ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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葉っぱコミュニケーション

 今週の工房は、大忙しだ。

 月曜日に大量に舞い込んできた膨大な作業量は、残念ながらその日だけでは終わらなかった。火曜日となっても相変わらず普段の倍は軽くありそうな武具が運ばれてきた。

 しかし、それも水曜ともなれば月曜日よりは遙かに運ばれてくる武具が少なくなった。やはり、今回のメンテナンスブームは一過性のものだったようだ。

 

「親方、こっちに積まれてたものは一通り終わりました! 次は何をしましょう!」

 

「おっし、桃の字、先に休憩入っていいぞ。午後にゃ手の空いた弟子連中も来るから、今日はもう肩の力を抜いてくれて大丈夫だぜ」

 

「わ、それは助かります。良かったー」

 

「桃ちゃん、お弁当屋さんに行くなら私の分もお願いしていいですかー?」

 

「はい、じゃあ和歌さんが好きそうなのを選んでおきますね」

 

 そうして、水曜日の午後になってようやく、この嵐のような多忙な状況に終わりが見えてきた。

 月曜日などは山のような作業に追われ、昼食休憩すらまともにとれなかったのだ。和歌が配達サービスで作業の片手間で食べられるファストフードを頼んでくれなければ、三人揃ってお昼抜きになるところだった。

 

「所長さんも午後には帰ってこられますし、そうすれば私もようやく設計のお仕事に戻れそうですよー」

 

「ったく、やれやれだ。昨日一昨日は残業続きだったが、今日は揃って早めに帰れそうだな」

 

「所長さんに頼んで、来年はきちんと事務員さんを雇って貰わないと駄目ですねー」

 

「まったくだぜ」

 

 忙しかったのは、親方と桃子の実作業だけではない。

 案件が多ければ、データ的な管理、そして外とのやりとりもそれだけ膨大なものになる。普段は所長が担当しているような仕事を全て和歌が肩代わりしていたため、和歌の仕事も大変なことになっていた。

 せめて事務作業を担当する人員が欲しいというのは、和歌と親方、共通の願いだった。

 

 大忙しの工房の昼は、そうして過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

「今日こそは。あいつを。見つけるぞ」

 

 桃子が会社近くの弁当屋で、注文する弁当を選んでいるその頃。

 ダンジョン『毒の密林』では、ヘノが気炎を上げていた。

 月曜日からモサモサこと謎の植物を探し始めて、すでに三日目だ。その間、各所で魔物との争いの形跡こそあれど、モサモサ本体はヘノの感知すらくぐり抜けており、全く見つけられる様子がないのだ。

 

「んふふ♪ ヘノったら、あの子が気になって仕方ないのね」

 

「まあ。リフィもあのモサモサが気になるヨ。生きてる葉っぱなんて。どういう存在なのヨ」

 

「ククク……今日は、ずいぶんと大人数でやってきたねぇ……」

 

 この日の探索メンバーは、風の妖精ヘノと薬草の妖精ルイに加えて、桃の木の妖精クルラ、緑葉の妖精リフィの四人である。

 月曜日の時点では彼女たちはいなかったものの、クルラやリフィも例のモサモサこと謎の植物について、内心では非常に気になっていたようだ。ヘノが声をかけたら、二人とも迷わずついてきてくれた。

 

「ところで、あのモサモサが進化してるっていうのは本当なのかヨ?」

 

「ああ、それは間違いないねぇ……私とヘノが探しただけでも、何カ所かで魔石から魔力を吸収した跡が見つかったのさぁ……」

 

「一瞬。遠くにいるのを見つけたけど。前より大きくなってて。普通に。動いてたように思えるぞ」

 

「ククク……もっとも、その時もすぐに見失ってしまったけれどねぇ……」

 

 ヘノたちもそのあいだ何も得られなかったわけではない。

 モサモサが魔力を吸収した痕跡はもとより、遠目とはいえその姿を発見することもできたのだ。

 それはやはり、ルイの憶測通りに『成長』を見せていた。あの謎の存在は魔石から魔力を吸収し続けることで、それこそ植物が急成長するかのごとく、たった数日の間に急激に進化している。

 進化をすれば、それだけ魔物をより効率的に倒せるようになる。現に、魔物との戦いの痕跡は、月曜よりも火曜、火曜よりも水曜という風に、明らかに増えてきている。

 

「ヘノの感知を欺くなんて、すごいモサモサね♪ 私じゃ探すのは難しいかしら? お酒でも飲んで、待ってようかしら♪」

 

「酒もいいけど、とりあえずは、前にモサモサが来た薬草園にいってみようヨ。あてもなく探し回るのは苦手だヨ」

 

