ハンマー少女はバズらない! 人知れずソロ探索をしてたら都市伝説になっちゃったお話   作:chikuwabu

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きのこたけのこ

 桃子の目の前で、見た所まだ十代半ばの新人探索者の少年が、ゴブリンと戦っていた。

 

 ここは房総ダンジョンの第一層、森林迷宮。

 森林とは言っても、ここは入り口からまだ300メートルも歩いていないような、ダンジョンに入ってすぐと言える程度の場所だ。

 少年が手に持っているのはギルドでレンタルできる一番シンプルな短剣。その短剣でどうにかゴブリンの振り回す棒をどうにか防いではいる。

 しかし残念ながら、戦いの心得のない桃子から見ても、少年はそれはもう見事なまでのへっぴり腰だった。

 

「んー、ゴブリン一匹だから大丈夫だと思うけど……」

 

 房総ダンジョンのゴブリンは、よほどのことがない限りは危険な存在とはなり得ない。

 力が弱く、知能も低い。そして大体の場合が探索者の手荷物や食料が目当てなので、積極的に探索者の命を狙ってくるようなこともない。

 とはいえ、木の棒で殴られれば当たり所次第では無事では済まないこともあるし、目や顔を傷つけられれば一生の傷となることもあるため、油断してもいいというわけではないが。

 

 しかし、ゴブリンと一対一ならさすがに中学生くらいの身体能力があればどうにでもなるだろう、と桃子は思っていたのだが。

 

「……まあでも、何かあったら嫌だしね。やっつけちゃおう!」

 

 しばしの葛藤の末、へっぴり腰の少年の横に並んで、ハンマーではなくスコップを構えて。大きく振り抜く。

 

 スコーン!

 

 ももこは ゴブリンに15のダメージ を あたえた

 ゴブリンは すす になった。

 

 少年は突然のことに困惑顔をしているが、しかしすぐに出口の方向へと駆け出していった。

 この様子では先行きも険しそうだが、これで心が折れて探索者をやめてしまうのか、それとも次は仲間と組むことにするのかはわからない。

 ただやはり、それでも諦めずに強くなって欲しいものだと、桃子は腕組を組んでうんうんと頷いている。後方師匠面、というやつだ。

 

「桃子。何してるんだ?」

 

「あ、ヘノちゃん、遅くなってごめんね。ちょっとゴブリン叩いてたの」

 

 ゴブリン叩き。趣味にするにはかなり情操教育に悪い遊びに違いない。桃子にそんな趣味があるとなれば、柚花は泣くだろう。

 しかし実際にはそういうわけではなく、新人の探索者が苦戦していたのを手助けしていたということをヘノに説明する。

 ゴブリン叩きとは。人と関われないスキルを持つ桃子だからこそ、せめて陰ながら誰かを助けることで関わりを持ちたいという、切実な気持ちの現れなのだ。

 

「多分。そういうことしてるから。ドワーフの噂が。広まるんだと思うぞ」

 

 桃子の肩に着地したヘノが、ごもっともな感想を口にする。

 

 確かに、こういうことの積み重ねが妙な噂になるのかもしれない。

 とはいえ、当初は困惑するだけだったドワーフの噂も、桃子は最近はもう、まあいいかと開き直っていた。

 最近はギルドで巨大ハンマーを持ち歩くことがなくなったため、ドワーフと桃子を繋げる糸が皆無なのだ。だから、ドワーフの噂が広がっても桃子には被害がない。ある意味では気楽な、他人事のような気持ちでいられる。

 

 まあ、ドワーフ宛のお礼の品などはさすがに他人事として放置もできないので、遠慮したいところだが。

 

「お礼の品物はともかくとして。日本人って、もともと八百万の神様を信仰してるんだし、ドワーフを信じる人が多少増えたって罰は当たらないと思うんだよね」

 

「そんなもんか。ヤオヨロズが何かは知らないけど。桃子が信仰されるのも。悪くないな」

 

「え、いや、私じゃなくてドワーフの話で……まあいいか。あ、ヘノちゃんおにぎり食べる? 入り口で売ってたの」

 

「貰うぞ。このおにぎりは。カレー入ってないんだな」

 

「普通はカレー入ってないんだよ、おにぎりって」

 

