ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「タケノコはあく抜きが重要です。時間がたつとどんどんエグみが増していきます。だって」
妖精の国の調理部屋にて、桃子はヘノともに採取したタケノコを持ち帰り、さっそく調理を始めることにした。
端末でタケノコについて調べてみるが、どうやらタケノコというものは掘ってすぐに料理しないとどんどん食べにくくなるという、手間のかかる食材のようだ。
「なんだか。面倒くさい食べ物なんだな」
「美味しいものを作るのは、やっぱり時間がかかるんだね」
端末に表示される調理レシピを視ながら、タケノコに包丁を入れていく。
米のとぎ汁で煮る必要があるらしいので、ついでに横で玄米も炊くことにした。今日はカレーだ。
そして他の材料も出しておく。恒例の玉ねぎ。ジャガイモ。そしてカレーのお墓でゲットした、ダンジョン松茸。
「そっちのキノコも。カレーに入れるのか?」
「も、もったいない……けど、入れよう! 今日はきのこたけのこカレーだよ。実に冒涜的だよね!」
「そうなのか?」
高級なきのこを、よりによってタケノコと一緒に煮込む。
桃子は知っている。悲しいことに、きのことたけのこが終わらない戦争関係にあるということを。世界がきのこ派とたけのこ派で二分されてしまっているということを。
きのことたけのこを一緒に食べるというのは、実に冒涜的なことなのだ。
と、くだらないことを思いながらカレーを作っているのだが、妖精の国にはそれをわかってくれる相手は皆無だった。
「桃子。怪我人男は。桃子が病院行きにしたけれど。次は。どうする?」
「私がやったみたいに言わないでね? えっと、毒の解毒薬は、毒草の妖精の子にお願いしたんだよね?」
タケノコをくつくつと煮込む間は比較的やることがない。
こまごまとアクとりをしていると、肩に乗っていたヘノがこれからの予定を聞いてきた。
なお、解毒薬はいつもの「ククク」と笑う妖精にお願いしているという話はすでに聞いている。
「ああ。ルイは。ちょっとおかしいところはあるけれど。毒については。誰よりも詳しいと思うぞ」
「ルイちゃんって言うんだね。あとで、お礼にカレーを沢山食べさせてあげようね」
「ヘノも。頑張ってるから。カレーは沢山欲しいぞ」
妖精たちの顔と喋り方は覚えてきたのだが、名前は初めて聞いた気がする。
毒の妖精、ルイ。桃子はその名をしっかりと頭に叩き込んでおく。
実際には薬草から生まれた妖精なのだが、妖精たちの間ですら「毒の妖精」と認識されているので、たいした間違いではないだろう。
「もちろんヘノちゃんには大盛りだよ。えーとそれで、ギルドに根回しもしたし、あとは……うーん、遠野の人にコンタクトを取りたいんだけど、伝手がないなあ」
「なんで。遠野なんだ?」
「ほら、遠野の病院まで解毒薬を送り届けないといけないなら、現地の人にしかお願いできないでしょ? 私、房総ダンジョンから入ってるから、別なダンジョンの外には出るわけにいかないんだよ」
アクをとる手を止めて、桃子はヘノに説明する。
いくらこの妖精の国で解毒薬を作ったところで、件の探索者へと届けなければ意味がない。更には、そこで人魚姫とクジラへの誤解を解いてもらわないと困るので、それなりに事情を伝えても問題ない人間でなくてはならない。
心あたりはないこともないので、桃子からどうにかコンタクトをとってみなければならないが、果たしてうまく連絡をとれるかどうか。
最悪、桃子が直接岩手県まで出向くことも可能だが、時間的なことを考えると不安である。そもそも、桃子は遠野ダンジョンが岩手県のどこら辺なのかもあまりよく分かっていないのだ。
「人間は。行き来するだけでも。ややこしくて。大変なんだな」
まったくだ。桃子はうんうんと頷く。
少しは人間も、ルールに縛られずにヘノのように自由に生きてもいいのかもしれない。
「あとは、りりたんには『人魚姫』を任されたんだけど、人魚姫って何をすればいいのかなあ」
「琵琶湖ダンジョンで。いつもみたいに。魔物狩りでもしていれば。いいんじゃないか?」
「人魚姫ってそんな荒々しいものでいいの?」
ニムがいないため、桃子が入れるのは第三層の滝の迷宮まで。
果たして、滝の迷宮で人知れずハンマーを振り回す存在がいたとして、それが『人魚姫』として認識されるのか。
甚だ疑問であった。
「よし、多分これでアクはとれた……と思う! あとはこれを細かく切って、他の具材と一緒に炒めて……と」
色々話しているうちに時間がたち、タケノコにもしっかり火が通った。アクも取れた、と思う。