「わかった。ついでに。美味しい果物も。探しておこう」

 

「やれやれ……騒がしくなってしまったけれど、出会う"可能性"は増したようだねぇ……」

 

 全員が揃ったところで、まずは薬草園へ向かう。

 あのモサモサは、先日はあの薬草園に出現した。それ以降は現われていないので、薬草が目的だったとは考えにくい。

 だが、同じ条件でモサモサを探してみるのは何も悪いやり方ではない。先日との違いは、桃子がいるかいないか程度である。

 真っ先に薬草園へと飛び立つヘノを筆頭に、クルラはにこにこと笑いながら、リフィは周囲の葉っぱを細かく確認しながら。

 そして、ルイもまた頭の中で、様々な可能性を思い浮かべながら。

 妖精たちは、それぞれがそれぞれの考えで薬草園を目指し、密林の木々の間を通り抜けていった。

 

 

 

 

 薬草園には、静かな風が吹いている。

 

「ここは。静かだな」

 

 そして、残念ながら、薬草園には誰もいなかった。モサモサも、人間もいない。ただただ、伸び伸びと茂る毒性の強い薬草ばかりがそよ風に揺れているだけである。

 

「モサモサ、いないのヨ」

 

「あいつ。ヘノやルイが近づくと。すぐに逃げるんだ。この前は。あっちから近づいてきたのにな」

 

「そうだねぇ……私とヘノでないならば、リフィかクルラ、もしくは桃子くんが目的だったのかもしれないねぇ……ククク」

 

「んふふ♪ こういう時は、お酒を飲みながら待っていれば、向こうからやってくるものよ♪」

 

 単純な消去法である。

 先日のメンバーのうち、ヘノやルイが近づいても逃げていく。ならば、あの時にいたメンバーの誰かが、あの謎の植物を引き寄せたのではないか。

 それがルイの考えている"可能性"だ。その可能性のうち、誰が正解だったのかまではわからない。足りない情報が多すぎる。

 けれど、それでも。

 

 ルイは正解を引き当てた。

 酒盛りを始めてしばらくしたクルラの正面の密林から、鬱蒼とした緑をかき分けるように現われたのは、先日見たときよりも大きく成長した"植物"の姿だ。

 

「すごいな。クルラが酒を飲みはじめたら。本当に出てきたぞ。クルラの酒が目当てだったのか?」

 

「……はてさて、どういうことだろうねぇ」

 

 相手が妖精たちを観察するかのごとく立ち止まる。一方、妖精たちもその謎の植物に視線を向けて、油断なく観察を始めた。

 大きさは、先日には桃子の膝より低いサイズだったのに対し、今では桃子の身長くらいはありそうだ。茎は太く、そして何重にも重なることによって、まさに『胴体』と呼ぶべき太さに仕上がっていた。

 そして、目線を下に下げれば相変わらず大量の根を足代わりにして動いているが、しかしその根はまるで二本の足で動いているかのように束ねられ、以前よりも遙かに『生き物』として動き始めている。

 そう、モサモサは、徐々に『人のような形』に近づきつつあった。

 

 

 

『リリリィ……リリリ……』

 

 

 

「何か音を出してるぞ。なんだ。魔法か?」

 

「いや、あれは……何かを、伝えているのかねぇ……?」

 

 モサモサは、妖精たちから離れた場所で立ち止まっている。

 妖精たちが怪訝そうにそちらに視線を向けると、リリリ、というような"音"が聞こえてきた。

 どうやら、モサモサが何かしらの手段で発している音のようだ。あるいは、モサモサなりの"声"なのかもしれないと、ルイたちは考える。

 

「葉っぱの言葉なら、リフィがわかるんじゃないかしら♪ リフィ、どう?」

 

「やってみるヨ」

 

 モサモサは、何かあればすぐに逃走し、そして逃走したモサモサはヘノですら探すのが難しいという。

 なので、リフィはモサモサを刺激せぬよう、ゆっくり、ゆっくりと薬草園から舞い上がり。モサモサから5メートルほどの距離で静止する。

 リフィの表情に、緊張が走る。リフィの頭の上にぴょこんと生えている緑の葉のようなものが、いまは緊張からか、真っ直ぐ天を指すかのように空へと向かって突き立っている。

 ヘノは、リフィの頭の葉が気になって仕方がなかったが、いまは黙っておいた。

 

 しばらくの沈黙。遠くから聞こえる鳥たちの声だけが、周囲に響いている。

 そして、静かに――リフィとモサモサのコンタクトが開始された。

 