 

 

 

 

 房総ダンジョンで二人でおにぎりを食べたあと、いつものつむじ風の魔法でダンジョンを高速で通過していく。

 森林迷宮を疾風のように通過し、静かな坑道迷宮に一陣の突風が吹き抜けた。

 鍾乳洞窟ではバッタのようにぴょんぴょん飛び回り、そして妖精の国を経由して、お馴染みとなった遠野ダンジョン第四層マヨイガでは、通りすがりの唐傘お化けがハンマーを伴った突風で裏返る。

 

 多少のダンジョン内の変動もあったようだが、ヘノの案内があったので迷うこともなく炊事場のある中庭へと到着できた。

 

「なんか探索者さんたち、またここに住み着いてるねえ」

 

 桃子たちが炊事場に到着すると、どうやら遠野の探索者チームがこの場所を中継地点と決めたのだろう。先日とは違う顔ぶれの探索者たちがうろついていた。

 中庭の烏天狗がそろそろ復活しているかとも思ったが、何も出てこないところを見ると彼らが周囲の妖怪を撃退してくれているのかもしれない。

 探索者にとって、食料と水が確保できる場所というのは重要だ。そこは桃子も理解しているので、ここを拠点にすることで彼らの探索がより安全なものになるなら何よりだ。

 

「そういえば。桃子がつまみぐいした。キノコ。ヘノも食べてみたいぞ」

 

「ああ、松茸……。そういえば、あれってここの人たちが見つけたみたいなんだけど、どこに生えてるのかね」

 

 ヘノは寝ていたので話に聞いただけではあるが、桃子はここで、探索者たちが焼いていた松茸をこっそり頂いている。あの時は桃子が彼らのためにあれこれ骨を折っていたので、そのお駄賃替わりとして貰ったものだが、冷静に考えれば気配を消して松茸を盗み取るなど、とんでもない盗っ人である。

 なお、その際の松茸を見つけたのは探索者たちであって、桃子は結局それがどこで採取されたものなのかを知らないままだった。

 

「探せば。カレーの墓にまた。供えられてるんじゃないか?」

 

「あはは、さすがにまさかだよ」

 

 

 あった。

 

 

 広い庭園の片隅にひっそりと佇むカレーおにぎりの墓……というか、探索者たちにとっては萌々子の墓ということになってしまっているのだが、そこには今日もまた一輪の花が飾ってあり、その横には松茸がしっかりと置いてあった。

 どうも、探索者たちにとっては萌々子ちゃんとは松茸が好きな座敷童子という設定が浸透しているらしい。

 

「こっ、これ……とりあえず貰ってっちゃう? これ、高級なんだよ……ほんとに」

 

 前は特に考えもなく頂いてしまったが、言うまでもなく松茸は高級品である。

 ダンジョン産なので地上の物とはまた価値も違うだろうが、これがもしダンジョンの第四層であるマヨイガでしか見つからない品種だったとすれば、地上のものよりも遥かに高価なものとなるだろう。

 

 この松茸ひとつにかかるお値段のことを考えると、一本丸ごと貰ってしまうのに、背徳感があるのだ。

 

 まあ、それでもやっぱり貰うものは貰うのだけれど。

 

「桃子。なんで。挙動不審なんだ。座敷童子宛のものだから。いいんだぞ。桃子は。ヤオヨロズなんだから」

 

「いや、私は別に八百万じゃない……と思うけどね」

 

 座敷童子が妙な信仰を集めているのは事実なので、桃子のツッコミもなんとなく歯切れが悪い。

 悪ノリで座敷童子ごっこをするのも、程々にしないといけないなと、反省するのだった。

 

 

 

 

 松茸を回収して、そのまま一陣の風となってマヨイガを走り抜け、第三層の壁はぴょんぴょんと跳ね上がる。今回は人を背負っていないので、最短記録が更新できた。

 真面目に崖を上り下りしている探索者が聞いたら涙目なことだろう。

 

「到ちゃーく! さてヘノちゃん、今日は結構早く到着したんじゃない?」

 

 そして目的の大竹林へと到着。

 

