今やアイドル配信者のファンなのだから、世の中なにが起こるかわからないものだ。
そんな、最初は壁を作っていた妖精たちが、今となっては自分を仲間と認めてくれていることに、桃子の中には改めて嬉しさがこみ上げてくる。もっとも、彼女たちは仲間である桃子に毒を飲ませる危険な妖精なのだが、それはそれ、これはこれだ。
「そう考えると……ふ、二人とも、ずいぶんと桃子さんに、懐きましたねぇ……」
「えへへ、なんだか……嬉しいな。ルイちゃん、リフィちゃん、私に心を開いてくれたんだね」
「や、やめるのヨ! こっち見るなヨ!」
「ククク……その眼をやめたまえ」
「こいつら。桃子に見られると。すぐに苦しむな」
桃子が純粋な感謝の瞳を向けて、リフィとルイを苦しめたのち。
改めて、どうしてそのような事をしたのかと問いかけると、彼女たちは薬草の剪定を止めて、二人で顔を見合わせる。
そして、二人の植物の妖精たちの口からは、ことの真相が語られていく。
「まあ、黙って何度も毒を飲ませたのは、ちょっとは悪かったヨ。でも、リフィたちは、桃子に毒の耐性をつけさせたかったんだヨ」
「ククク……桃子くんが今回新しく得たという毒への耐性こそが、私たちの目的だったのさぁ」
「え……じゃあ、最初から【毒物耐性】を私に持たせるのが目的だったっていうこと?」
彼女たちの語った理由は至極単純だった。
まさに今回、桃子が得ていたスキル【毒物耐性〇】が目的だったのだ。つまり、今回のスキルはルイとリフィによって計画的に付与されたものと考えられるだろう。
「なんだ。お前ら。桃子にスキルを覚えさせたかったのか」
「まあ、そうだヨ。日頃から美味しいものを貰ってるし、少しはお礼をしないといけないって思ったんだヨ」
「お、お礼だったの……? そ、そっかあ」
「都合のいいことに、桃子くんは、【頑強】というスキルで元々身体が頑丈だったからねぇ? それを利用して、私たちの手で少しずつ……毒への耐性をつけさせていったのさぁ」
「うぅ……な、なんだか、友情ですねぇ……」
桃子に【毒物耐性】を身につけてもらう――それが、ルイたちの目的だった。
毒のエキスパートである彼女たちならば、桃子が気づかないように、そして桃子に悪影響が出ないように、少しずつ、少しずつ。桃子が妖精の国で食事をするタイミングを狙い、定期的に食事に毒を含ませることが可能だっただろう。
そうして、その手段の善し悪しはさておき、彼女たちのもくろみ通りに結果が出た。桃子はいつからか毒物耐性まで備え、やたらと丈夫な存在となっていた。
スキルの判定をしたのがたまたま今日だっただけで、実際にはもっと前から桃子は毒物に耐性を備えていたはずだ。
「というわけだヨ。でも、これで桃子は毒キノコも毒草も、堂々と食べられるようになったヨ」
「良かったな。桃子。これから。食べてもいいものが。沢山増えるぞ」
「私が毒キノコと毒草を堂々と食べるかどうかは、また別な話としておいておこうね」
どうやら、妖精たちの認識では『毒に耐性がつく』と『毒を食べるようになる』がイコールらしい。
桃子とて、現代日本人としての常識は持ち合わせているので、毒に耐性があるからといって毒物を進んで食べたいわけではない。そこらへんの認識のズレは今後の課題だろうが、今は端に寄せておく。
「でもさ、そういうことしてるなら、初めから私にも一言教えてくれればいいのに。ルイちゃんもリフィちゃんも、もしかして秘密主義に目覚めちゃったの?」
「ククク……しかしだねぇ、私たちが正直に『毒物を飲ませる』などと言ったら、桃子くんは拒否するだろう……?」
「うー、まあそれはそうだけど……」
それは確かにルイの言うとおりだと、桃子も認めざるを得ない。
実際に、過去にも何度かルイから毒を飲むように薦められたけれど、その度に桃子は断り続けてきた。これは決して桃子が狭量なわけではなく、普通は毒を飲むように言われて素直に飲む人間などいないのだ。
桃子としては、初めから『毒耐性スキルのため』という理由を一緒に伝えてくれれば良かったのに――とは思わなくもないが、既に過ぎた今それを言ったところで仕方がない。
リフィとルイは、剪定して地面に散らばっている枝や葉を器用に魔法で一カ所に集めながら、雑談のように話を続けていく。
「桃子に毒を飲ませるのは楽だったけど、それ以外の部分がなかなか大変だったヨ」
「えと、大変だったの? それ以外っていうのは?」
「ククク……間違っても、柚花くんの食事に混ぜるわけにはいかなかったからねぇ。共に食事をしている時は、毒が混入しないようにと、色々工夫をしたものさぁ……」
「うぅ……も、桃子さんはともかく、柚花さんには毒を飲ませていないんですね……よ、良かったぁ……」
