ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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進化の形跡

 月曜日。

 

 休日はダンジョンに潜り、カレーと妖精に囲まれて妖精的な活動にどっぷり身を委ねている桃子だけれど、これでも平日にはきちんと働いている社会人である。

 昨年、社会人一年生だった桃子はまだ右も左もわからぬ新人で、スキルさえあれば誰でも出来るような作業や、親方の横に立ち言われたことをこなす助手的な役回りばかりだった。

 しかし。この一年半で親方の教えをしっかりと吸収し、様々なことを学んできた成果もあり、若手の域は出ていないものの、桃子も今では工房の戦力としてきちんと数えられている。近隣でも、お手伝いをがんばる子供職員として評判だ。

 

「桃の字、そっちが一通り済んだらこいつらの調整を任せたぜ!」

 

「はいっ!」

 

 なので、この日のように、一気に大量の作業が舞い込む修羅場のような一日でも、周囲の足を引っ張ることなく迅速に動くことができた。

 

「ああ、あと和歌、すまんが対外的な対応はお前に一任するぜ。所長は外回りが重なって帰ってこられねェし、俺も手がまわりそうにねェのよ」

 

「はーい、わかりましたー」

 

 桃子が大量にワゴンに積み込まれた武器を確認して、一つ一つ並べて、調整箇所に付箋を貼っていく背後で、和歌は自分のデスクにつき、工房へ届いている外部からのメッセージや通知の対応を片っ端から進めていく。

 和歌は設計士であり事務職員ではないのだが、人数が少ない工房なので、親方や和歌も実作業だけに専念というわけにはいかないのだ。

 その点、実作業しか任されていない桃子は、まだまだこの工房としては新人の域を抜け出せていない。

 

「うわ、なんかもう、大忙しですねっ」

 

「どうやら先週、武器のメンテナンスをテーマにしたスペシャルドラマが放送されたんですよー」

 

「え、なんですかそれ? 武器のメンテナンスのドラマなんですか?」

 

「メンテナンスの工程そのものは現実とはほど遠く、胡散臭いことこの上ないものでしたけどねー。啓発としてはなかなか効果があったようです」

 

「ったく、そういうことかよ。随分とマニアックなドラマもあったもんだぜ」

 

 この日は、朝から工房は大忙しだった。

 忙しさの理由は実にシンプルで、土日を挟んでギルドから運ばれてきた依頼の量がやたらと増え、爆発的な量がドカンと運び込まれてきたのだ。

 そしてそれと同時に、責任者たる所長はあっちこっちの会議や説明会に呼び出され、工房の人員が減っている。

 おかげで、親方の指示の元、和歌と桃子はフルスロットルで作業に追われている。

 

 何故こんなに一気に依頼が増えたのか。

 和歌によれば、武器のメンテナンスを主題としたドラマが放送されており、その影響なのだという。

 桃子も、自分のやっている仕事が主題となる異色のドラマには興味をそそられる。だが、残念ながら今はドラマの話をしている場合ではなさそうだ。

 

「じゃあ、ドラマを視た探索者の人たちが週末のうちにギルドに武具を預けて、週明けの今日、それがドカッと来た感じなんですかね」

 

「みてェだな。ったく……武器のメンテナンスってのは、ドラマなんぞの影響じゃなくて定期的にやって欲しいところなんだがなァ」

 

「でも、良いきっかけなんじゃないですかー? これを機に定期検診を受ける人が増えるといいですねー」

 

 三人の会話だけを切り抜いてみれば、まるで病院の定期検診についての会話のようだ。

 なお、この工房はしっかりと職員の定期検診も行っており、房総ダンジョンのすぐ近くにある大きな病院で、桃子も健康診断を受けている。

 結果としては、カレーの食べ過ぎや毒による身体ダメージもなく、桃子はまさに健康そのものだった。

 

「うへえ……この剣、もう軸がガタガタじゃないですか。どうするんですかこれ」

 

「これが武具じゃなけりゃ『買い換えろ』で済ませるところだが、しゃあねえなァ。どうにか使いもんになる位には直すか」

 

 ドラマに触発されてメンテナンスの依頼を出した探索者たちは、逆に言えば普段はメンテナンスを怠っていたものたちがほとんどだ。

 つまり、メンテナンスもせずに酷使されてきたもの――それこそ中には、駄目になる一歩手前という武具もある。

 それでも、彼らにとってこの武具は己の命を預けた唯一無二の品物である。代えの利かないただ一つの相棒という探索者も多いだろう。少なくとも彼らは、駄目になる手前になるほどに、その武具とともに命がけの冒険を続けてきたのだから。