 昨日はもう日も傾いた時間だったが、今日はまだ日も高い時間に到着することが出来た。

 日の下で見る一面に広がった竹林は房総ダンジョンの森林とはまた違う、なんとなく爽やかで涼し気な印象の階層だ。

 無論、房総ダンジョンと違い、それなりに山も谷もある地形な上に、出てくる魔物も特殊なものが多いので、お散歩気分で来るような場所ではない。

 

「桃子も。つむじ風の術に。かなり慣れてきたからな。これからは。疾風の桃子と。呼ぼう」

 

「やめてね?」

 

「わかった」

 

 変な異名がつくところであった。

 

 

 

 そしてある程度歩いていると、竹の密度が低く、見晴らしのよさげな場所を見つけたのでそこで足を止める。

 ひとまずスコップを地面に突き刺し立てかけると、探索者用の端末を取り出す。

 

 この端末、深潭層へと行くときは妖精の国へと置いて行ってしまったが、今日はきっちり身に着けている、スマホのようにネットにもつなげられる万能端末だ。

 なお、本物のスマホはダンジョン内では電波が通じない上に電源がすぐにダメになるため、ダンジョン内まで持ち込む人間は少ない。

 

「では、さっそくタケノコ掘りなんだけどね。見て見てほら、端末で調べたら出てきたんだよ、掘り方」

 

 事前にブックマークしていたタケノコ掘りを説明しているページをヘノにも見えるように表示する。

 そこには、まだ土のついたタケノコの写真が載っていた。

 

「これが。タケノコか。なんか。でっかいどんぐりみたいだな」

 

「どんぐりよりは大きいけどね。ええと、まずタケノコ掘りは、春が旬です。また、早朝が一番良いです、だって」

 

「桃子。今って春か?」

 

 春ではなく、秋だった。

 更に言うなら早朝でもなく、もうお昼である。

 

「……ま、まあ次! これはほら、あくまで外の話で、ダンジョン内は季節関係ないし! 掘れないとも書いてないし!」

 

「それもそうだな。じゃあ次は。地面から。タケノコの頭を。探せと書いてあるぞ。頭がついてるのか? 喋るか?」

 

「そんな気持ち悪いタケノコはいないよ? ええとね、小さい竹がたまに地面から生えてきてるでしょ? それの、まだ地面から出てないのを探すんだって」

 

 タケノコに本当に頭がついているわけではないし、喋らない。というのが少なくとも地上では常識である。

 ダンジョン産だとまた生態は違うかもしれないが、今のところは遠野ダンジョンのタケノコがマンドラゴラのように悲鳴を上げたという話は聞いたことがないので、やはり頭はついていないのだろう。

 

 タケノコの写真を見せて、その頭頂部のことをさすのだとヘノに説明しながら、実際に周囲の地面をぐるりと見回す。

 タケノコのような形で地面から突き出ているものはいくつかあるけれど、これはもう育ちすぎていて、食べることは出来ないだろう。タケノコは成長が速いことで有名なので、地上に生まれ出る前の姿を見つけなければならないのだ。

 

「地面の中にいるんだな。ならさっそく。いつもみたいに。ハンマーで地面を割ろう」

 

「割らないよ?」

 

 まずはヘノに、タケノコと鉱石の違いから説明するところから始めた。

 

 

 

 

 そして、サイトの説明を眺めながら、ヘノと二人であれこれ騒ぎながらタケノコ掘りを開始して、それなりに時間がたった頃。

 

 

「ふう、ちゃんと形がタケノコになってるのは3つ。初めてにしては凄い収穫なんじゃない?」

 

 服の至る所を土で汚した桃子が、満足げな表情で綺麗なまま収穫できたタケノコたちを抱き上げていた。

 今回はタケノコを掘る手間というよりは、どちらかというとスキル【怪力◎】の力を抑え、調整をすることに一番手間取った。このタケノコたちはその努力の結晶である。

 

「桃子が。地面を割ったときは。大迫力だったな」

 

「いやあ、ギルドで貸してくれたシャベルが丈夫でよかったよね」

 

 怪力すぎて、タケノコを掘るどころか地下茎ごと切断してしまったり、あるいはタケノコどころか周囲数メートル分の地盤をひっくり返してしまったりとなかなかないハプニングの連続ではあったが、結果としては上々であろう。