ざばぁと鍋からタケノコを取り出し、熱々のタケノコを冷ますためにひとまず水に漬け込む。ある程度冷めたらタケノコを刻んで、いよいよ本格的な調理開始だ。
「カレールーだ。桃子。カレールーは。ヘノが割るぞ。その代わり。ハチミツは頼むぞ」
「うん、じゃあヘノちゃん、カレールーを細かく割るのは任せるよ!」
いつもは見ているだけだったヘノも、今日はカレールーを割ってくれるようだ。
もしかしたら、板を割るのが楽しそうだったとか、そういう気持ちなのかもしれないが、何にせよお手伝いしてくれるのはいいことだ。
今日は甘口にしてあげようと、桃子はにっこにこでハチミツも注いでいく。ヘノの大好きな甘口カレーだ。
そしてある程度具材を炒めて火が通ったら、綺麗な水を投入する。
「水をいれて、アクをとって」
「桃子。ルー。全部いれちゃっていいな?」
「うん、ヘノちゃんが割ってくれて助かるよ。じゃあルーをいれたら、ルーが溶けるまで、信じて混ぜる! 信じて混ぜる!」
信じて混ぜる。
するといつも通りにスキル【カレー製作】が発動し、カレー鍋がまばゆく輝く。いつの間にか周囲に集まっていた見学の妖精たちから、歓声があがる。
そして光がおさまれば、しっかりととろみのついたカレーが完成していた。
なお、【カレー製作】の万能さを考えると、ダンジョン産のキノコやタケノコは丸ごと入れても大丈夫だったかもしれない、と後から気づいた桃子である。しかし、調理工程というのは重要なのだ。時間と手間をかけたのは何も間違っていないのだと、頑張って自分に言い聞かせていた。
「出来たっ。今日は……じゃあ、きのこたけのこ和解カレー、完成っ!」
「何が和解かわからないけど。うまそうだぞ」
さっそくお皿に玄米をよそって、カレーをどっぷりとかけると、そこにはタケノコときのこが見事なハーモニーを奏でていた。
自分の分とヘノの分。そしてティタニアの分だけを先にお皿によそったら、後の玄米とカレーは妖精たちがバイキング方式で勝手に持っていく。
ちなみに、洗い物も妖精たちの中で気が利く子たちがやってくれているようなので、毎回洗い物はお任せしてしまっている。多数の妖精の中には、皿洗い妖精か何かが居るのかもしれない。
「ククク……カレー、美味しそうじゃないか……」
「お。ルイ。お前のために。いいものがあるぞ」
カレーに群がる妖精の中に、毒の妖精ことルイの姿を見つけたヘノが声をかける。
そう、今回はルイが解毒薬を作ってくれるということで、桃子とヘノはお礼の品を用意しておいたのだ。
「はい、これタケノコのアクを捨てずにとっておいたの。ルイちゃんなら喜ぶって聞いたから、貰ってくれるかな」
「ククク……いらないねぇ……」
「そうか。いらないか」
「いらないねぇ……」
お礼の品は、その後流し台に捨てた。
「これが、きのことたけのこのカレーですか。桃子さんは、本当に色々なカレーを知っていますね」
カレーが出来たら、女王の間でティタニアと共にカレーを食べるのがこの国でのお約束だ。
女王もこの部屋から出られないわけではないが、基本的には常にこの部屋で、妖精の国やダンジョン内部を見守っている。
なので桃子たちのほうがこの部屋へと訪れてカレーを食べることになるのだが、最近では女王の間に人間用の大きな椅子とテーブルも常備されている。
「私の作るなんて具が違うだけですよ。世界には、キーマカレーとか、ドライカレーとか、カレーパンとか、カレーうどんとか、カレー味のお菓子とか、もーっと色んなカレーがあるんですよ」
「そうですか。世界は本当に。広いですね……」
まだティタニアが子供の妖精だったころには、人間の友人とともに地上に出たこともあるし、その後はとある事情で外の世界で長旅をせざるを得なかったこともある。
しかし、女王となってからはこの部屋から出ることは殆どなくなった。
今の暮らしを不満に思うようなことはないし、子供たちが羨ましいなどというわけではないものの、しかし自分の知らないうちに地上の食文化が相当な進化を辿っているという話には、ただただ感嘆の声を上げる。
「あの、ティタニア様。りりたんのことなんですけど、もしかして女王様が昔一緒にカレーを作った子って……」
りりたんなのではないか? 桃子は薄々、そのような予想をしていた。
ティタニアの知り合いで、謎の力を持っていて、人間の少女。そこでそのような連想につながるのは、至極当たり前のことであろう。
しかし、ティタニアは苦笑気味に首を横に振る。
「ああ、そういうわけではありませんよ。私があの子……人間の少女と一緒に居たのは、ずっと昔のお話です。そのときは、私はまだヘノと同じくらいの妖精でした」
「あ、そうなんですか。ご、ごめんなさい……勘違いしちゃった、恥ずかしい」