 

 

『リリリ……リリィリリィ』

 

「そう警戒しないでヨ。リフィたちは妖精だヨ。お前の敵ではないから安心しろヨ」

 

 どうやら、リフィにはモサモサの出す"音"――いや、"声"の意味が伝わっているようだ。

 モサモサが声を発する度に、リフィの頭の上に生えている葉っぱが広がり、ブルブルと振動している。傍目には実に珍妙なことになっているが、どうやらリフィは頭の葉っぱを利用することで、モサモサの声を聞き取っているようだ。

 そして、リフィの発言から察するに。モサモサは、やはり妖精たちを警戒していたようである。

 

『……リリリィ……リリリィ……』

 

「強くなって、どうするのヨ。もしお前がその力で暴れるっていうなら、リフィたちも黙っておかないヨ」

 

 強くなる。やはり、魔石を砕き魔力を吸収していたのは、そのためだったようだ。

 ヘノは相手が強くなるのは大歓迎なので心が沸き立っているが、ルイの視線はヘノとは逆に鋭いものへと変わっていく。

 

『リリィ……リリリィ……』

 

「なるほどヨ、うーん……」

 

 そして、リフィが何かを考え込んでいる。

 さすがに、今の言葉だけでは離れて見ている他のメンバーには何のことやら分からないため、続くリフィの言葉を待っている。

 ごくり、と。クルラが酒を飲む音が小さく響く。

 

「なら、それはリフィたちに任せるといいヨ。人間は怖い連中だけど、そんな物騒なやり方はおすすめしないヨ」

 

『……リリリリィ』

 

「分かってくれたなら嬉しいヨ」

 

 モサモサとリフィの間に、何かしらの落としどころがあったのだろう。

 リフィの言葉を聞いて、モサモサはひとつ頷いてみせ、そのまま再び背後の密林へと姿を消す。頭を下げる植物というのはまれに見る珍しさだ。

 モサモサが密林に消えると、すぐにその気配も木々の中に溶け込み、感知が出来なくなっていく。

 リフィはふぅ、と息を吐き。後ろに控える仲間たちの元へと戻ってきた。

 

「あいつ。リフィと話すだけ話して。またどっか行っちゃうぞ。追いかけるか?」

 

「まあ待つのヨ。あのモサモサから話を聞けたから、まずそれを説明するのヨ。まず、あのモサモサは――」

 

 そして、静かな薬草園で。

 リフィによる、モサモサの説明会が始まった。

 

 

 

 話は、意外とシンプルだった。

 モサモサは、上層で人間に育てられていたのだが、気付けば自分の根で動き回れるようになっており、そのままこの第二層まで脱走してきたのだという。

 そして、この地の魔物を撃退し、魔力を吸収してまわっていた理由。

 それは、上層に未だ捕えられている、自分の仲間を救出するためだった。そのために人間にも対抗できる力を求めて、魔力を吸収してまわっていたのだという。

 もちろん、リフィが考え込んでいたのは「人間に対抗できる力」といった下りだ。

 力を持つこと自体は悪いことではない。だが、その矛先が人間に向かうとなると、話はまた変わってくる。モサモサは人間たちからは魔物と同様の討伐対象となり、人間たちにも少なくない被害が出るだろう。リフィにとって、それはあまり嬉しくはない状況だ。

 

 なので、リフィはその解決案として。

 安請け合いをしたのだ。

 

「――つまり。夜のうちに。上の階層に行って。人間たちのいる場所から。モサモサの仲間を。連れてくればいいわけだな」

 

「ククク……簡単に言ってくれるじゃあないか……」

 

「仕方ないヨ。あいつ、あのまま強くなって、人間を攻撃するつもりだったからヨ」

 

「んふふ♪ 潜入ミッション、っていうやつね♪ 楽しそうじゃない♪」

 

 なんにせよ、今の時間はまだ人間たちが精力的に活動をしている時間である。

 上の階層まで行き、モサモサの仲間とやらを連れてくるのは、人間たちが寝静まった時間――夜だ。

 

 この日の夜。

 妖精たちの潜入ミッションが、開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【一方その頃】

 

「あら、桃子さん。今からダンジョンですか?」

 

「はい! 今週はちょっと仕事が物凄かったんですけど、それが今日はどうにかなったので」

 

「ああ、例のドラマの影響ですね。武器のメンテナンス依頼が物凄かったですからね」

 

「だから、今日はヘノちゃんたちと一緒に過ごして英気を養おうかなって。妖精の国に泊まってきますね」

 

「大丈夫だとは思いますけど、気をつけてくださいね?」

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