「当たり前だヨ。柚花は桃子みたいに【頑強】とかいうのがないから、身体は人並みに弱いはずだヨ。あんまり無茶はさせられないヨ」
「そうか。毒が飲めたのは。頑丈な桃子だけなのか。良かったな。桃子」
「いや、柚花が巻き込まれてないならそれは良かったんだけど。これって『良かった話』なの?」
ルイたちの目的は、あくまで桃子に毒の耐性をつけさせること。
そこで無関係な人間である柚花にまで毒を飲ませたりしないように工夫をする程度には、彼女たちには分別があったようだ。
なんだか話の所々に、桃子は【頑強】があるから雑に扱っても大丈夫、みたいなやりとりが散見されている気がしてならず、桃子は首を傾げている。
「ククク……まあ、毒を黙って飲ませたことは申し訳ない気持ちもあるけれどねぇ。それ以上に、努力が形になった瞬間というのは……実に、嬉しいものさぁ……」
「そうだヨ。桃子にスキルが増えたなら、続けてきた甲斐があったのヨ」
「あはは……。まあ、私としてはツッコミどころもあるんだけど、二人でがんばって私に【毒物耐性】を覚えさせてくれたんだよね。うん、ありがとうね」
「べ、別に勘違いしないでほしいのヨ! 桃子のためとか、桃子とどこかに行きたかったとか……そんな大層なものじゃないのヨ!」
「リフィちゃん、急にツンデレするじゃん」
結局のところ、杏が心配していたような桃子の身を蝕む事態はどこにも起きておらず、あったのは桃子を想う二人の妖精による不器用すぎる行動だけだった。
その内容こそ大問題だが、結果的には桃子は何も不利益を被らず、新たなスキルを得られたのだ。
少しばかり驚いたし、困惑もしたし、妖精たちの倫理観は疑わざるを得ないけれど、事情を知った今となっては感謝こそすれ、文句など少ししかない。
なんにせよ、ギルドで無闇に心配させてしまった杏には、安心して貰えるだろうと、桃子は考える。
きちんと「心優しい妖精に毒を盛られていただけだった」と伝えれば、杏もきっと安心してくれるに違いない。
そして、事件が一段落したことで、場の空気は弛緩する。
ルイとリフィは薬草の剪定作業を終わらせて、今は桃子とともに畑を見てまわっている。
ヘノとニムは、いつのまにか近くの木々から果実をもぎ取り、既に口の周りを果汁でベトベトにしている。
「さて、ところでだねぇ。桃子くんが毒の耐性を得たならば……次の段階に進めるようになったのさぁ」
「そうだヨ。桃子、ワタシたちが気に入ってる、秘密のダンジョンに桃子も連れて行ってやるヨ」
「え、秘密のダンジョンって? ルイちゃんとリフィちゃんの、内緒の場所があるの?」
そして、ルイたちが口にしたのは、とあるダンジョンの情報だった。
「なんだお前たち。秘密の場所なんて。隠してたのか」
「うぅ……そういえば、二人とも、いつもどこからか薬草を持ってきますからねぇ……」
ヘノとニムも知らなかったという、ルイとリフィの秘密のダンジョン。
彼女たちの属性からして、恐らくそこは植物の豊富なダンジョンなのだろう。桃子の脳内には、薬草をはじめとした若々しい緑が風に揺れる、広大な緑地のイメージが浮かぶ。
はたして、秘密のダンジョンとはどのような場所なのか。桃子たちは、興味深げに植物妖精たちの言葉を待つ。
「人間はほとんど来ない鬱蒼とした場所で、変な形の葉っぱがいっぱいの場所なんだヨ」
「普通の人間が入り込めば、命がいくつあっても足りない……ククク……そんな、猛毒にまみれた密林――人呼んで『毒の密林』さぁ」
「ど、毒の密林……?」
どうやら、さわやかな緑地のイメージは大外れだったようだ。
妙な形の葉で溢れる、普通の人間が入り込めないような、猛毒にまみれた『毒の密林』。それが彼女たちの言う"秘密のダンジョン"だ。
桃子とて探索者であり、未知のダンジョンと聞けば人並みに興味は湧いてくる。けれど、ルイたちには申し訳ないが、そこに足を踏み込みたいという意欲は全然湧いてこない。
だが、桃子がどう思っているかなどは全く関係なく、桃子の隣で果物を頬張っていた風の妖精はさっそく興味を引かれたようである。
「じゃあ。桃子。むぐむぐ。果物を食べたら。むぐむぐ。『毒の密林』とかいうむぐむぐに。むぐむぐみるか」
「うぅ……ヘ、ヘノぉ……食べるか、喋るか、どちらかにしましょうよぉ……」
「行くなら日が暮れる前がいいヨ。暗くなると、密林は大変だからヨ」
「ククク……」
「なんかもう、行くことが決定しちゃってるじゃん。仕方ない、私も今のうちに何か食べておこうっと」
結局、なし崩し的に『毒の密林』なる場所に行くことになってしまったけれど。
せめて、密林で毒まみれになる前に、身体にいい果物でも食べてお腹を膨らませていこうと考える桃子だった。