どうやら、ティタニアは桃子の考えを察したようで、先に否定の返答が返ってきた。
ティタニアが何年生きているのかは分からないものの、妖精の言う「ずっと昔」ならば、それは5年とか10年とかではなく、恐らくもっと昔のことなのだろう。
ならば、いくら謎に満ちているとはいえ15歳の少女がティタニアの友人の少女であるわけはない……のだろう。
「あの頃は、ツヨマージが……」
「なんだ。女王。ツヨマージ使いたいのか? ツヨマージでタケノコ突きたいのか?」
何かを思い出したのか、女王が独り言のように口を開くが、その単語に今まで黙々とカレーを食べていたヘノが反応した。
ツヨマージと言えばヘノの持つ神槍である。桃子から見たらどう見ても爪楊枝なのだが、ヘノはことあるごとにこれを魔法発動に使用しているし、どうやら実際にツヨマージを使った魔法は強力な効果があるようだ。信じられないことだが、本当にこの見た目でも聖なる武器なのだろう。
「ヘノちゃん、敬語使おう敬語。ほら、口のまわり拭こうね」
「ふふふ、相変わらずですね。いえ、私が先代のツヨマージを持っていた時代の話だったのです。今のヘノが使っているものは、私が新しく作ったものなのですよ」
へえ、と初めて聞くツヨマージ秘話に感想を漏らしつつ、口の周りにカレーがついているヘノを捕まえて、ティッシュで拭き拭きしてあげている桃子。
そんな桃子とヘノを見つめて、ティタニアはふふふと笑顔を零す。楽しいカレーだ。
「ツヨマージってティタニア様が作ったんですか?」
「あれは私の先代の女王が、遥か東の国で使われているという日用品を模して精霊樹の若木を加工した神槍です。妖精の国に何があったとしても、私がその若木を持っている限りは新しい国を作れる、と……」
「え……それって――」
「女王。そのタケノコ。食べないならヘノが貰っていいか?」
どうやらツヨマージとは一本だけではなく、女王が若い妖精のために製作するお手製の神槍だったようだ。参考にしたという東の国の日用品とは、どう考えても爪楊枝のことだろう。なぜそのデザインにしてしまったのか。
しかし、爪楊枝デザインのことよりも、桃子には引っかかる部分があったのだが、しかし横から割って入ってきたヘノによって話は中断される。
「ええ、どうぞ。ヘノは食べ盛りですからね。よく噛んで食べるのですよ」
「ヘノちゃん、最近食い意地すごくない……?」
しかし、今はヘノに救われたのかもしれない。
ツヨマージの話をしていたティタニアは、泣きそうな顔をしていたのだから。
【その夜のこと】
MOMOKO:ちょっと柚花に頼みごとがあるんだけど、大丈夫かなあ。
YUKA:一つにつき抱っこ一回でいいですよ
MOMOKO:だーめ。と言いたいところだけど、まあ別にハグくらいならいいよ。
MOMOKO:柚花ってもしかして、女の子が好きなの?
YUKA:そういうセンシティブな話をいきなり出さないでください!
MOMOKO:えーこれ私が怒られるの?
YUKA:冗談はさておき 何ですか? 先輩のことですから何かしらの厄介ごとに巻き込まれてるんですよね?
MOMOKO:なんでわかるの? もしかして看破使ったらスマホ越しでもわかるの?
YUKA:そんなことしなくてもわかりますよ 遠野ダンジョンと琵琶湖ダンジョンで事件が多発してますもん
MOMOKO:それもそうかー。えと、単刀直入に言うと、深援隊の人の、出来ればサカモトさんの連絡先ってわからないかな?
YUKA:前に討伐隊参加したときに連絡先くらいは貰ってますけど、何かあったんですか?
MOMOKO:いや、ちょっと事情があって遠野にいる探索者さんで信用できる人にお願いしたいことがあって。ヘノちゃんも、サカモトさんなら信用できるっていうか、すでに知られてるからね。
YUKA:あの人ダメですよ
MOMOKO:ダメって。
MOMOKO:柚花、看破で見たの?
YUKA:そりゃ一時的にとはいえパーティ組んだわけですしね あの人に先輩からコンタクトとるのは反対です どうしてもっていうなら私が代わりに連絡とります!
MOMOKO:あの人、そんな悪い人には見えなかったんだけどなあ。
YUKA:人柄で言えばすごく善人ですよ ヘノ先輩のことも誰にも言ってないようですし信用はできます でも致命的にダメなんです
MOMOKO:なんで?
YUKA:ガチのロリコンなんです 萌々子ちゃんのこと っていうか桃子先輩のこと多分本気で小さい子供だと思ってます
MOMOKO:そっか
YUKA:なので、私が間に入りますよ! 私、すでに対象外らしいので
MOMOKO:そっか
MOMOKO:殴ろう