 そんな武具のメンテナンスを任せられた以上は、出来うる限りの最上の仕上がりを目指すのが、親方と桃子の役目なのだ。

 

 武器の山を前にして、和歌が親方に質問する。

 

「親方さん、弟子の皆さんにヘルプはお願いできないんですかー?」

 

「ああ、それがな。弟子たちにも声をかけたんだが、あいつらも似たような状況らしくてなァ。全員、来られそうにないってよ」

 

「ああ、なるほど。となると、ドラマの影響ですし一過性のものだとは思いますが、あと数日は忙しそうですねー」

 

 昨日までは、和歌や親方に『筑波ダンジョン』についてあれこれ聞いてみるつもりだったのだが、どうやらそれもしばらくはお預けになりそうだ。

 武具職人の卵として。桃子は山のような依頼品を前にして気合いを入れる。

 

「よーし、がんばろう!」

 

 そして、いざ作業へと臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 桃子が工房で山のような依頼品と戦っている頃。

 そのパートナーであるヘノは、休日に桃子とともに訪れたダンジョン『毒の密林』を訪ねていた。

 鬱蒼とした密林を遙か上空から見渡して、目的の相手を見つけるとそちらへとまっすぐに飛んでいく。

 

「おい。ルイ」

 

「おや、ヘノが一人とは……珍しいねぇ」

 

 目的の相手は、薬草の妖精ルイ。ヘノとしてはよく見知った魔力の持ち主なので、同じ階層にいれば簡単に見つけられた。

 ルイは、密林の一カ所で、なにやら地面をのぞき込んで一人クククと笑みをこぼしているところだった。

 

「ククク……今日はニムは一緒じゃあないのかい?」

 

「ニムは。『ヒトザト』に行ってるぞ。昨日。たぬきたちに。水路を作る手伝いを。頼まれたらしいぞ」

 

「なるほど。『ヒトザト』もだいぶ平穏になってきたようだし、いよいよ田畑を作り直しているのかねぇ……」

 

 ルイの認識では、一人行動が多い自分と違い、ヘノはいつもニムとともにいるイメージだった。

 実際に、ヘノとニム、リドルとノンの二組は日々の大半は一緒に行動していることが多いので、ルイの認識もあながち間違いではない。

 けれど、この日ニムは吉野ダンジョンの封じられた第三層、オオカミと化け狸が共同で暮らし始めた土地『ヒトザト』へと出向いており、ヘノはおひとり様である。

 

 ヘノは、地面を見つめていたルイを不思議そうに眺めながら、その場に実っていた果実らしきものを無造作にもぎ取り、かぶりつく。

 

「むぐむぐ。ぺっ。この木の実。食べる部分が少なすぎるな」

 

「ククク……それは、人間に言わせれば、種を加工すると薬や飲料の素材になる、珍しい植物なのさぁ」

 

「そうなのか。人間は。種なんて使うんだな。むぐむぐ……ぺっ」

 

 ヘノは、可食部の少ない果実をとっては食べ、種を雑に吐き出し、再びとっては食べ、種を雑に吐き出し、を繰り返す。人間にとっては貴重でも、ヘノにとっては種など無価値な邪魔者だ。

 桃子や柚花がこの場にいればまた違う反応はあったかもしれないが、ヘノが興味があるのは果実の可食部のみなのだ。

 そうしてある程度果実を食べて満足すると、ヘノは再びルイへと話しかける。

 

「ルイは。人間が種から作る薬なんていうのも。知ってるんだな」

 

「そうだねぇ……ククク、色々と見て、聞いて、学んできたからねぇ」

 

 ルイはクククと笑うと、ヘノにはチラリと視線を向けただけで、また再び地面を見つめ始める。

 いや、地面を見つめていると言うより、この周囲の『荒らされた痕跡』を眺めている、という方が正しい。

 ヘノがあたりを見ると、まだ新しい傷のついた樹木の幹、周囲に散乱する木々の枝葉、そしてかすかに抉れた地面と、今更ながら、そこかしらに何かしらの痕跡があることに気がついた。

 

「ときに、ヘノ。どうやら、あのモサモサだけれど……進化を、しているようなのさぁ」

 

「しんか?」

 

「ヘノは……周囲の様子を見て、気づいたことはないかい……?」

 

「戦いの跡みたいだな。誰かが。暴れてたのか?」

 