 桃子が満足げにタケノコを大型リュックに詰め込んでいると、高所を飛んでいたヘノが何かを見つけたようで桃子に呼びかけた。

 

「お。桃子。あっちでも探索者が。タケノコ掘ってるぞ」

 

「わ、見に行こうっか。もしかしたら私たちよりプロのタケノコ掘りが見れるかもしれないよ」

 

 すでにタケノコを収穫した後ではあるものの、プロの技を見ておくのは今後の参考にもなるに違いない。

 そう考えて、ヘノの示す方向に桃子も向かうのだった。

 

 

 

 

 そこにいたのは、上下ツナギのような服装の男性探索者が二人。

 傍らに置いた大きなカゴにはタケノコが数多く積まれている。おそらくは遠野ダンジョンのタケノコ掘りを収入源にしているのだろう、ある意味では本当にプロの二人組だった。

 

 しかし、彼らにこっそり近づいてみたところで、桃子の表情は凍り付く。

 

 

「あー、俺たちも萌々子ちゃんに会いてぇよお!」

 

「泣くな、俺たちは所詮はタケノコ掘りだ! 第三層にも降りれないレベルじゃ幼女に顔向けできん!」

 

「昨日の連中は羨ましいなあ。俺も水着の幼女に頼って貰いてぇよお!」

 

「泣くな、どこかで萌々子ちゃんが見てるかもしれないだろ」

 

「抱っこしてお小遣いあげたいよぉ!」

 

 

 

「うわぁ……」

 

 

 桃子は、何も聞こえなかったことにした。くるりとUターンをして、先ほどまでいた場所へとさっさと足早に戻っていく。

 ヘノは少しの間探索者たちを見ていたが、すぐに桃子の元へと飛んで行って肩に着地する。

 

「桃子。いつから。幼女になったんだ?」

 

「昔は幼女だったんだけど、さすがに今は違うねえ。幼女じゃないよねえ」

 

 もちろん、今でも外見上は残念ながら子供扱いされることも少なくはない。

 だが、さすがに今現在で幼女を名乗るのは無理がある。幼女の定義が何歳までなのかは定かではないが、どちらにせよ桃子も幼女と呼ばれるほど幼いわけではない。自分ではそう思っている。

 

 彼らが話しているのは桃子ではなく座敷童子の萌々子ちゃんのことだ。桃子が幼女呼ばわりされているわけではない。だがしかし、それでも会話の内容にはちょっとヒいていた。いや、ちょっとどころではなくドン引きしていた。

 噂話の恐ろしさというものを、桃子はいま、心で理解した。

 

「もう行くのか? あいつら。桃子に。お小遣いくれるらしいぞ」

 

「お小遣い貰えるのは幼女の萌々子ちゃんで、私じゃないからね」

 

 まあしかし、ドン引きしてすぐ距離をとってしまったものの、彼らとて悪人ではないはずだ。彼らはただ、萌々子ちゃんの尾ひれのついた噂を信じてしまっただけなのだ。

 だからせめて、彼らがいつの日か、可愛らしい幼女の萌々子ちゃんと会える日が来ますよう。

 桃子は、結構無茶なお願い事を、八百万の神々に祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ4】

 

 

:スク水で包帯を巻いてくれる萌々子ちゃん(イラスト)

 

:仕事早すぎるンゴ

 

:スク水でボルダリングする萌々子ちゃん(イラスト)

 

:萌々子ちゃんて妖精みたいなものだと仮定すると空とか飛べるのかな?

 

:さすがにガチでボルダリングはしとらんでしょ

 

:妖精というか、幽霊だし

 

:それい以上いけない

 

:スク水エプロン姿で松茸を焼く萌々子ちゃん(イラスト)

 

:あんな目撃談で遠野絵師たちが食いつかないわけがないんだよなあ

 

:詳細なんて一切出てないのにスク水で統一されてるの草

 

:スク水の上に鎧を着こんでいる鎧萌々子ちゃん(イラスト)

 

:でたな鎧萌々子

 

:鎧がでかすぎていつものドワーフ子ちゃんなのよ

 

:あ、冬に萌々子ちゃん本出します

 

:えぇ

 

:三冊購入します

 

:自分用、布教用、お墓に供える用か

 

:そんなん供えられても本人も困惑するわw


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