 どうやら、ルイはヘノと会話をする気になったようである。

 自分の中で完結し、必要最低限しか言葉にしないルイと、非常に察しが悪く、せっかちな気質のヘノ。この二人はその性質上、会話が噛み合わないことが多い。

 いざ会話となると、大体の場合はヘノがトンチンカンなことを言い、ルイがクククと笑って終了、となるのがいつものパターンだ。

 なので、今のように。ルイが自分からヘノに語り出すというのは、なかなか珍しいことだ。

 

「戦いというほどの規模ではなさそうだがねぇ……ククク、ここに、割れた魔石があるだろう?」

 

「本当だ。魔石が割ってあるな。ダンジョンなのに珍しいな」

 

 その場には、ルイの言うとおり、割れた魔石の破片がいくつか残されていた。

 つまり、何者かが魔物を撃退し、そしてその魔石を砕いていったということだ。

 それは、魔力が充満しているはずのダンジョンでは、実に意味不明な行為である。

 

「そう、珍しい行為だ。けれど……ククク……もし、大気中の魔力を行使する器官がない存在がいたならば……?」

 

「どういうことだ?」

 

「その存在にとっては、魔石というのは、魔力を吸収するための重要なアイテムとなるのさぁ……」

 

「そうか。よくわかんないな」

 

 ルイは、自分の考えを述べていく。

 魔石を割った『何者か』は、魔石を破壊することによって、そこから魔力を吸引している。『魔力を持たない何者か』から『魔力を持つ何者か』へと進化しようとしている。

 

 ルイは、地面に散っていた葉の一枚を手に取る。

 フチがしわしわに波打ち、多少ざらついた厚みのある葉。見た目だけならば楕円形をした、一見するとどこにでもありそうな葉だ。

 だが、この密林に生えている植物の葉とは明らかに違う。

 これは、昨日目撃した動く植物、モサモサがまとっていた葉である。

 

「つまり。あのモサモサが魔力を吸収して、新たな力を得ようとしている可能性があるのさぁ……ククク」

 

「なんだ。あいつ。強くなるのか。戦うのか」

 

「そうだねぇ。もし、あれが、このダンジョンを脅かす敵になるならば……戦う必要も、あるかもしれないねぇ……」

 

「よし。探すぞ。探して。ヘノが戦ってくるぞ」

 

 話が分かっているのか、はたまたあまり分かっていないのか。ヘノはツヨマージを現出させると、意気揚々とその場で素振りを始める。

 もっとも、どれだけヘノがやる気をだそうとも。魔力を吸収している可能性があるとはいえ、相変わらずモサモサそのものを感知するのは難しいままである。気配を植物と同化させるのは、モサモサの特殊技能と考えても良いだろう。

 なので、しばらくはヘノとモサモサの戦いが勃発することはなさそうだ。

 

「ククク……ヘノは相変わらず、せっかちだねぇ……」

 

 ルイは、素振りをしているヘノを後目に、密林のとある方角に視線を向ける。

 それは、第一層へ上るための階段がある方向だ。

 

「さて……私にも想像のつかない事態になりつつあるけれど。貴女は、どうするのだろうねぇ……ククク」

 

 第一層へと向けたルイの呟きは。

 誰にも聞かれることなく、鬱蒼とした、毒の大気へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とあるスペシャルドラマ配信時のコメントより抜粋】

 

:武器のメンテナンスドラマって聞いてたんだけど、どうしてオープニングからこのヒロインは滝行してるの?

 

:そりゃあ、精神統一には滝行が一番だからだ

 

:滝の女神出てきたw 駄目だこれ、ギャグドラマだw

 

:(武器のメンテナンスドラマ、開始20分で未だに武器に触れてすらいない)

 

:滝の女神ってこれAIで作った映像? いくらなんでも美人過ぎる。

 

:この子、沖縄で見たことある。本物の人間。

 

:監督が頼み込んで出て貰った探索者ってこの子か コスプレ配信者だよ

 

:並ぶと主演女優の地味さが際立って草

 

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:トンデモドラマだったのに、最後泣けてきた

 

:あのメンテがなかったら、ゴブリン大王戦で大勢の探索者が死んでたんだと思うと・・・。

 

:俺も明日、武器のメンテたのみにいこう

 

:主演の子、地味だって思ったけど物凄い引き込まれちゃった

 

:涙出てきた

 

:こんな実力派女優がいままで埋もれてたのか

 

:北路マヤ……恐ろしい子

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